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勇者の兄から魔王の配下へ  作者: みなみ 陽
第六章 久しブりトさよナらを

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着セ替エ人形アマラくン

 ひっそりと町の近くに戻ってきたものの、傭兵達が警戒していて、これ以上は近付けるような状況ではなかった。


「あららら……」


 その様子を見て、シアンは困ったように笑った。


「あららら……じゃない。どうすんだ、これ。とてもじゃねぇが、町には戻れねぇじゃねぇか。こそこそ戻っても、ここまで監視されてたら意味ねぇじゃん」


 とりあえず、2人は小屋の陰に隠れて、作戦会議を始める。


「やっぱり、こうなってたか~って感じだね」

「やっぱりってお前なぁ」


 焦るオースに対し、彼女は少し楽しげな様子であった。


「問題ないわ。だって、まだ見つかっていないんだし。それに、こうなることは大体想定していたわ。あたしに任せて? 店から持ってきた物があるの」

「あ? それで、どうにかなるんだろうな?」


 怪訝な表情を浮かべ、彼女を睨みつける。


「それはわからないけど……ま、やってみる価値はあると思うよ。まずは、トライしてみなきゃ始まらない。さっ、これどーぞ」


 そう言うと、彼女は音もなく服を取り出す。これもまた、一般的な魔術。魔術を習う者は、鞄よりも使うことが多い。安全性も収納数も段違いだからだ。その使用者が持てる物しか魔術の効果はないことと、魔力が尽きると効果がなくなってしまうことがデメリットとされている。


「……服? しかもこれって、まさか……」


 しかし、目の前で当然のように披露された魔術よりも、差し出された服に気を取られた。何故なら、それは――。


「あたしの服よ!」

「はぁ!? 馬鹿じゃねぇの!?」


 状況と場所を忘れ、うっかり大声を出してしまう。すると、彼女は慌ててオースの口を塞いだ。


「しーっ! あんまり大きな声を出さないで。見つかっちゃうでしょ」

「これが出さずにいられるか!?」


 小声で、オースは反論する。幸い、少し距離が離れていることと会話に夢中になっていることもあり、傭兵達の耳には届かなかったみたいだ。様子をちらちらと確認しながら、彼女はほっと胸を撫で下ろし、手を離した。


「だって、仕方ないじゃない? あたし達はもう姿を見られてる訳で。でも、アマラは町に行きたい訳で。なら、変装しかない訳」

「なんで、女の服なんかを……」


 見れば見るほど嫌になる。茶色を基調としたワンピースで、ピンク色の小花があしらわれている。裾には白いレースがあり、可愛さが溢れていた。それを、自身が着る姿を想像して体が震えた。


「男女の組み合わせは、傭兵達も警戒してると思うの。そこで、怪しまれたら厄介でしょ? だから、どっちかが男になるか女になるしかないもん」

「俺が妥協しろってのか? こんなにヒラッヒラを着ろと?」

「だって、アマラは変装用の服なんて持ってないでしょ? あたしも男物の服なんて持ってないし。アマラとあたしの服の交換だと、あんまり意味がない気がするし。町に行かないって言うなら、変装しなくていいけど」

「うぐぐ……」


 反論する余地がない。いっそ、町に行くのを断念するべきかと悩む。


(どうする俺!? 折角、魔王様に許可して貰ったのに、行きたい場所に行かずに帰るのか? また外出は許されるのか? 次にチャンスがある時、町があるって確証を持って言えるのか? 普通に考えれば……次がある可能性は低い。人間達は、魔王軍を嫌悪している。交渉をしたとしても、人間達の方の態度は変わらないだろうな。そうすれば、形は保てたとしても、俺の知ってる景色はなくなるだろう。わがままを言って、魔王様に気苦労をかけたくない……くそっ!)


 思案を巡らす中、僅かな希望に賭けることは愚かだと察する。そう、自身の故郷のように真っ新な大地へと成り果てる確率の方が高い。同じものが同じようにあることは、当たり前のことではない。既に、幼い頃に野菜を売りに行った時の町の姿とは異なっていたのだから。オースは一つ息を吐いて、覚悟を決める。


「……この服を着れば、絶対に見抜かれないんだな?」

「絶対とは言えないけども。でも、恥ずかしがらずにやり切れば大丈夫よ。中途半端にやっちゃうのが一番駄目。って訳で、これどうぞ」

「はぁ……」


 どうか、バレずに全てが終わって欲しい――そう願いながら服を受け取った。

 

「後ろ向いてるから、着替え終わったら言ってね」


 彼女はにこりと微笑んで、後ろを向いた。オースの気苦労も知らないで、呑気なものだ。


(変に目を付けられたせいで、こんなことに……)


 服を脱ぎ、その可愛らしさ全開の服に身を委ねていく。自分が、自分でないものに変わっていくのが怖かった。


「ワンピースとか着るのは初めて?」

「当たり前だろ。何言ってんだ」


 袖を通し、馴染まぬ服をまとう。


「ファッションは自由よ。好きなら着ればいいもの」

「好きじゃねぇし、このファッションはその自由から逸脱してると思うが」

「この場合は、例外じゃないかしら?」

「腹が立つ……」


 着替えが終わり、少し自身の格好を見つめてみる。だが、全くと言っていいほど似合っていなかった。オースだけでなく、服も戸惑っているようにさえ思えた。


「あ、そうそう、そのワンピースはフリーサイズだから安心してね。アマラは結構スレンダーだし、パツパツにはならないと思うわ」

「もう、何も言うな……」


 サイズの問題ではない。そういうことではないのだ。もっと別の大問題があるのだ。


(あいつに出し抜かれた時と同等の屈辱だ。俺の体じゃなくて良かった)


 人形の体であると思うことだけが、この短時間で数々の屈辱を受けたオースにとっての救いだった。


「……着てやったぞ」


 その言葉を聞き、彼女は振り返ろうとする。しかし、オースにある懸念が生じる。


「待て」

「えー?」


 振り返る直前だったため、彼女は変な体勢で静止する羽目になる。


「絶対に笑うなよ」

「なぁんだ、そんなこと? 着替えるのに失敗したのかと思ったわよ。笑わないよ~」


 拍子抜けしたように、彼女は笑って答える。


「いいか? 絶対だぞ。絶対」

「もう、わかったから。いい?」


 しつこい念押しに、彼女は少し面倒臭そうに言った。


「あぁ」


 オースは、観念した様子でそう返した。


「――あらっ」


 勢いよく振り返った彼女は、オースの全身を見て声を上げ、笑いを堪えながら言った。


「ぷ、ぷ、に、似合ってる~……」

「てめぇ、今笑い堪えてるだろ」


 怒りの炎が、オースを包む。そのただならぬ雰囲気に、彼女は慌てて言う。


「だ、だってさ~、ワンピース着て、そんなふてぶてしい態度でどっしり構えられてたらおかしいでしょ。ほら、演技。成りきって? 女性に!」

「そう言われても……わかんねぇし」

「アマラが好きなタイプをやってみるとか? 頭の中にあるイメージだったらやりやすいと思うけど」

「俺のタイプ……?」


(あんまり考えたことなかったな……何だろう? よえー奴は嫌いだし、俺と同じくらい強くて……俺の代わりに面倒なことをやってくれる奴? いや、暗い奴は嫌いだから、明るくて前向きな奴かな?)


 とりあえず、弟のルースみたいな根暗でなければいいという結論に至った。身の回りに同世代がいなかったため、自分自身でもよくわからなかった。


「ほらほら、急に本番じゃ不安でしょ。ちょっと、あたしの前でやってみなさいよ」

「え、えっと……こうか?」


 そんな無茶ぶりに、オースは咄嗟に対応する。ぶっつけ本番が不安なのは事実で、とりあえず確認が必要だろうとは思ったからだ。できる限りのイメージで、それっぽく佇んでみせた。


「う~ん、ちょっとキツいな」


 それを見て、彼女は苦笑いを浮かべた。


「て、てめぇ……いい加減にしねぇとぶっ殺すぞ」


 一気に羞恥心が肥大化し、オースは顔を真っ赤にする。


「いやいや、服とポーズがそれっぽくても、顔と髪型が男なのよ」

「そんなん俺にはどうしようもねぇよ」

「ちっちっちっ、こんなこともあろうかと……じゃーん!」


 そう言うと、彼女は2つのウイッグとメイク道具が溢れたポーチを出した。


「コスプレ趣味があって良かったわ。さ、頭を貸して頂戴な」

「それをつけて、メイクしろってのか?」

「じゃないと、隠し切れない部分があるわよ。あたしもやるから。さぁ、さぁ!」


 怪しげな笑みを浮かべて、じわりじわりと歩み寄ってくる。オースは、思わず本能的に後ずさりしてしまった。


「大丈夫。あたしは、メイクが得意なの。アマラに似合うメイクはそうねぇ……王都で流行ってる神聖騎士風メイクかしらね!」

「なんじゃその名前はよぉ!?」


 けれども、逃げることはできなかった。すぐに小屋の壁にぶつかり、追い詰められた。


「神聖騎士にはね、素敵な女の人がいるのよ。強くて美しい女の憧れ。その人は、目力を強調するようなメイクなの。アマラにはぴったりよ! 心配しないで、下手なことはしないから」


 彼女は満面の笑みを浮かべ、メイク道具を持って、オースの顔に狙いを定める――。

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