自重を知らない神童の誕生
――オギャア、オギャア!
耳をつんざくような赤ん坊の泣き声が響く。
(うるせえな、どこのガキだ……)
視界がひどくかすむ。身体が恐ろしく重く、指一本動かすのにも一苦労だ。
視線を彷徨わせると、煤けた木の天井と、涙を流しながら俺を抱きしめる見知らぬ美女の顔が見えた。
「ああぁ…やっと生まれたのね…名前は…あなたが決めてちょうだい…」
「よく頑張ったな、エレーナ。俺たちの跡取りだ……そうだな……名前……男らしい名前……そうだアレクにしようか」
無骨だが温かい手で俺の頭を撫でる、これまた髭面の男。
(嘘だろ……。俺、本当に死んで生まれ変わったのか?)
あの夜。なぜか倒れた俺の魂は、どうやら本当に異世界へと流れ着いたらしい。
(ま、マジかよ……これモブとかに転生してないよな……?)
――それから、5年の歳月が流れた。
「ふぅ……。やっぱり、なんだかおかしいな…」
前世の記憶を持ったまま成長した俺は、ハイハイができるようになった頃から、自分の身体に宿る「異変」に気づいていた。
頭の中で強く念じる。
(システム、オープン。ステータス表示)
アレク(5歳)
レベル: 1
体力: 15 / 15
魔力(MP): ∞ / ∞(測定不能)
固有スキル
全知の鑑定
完璧な隠蔽(常時発動)
魔法適正
全属性魔法(火、水、風、土、光、闇、時空間)
「やっぱり何度見てもバグってるな、これ……」
魔力の欄に表示された『∞』の文字。
試しに、目の前の地面に転がっているただの石ころに視線を合わせ、【全知の鑑定】を発動してみる。
ピコン。
『ただの石ころ:どこにでもある石。アレクの魔力によって、あと3秒で消滅可能』
「おいおい、鑑定さん、物騒なこと言わないでくれ」
前世の仕様が正しいなら、この世界には「魔力」が存在し、それを体内で循環させることで魔法が発動する。普通の人間は、10歳を過ぎて「魔力開花」の儀式を行うことで初めて魔法が使えるようになるらしいが……。
「全属性魔法、か。まずは王道の『火』から試してみるか。……灯れ」
人差し指の先に、ほんの小さなライターの火をイメージする。
だが、その瞬間。
ゴオオオオオオッ!!!
「うわああああっ!?」
指先から放たれたのは、小さな火種どころか、家一軒を丸ごと包み込みそうな直径5メートルを超える巨大な火炎球だった。
炎は凄まじい轟音を立てて前方の巨木へと直撃し、一瞬でその大木を炭すら残さず蒸発させてしまった。
「は、はあ!? なんだこれ、威力がおかしすぎるだろ!」
慌てて自分のステータスを見るが、魔力は『∞』のまま。1ミリも減っていない。
どうやら【魔力無限】のせいで、ほんの少し魔力を込めたつもりが、出力の蛇口が全開になってしまったらしい。
(危ねえ……! もし村の中でやってたら、一瞬で村が消滅してたぞ……!)
冷や汗が止まらない。
この世界は中世ヨーロッパ風のファンタジー世界だ。
魔法が使える人間は貴重だが、5歳児が国家宮廷魔術師ですら使えないような極大魔法を放ったとなれば、間違いなく国に拉致されるか、バケモノとして処分される。
前世の社畜時代、俺は会社の都合で散々こき使われ、自分の時間も人生もすべて奪われた。
今世の目標は決まっている。「絶対に目立たず、のんびり、誰にも縛られずに自由に生きる」だ。
「よし、今すぐ『隠蔽』の出力を最大にするぞ」
固有スキル【完璧な隠蔽】のツマミを脳内で操作し、自分のステータスを『ちょっと魔力の多い、ただの村の子供』へと偽装した。
これで、他人が「鑑定」の魔道具などを使っても、俺の本当の異常さは絶対に見抜けない。
「危ない力は隠して、一般人のフリをする。これに限るな」
炭になった地面を土魔法で慌てて隠しながら、俺は静かに決意した。
まずはこの森で、誰にも見つからないように魔法の「出力調整」を特訓しよう。そして15歳になったら、この退屈な村を出て、自由気ままな「冒険者」になって世界を旅するんだ。
しかしまだ未来のことなんてわかっていなかった。
どれだけステータスを隠そうとも、彼が前世のゲーム知識で生み出す「自重ゼロの工夫」そのものが、異世界の常識をことごとく破壊していくことになるということを。
すみません投稿遅れました!!ごめんなさい!




