好きなだけ拾え
「またあんたか、いい加減煩いぞ。現場も見てないんだから憶測で物を言うな。昨日も同じ光景が起きた事をもう忘れたのか? エリルはジェシカの武器を借りて多くの魔物を討伐した。今回のボスモンスターを倒したのだってエリルだ。ジェシカが持っているポイントは殆どがエリルの物だって言っても良い」
状況を説明する様にポイントの割り振りについて語るグラン。
自分で説明するよりも周りに説明してもらった方が説得力が上がるのだが、グランの説明は少しまずかったかもしれない。
そう言う言い回しをしてしまえば、あのライアンって男は必ず揚げ足を取って来る事だろう。
「じゃったらその小娘こそ『何もしてない』になるんじゃないか!? だのにその小僧が稼いだポイントを自分の物にして自由に割り振りしとるなんて卑怯じゃろう!? 偶々人に貸し出す事が出来る異能を手に入れただけで、何もしてない事には変わらんじゃろうが!」
「じっちゃん。さっきグランが言ったっしょ? 現場を見てないのに憶測で語るなってぇよ。このお嬢ちゃんはちゃんと活躍してたぜ? うまぁく自分の武器を出したり消したりしてグランとこの関西の兄ちゃんの攻撃をめちゃくちゃ助けてたんだぜぇ? 俺っちよりもかなり上手に異能を使ってたって思うわ。な! お嬢ちゃん!」
キラッとホワイトニング加工された歯を見せながらジェシカにウィンクするネイサン。
心なしかジェシカの頬が赤く染まった様に見えた。
あれか、真面目な女の子が不良に惹かれる様なあのベクトルが目の前で起きているのだろうか。
人の恋路なんてどうでもいいが。
「ワシらの中だってそれくらいなら出来る者もおったじゃろ!? じゃがお前達が勝手に仕切るからワシらは何もできず仕舞いだったんじゃないか!」
「来ればよかったやんけ。誰もじっとしてろなんて言うてへんやろ。誰か命令でもしたんか? シアンがそないな事言うたんか? お前等が自分でそれを選んだんやろ。いい加減見苦しいで、なるべく目上の人には相応な態度を取ろうと俺は思うんやけどな、それは尊敬に値する存在だからこそそうしようと思うねん。あんたはちょっと無理やわ」
「誰に向かって口を聞いておる!? ワシはライアン・コルゾフじゃぞ!?」
「知らんわアホ」
「な! 貴様だ――」
「ねぇ、気になってるんだけどあのケヴィンとか言う男はどうなの? 一人で大量のポイント持ってどっか行っちゃってるけど、あいつからも分けて貰ったらみんなに均等に行き渡るんじゃないの?」
ハスキーながらも艶のある低い女性の声色が耳に届く。
ライアンが後ろを向いた事でその声を発した人物が分かった。
若干目のやり場に困る程肌の露出が多めな大人の女性。
自分の体形の見せ方を熟知しているのか、それともそう言った衣装を着なければならない都合が有るのか、胸部や背中、脇辺りまでおおきく開かれたエナメルのドレスを着ている女性がその場にいた。
あぁ成程。
何故ここまで沢山の大人の男がいるにも関わらず、20人を超える程動かない奴らが出てきてしまったのか理解できた気がした。
その女性の周囲にいる男性達の彼女を見る目が、完全に下心丸出しだからである。
命を賭けて危険な目に逢うよりも、普段は会話する事すら出来なさそうな綺麗な女性と和気あいあいとしときたいと言う事か。
死ぬほど下らないな。
「あいつは関係ないだろう。あいつのポイントは全部あいつの物だ。俺達はただ善意でポイントを恵んでやってるって事を理解してくれ」
グランの言う通りである。
何故彼らは自分達の行いの結果自分達が損している状況に陥っているだけなのにも関わらず、無駄に己の利益を主張しているのかが理解できない。
「私達は仲間なんじゃないの? むしろこうやって皆して意味の分からないこのゲームに巻き込まれたんだから切っても切れない縁な訳よね? 『ファミリーハウス』って何か主催者っぽい人も言ってたし、家族みたいなもんじゃないの? だったら皆で協力するべきだよね? 出来る人が出来る事をやれば良くない? あんた達は戦えるんだから戦ってもらって、私達はそれ以外で出来る事やればいいじゃない。そうすれば公平でしょ?」
「あんたらに何が出来んねん」
いい加減イライラしてきたエリル。
正直に言えばこの無駄な話が長すぎると思い始めている。
「それはこれから探していけばいいでしょー? まだ二日目よ? これから何が起こるかも分かんないし、戦うだけが全てじゃないかもしれないじゃん。良いから早くケヴィン呼んできなよ、それであんたらからポイント分ける様に頼んでよ。仲間なんでしょ?」
「それは……エリル?」
シアンはケヴィンを呼ぶ事は出来ないと口にしようとしたのだろう。
だけどもう良い。
もう面倒臭い。
さっさとこの話を終わらせてもっとこれからの有意義な話をするべきだ。
ケヴィンは自分の出来る限りの事をやっている。
やった上で、自分の落ち度だからと食事すら取らないで戦い続けている。
そんなケヴィンに対してこいつらは何だ?
何もしない癖に口だけは達者で、自分の要望ばかり口にする。
命がけで皆を守ろうとしているシアンに感謝すらしない。
そもそも自分が守られている立場だと言う事すら理解していない。
下らない。
こんな奴らとこのまま喋り続けたって無駄だ。
「もうええ加減黙れや」
低く唸る様な声で女性に対して言葉を投げかけるエリル。
こちらの威圧に押されたか、若干後ずさりし始める女性。
「な……によ……」
殺気の込め方なら知っている。
伊達に無形影棍流の師範代をやっている訳じゃ無い。
だが今は別に脅す事が目的では無い。
言い聞かせる事を重きに置く。
「俺からあんたらに恵んだるわ。ほら、好きなだけ拾え」
言いながらエリルは先程ジェシカから預かった食事券をきっちり21枚ばら撒いた。
それは今回も戦わなかった人物の人数と一致している。
「それ拾うたら、後はシアンとグランから有難く今日の分を貰って感謝しながら豚みたいに餌食ってろ。そんでこんな馬鹿げた事言うんは今日限りにしろ。あんたらの言葉聞いてたら耳が腐り落ちんねん」
「貴様は口の利き方も知らんのか!?」
耳元でライアンが再び叫び始めたので、咄嗟にエリルは彼の顎を右手で掴んだ。
「耳が腐る言うてるやろ。ええから黙って食事券拾わんかいクソジジィ。そんでクソジジィらしくさっさと糞して寝ろ。二度と俺の前で醜い声発するんやないで」
「あ……うあ……」
何か言いたそうにしているが、顎を掴まれている上に漏らす程の恐怖を感じている為か、何も発せなくなったライアン。
右手だけで彼を持ち上げていたのだが、腕が疲れて来たので放り投げる様に彼を地面へと落とす。
全く気が晴れないが、取り敢えず言いたい事は言った為にエリルは自室へと戻る事とした。
こいつらがいる空気の中で、今食事を取り出す気にはなれなかったからもあるが、こんな雰囲気にしてしまった自分にも多少嫌気が差してしまったからだと言う事もある。
むしゃくしゃする気分を抱えながら、頭を一度掻きむしった後振り返り、自室の方へとエリルは歩き出すのであった。
――――……。




