十一話
前半ミリアム視点です。
郊外に畑のついた家を買ったから、引っ越すとママが言い出した。
嘘でしょう?パパもなんだか納得した顔してるけど、なんでよ!そんなのおかしいでしょ!
「伯爵は?学園は?婚約者は?私のドレスや宝石はどうなるの?」
このままお姉様にやられっぱなしなんて嫌よ!なんでママは平気なの?伯爵夫人になれなかったのに、悔しくないの?
「ねぇ、ミリアム、ママはあなたとパパの三人で穏やかに暮らしたいの。貴族でなくっても全然平気。それよりは毎日みんなで笑っていたいわ」
あなた、最近ちっとも楽しそうじゃないわよと、ママは困ったように笑う。
こんなの気に入らない。全く以て気に入らない。でも、ママを悲しませるのは嫌だった。
「納得したわけじゃ無いからね。私はお姫様みたいな生活がしたいんだから。それは今でも変わって無いし、これからも、絶対、ずっと、変わらないんだから!」
「判ってるわ、ミリアム」
「ならいい…今だけは我慢してあげる…」
そうして、それから一週間後、私達はママが買ったという家に引っ越した。お姉さまはお餞別だと言ってラバの引く荷馬車をくれた。ママはすごく喜んだけど、私はそれが馬車じゃないことに腹が立った。
私達が居なくなったから、あの侵入者撃退システムが解除されてるかもしれない。そう思って、引っ越しの翌日、図書館に行きたいと言ってママに荷馬車で送ってもらった後、こっそりお屋敷に行ってみた。せめてお姉様に一矢報いたいと思っていたのもある。
忘れ物を取りに来たと言って門を入り、使用人用出入り口に向かう。ドアに手をかけ、そっと開く。指を一本だけ入れて見る。
びびっ!
「ちくしょう、やっぱりかぁ!」
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「ちくしょう、やっぱりかぁ!」
昨日引っ越したはずの連れ子さんの声がしますわね。あの方達が居なくなりましたので、ようやく静かな生活に戻れると思いましたのに、何しに来られたのかしら?後で執事に確認しておきましょう。
あぁ、いけませんね。手紙を書いている最中でしたわ。先ほど、正妃様からお礼状が届きましたが、最後にお茶のお誘いがありましたので、そのお返事です。
先日の第二王子の訪問や暴言に対して、司法省と王家に暴言を再生できる魔方陣を同封の上抗議したところ、今後一切パシェット家に余計な手は出さないという陛下の署名の入った神前証書が届きました。もちろん慰謝料も、王家と側妃様のご実家からしっかり頂きましたので、今回の事は、これで終わりといたします。
側妃様と第二王子が幽閉されているとか、バシェロ伯爵が領地を半分に減らされたなどという話も聞こえてきますが、もう関係ありませんので、捨て置くことにいたしましょう。
第一王子は新年の儀の際に立太子されることが決まり、正妃様のお手紙はこの事に関するお礼状でした。さて、出席のお返事も書けたことですし、後はゆっくりお茶でも飲みながら本でも読むといたしましょう。
「クレア、この手紙を出しておくように。あと、お茶をお願い」
「かしこまり・・「お嬢様、大変です。屋敷の周りを怪しい男がうろついてますぅ!もしかしたら、いつかの変態さんかもしれません!」
ジジが泣き叫びながら部屋に駆け込んで来ました。仕方がないので、マルソーか従僕にでも確認させようと玄関へ向かいます。あら、やけに騒がしいですわね。
「あ、令嬢伯爵、俺をここで雇ってくれないか?」
令嬢伯爵ってなんですの?というか、あの方、確か司法省の役人のユリス・アルマン様ですわよね?ずいぶん雰囲気が変わったように見えますわ。
「いや、俺、家を出たんだ。仕事も辞めたし。だからここで、びっばばばばはびっ」
あらまぁ、勝手に入ろうとした挙句、システムに引っかかってしまわれました。めんどくさいので、従僕に合図を送ります。アルマン様はあっという間に簀巻きにされて、運ばれて行きましたから、ジジもこれで安心でしょう。
さて、せっかくのお茶が冷めてしまいますから、部屋に戻ることにいたしましょう。
明日こそは、静かに過ごしたいものですわね。
これで完結となります。
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≪20年前のゴタゴタ≫の話を投稿しました。タイトルは「婚約破棄は法廷で~口は禍の元って、知ってます?」です。一万八千文字と、当初の予定よりも長くなりましたが、よろしければ、こちらもご覧いただけたら、うれしいです。
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