第五十話 準備
司令室で各地からの報告に目を通しているマーチは呆れた顔をしている。
「暇ですねあの国……」
「帝国か?」
「ええ、本当に嫌らしい嫌がらせを各地で行ってくれています」
「きついのか?」
「いえ、対処が早いのと、普段の我々の信用があるので影響は少ないですね……
ただ、無駄な労力は確実にかかっています」
「実際のとこは?」
「我々とつながりがあることを嫌がる人も増えていますね。
恩を忘れやがってクソどもが、と思わんこともありませんが、思い知らせるためにも現在全ての拠点から撤退を命じております。合流は一週間後になります」
「なかなか帝国も俺たちの嫌なところを突いてくるな」
「ゲイツ様には少し張り切って魔物、特に強大でそうそう手出しができない物を狩っていただいて、我々との接点を失ったことを後悔させましょう。
二度と我々と手を切ることがないように圧倒的な力を見せる必要があります」
「いいね、いいね、修行にもなりそうだ……」
マーチと今後のターゲットとなる魔物の情報と、スケジュールなどを打ち合わせしていると、司令室の扉が開く。
「ゲイツ、帝国兵が本格的に討伐軍を組んでいるぞ」
タイミングよくパルザンが自らの掴んだ情報を持ってやってきた。
「パルザンさん、もしかして帝国領内に入ったんですか?」
「ああ、ちょっと散歩がてらな」
ここ数日パルザンの姿が見えなかった、時々そういうこともあるから気にしていなかったが、まさか帝国内に侵入していたとは驚いた。
「ゲイツ様もそうですが、世の中にはすごい人がいるもんですね……」
「パルザン、相手の戦力は?」
「正規兵3000、上級兵2000、騎乗兵1500、古代兵器が3台は確認した。
数は多めに言っている」
「おーおー、こんな小さな商会を潰すのに大層な戦力を……
騎乗兵っていうのは?」
「ポートという二足歩行の小型魔物に騎乗する兵だな。
かなりの機動力があり厄介だ。
ポート自体の噛みつきなんかも脅威だし、槍をもたせればかなりの突破力がある」
「古代兵器はあの戦車ですか……」
「そうだ、帝国の切り札魔導戦車、それを3台も投入してきた」
「まぁ戦車はゲイツ様の情報で弱点を知っていますし、対策兵器もありますから……
ただ、士気は落ちるでしょうね」
「帝国の古代兵器と聞くだけで戦う気が失せるような奴は……うちにはいねーだろ」
「それでもなかなか、特にその威力を知っている湿地帯で合流した勢は……なかなか」
「しょーがねーな、最初に俺が派手に花火をぶち上げてやるよ」
「ホッホッホ、それは楽しみですな」
「しかし、この人数差はキツイな……少し、派手に暴れるしか無いな……」
「上級兵はそれなりの使い手もいる。装備も我らほどではないがなかなかだ。
今までのように射撃で圧倒は出来ないだろうな」
「まぁ、この間のアレは忘れたほうが良い……」
「王国の内乱もしばらくかたは付きそうにないそうなので、我らを討伐という名目で、最終的な目標は湿地帯の制圧のために兵を動かしているのかも知れませんね……」
「そういえばマーチ殿、女王陛下は?」
「すでに王宮にお戻りいただきました。
周囲の者は帝国の息のかかっていないものに、それに商会の装備やシステムも導入しました。
驚くほどに協力的でびっくりしました。
パルザンさんは人望があるんですね」
「隠居したジジイでも役に立てるのでしたらありがたい……」
女王陛下の無事の知らせを聞くと、パルザンは心からホッとした表情を浮かべる。
パルザンの中での女王陛下の価値は、高いんだろうな……
「隠居ねぇ……」
「なんじゃゲイツ文句でもあるのか?」
「いえいえ、なんでもございませんよ」
「まぁまぁお二人とも、今は圧倒的な帝国軍に対する対策をきちんと練りましょう。
被害が大きくても困りますから」
「流石に本気で大暴れしても、1,000ってとこだな……」
「私は多を相手にするのは苦手ですから、200いや、最近は誰かのおかげで随分と動けるようになったので300はいけるでしょう。
不肖の弟子達とはいえ、200は任せられる」
「うちの弟子たちも200ってとこか……」
「兵たちで500……トレーラーと新兵器で1000……」
「2000以上の兵を残してこちらは全滅……か……」
「至伝までじゃだめか……
仕方ない……
パリザンのおかげで皆伝まではいけるし、俺、プラス2000で良いだろう」
「いやいやゲイツ、わしもお主の相手をして試したいことがある1000は受け持つ」
「なら奥伝までで十分だな。よし、勝ったな」
「被害もなしじゃ」
「祝勝会の準備は整えておきますね。
パリザンさん、侵攻はいつになりますか?」
「2週間後じゃな」
「うっし、それまでに弟子には100人は上乗せしてもらうか」
「うちの弟子たちも混ぜてもらおう、やはりライバルは必要じゃからな」
「ちょっと本気だすかね」
「そうじゃな……カッカッカ!」
帝国兵の準備が整う2週間、ロカやジルバ、兵たちの地獄の訓練の幕が開けた。
はじめの一週間は、とにかく魔物狩り、凶悪な獣、俊敏な鳥、強固な化け物、いくつもの臨死体験を経て、無数の魔物を狩り尽くす。
その甲斐もあり、俺、ロカ、ジルバ、パリザン、弟子5人の装備は魔装具になり、それぞれ思い思いのカスタマイズをしている。
それ以外の兵士たちの装備もさらに刷新されていき、国家規模の兵とは比べ物にならないような上等な物が揃えられていく。
キカイも多く狩ることにより、ポポら開発陣も張り切り、兵器も進化していく。
最期の一週間は俺とパリザンをとにかく全員で倒すことを目的で戦闘を繰り返す。
全員がぶっ倒れたら俺とパリザンで戦う。
その積み重ねによって、俺も最盛期と同等以上の調子を取り戻していく。
「しっかし、なんなんだあんたは……その歳で伸び続けてるじゃないか!」
久しぶりに完璧に負けた。
「忍びの神髄……お主のおかげで本当につかめた気がする……まだまだじゃ!
もう一本お願いする」
「よっしゃ、次は負けない!」
二人の姿を見て、弟子たちは重い体を起こしてお互いに高めあっていく。
「良いニュースと悪いニュースがあるが、どちらから聞く?」
「悪いニュースから」
「帝国がガルラ族と手を組んだ。
最精鋭10本刀が敵に付く、すでに合流済みだ」
「ほー、帝国が亜人と組みますか……」
「馬鹿なのだ! 利用されているだけなのだ!」
「いいニュースは?」
「10本刀と命をかけて戦える」
「……クハハ……確かに!」
「そうなのだ! あの10本刀と戦えるのは名誉なのだ!」
「名誉だけじゃないですよ、10本刀に勝ったという事実も手に入ります」
「よっしゃ、みんな気合は十分だな!」
「「「「「おおおお!!!!!」」」」
戦闘の火蓋は今まさに切って落とされようとしていた……




