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未亡人ミストの相談手帖 ー迷い鳥たちの記憶録ー 消えた辺境伯夫人編  作者: 炬燵猫


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1話 相談所『迷い鳥』

新連載です。

こちらシリーズとなっていく予定ですので、この話だけではわからない部分が出てきます。「消えた辺境伯夫人編」最終回になっても詳細が出ないので、ご了承ください。

それでもよろしければどうぞお楽しみください。

 王都旧市街。

 かつては貴族や裕福な商人が集まった住宅街だったが、現在の中心街と言えば城の正面。裏手に位置する旧市街地は開発が遅れ、城壁の一部は崩れ落ち、時代の流れに取り残されていた。


 かつて栄華を極めた貴族の街は、今では平民たちが暮らす下町へと変わり、市場が開かれている。商売人たちの活気に溢れた呼び込みの声、楽しそうにはしゃぐ子供たちと、心配して声を掛ける母親の声。


 何の変哲もない、ただそこに生きる人間の日常。私はこのなんてない日常が好きだ。


「平和ね」


 陽気な昼下がり。職人が営む工房の一角に、とある店がある。


 相談所『迷い鳥』


 以前は商人の店舗兼住宅だった建物を改装し、新たにオープンしたのが今から3年前。当時はまさか自分のお店を持つなんて考えてもいなかったのに、人生ってわからないものね。夫を亡くしたばかりの頃は思いもしなかったわ。


「ミストさ~ん! こんにちは!」

「こんにちは~!!」

「あら、いらっしゃい。小さなお客様方」


 リリンッと扉に付けられた鈴が心地よい音色を響かせると、すぐに入って来たのは私の腰の高さにも満たない子供が二人。元気いっぱいの子供たちは、お昼を過ぎて夕方にはまだ早いこの時間を見計らってやってくる。理由は勿論、これね。


「今日のおやつはラズ特製のジャムクッキーよ」

「わーい!! ミストさん、ラズ、ありがとう!!」

「いただきまーす!!」


 そう言って椅子によじ登って元気よくいただきますをすると、パクパクと食べ進めていく。両手にクッキーを持って口に頬張る姿は可愛らしく、思わず笑みを深める。ただ食べているだけなのに、どうにも愛おしいと思えるのだから子供って不思議ね。


「おい、ガキども。それは先生に焼いたもんだ。ちったぁ遠慮しろ」


 そういいながらミルクをコップに注ぐなんて、優しいわね。

 ラズは大柄だけど猫背、目つきは正直良くない。でも口調に反して行動は随分配慮している。ミルクだって落とさないようにコップの両側に取っ手の付けた子供用。何より「失敗したから」といって差し出して来たお皿いっぱいのクッキーが彼の優しさを物語っている。


「ありがと、ラズ!!」

「ラズ、ありがと!!」

「慌てて食うんじゃねー。喉に詰まらすぞ」


 にっこり笑ってミルクをぐびぐび飲む子供たちには、ラズは優しいお兄さんに見えているようだ。微笑ましく思いながらラズと子供たちを眺めていると、ラズは不機嫌そうな顔をしてそっぽを向いてしまった。あら、本当に可愛らしいわね。


「ふふふ」

「……んだよ。気持ちわりー」

「あらあら、反抗期かしら?」

「だからそれが気持ちわりーんだよ」


 反抗期が今になって訪れるなんて、ラズらしいといえばらしいわね。ラズの子供の頃を思い返せば、今になって反抗期が来たって仕方がないわ。ここは雇い主として、寛大な心で許しましょう。


「ふふふ、ラズも大人になったのね」

「とっくに成人過ぎてるわ。ガキ扱いすんな」


 そういうと部屋から出て行ってしまった。きっと夕飯の買い出しと仕込みね。今日の夕飯は何かしら?

 ラズの作る料理は日に日に上達しているから、食べるのが毎回楽しみなのよね。と、今日の夕飯に思いを寄せていたら、子供たちが思い出したかのように声を上げた。


「あっ! 今日ね! ミストさんのお店の事、聞いてきた人がいたよ!」

「あ、そうそう! あのね、お店はどこか聞いて来たんだ!!」

「あら? そうなの?」


 思い出した! と口々に報告してくれる子供たちは、クッキーを十分食べ終わったあとに思い出したらしい。


「一緒に来なかったの?」

「うん! まずね、ミストさんのお店に行くには、パン屋のマーサおばさんの”めんせつ”がいるんだって!」

「うん? ”面接”?」


 あらあら。どうしてそんなことになってるのかしら?

 頼んだ覚えはないのだけれど……? と過去を振り返り首を傾げていると「それ!」と言ってテーブルに乗り上げる勢いで指差して来た。


「人を指差してはいけないわ、ベル」

「あ、ごめんなさい。でもでも! それがダメなんだって!」

「それって?」


 私に向けていた指を掴んで下ろさせる。指摘したらすぐに謝ったし、椅子にもちゃんと座り直した。うんうん、ベルは素直で立派ね。

 だけど言ってる意味がわからないわ。困ったわね……と思いながら頬に手を添えて首を傾げたら、今度はダンが口を開いた。


「そーやって首を傾けるだけでバカはかんちがいするから、まずはちゃんとみさだめないといけないんだって! ロンおじちゃんもマリーおばちゃんもいっしょにみさだめるんだよ!」

「まぁ、ロンさんもマリーさんも? どうしちゃったのかしら?」


 意味が解らないわねぇ。元々、このお店にやってくる方は身元の保証はしっかりしているから大丈夫なはずなんだけど。


 でもそれが本当だったら立場が悪いのはマーサさんたちね。


「マーサさんのお店にいらっしゃるのかしら? ちょっと見て来るわね」

「だめだよ! ごうかくならマリーおばちゃんがつれてきてくれるって!」

「そうだよ! ふごうかくならロンおじちゃんとみんなが追い返してくれるんだ!」


 立ち上がるとベルとダンが椅子から飛び降りて通せんぼする。両手を目一杯広げて先に行かせないようドアの前に立ちふさがる二人の顔はとても真剣だった。まるで小さな騎士様ね。

 微笑ましいけれど、相手がどのような方であっても、お迎えするかどうかは私が判断すべき事なのよ。


「ヴェラ。お客様がいらっしゃるみたいなの。一緒に来てくれる?」

「はっ! ご一緒いたします」


 奥の扉に向かって声を掛けるとすぐさま返事が返ってきた。扉を開けてやって来たのは凛々しい顔立ちの侍女服を着た女性。キリッとした表情を浮かべているけど、どこか頼られて嬉しいって想いが溢れている。


「さ、案内してくださるかしら? 小さな騎士様方」

「うん! こっちだよ!」

「だめだよ! めんせつしてるんだから!」


 私の手を取って引っ張るダンに対し、少しお姉さんのベルは言いつけを守ろうとしてダンが掴んだ私の手を離そうとする。可愛いわ。


 二人の可愛らしい争いに、ヴェラはオロオロしながら止めようとしてくれている。だけど、どうすればいいのかわからないので二人の周りをただグルグル回るだけになっていた。本当に可愛らしいわね。


 リリンッ

 そうしている間に再び入り口の扉が心地良い音色を響かせた。そちらに顔を向けると立っていたのは執事服を着た中年の男性。背筋をピンと伸ばし、指先に至るまでの所作が美しい。子供たちも彼の雰囲気を感じ取ったのか、ピタッと動きを止め口を閉ざす。


 彼の登場で店の空気が変わった。


「失礼いたします。こちらは相談所『迷い鳥』でお間違いありませんか?」


 執事服を着た30代後半から40代前半の紳士だった。明らかに貴族に仕える使用人だろうに、平民に対してとても丁寧だ。さっきの話でいうなら、マーサさんの面接でも一発合格間違いなしね。


「はい、間違いございません。こちらは相談所『迷い鳥』。ひと時の止まり木として、どうぞお休みになってくださいませ」

「……失礼いたします」


 紳士は一礼し足を踏み入れると、纏う雰囲気の所為か自然と背筋が伸びる。

 ヴェラに案内を頼んで私は一度ベルとダンを連れて外に出る。するとやはりマリーさんが外にいた。案内してくれた事に礼を言いつつ、面接が何なのかと訊ねてみる。


「あぁ、ミストちゃんは無自覚だからね。あの二人がいたら大丈夫だとは思うけど、勘違いする馬鹿は何処にでもいるからさ。噂を聞き付けて用事もないのに訪ねて来る連中も多いんだよ。

 それに最近じゃ”保持者”だってわかった孤児を貴族が有無を言わさず連れて行ったって話もあるからね」


「あら、そうだったんですか? それはそれは……お気遣いをいただいて、ありがとうございます」


 まぁまぁ、そんな方もいらっしゃったのね? 基本的に紹介状がない限りお受けする事は無いんだけど、確かに以前は紹介状なしで訪ねてくる方も多かった。そういう方はラズとヴェラが追い返してくれていたんだけど、ここ最近はそういう方が少なかったのはこれが理由だったのね。貴族が面倒で厄介なのは皆さんご存じでしょうに……


「お気遣いありがとうございます。ですが相手の方は身分ある方も多いので、あまり刺激しないよう、道を尋ねられた場合は素直にお店の場所を教えてください。皆様に何かあった時、私の心が悲鳴をあげますわ」


 この店にいらっしゃるのは、ほとんどが貴族の方々。紹介状を書かれる方が身元を保証して下さるから、安心してお迎えできるのだけれど……。

 だけど紹介状なしにやってくるのは身元保証がされていない方ばかり。平民に対して横柄な態度を取る方も多い。そして、そういった方は簡単に平民を傷つける。


「皆さんにはとても良くしていただいて、感謝しているんです。どうか、私の為に貴族の不興を買わないようお願いいたします」

「ミストちゃん……」

「マリーさん。お願いします」


「……はぁ~。わかったよ。でも、何かあったら言うんだよ! 相手が貴族だろうが何だろうが、うちの人連れて来てボッコボコにしてやるんだからね!」

「うふふ、その時は宜しくお願いしますね」


 そうしてマリーさんはベルとダンを連れて帰って行った。貴族の横暴は今に始まった事じゃないけど、出来れば罰せられる人を見たくない。


 マリーさんに手を引かれて帰って行く子供たちに手を振って見送る。角を曲がって見えなくなったら、今度は店に戻る。ちょっと待たせ過ぎてしまったわね。


「申し訳ございません、お待たせいたしました」

「いいえ。問題ありません」


 紳士は立ったまま待って下さっていた。申し訳なかったわ。ヴェラも困ったような顔をしているし、もっと早く来るべきだったと反省。


 さて、ここからは仕事の時間。


 ()()()()は微笑みを消して仕事に向き合う。ヴェラから受け取った紹介状にさっと目を通していく。その間にお茶を淹れ直すよう指示を出し、紳士には椅子にかけるよう促した。紹介状の他に紹介人から個別の手紙が同封されていたのでそちらにも目を通す。内容を確認した後、紳士の方にチラリと視線を向ける。


 美しい姿勢で真っ直ぐに前を見る紳士は如何にも出来る執事といった佇まいだ。

 そしてこれは直感だけど、今回の依頼。とても面倒な事になる気がする。


「改めましてご挨拶を。『迷い鳥』店主、ミストです。ご依頼内容をお聞きします」


 そうは言っても()()()()()()()()()()()()()()。ならば都合をつけて引き延ばすよりはさっさと片付けてしまおう。

 わたくしは改めて店主と名乗り、彼の前に座ると空気がピンッと張りつめた。

 お互いの視線がほんの数秒絡んでから、紳士は目を閉じる。それから一拍置いて目を開けると真っ直ぐに私の目を見てから口を開いた。


「私は依頼人の代理として訪問させていただきました。ジャレッド・ヘザーと申します。店主殿、我が主の依頼を申し上げます」


 そして意を決したジャレッド・ヘザーが主の依頼を口にする。


「我が主、バルナバス・クレイン辺境伯の……失踪した奥方様を探していただきたい」


本日より3日連続投稿します。4話目からは週2回更新を予定しています。


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