揺り籠を探す手に 00
現世にて主人公と実父が初対面する話です。
現代と前世の二重螺旋的な内容物となり、本編でのフラグ回収ってか穴埋め的な位置付けです。
『揺り籠~』の現代部分で語られなかった彼女の家族構成を補う余話。
辻褄があわない等々の評価を頂き公開へと踏切ました。
拍手御礼用の拙い文章ですが、暇潰しと御付き合い頂けたましたら幸いです。
「平穏」とは甘美な日常だ。
心の安らぎを保つ平坦だが滑らかな時間。
周囲に埋没し目立たぬ位置、日常に波風を立てる事なく過ごせる立場。
感情の起伏も含め、人生においても浮き沈みない穏やかな人生のレール。
願望としては、慎ましやかなモノだと思うんですよ。
穏やか人生設計の崩壊への序曲。
第一撃が今、ライブで面前にて繰り広げられております。
加速装置付きの昼メロ劇場とでも申しましょうか?
怒涛の如く幕開けしたのです。
豪華に華々しく幕を開けた日、運と命の波乱万丈が始まるって誰が予想できましょうか!!
親子揃っての休日を襲ったトンデモ来客は、近年稀に見るテンプレ展開(爆)
いや失笑モンですよ。
「突然の御訪問をお許し下さい」
弁護士を名乗る二人の人物が現れたのだ。
土曜の午後、食事を終えて親子二人で茶を飲んでる時に……。
玄関で二人並んで頭を下げ、至極丁寧に名刺を差し出す男性陣。
深々とした陳謝に意味を含ませ、流れる動作で私の目の前に捧げられたモノ。
それは、老舗和菓子屋の紙袋ではないか?!
「此方、生物ですのでお早めに召し上がり下さい」
突然の訪問者に戸惑う母子な私達。
手紙らしき封筒が添えられた縮緬の風呂敷、包まれた物体は菓子折りだろうか?
手土産が有無をいわさずに私の手に渡された。
思わず受け取ってしまってから、恐る恐る隣の母へと視線を移す。
おお、母も愛らしい花束と白い小さな箱を受け取っている。
コレで私が叱られる事は無いだろう。
訳も分からずに受け取ってしまった土産だが、挨拶理由が判別できない。
訝しげに私はアパートの玄関先に並ぶ男性二人を凝視した。
先立って母が問い掛けた。
「何方様でしょう?」
「私共は政景様の代理で参りました弁護士です」
「……え、誰です?」
名を聞き返したのは私である。
「顧問を務める原田と、私が余目です」
私はガタイの良い男性の言葉に首を傾げた。
初めて耳にする人物の名前、弁護士等の苗字である。
胡乱な眼差しで聞き返した事は、とても自然だろう。
「ま、政景さ……ん?」
「はい、伊達政景様です、ご存知でしょう?」
隣の母が息を飲み喉を鳴らし、男子二人を睨む。
強張った口調と戸惑いを含む言葉端は、明らかに違和感を持っていた。
母はソノ人物を見知っているのだと暗に示している様で。
「この度は、雛姫さんの事で参りました」
「最後までお聞き下さい」
「突然、藪から棒に何を?」
随分と強面の弁護士さん左側は、玄関に立たったま早々と本題を入り出す。
私は驚愕と目を剥き、隣に立つ母の形相が般若に変わる瞬間を眺めていた。
狭い玄関に漂う緊張感と、気不味い雰囲気に背筋が凍る。
「認知したい、との申し出が第一です。そして……」
男性陣は、私達の問い掛けに完全無視を貫いた。
日本語でのコミニケーションが通じない、会話がドッチボールなっている。
言葉のキャッチボールが出来ないだなんて!!
嗚呼、社会人としての大人的基本からして失格のようだ。
どうやら彼等は新種の宇宙人らしい、対話すら出来ないのだから。
「親権ならびに認知後の件につきまして、乙竹さんと是非話をしたいと」
聞き慣れない単語が並び連ねる。
乙竹は母の名前ですが、認知に親権って……何が誰とです?
肩を震わせ沈黙を守っている傍らの母上、そろそろ我慢の限界らしい。
化粧をしていないので良く解る、高揚した表情に波打つ米神が本当に。
正に、怒気を孕む般若の相と鬼気迫る気配なのだ。
震える肩と背筋を伸ばし、母は弁護士二人へ言い放つ。
「帰って下さい。いや、帰れ、失せろ!!」
「は、は?」
「冗談も大概にして欲しいですね、本当にアンタもアイツも馬鹿です」
昼ドラ的気分に浸る間も無い時間であった。
映像や映画観賞は一方的な観客だからこその娯楽なのか。
怒気を孕む声音が隣から発せられ、低く地を張って玄関に緊張を漂わせる、この現実。
気性の激しい女性なのである、我が母上は。
怖いぞ、啖呵切ったら周囲は恐慌状態だ。
被害者にななりたくない。
「即刻と御引き取り下さいな、不審者二人?」
スリッパ片手に弁護士二人を威嚇して玄関外へと追い出す姿。
勇ましい御姿を目にして肩を落す。
会社では出来る女上司って評判で、関係者内外では信頼厚いんだってさ。
嗚呼、初対面の人でもコレは例外として、情けは掛けないらしい。
般若だ、般若が降臨したよ。
母の憤る姿を静止しようと、大人の対応を見せ一時は立ち上がったんですがね。
単刀直入に言わせて貰うと無駄でした。
それでも仕方なく、私は場の調停役を引き受けて、来訪者へ助言を渡す。
「今日は帰って頂けませんか?
母が本気で警察を呼ぶ前に、是非お引き取りを」
私は母の隣で冷静に男性二人へ打診する。
一人だけ話題に取り残されながらも、努めて平和的な言葉を紡いだ。
此れは当事者か事の理解者同士で、直接話をした方が良いと思うのです。
男女間の恋愛の縺れが発端であろうと、男性不在で事を運ぼうだなんて女々しくはないだろうか?
認知とか親権ってのは弁護士必要かもしれませんけど、ねぇ……。
嗚呼、もしかしなくとも私が当事者?
蚊帳の外に放り出されてる状態なんで、詳しいこと何も知らないのが寂しいですね。
強制退去願う母の勇姿に私は溜息漏らした。
玄関へ塩を撒き散らす姿って古典的だけど心強い味方ですね~と。
肩を怒らせ息する母親の姿に、心の底からの疑問と不安を口に出してみた。
「私の父親とか出生って、結構と複雑だったりする?」
「雛姫は私が産んで一人で育てたの!!」
「うん、それは間違いない事実だね。
なにせ父親は死亡したって、お爺ちゃん達から聞かされてたから」
「色々と、昔あったのよ!」
心安らぐ休日は瞬く間に消えてしまった。
聞きたい事と知りたい部分は多数あれど、母が纏う空気が怖い。
残ったのは精神疲労と、己の出生へ疑問が多数。
胸の内に抱いたのは“目蓋の父親?”
そんな言葉は勿論無いんだけれども、私を形成する遺伝子の一端を担った存在。
母との経緯は複雑そうだ、未婚のを選んだ理由も含めて。
自らの出生へ多少の興味が生じていた。
* *
あの昼ドラ劇から数日後。
玄関で待ち構えていたのは、四十代位の紳士っぽい男性だった。
パリっとしたダークスーツに身を包むものの、私と目があった途端、手土産らしき菓子箱を持って挙動不信な動作を繰り出し始めた。
少し乱れた頭髪と垂れ流しの涙に、啜る鼻水と赤くなった目元。
夕日が時刻とは無関係であろう、摩擦で赤く染められた鼻先が良い証拠だ。
十分に水分を含んだハンカチで目元を拭き押さえ、壁際に付いた手を離して体制を整えた。
否な予感と玄関先で停まる私。
そんな姿には御構い無しに、感極まったか言葉を発して天を仰ぐオジサン。
初対面で既に不審者の認識に決定だ。
「君が、雛姫ちゃん……だね?!」
泣き崩れる様に家の壁へと再度寄り掛かる。
感情表現が過多ではなかろうか、喜劇を生で見ているようだ。
喜色露の表情と感動に身を震わせる身体が傍目に十分と判る。
ソレよりも先に貴方は誰だ、早く自己紹介くらいしろよ。
それとも、夏場に出没と噂される変質者か?
私の冷たい視線がモロに不審な男性へと浴びせられる。
今更に其れ気が付いたのか、アタフタと居住まい正す中年の変なオジサン。
「あ、あぁ連絡もせずに突然と訪ねて、本当に申し訳ない」
「はぁー、ドチラ様でしょうか?」
男性は微苦笑と心許無い口調で告げる。
言い難そうに戸惑い流れる視線、言葉迷って細々と。
「こんな事を突然言って当然驚くだろうケれド……」
前置きに私は身構えた。
巡る思考、思い当たる節は先日に芽吹いた昼なドラマの種。
次に放たれる衝撃を予想し防御の姿勢を作る。
胸に確りと抱いた鞄、片腕のエコバッグは卵が割れない様に握りしめ。
「私の名前は……伊達政景、君の父親に…いや…です」
コノ男性が父親になるのか。
爪先から頭の天辺まで男性を眺め、酷く冷静な私の思考が囁く。
私生児として生を受け、今まで幾度と無く肩身の狭い思いをしてきた。
恥さらしや世間体等々の罵り文句、私の存在そのモノが親族間で物議を醸して。
戸籍謄本には無記名の空白、その存在が今面前に立っている。
過去にいかなる母との関係に事情があるにせよ、私には表現しがたい言葉と思いが渦巻くのを感じずにはいれなかった。
現代物が後、数話存在しますが「無理して現代物を書かなくても……」との言葉を多数頂きました。