護身術は乙女の嗜み、剣術は花嫁修行
王城の中庭にて。
噴水の音が涼しげに響くその一角にてリュシエール・エルンストリアとサンドラ王女殿下が優雅がティータイムを過ごしていた。
「ねぇ、シエル。貴女好きな人がいるそうね」
「……ふふ……秘密ですわ」
回答をぼかし微笑んだまま紅茶を飲むリュシエールに、サンドラはバンッ!と勢いよくテーブルを叩いた。
「もぉ~!ずるいぃ!私にはちゃんと教えてよ~!」
普段冷静沈着と言われる王女とはかけ離れた姿で、でも目はとても輝いていた。
本来なら咎められる行動ではあるが、リュシエールはなにも指摘をしない。
だって、二人は幼馴染なのだから。
「では特別に……セドリック・ヴェルシュタイン様よ」
「ふんふんセドリック・ヴェルシュタ………ええっ!? 副団長様!?あの堅物渋おじさま!?」
「ええそうよ、セドリック様って素敵よね。寡黙で真面目で、でも内には情熱を秘めていて……ああ、殿方の理想型だわ!」
少女らしい高揚感を隠そうともせず、頬を赤らめながら語る姿にまさに恋する乙女そのもの。
「きゃーっ!なにそれ、まさかの年上渋好み!?シエルったら今完全に“恋する乙女”の顔よ!」
「当たり前じゃない、セドリック様に恋してるもの」
華やかに恋バナで盛り上がる最中、突如ガシャァン!と破壊音が響き、城壁の陰から男たちが飛び出してきた。
短剣を構えた数人の賊。
明らかに正規兵ではない装いと、殺気を孕んだ目がテーブルを囲む淑女たちに向けられている。
「全員、動くな!」
王女が怯えたように身を引くと同時にそばに付き添っていた侍女が我が身を盾にして立ち阻んだ。
「お嬢様方にお怪我があってはなりません!姫様、今のうちに王宮内に!」
だが彼らが目的の存在をみすみす逃すはずがない。
侍女を突き飛ばし、サンドラの髪に触れるその前に、スッとリュシエールが立ち上がった。
手にしていたのは、何の変哲もないはずの扇子。
だが、その一閃はまるで刃のように鋭かった。
バキィッ!と一人の賊が頬を打たれ、派手に吹き飛ぶ。
「なっ……!?」
もう一人の男が短剣を突き出すが、リュシエールは舞うように避け、逆に足元を払って転倒させる。
その瞬間、転がった賊が落とした剣を拾い上げた。
そして――音が変わった。
「まさか……剣の心得があるのか!?」
「……未来の旦那様が騎士なんですもの、花嫁修行として当然でしょう?」
「いや聞いたことないな!?」
カツ、カツ、と中庭のタイルを響かせながら、一人、また一人と賊を無力化していく。
その剣筋は美しく、淀みなく――だが容赦がない。
あっという間に場は、リュシエールにより制圧された。
「シ、シエル、貴女完璧な令嬢なのに、剣術まで嗜んでるって………そ、それってずるくない?」
「あら?護身術は乙女の嗜み、剣術は花嫁修行でしてよ」
「いえソレ普通の令嬢じゃありませんから!むしろ騎士ですから!?」
「………あ、愛だわ」
「うふふ♡」
王太子「最近の淑女は、護身術が乙女の嗜みなのだな」
セドリック「……は?」
↑ のちにお茶会襲撃事件を聞かされることになる。
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