はじまり
世界が、終わる音を聞いた。
空が裂けた。
黒く濁った裂け目から、何かが“溢れた”。
それは魔物でも、神でもない。
ただ──「理不尽」だった。
「なんだよ。これ」
剣を握る手が震える。
俺たちは、王国最強と謳われた勇者パーティーだった。
どんな魔王も、どんな魔物も、乗り越えてきた。
そう、“あいつ”を追放するまでは。
「無理だ! 押し返せない!」
前衛が吹き飛ぶ。
盾ごと、存在ごと、雑に消された。
「回復が。追い…つかない」
聖女の悲鳴が響く。
だが、その声も途中で途切れた。
遅い。
すべてが、遅すぎた。
「なんでだよ」
わかっている。
本当は、ずっと前からわかっていた。
あいつがいなくなってから、歯車は狂っていた。
小さなミスが増え、連携は崩れ、運すら見放された。
それでも俺たちは。
「役立たずは要らない」
そう言って、あいつを捨てた。
「くそ……っ、なんで今さら……!」
視界の端で、仲間たちが消える。
叫ぶ暇すらなく、ただ“なかったこと”にされる。
まるで、この世界そのものが俺たちを否定しているみたいに。
「あいつなら」
ぽつりと、誰かが呟いた。
「あいつなら、何とかできたんじゃないか?」
その言葉を、誰も否定できなかった。
否定できる資格なんて、もう残っていなかった。
俺たちは、選択を間違えた。
致命的に。取り返しがつかないほどに。
「なあ」
崩れゆく世界の中で、俺は空を見上げた。
「やり直せるなら」
答えなんて、あるはずもない。
なのに──
『やり直すか?』
声が、した。
それは救いのようで、どこまでも俺たちを見下ろすようでもあった。
神か?
それとも。
正体はわからない。
『ただし次は──』
世界が、巻き戻る。
崩壊も、絶望も、後悔も、すべてを引きずったまま。
『謙虚に。堅実に。現実を見て、生きろ』
そして。
気づけば、俺はあの日に立っていた。
あいつを追放する、少し前。
「おい、お前ら」
震える声で、俺は言う。
「今回は、やり方を変えるぞ」
仲間たちは怪訝な顔をする。
当然だ。
何も起きていないのだから。
だが俺は知っている。
このまま進めば、全員死ぬ。
世界ごと、終わる。
だから──
「謙虚にいくぞ。あと現実見ろ」
「は?」
「いいな、お前ら」
「あ、アレン?」
「どうしたの? 頭、打ったの?」
「おい、あと少しで来るぜ。役立たずの--」
「クソ雑魚野郎くんがね」
響く仲間たちの声。
しかし、勇者の顔は引き締まっていた。
よ、よし。
次は、追放なんてしねぇぞ。
なんとか俺が--
「な、なんだよみんな」
「俺になにか用か?」
こいつを。
ジークを。
絶対に引き止めてやる。
こうして。
“崩壊したパーティー”の、二週目が始まった。




