十四 終い
強い雨の中、一瞬のうちに光が見えたと思うと、名無し子の近くの大木に落雷したのが確認出来た。
辺り一面が火の海と化し、名無し子の身体が崖に放り出される。
間一髪、名無し子は生えていた木に掴まっていた。
普段支えたことのないような重さに、腕が震える。
しばらく奮闘していたが、段々力が抜けていく。
名無し子の頭の中を、今までの情景が次々に浮かんでは消えていく。
(名前…欲しかったな…)
木に掴まる手がするすると下へ滑っていき、無言の悲鳴と共にその身を渓へ落としていった。
蒼い稲穂が風に揺れる道を、高菜は、山道に向かって歩いていた。
重一から、巫女が儀式から帰還して一向に目覚めないことを告げられ、気持ち程度に相応の施しをしてきたが、きっと目覚めることはないだろう。
しばらく歩いて、山道の入口まで来ると、膝たけにも満たない、長四角形の不恰好な石が行儀よく並べられている。
ひとつひとつに名前が彫られ、供え物がされていたが、隅に追いやられているようなそれには、名前も供え物も何もない、よく目を凝らさないとわからないくらいの石が置いてあった。
高菜は、その石の前にしゃがみ、手を合わせると、懐から近くでとってきた大きな葉に小筆で名前を書く。
書き終わると、待ち兼ねていたように、突風が吹き、高菜の黒髪を撫でながら、その葉を奪うと、やがて天に舞って見えなくなっていった。
高菜は、突然のことに驚いて、茫然と立ち尽くしていたが、くすりと笑って、山の中へ消えていく。
名もなき墓石の前には、萌黄色の葉が、風に揺られていた。
[終]
これにて萌黄編は完結です。
一般のファンタジー作品と比べると、あまり華やかさがないので、話としては、物足りないものになってしまった気がします。
ただ、この物語に、何か、感じてもらえれば、幸いです。
処女作とあって、文章構成がばらばら、物語の内容も大したことありませんが、次回また執筆する時は、もっと腕をあげてきたいと思います。
ご閲覧下さった皆様、ありがとうございました。




