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勇者の兄から魔王の配下へ  作者: みなみ 陽
第六章 久しブりトさよナらを
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見らレてシまッたその姿

  町への全ての入口には、傭兵が構えていた。シアンいわく、見抜かれてしまう危険性が低い、間抜けそうな者達が1番多い場所を選んだらしい。現に、少し遠くでそこそこ騒ぎ立てても様子を見に来ようともしなかったことから、その見立ては間違っていなかったことがわかる。


「ったく、あの野郎共……どこ消えやがった? 家ごと飛んで逃げやがったとか意味不明な話もあるが」

「そんなバカな話ないだろ。きっと、作り話を流して俺らを混乱させようっていう算段だ!」

「恥かかされたままじゃ終われねぇ。絶対見つけ出して、わからせてやろうぜ。この町で、アマラント傭兵団に歯向かう奴がどうなるか……」

「あぁ……って、なんか来たぞ。女2人だ」


 傭兵達はくだらない話をしていたが、オース達に気付くと、警戒心を露にした。


「何?」


 わらわらと歩み寄ってくる傭兵達。中には、卑しい視線を向ける者もいる。その視線に気付いたものの、我慢して不快感を飲み込む。


「あらあら~何やら物騒ねぇ。兵士……の格好じゃないわね。傭兵さん? 何かあったのかしら?」


 シアンは声色を変え、妖艶な女性を装って話しかける。服装も、先ほどまでとは露出の多い色っぽいものに着替えている。隣が可愛さ全開のオースであるのも相まって、余計に大人っぽく見えた。


「おうおう、姉ちゃん達よ。こんなご時世に、女2人だけで出歩くとは大したもんじゃねぇか」

「当たり前でしょ? 商人は、商いを死んでも辞められないの。それに、あたしらそんなにヤワじゃない」


 彼らの威圧感に臆することなく、彼女は堂々と言葉を返す。


「怪しいな……おい、まさかとは思うが、お前らさっきの奴らじゃねぇだろうな?」


 どんな間抜けな集団にも、1人くらいはそこそこ考えられる者がいる。

 

「さ、さっきぃ? さっきも何も、あたし達は今この町に来たばかりよ。何かあったの~?」


 彼女の表情が、一瞬だけ引きつった。が、それに気付くほど彼らは優れていなかった。


「な~んか、怪しいんだよなぁ。ダビは? ダビしかあいつらの顔見てねぇんだから。呼んで来いよ。というか、そもそもあいつがここにいねぇのさ」

「痛みが中々引かねぇってんで……」


 彼らの会話から、オースと一悶着あったのはダビという人間であるとわかった。そして、まだ苦しんでいることも。


(いなくて良かったが……何というか、同情するな)


「ちっ、ったくよ。おめぇら、商人って言ったな。なら、商売道具の1つでも見せてみろ」

「そんなに怪しいかぁ……」


(どうすんだ、こいつ。めちゃくちゃ疑われてっけど)


「おら、出してみろ」

「大事な商売道具だから、傷付けたりしないでね?」


 そう言うと、彼女は沢山の薬草を取り出した。実に苦々しそうな色合い。良い品質であることは、オースにはよくわかった。


「こういうご時世でしょ? この辺でも襲撃があって……でも、こういう場所だと中々薬草も入ってこないじゃない? それだと、いざって時に困っちゃうと思って。勿論タダってことはできないんだけども、少しでも力になれたらいいなぁって。そんな訳で、傭兵さん達もどうかな? 特別価格で安めだよ? 品質もいいんだから」


(これが、商売人か……大したもんだな)


「いらんいらん、ったく……あんまり勝手なことはすんなよ」


 時間の無駄だと判断したのか、彼らは中に入ることをようやく認めてくれた。


「は~い。それじゃ、商人魂を発揮させて貰うわ~。それじゃあねぇ」


 睨みつける彼らに軽く手を振りながら、遠慮なく優雅に町へと向かっていく。慌てて、その後をオースは追いかける。


「セーフね」


 少しして、彼女はそう耳打ちする。


「はぁ……」

「もっと疑われるんじゃないかって思ってたけど……案外余裕だったわね」


 彼女は、してやったりと満足げにウィンクする。


「馬鹿で良かったな、あいつらが」

「最悪、気絶させて縛っとく手段もあったけど……手間がかからなくて良かった~」

「お前、おっかねぇな。マジで」

「外面ばっかで、そんなに強くないのよ。ああいうのはね」


 あの神聖騎士とは、また違うベクトルで恐ろしい人物であるとオースは思った。


「で、アマラは町で何するの?」


 そして、これまでのことは何ともなかったかのように話を切り替える。それに、少し戸惑いながらもオースは答える。


「お? え、えっと……別に、何かしたいとかねぇんだ。ただ、見てぇだけだ。今の町を。お前は?」

「あたし? あたしは、勿論商いを」

「あ? それって、フリじゃねぇの?」

「あたしの表向きの商売は、薬屋なの。こういう少し離れた場所にある地域に出向いて売る。価格は1オロン」


 そう言うと、彼女は指で「1」を作る。


「は? 薬がワンコインでいいのかよ? なんで?」


 薬草なんてものは、育てるのに時間がかかるから、相対的に高くなる。まず、1オロンなんて価格には絶対にならない。大赤字にもほどがある。


「そこに必要としている人がいるから。薬品は、傭兵達が独占してて市民の手に渡らないって嘆いてたから。たまに店に並ぶこともあるけど、異常なほど高いって。それで、最初はあたしタダで渡そうとしてたんだ。だけど、紛い物なんじゃないかとか、タダなんて申し訳なくて貰えないとかって……で、1オロンにしたって訳」


 破格の値段設定は、商売のためではなく、人のため。一体、どこまで世話焼きでお人好しなのかとオースは呆れる。


「それでも安過ぎるってならない訳?」

「対価を払うって大事なんだよ。まぁ……タダにすればいいってもんじゃないってことね」

「……そうか」


 この町は、どこまで狂ってしまっているのだろう。彼女の口から述べられる事実は、あまりにも痛ましかった。


(……あの頃の活気はどこへやらって感じだ。小さい時に見た町は、すっげぇ魅力的に見えたのに)


 町の様子は、様変わりしていた。田舎町であっても、町は町。昔は、そこそこの活気があった。しかし、歩いている人の顔に生気はなく、開いている店もどんよりとしている。


(そういえば、野菜売りに行ってた店はどうなってんだろう)


 オースは何も言わずに、記憶を辿りに馴染みの店がある場所へと向かっていく。シアンは時々、足をもつれさせたり、つまづいたりしながらも不満を漏らさずに付いてきてくれていた。


(死んだ魚みたいな目をしてんな。どいつもこいつもよ)


 すれ違う人々に不快感を覚えながら進んでいくと、その店は見えてきた。


(これが、あの店? 信じられねぇ……)


 店自体は健在だったが、並べられた野菜は色も悪く、値段に釣り合っているとは思えなかった。ここの主人はこだわりが強く、一切の妥協は許さなかったはずだ。この店に、父が育てた野菜を並べられること、かつてのオースにとって数少ない誇りだった。

 ここまで落ちぶれてしまったのは何故なのかと、恐る恐る店の中を覗いてみる。


(げっ、汚ねぇ……魔物の襲撃と傭兵の支配が、ここまで落ちぶれさせたってのか? ああ……もう……)


 ここに、輝かしいものは何1つ残っていないことを悟る。ゆっくりと終わりに向かっていくだけの町――まるで、自身の故郷のように。いや、住民が足掻いていない分、より酷いかもしれない。


「ん? 野菜でも買うの?」

「買わない。ちょっと見ただけだ。こんな物を売るなんて、どうかしてる」


 オースは、ぼそりと早口でそう言った。彼女の耳にも届かないくらい声で。


「え?」

「何でもない。次行くぞ」


 足早に歩き始めるオースを、彼女は慌てて引き留めようとする。しかし、その瞬間に目も開けていられないくらいの強風が吹き荒れる。2人共、思わず目を閉じた。


(魔王様……!? っ!)


 空気が一変したのがわかる。魔王に呼び戻されたのだと察する。オースは、恐る恐る目を開けた。


「――すまぬの、テウメがオースを探しておっての。誤魔化しきれぬと思い、急遽呼び戻した次第じゃ。申し訳ないが、元の体に戻って貰うぞ。じゃが、その前に1つ……その格好は何事じゃ?」


 頭が真っ白になって、全身が熱に包まれていくのを感じた。


「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ーーーー!」


 絶望が、その空間に響き渡った。

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