金魚の糞
「ほーらこっちや、ここ掘れわんわんやで」
「何か意味が違う気がするのは翻訳のせいか」
言いながらケヴィンは体躯が1.5メートル程ある茶色い狼、『アースウルフ』に氷の刃を命中させる。
別段ケヴィンは魔物に接近されたとしても身体強化を持っている為に全く問題ないのだが、与えられた異能が後衛向きの効果である為エリルが魔物からターゲットを取る事で戦い易く仕向けていた。
ケヴィンはそんな事する必要が無いと言っていたが、雑魚の括りである魔物であればエリルも危なげ無く攻撃を避ける事が出来る為、手持無沙汰も相まって自らそういう役目をすると彼に要望していたのだ。
自分が戦えないせいでケヴィンに迷惑を掛けている以上、何かしていないと気が休まらないのもある。
あまり役に立っていないのは理解しているが、1%でもケヴィンの危険が減るのであればそれで構わないと思っていた。
勿論先日のスパイクの件もある為、未知な魔物と遭遇した際には最大限の警戒を行っているが、今回追加された新種の魔物であるアースウルフに関しては、二日目に戦ったフォレストウルフの亜種であり能力もそれ程変わらないとケヴィン情報で知った。
ボス個体の大きさでは無く、あの時のボスのついでに現れた取り巻き側の個体と同じ大きさではあるが、しかしそれでもボス戦で登場した魔物が通常の雑魚として現れる様になったとも捉える事が出来る。
流石にデス『ゲーム』と謳っているだけの事はあり、そう言ったシステムも何ともゲーム的だと言えよう。
となれば単純計算でこのアースウルフは一匹10ポイントになる美味しい敵では無いだろうか。
一瞬にしてケヴィンは3体もアースウルフを狩っているため、それだけで既に30ポイント溜まっている計算だ。
あの時はボスの取り巻きとして出てきた事から、フォレストウルフはポイントが高かったのかもしれないが、先日に出てきた新種であるアシッドスライムがレア枠の50ポイント、通常の雑魚敵として登場していたファングリザードと言う、地を這う大きなトカゲが5ポイントであった事を顧みれば、今回のアースウルフが10ポイント有っても不思議ではないだろう。
早々に全体的なポイント不足は解消される方向に進んでいるのでは無いだろうか。
その上で、ここから魔物達のレベルが一気に上がって来る可能性も秘めている事が示唆されている。
今回のミッションは二日目と同じくボス討伐だ。
前回のボスの取り巻きの亜種が雑魚として出ている限り、今回出現する予定のボスは前回よりも遥かに強い可能性があると言うのが簡単に予想できる。
あのフォレストウルフでさえ当時の最高峰のメンバーが束になってやっと討伐出来た程だ。
あれを越えるとなれば身体強化や異能強化はもはや大前提レベルの魔物が出て来るに違いない。
となればそれらを取得していない者、もちろん自分もその対象なのだが、そこから焙れてしまった者は段々と戦いに追いつけなくなっていく事は目に見えている。
ただでさえ最初の雑魚モンスターであるクロウラビットに肉体を切り裂かれる程度には危険が備わっているのだ。
ここらでポイントを大量に確保してさっさと自己強化を行わなければもはや先は無いだろう。
「お前とグランに金魚の糞みてぇについて来ていた女も前回異能強化を手に入れたんだろ? 武器を作り出す枠が増えた可能性だって有るんだから、前みたいに武器を借りれば良かったんじゃないのか?」
ケヴィンが言っているのはジェシカの事なのだろう。
彼からすればジェシカはそう言う風に見えていたのだろうか。
「あーあかんあかん。あいつは今ネイサンに良い所見せたいか知らへんけど自分の強化に必死になりよるねん。異能強化を取得して武器の出現枠に余裕が出来たんやったとしても、そのリソースを多分もっと強い武器を出現させる為に使ったりしてるやろうな。人の恋路は邪魔したらあかんで」
「なんだ、あの女はお前かグランのどっちかと出来てる思ってたんだが、シアンの子分みてぇな奴に取られたのか?」
「仮に出来てるんやとしたら人の彼女を金魚の糞呼ばわりはやばいんとちゃうか?」
「確実にお前の女じゃねぇ事は確信してたからそう言う言い回しをしただけだ」
じゃあどっちかと出来てたって言い方はどうなんだと突っ込むべきか迷うが、エリルは話を進める事にする。
「なんて言うんやろうな。あくまでバイト先の付き合い程度の関係性と言ったらええんやろうか。友達とまでは言わへんけど数人集まるんやったら飯食いに行ける程度の中の良さと言うか」
「良く分からんが、そう言う言い回しをするんだったら恐らくグランの奴もあの女に興味は無いんだな?」
どうもケヴィンは認めている人物とそうでない人物の呼び方を変えている節が垣間見える。
認めている奴は名前呼び、そうではない奴は適当な呼び方をし、敵と見なす存在には『テメェ』と言う言い方をする。
まだ共に過ごして五日目と言う短い付き合いだが、彼のそう言った性格が分かって来た気がした。
「グランはそもそも現世に配偶者と愛玩動物がおったらしいで。スタンピードとか言うのに巻き込まれてしもて、恐らくグランの住んでいた地域の人々は丸ごと全滅したかもしれへん言うとったけど。なんやその嫁さんとペットしか愛せへん言うてたわ」
「それなら良い」
「ジェシカに興味あるんけ」
「興味ある様に見えるか?」
「見えへん」
何となくだが言いたい事は分かる。
彼女は身体強化を手に入れる前までは、自分とグランにべったり付き添い、二人の戦いによる恩恵を強く受けた存在だ。
そんな状況でいざ自分が強くなったからと言っていきなりこちらを見放す様な行動を取っていれば神経を疑われると言うものだろう。
ただ自分もグランもその件に関しては変に捉えていないし、ポイント分の食料はしっかりと貰っている事からエリル側もある意味で助けられている立場だ。
バイト先の付き合いと言う表現をしたのも、あくまで仕事としての付き合いと言う意味を表現したかった為だ。
お互いにメリットが有ったから協力していただけ。
そもそも自分が戦えないから異能を貸し出すと言う行為をしただけでも、元非戦闘組の奴らと比べれば天地の差だろう。
周りからすれば確かに薄情者に見えるかもしれないし、自分の好みの相手と関りが持てる様になったら乗り換えると言う浮気者にも見えるかもしれない。
ただそれをされた側であるエリルもグランも全くと言って気にしていないのだから、それはそれで構わないとエリルは思っていた。
ケヴィンはそう言った面を気にしていたのだろう、言葉遣いは悪いがこの状況を気にしてくれての発言だと言う事だ。
「ケヴィンは彼女とかおらへんかったんか? 同じ男に言われてもしゃーないかも知れへんけど、あんたも随分おっとこ前やし、100人や200人くらい居ても驚かへんで」
「そう言った関係性の奴は居なかったな。俺には三人の幼馴染が居たんだが、十歳を過ぎた頃から戦ってばかりの世界だったからな。恋だなんだと言ってられる状況じゃ無かったんだ」
「すまんけど全然想像が付かへんわ。十歳の頃からこないな魔物らと戦っとったんかいな」
「……そうだな」
エリルが棒きれを使って誘導したファングリザードを風魔法で切り裂きながら、ケヴィンは再び口を開く。




