戦わない者
やはり、順当にこの四人がポイントを取得する形になった様だ。
後の端数はシアンチームの四人がまんべんなく取得している様子であり、彼らは単純計算で数日分の飲食の猶予が手に入れられた事になる。
初日の戦いは本当にチュートリアルだったのか、二日目にして一気に取得ポイントが跳ね上がった様に見える。
雑魚扱いの魔物だけで200ポイント。
ボスと取り巻きで合計70ポイント。
それだけで無く、一体の討伐に数人の攻撃があった場合、その貢献度によって『援護』と言う項目が発生する事が分かった。
例えるならグランの討伐の中にあるスライムの項目は、14匹ともすべてジェシカの『ナイフ』によって討伐したもの。
スライムに致命傷を与える主な理由はグランの投擲による物だが、使用した武器はジェシカの異能による物と言う判断によって、討伐自体はグランにポイントが入り、武器を貸したジェシカには援護ポイントが入ったと言う形だろう。
フォレストウルフもそうだ。
グランが倒したフォレストウルフは、エリルが剣で腹を切り裂いた後にグランがトドメを行った。
エリルの攻撃だけでは絶命には至らなかったが、グランが怯んだフォレストウルフの脳天にしっかりとナイフを突き刺した事で討伐する事が出来た。
状況を考えれば確かに逆のポイント付与もあり得たかもしれないが、討伐ポイントの判断がジェシカの援護となった様だ。
それこそ最後のboss扱いの大き目なフォレストウルフに対するポイント割り振りだろう。
トドメを差したのは間違いなくシアンだ。
そしてトドメを刺すチャンスを作り出したのはグランの投擲だ。
しかし結果として、脳天に槍を直接突き刺したエリルが討伐者となった事で、ジェシカのそのポイントが、シアンとグランには援護ポイントが割り振られる形となっている。
その魔物を倒した際に、どれだけその人物がダメージを与えたかが参考になっているのだろう。
本当にゲームをやっている様な感覚だ。
だとすればジェシカの武器を借りて、実際に動いている実行者のエリルにも援護ポイントがついても良いのではないかと思うのだが、そう簡単な話では無いらしい。
何れにせよ、一体の魔物に対してうまく活用すれば、複数人が同時にポイントを取得出来る仕組みが作り上げられている。
この状況なら余程な事が無い限りポイントが足らずに飢えてしまうなんて事は無いだろう。
問題は、今回戦闘に参加しなかった者がいつになったらその腰を上げるかだが……。
ポイントの確認を追えると同時に、エリルの視界が歪む。
ミッションが終わった為にファミリーハウスへ戻る為の現象だろう。
歪んだ視界が戻り、既に二日目にして見慣れてしまった質素で広い室内が目に映る。
ミッションは一日一回。
仮面の男がそう名言していたからこそ、この後の時間はほぼ自由行動になる。
とは言ってもこのファミリーハウスからは出られないのだが。
「……あいつは今日は来ないみたいだな」
シアンが一言口にする。
あいつとは間違いなく仮面の男だろう。
昨日はミッションから戻って来ると共に現れたあの男だが、今日は何か話す予定が無いのだろうか。
現れないのなら現れないで、気分を害さないで済むから構わないのだが……。
「おいケヴィン!」
エリルは視界の端で、直ぐに自室の方へと戻ろうとするケヴィンを発見した事で直ぐに彼を呼び止める。
「何だ」
「何だやあらへんがな。あんさん今日も何も食わへんつもりか?」
「まだポイントが足りねぇんだ。体力温存の為に俺はさっさと寝させてもらう」
「せやから食えばえぇやんか! 俺がやる言うてんねんから黙って受け取らんかい!」
「要らねぇつってんだろ!」
彼の元へ駆け寄りながら、昨日ジェシカから受け取った食事券をケヴィンに手渡そうとする。
しかし彼はこちらの手を引っ叩き、チケットを受け取ろうとしない。
「頑固すぎんやろ。あんたアホなんか?」
「どうだって良い。人の心配より自分の心配だけしてろ。お前もあんだけ戦ってんのにまだポイント取得出来てねぇんだろ? どう考えてもその方が問題だろ。間違いなくお前は戦力になってるのにポイントが稼げねぇんじゃ自己強化さえ出来ねぇ。早いとこその解決法を探ってどうにかする事が優先だろ。俺の事はほっとけ」
「ほっとけってあんさん……」
それだけ言うとケヴィンはそれ以降振り向かずこの場を去ってしまった。
先程ミッション中にも屈み込んで居た事もあり、空腹で満足に動ける状況では無い筈に何を意固地になっているのだろうか。
エリルは振り向きながらシアンに視線を向けるが、彼も軽く目を閉じて首を振るだけであった。
「戦力の事考えるんやったら、自分が元気でおる事の方がおもっくそ戦力になるやろうに……」
彼に耳に届く程の声量でエリルは呟くが、それに対してもケヴィンは反応する事は無かった。
「……今日も先にポイント分けさせてもらう。今日単独でポイントを手に入れられた人は自由に使ってくれ。数日間は困らない程度のポイントは手に入っただろう。戦えなかった者は俺から提供させて貰う」
言いながらシステムボードの操作を始めたシアン。
しかしそんなシアンの手を横からグランが止める。
「俺は今回はポイントを手に入れさせてもらった側だが……俺からも少しだけポイントは提供させて貰う。だけど、戦った者と戦えなかった者にはしっかりと『差』を付けるべきだ」
グランの発言にシアンは少しだけ首を傾げた。
彼の言わんとしている事は何となく分かる。
「どう言う事?」
しかしそこへグランが言った『戦わなかった者』からの質問が投げかけられる。
その人物にグランが視線を向けながら、返答を始める。
「昨日は見ての通り、俺とジェシカは明確な被害を受けて死にかけた。シアンやエリルが居なければ俺は確実に死んでいただろう。その時の恐怖を乗り越えて今日は彼等と共に戦った。シアンと共に行動していた奴らも、恐怖心を持ちながらも必死で戦ったんだ。そうやって俺達が命がけで手に入れたポイントを、何もしなかったあんた達が無償で恩恵に与るのもおかしな話だ。俺はそう言っているんだ」
「は!? って事は何じゃ!? ワシ達は飯を食う権利も無いと言うのか!」
と、先程とは別の男性が声を荒げる。
「そうまでは言って無い。少なくともこのゲームによって同じ被害にあった仲間だと、少なくとも俺は思っている。ただ命を賭けて戦った者と、守られた側の者との間には明確な差をつけるべきだろうと言っているんだ。でなければ『こちら』が報われないだろ?」
「どんな差を付けるつもりじゃ!」
魔物に対してはビビり散らかしていた癖に、自分が受けられる筈の権利が脅かされそうになればやたらと吠える者。
そう言う輩は何処にでもいる者なのだろう。
「そこまで差をつけるつもりは無い。戦った者はしっかりと三食食べて貰って、他の者はせめて二食で我慢してもらう様な形が良いと思う。ポイントだって無限にある訳じゃないんだ。毎回シアンが全員分のポイントを稼げるとも限らない」
「ワシらだって好きでここに来たんじゃない! なのに何でそんな事指図されなきゃならんのじゃ!」
さっきから歯向かっているあいつは確か……『ライアン・コルゾフ』と言う名だった筈だ。
大分年老いているが、若者に指図される事が気に食わないのだろうか。