エリルは何もしていない
「いやぁ、好きで来てないのは皆同じっしょ。その言い訳は通じねぇっしょじっちゃん」
そんなライアンに対しておらつきながら反論を述べた人物は、『ネイサン・ライトマン』と言う名の男だ。
健康的に焼けた肌と脱色された髪。
ある程度鍛えられた体に高級感のある金のネックレスを付けた男。
室内でもサングラスをする様な、モテる為に自分のプライベートを全振りした典型的な勘違いスタイルを醸し出している様な男だ。
かなり悪口を言っているが、やたらと鼻につく香水を振りまいている男はこいつだったのかと今更ながらに思った程だ。
だが彼は今回、一応シアンと共に魔物討伐へと参加した側の人物だ。
自己紹介で『落下』の異能を与えられたと発言していた彼だが、どうやら指定した対象をかなりの速度で落とす効果を持っているらしい。
クロウラビットの様に飛び上がる魔物を今日背的に地面に叩き付ける事でダメージを与える事も出来れば、他にもあまり高くない位置からでも落下を発動する事で地面に対象を一瞬だけ貼り付ける事が出来、相手の隙を作る事で戦いに貢献していた人物だ。
グランとは違ってある程度コントロールが必要にはなるが、物を投げて攻撃した魔物の上まで近づけた後でそれを落下させてダメージを与える、なんて工夫も出来そうな異能であった。
「な……なんじゃお前は!」
「ちゃんとネイサンって名前で呼んでくれよじっちゃん、自己紹介したんだからさぁ。あ、それだったら俺っちもちゃんとライアンさんって呼ばなきゃいけねぇか! ってそんな事はどうでもよくて、俺らはあんたらと違ってちゃんと戦ってポイントゲットしたんだからさぁ、何もしてないあんたらと同じ扱いじゃそりゃ不満だって出るでしょうよ。グランのあんちゃんの言う通り、そこはちゃんと差をつけるべきだし、むしろ本来ならおたくら側から遠慮するのが普通じゃねぇの? って俺っちは思う訳よ。そうだろ皆?」
ネイサンは大げさな動作で両手を広げながら、シアンと共に戦った他の三人に同調を求める。
半分野次に近いが、それでもネイサンの言葉に反対意見は無かったのか、三人もネイサンの言葉に動揺する様な言葉を発していた。
態度や口調がチャラ付いていて何となく気になるが、言ってる言葉自体は現状況ではまともだ。
所謂ちょい悪気取りの大人の兄さんって感じではあるが、それだけでも多少格好よく見えるのだから不思議だ。
「わ……ワシらは朝からなんも食べておらんのじゃぞ!」
「だからぁ! それは俺っち達も同じだっつーの! ボケるには早いぜじっちゃん」
「あんた達の食料を賄うだけでも、さっき言った通り二食で我慢してもらって飲料水を与えるだけでも、単純に60ポイント掛かるんだ。分かるか? 60ポイントだ。このポイントがあれば、本来ならシアンは『自己強化』が出来る筈なんだ。それを抑えてでもあんた達に食料を与えようと、自分の身を削ってでもポイントを賄っている。……そこに感謝こそすれ文句なんか言う権利はないだろ。何度も何度も確認する様に言っているが……俺達は昨日、シアンに命を助けられたんだぞ。……いつまで迷惑かけるつもりなんだ?」
ネイサンの言葉に続いてグランが発言していた。
「皆すまない……俺の事なら気にしなくていいんだ。どうせ偽善でやってるだけの格好つけたいだけの正義感なんだ。ちゃんと皆には食べてもらうから安心して――」
「いやそらあかんやろシアン」
シアンは少しばかり優しすぎる。
せっかくグランとネイサンの二人が悪者になってまで皆を説得していたのに、彼のその発言は問題の解決にはならない。
「あんたが良くても一緒に命懸けてた俺らがそれじゃ納得いかへんねん。一番頑張ってるあんたが報われへんと俺らは嬉しくないねん。ここは俺もこいつらが我慢すべきや思うで」
エリルは今回戦わなかった者達へ一瞬視線を向けながらシアンに向けてもう一度口を開く。
「それにあんたはそうやってええかっこしいの偽善者やー言うけどな。ほんまの偽善者はそんな事自分では言わへんねん。むしろめちゃくちゃ押し付けがましい親切を振ってくんねん。もうそらほんまに見返りがある事を前提な言い回しばっかすんねん。あんたは違うやろ? かっこつけやとしても守りたい思ってるんは本当の事やろ。そうやって自分を卑下するもんちゃうで、そんでほんまに守りたいんやったら過保護はあかんって事も知っとかなな」
「いやあんちゃん何歳だよ! えぇ? どう見てもまだ子供だよな? どんだけ達観してるんだよって感じっしょ」
「あんたはなんや色々発言が軽く聞こえんで。喋り方直した方がええんとちゃう」
実際20代後半には差し掛かっていそうには見えるネイサンだが、エリルは彼の発言にあまり重みを感じれなかったのであった。
「勝手にそっちで話を続けるんじゃない! わしらの意見だって――」
「もう止めましょうライアンさん……」
まだ気に食わないのか、なおも口を挟んで来ようとしたライアンに対して、彼の前に回り込む様にして現れたスーツ姿の男。
ハンカチで冷や汗をふき取りながら、ライアンへ言葉を投げかけていた。
「な……なんじゃお前まで!」
「ライアンさんが僕らを思ってそうやって発言してくれているのは分かりましたから……僕らはもう本当いただけるだけで十分なんで……」
「む……ぅ……」
味方だと思っていた側からも反論があった為か、途端に口籠るライアン。
ただはっきり分かるのは、彼は決して戦えなかった者達の為に発言した訳ではないだろうと言う事。
確実に自分が損する事を嫌っての発言だった筈だ。
「シアンさん、グランさん。僕は貴方がたが譲歩してくれ様に二食分だけで十分です……働かざる者食うべからずとも言いますし……本当に頂けるだけで感謝しております……」
ペコペコと腰を曲げながら謝罪する様にへりくだる男。
やっと真面に話せそうな奴が現れたと言える状況か。
「……すまない」
謝る事じゃないのだが、シアンも納得したのかやっと二食分の提供で手を打つ事になったらしい。
グランが言い出さなければ、シアンはその優しさのあまりずっと搾取され続ける様な光景になった事だろう。
シアンとグランが隣り合ってポイントの分配を相談している時であった。
「エリルさん! これ!」
言いながら、ジェシカが大量のペットボトルとチケットを抱えながらエリルの元へと近寄ってきた。
「全部抱えきれなかったんで一旦おきますね」
ジェシカはそう告げた後、システムボードから次々にペットボトルを取り出してエリルの前へと並べ始めた。
凡そ500ミリペットボトルが30本近くと、20枚以上の食事券だ。
一日の平均で換算すれば一週間分程の食料と飲料水になるだろう。
「いやそんな要らへんやろ」
「半分こですよ! 半分こ!」
それらを押し付けながら眉を潜めるジェシカ。
確かに彼女のポイントの取得料からすれば、エリルへの分配量はそれくらいの量が正しいのかもしれないが、今回は自分だけが稼いだポイントではない。
「グランの分やって入っとるやろ。全部俺が貰う訳にはいかへんねん」
「いや、今日の戦いではエリルのアドバイスがかなり役にたったからな、俺のポイント分も貰ってくれてかまわない」
「俺の周りには良い奴しかおらへんのんかいな。どれだけ前世で徳積んでたんや俺。……まぁそれで死んでたら元も子もないんやけどな」
等と冗談を言っていた時である。
この光景を見て、またもやこの男が叫び始めた。
「なんでそいつにばかりそんなに大量に食料を渡してるんじゃ!? そいつも『何もしてない側』じゃろう!?」
ライアンである。
分かってはいたと言うべきか、予想できた事である。
戦いに参加していない彼らは、当然戦闘の状況も目にしていない事になる。
表向きのポイントだけを見て言えば、確かに傍からはエリルは『何もしていない』様に見えてしまうであろう。




