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異世界にクラス転移したら全員ハズレスキルを持たされた  作者: アタラクシア
第二章『路地裏のネズミは眠れない』
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第35話『思春期はつらいよ』

 大地は目線を下に向けながら飯を食べていた。その顔は暗く、気まづそうな表情が見て取れる。


 誤解のないように言っておくと、飯は美味しい。

 透明なスープは色の割に程よい塩加減で飲みやすいし、真っ赤なパンもトマトの風味が出ててスープとよく合う。ミルクは甘味の強い牛乳で甘党な大地としては嬉しい。


 わざわざ素性の知らない自分にこんなにも美味しい飯を与えてくれるラビット夫妻には感謝しかない。

 感謝しかない……のだが。


「ほら、お口開けて。あーん」


「あーん──んん、流石は俺のハニーだ。世界一美味しいスープだよ」


「もう、貴方ったらぁ……」


 机を挟んで大地の前に座っているラビット夫妻。ハニーはダーリンの逞しい腕に体を押し付けるように抱きつきながら、スプーンで掬ったスープをダーリンへの口へと運んでいる。ダーリンはそれを心底嬉しそうに啜る。


 微笑ましいと言えば、まぁ微笑ましいのだが……なんというか、気まずい。

 どちらも年齢は三十代。年齢的には大地の両親世代だ。例えるなら、目の前で両親がイチャイチャしてるような、どことなく居心地の悪い感じになっていた。

 しかも両方ともバニーガールのような黒いレオタード。かなりカオスな状況である。


「大地君。美味しい?」


「お……おう」


「だよなぁ。だって俺のハニーの飯だぞ? 美味しいに決まってるさ」


「やめてよぉ、大地君が困っちゃうでしょ?」


「いいじゃないか。俺たちの愛でこの世界を困らせよう……ぜ」


「トクン……」


 効果音自分で言うのかよ。

 出てきそうになった言葉をミルクで流し込む大地であった。



 ──二階の方から下へ降りてくる足音が聞こえてきた。


「あら、レイが起きてきたわ」


「レイ……俺を運んできてくれた子か?」


「そうだ。──おはようレイ。遅かったな」


 両親がこんななのだ。もしかしたらレイとかいう子もレオタードだったりして。

 個性的な見た目の女の子を想像しながら、大地は階段の方に目を向ける──。



 ──綺麗な少女だった。

 年齢は大地と同じくらい。赤い瞳。病的なほどに白い肌。長めの白髪。そして頭の上にある大きくて白いうさぎ耳。

 顔は全体的に母親似だが、目元は父親をどことなく想像させる。かなり美形だ。よく考えてみれば、ハニーもダーリンもかなり顔がいい。服装で気が付かなかったけど。そんな二人の娘のレイが顔がいいのは当然か。


 服は少し汚れた灰色のフリルのついた服とスカート。身長は百六十に届かない程度か。

 ご両親があまりにもあれだったので、想像より普通の女の子が出てきて大地はかなり驚いていた。


「……」


「……なに」


 口をぽかんと開けて見ていたのが気に触ったのか、レイは目を細めて苦言を呈する。


「あ、悪い……なんというか……」


「こらレイ。初めて喋る子に『なに』はないでしょう」


「そうだぞレイ。あと俺たちはお前の『おはよう』が聞けてないぞ」


「あーはいはい。『おはよう』。これで満足?」


「大満足だっ!」


 ダーリンの太陽のような笑顔を無視してレイは大地の横にドカンと座った。狼狽えている大地を無視して食事を開始し始める。


「まったく……紹介するよ。娘のレイだ」


「……ど、ども」


「ん」


 軽く流し見。レイはパンを咥えながら軽く喉を鳴らす。


「道端で倒れていた大地君をレイが運んできてくれたんだ」


「あぁ、その節はありがとう……」


「別に。散歩してたら見つけただけだし。というか、なんで倒れてたの?」


「なんて言うか……俺もよく分かんなくてよ」


「……」


 ギロっと。赤色の瞳が大地を睨みつける。


「あんた……調査員なんじゃないの」


「調査……は?」


「ちょっとレイ。やめなさい」


「だって倒れてたわりには服が綺麗だし。顔だって私たちとは違うじゃん!」


「そう言われてもな……」


「本当は貧民街の視察にでも来たんでしょ! また『土地開発』とか言ってここら辺を壊そうと──」


「──レイ」



 ──ハニーの声が響いた。先程までの明るい声ではなく、低くて冷たい声。


「……ごめん」


「あ? おう……」


 ハニーの顔はまた元の優しい表情に戻る。


「その子は身寄りがないらしいんだ。だからしばらく家で住まわせることにするぞ」


「は?」


「ここのこともまだ知らないでしょうし、案内してあげて」


「え? 私が? ……はぁ!? なんで!?」


「だってレイ暇だろ?」


「父さんも母さんも今日は仕事ないでしょ? 暇じゃん!」


「俺たちは……さ。ほら」


「ね……」


 頬を赤らめながら抱き合う二人。レイは歯をギリギリ鳴らしながら両親を睨みつけている。


「大地君。今日はレイにこの辺りを案内してもらいなさい」


「……分かった」


 ラビット夫妻の真意が分からずポカンとしていた大地。睨みつける視線がこちらへと移り、大地はさらに居心地が悪くなるのであった。



* * *



 日差しが肌を突き刺す。しかし辛いのは直射日光よりも、ジメッとした湿度。

 肌にへばりつくシャツを引き剥がしながら、大地はレイの後ろを歩いていた。


 時間にして数分。『イヤイヤやってる』という感情を包み隠さず歩いているレイに大地は話しかけられずにいた。


「……」


「……」


 大地は女というものが苦手だ。男と違って話しかけ方が分からないし、体が小さいので肩を掴むだけでも壊しそうで怖い。

 なので女性に対する免疫がまるで持ってないのだが──やはり気まずさには耐えられない。それに知りたいことも数多くある。

 だから大地は意を決して話しかけた。


「……な、なぁ」


「なに」


 目を細めながらレイは振り向く。


「あの……さっきのハニーとダーリンが言ってたヤツって、なに」


「……言ってたヤツって?」


「顔を赤くして、『ほら』とか言ってた──」


 ──大地の足にレイのミドルキックが突き刺さる。


「いっでぇ!?」


「よりにもよって、最初に聞く話題がそれ!? ありえないでしょ普通に!?」


「嫌だって気になったから……」


「っっ! もうっ、バカ! ほんとバカ! やっぱり私はアンタのこと嫌い!」


 涙目になりながら足をドスドスするレイ。大地はレイのキックが思いのほか強く、蹴られたスネを抑えて悶えていた。


「それで……なんなんだ?」


「っ、発情期だよっ! あんのバカ夫婦、三十超えてんのに未だに発情期とか言ってズッコンバッコンしてんの! 娘の前でそれ言う!? 普通!?」


「あ、あー……」


 兎は性欲が強いとはよく聞くこと。そういえば露出が多いのは欲求不満の現れとも言うそうだ。

 なら兎のような見た目の人間も性欲が強いのは当然……なのか。


「……レイはハニーとダーリンみたいな服は着ないの──」


 ──二度目の蹴りが直撃。まったく同じ場所に直撃し、大ダメージが入る。


「ぉぉおおお……」


「馬鹿っ! 着るわけないじゃん! あんな痴女みたいな服!」


「あれって正装じゃないのか? 『家系に伝わる由緒正しき正装』とかじゃ……」


「んなわけないでしょ!? あの馬鹿夫婦が好きで着てるやつだもん! 小さい頃は何回もあれ着せられて──あぁあああ!!」


 白い顔を真っ赤にして悶えるレイ。


「あんまりにもツッコミがなかったから、そういうものとばかり……」


「それ私のセリフ! あんなカオスな状況でよく何も言わないなコイツって思ってたよ!」


「俺の価値観が違うのかなって」


「一緒だよ! 一緒だからやめて欲しいのあのバカ夫婦に! おかげで周りからは変態家族扱いだよ! 思春期の娘の前でよくあんな格好できるよね、ほんとに!!」


 ド正論。よく考えなくてもあの格好はおかしい。現代社会でなら歪んでしまっても仕方ないと言えるレベルだ。

 むしろレイが普通なのは奇跡。人間何があるのか分からないものだ。


「もう知らない! 帰る!」


 レイがドスドス足を鳴らして歩いていく。大地は──その場から動いていない。


「早く来てよ!」


「いや、その……」


「……どしたの」


 蹴られた脚を抱えたまま顔を青くしていた。頬には脂汗が滲み出ており、顔からは『激痛』の二文字が読み取れる。


「……脚が、折れたかも」


「……」


 ズボンの下の真っ青になった脛を見ながら、脚に負けないくらい真っ青になる二人であった。

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