十二
人々の顔を赤く照らしていた天道も傾き、燃えるような朱から一変して、空は墨を溢したように暗くなる。
いつもの如く、賑わいをみせる祭も佳境に入り、ついに巫女たちが、山を昇る時間になった。
農民たちが、農作業の合間に端正込めて編んだしめ縄が運ばれてくると、お付きの者たちがそれをしっかりと持って、いよいよその時が近づいてきた。
松明と杖を持った巫女を先頭に、お付きの者たちも緊張した面持ちで歩き出す。
見ているだけの農民や屋敷の使用人たちも、山道までの道を松明を持ちながらぞろぞろと進み、ついていく。
名無し子も、その行列に加わりながら、ふと、巫女の心情を考えた。
山に入ってからは、山村の者たちにしか知られていないが、未開の地に一人で入っていくという行動は、大人であっても、なかなか不安があるだろう。
かつての巫女がそうであったように、山を下ってからは、山にいた記憶がとび、しばらくの間昏睡状態でいる者や、一生眠り続けて生涯を終えた巫女も少なくない。
不謹慎な感情であったことは承知していたが、巫女がこれから経験するであろうそれに対する不安を思うと、哀れな念を感じざるを得ないのだった。
山道の入口まで行くと、巫女たちは誰一人後ろを振り返らないで、しかし、しっかりとした足取りで歩き続けた。
数刻の後に、神主を先頭に、お付きの者たちが、古いしめ縄を持って山を下ってくると、舞台に上がり、しめ縄を火にくべて祈祷を始めた。
それから三日間、祈祷は続けられた。
三日後の夜、お付きの者たちが山道を登り始める。
いつもより時間がかかり、朝方に、お付きの者が真っ青な顔をして、彼らだけで山道を下ってきたのがわかると、農民や使用人など待っている者たちの間にも、どよめきが走った。
皆、現状を受け止めたくないように直接声を出していうのを憚っていたが、行列一行をみれば、否応なしに現実を突き付けられる。
巫女が戻らなかった。




