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第九話

「セレス。行きますわよ」


「ハ」


二人で村の中に駆け込む。


木造の民家が並んでいる。

4,50人くらいは住んでいたのだろうか。


一軒の民家の角を曲がる。

村の中央あたりだろうか。

そこは広場になっていた。


まず目に入ってきたのはオークの群れだった。

広場を囲むように輪になっている。


輪の中には何人か人が見えた。


「チッ。集団では動いてないんじゃないのか」


セレスがオークの群れを見て悪態をつく。


「いるものはしょうがないでしょう。助けますわよ」


中にいたのは冒険者風の4人だった。

オークの輪は縮まり、今にも襲いかかられそうだ。


まずは彼らを守らなくては。

オークの一角を突き崩し、囲いの中に入る。


「大丈夫ですか?」


「た、助けてくれ」


戦士風の男が答える。

ケガは無さそうだが、すでに戦意は感じられない。


他の3人からは反応すらなかった。

どうやら意識を失っているようだ。


状況を確認した私はセレスに声を掛ける。


「二人でやりますわよ」


「姫様は下がっていて下さい」


「シアですわ!」


手に魔力を集中させながら叫ぶ。


「ハ。すみません」


謝りながらセレスはオークに斬りかかる。


「お、おい。二人じゃ危ないぞ。俺も手伝う」


プライドがあるのだろう。

戦士風の男が声をかけてくる。


「あなたはけが人を見ていて下さい!」


オークに向かって手のひらを向ける。


炎のイメージ。

何度も繰り返してきた思考過程。

手のひらに集中させた魔力が形を変える。


しかし魔物と戦うのは初めてだ。


どのくらいの強さで放てばいいのか?

魔力のさじ加減がよく分からなかった。


私は瞬間で込められる限りの魔力を注ぎ込んでしまった。


炎がオークに向かって吹き出される。



……かなり強すぎてしまったようだ。


5体のオークが火に包まれ、一瞬のうちに焼き尽くされてしまった。



「す、凄い」


男が呟いている。


後ろを振り返るとセレスが剣を鞘に収めていた。


すでに立っているオークはいなかった。


「おケガはありませんでしたか?」


セレスは息一つ乱さないでこちらを気遣ってきた。


こういう所は小憎たらしいですわね。


「私を誰だと思っていますの?」


「ハ。失礼しました。」


「それよりケガ人の手当ですわ」



ーーー


私は全員に回復の魔法をかけてあげた。


「火だけじゃなくて、回復の魔法も使えるのか?」


男が声をかけてくる。

確かにニ系統の魔法を使える人間なんて普通はいない。


「練習しましたの」


「練習でどうにかなるものではないと思うんだが…… 」


困惑する男をほっといて回復の魔法をかけた。


「さ、これで大丈夫ですわね。それでは私たちはこれで」


余計なことを聞かれる前に立ち去ろうとした。


「ま、待てよ。オークはお前らが倒したんだ。首輪を持っていけよ」


あぁ。そういえばそうでしたね。


魔王軍の魔物は全て首輪をつけている。

それは通信などに使われているという噂があった。

本当かどうかは分からないが。


ただ種族によって異なる首輪をつけているのは間違いなかった。

軍団の編成などに使われているのだろう。

組織として動いているのが伺えるものだった。


そして首輪は王国側にも意外なメリットをもたらした。

手頃な討伐証明になったのだ。


国を守るためとはいえ、冒険者をタダで働かせるわけにはいかない。

いろいろと議論はあったが、最終的に魔物の種類と討伐数に応じた報酬を払うこととなった。

首輪をギルドに持っていけばそれに応じた報酬をもらえる。


お金には困っていないがそのやり取りには興味がある。


「それでは遠慮なく」


私は焼け焦げたオークから首輪を外す。

全体は銀色だが、輪っかの中心に赤の三本線が入っていた。


この三本線が、オークを表しているのか。

こんなもので軍団を統制しているなんて……


話には聞いていたが、実物を見ると多少恐ろしかった。

平和な村がこんな魔物に集団で襲われるのだ。


全ての首輪を回収し、男に声をかける。


「それではお気をつけておかえり下さいませ」


私達はその場を立ち去り、報酬をもらうため城塞都市ゲルトに戻ることにした。



ーーー


「お、早速やっつけたのか。見かけによらずやるじゃねぇか」


「運がよかったのですわ」


「しかもオークが10匹か。こんなに持ち込まれたのは久しぶりだ」


男は嬉しそうに首輪を数えていた。


冒険者ギルドは国が運営する公的機関。

とはいえ一定の成果をあげる必要があるのだろう。


「ほら、これが報酬だ」


「ありがとうございます」


オーク10体の報酬を受け取る。

それはこの街で30日ほど暮らしていける金額だった。


これが高いか安いかはまだ分からない。

実際に生活してみれば何か見えてくるだろう。

そのあたりを検証するのも私の仕事だと思っていた。


「ところで何か変わった情報はありますか?」


「あぁ。勇者達の話は知っているか?」


「東軍の拠点を落としたという噂の後は知りませんわ」


「そろそろ中央軍の拠点を落とすんじゃないかって言われていたんだ。

しかし中央の国境地帯はまだ魔物が活発に動いているらしい」


「そうでしたか。」


「どうやら中央軍はまだ健在のようだ。

あんた達も腕に覚えがあるなら中央に行った方が良いかもしれんぞ。

こことは段違いに稼ぐことができるはずだ」


「ありがとうございます。考えてみますわ」


「俺としてはやり手の冒険者には残ってほしいんだがな」


ギルドの男は笑いながらそう言った。



ーーー


今日も国境付近を二人でブラブラと歩く。

代わり映えのしない日々が続いていた。


魔物とはたまに出くわしていた。

しかし一日に一回見ればいい方だ。

どうやらこのあたりが再び攻め込まれる可能性はほとんどなさそうだった。


それでも残っている魔物が何をするかは分からない。

きっとこうして歩き回るのも少しは国のためになっているはず。

そう信じて私達は似たような一日を繰り返していた。


ある意味、平穏な冒険者生活だった。


ただその中で少しだけ変わったことがある。

私達は少しだけギルドで話題になっていたのだ。


どうやら初日に助けた戦士風の男が噂を広めたようだ。

ギルドで冒険者に出会うと声をかけられることが何度かあった。


多くはパーティを組もうという誘い。


冒険者のパーティ。


それはここに来る前に、私が憧れていたことの一つだった。


しかしどうもピンとこない。


彼らは私が想像する冒険者とちょっとイメージが違ったのだ。

なんというか、ここで出会う冒険者は……どうも幼く見えてしまう。


実際の年齢は私の方がずっと下なのだが。


最初に聞いた冒険者という存在の感動が大きすぎたのだろう。

私の中でヒーロー像が大きく膨らんでしまっていたようだ。


それにこのあたりの魔物ならセレスと二人で問題なく倒すことができる。

最初の方こそ勝手が分からない所があったが、今は特に苦労することはない。


パーティを組む必要は今のところ感じられなかった。



「はー。相変わらず魔物はいませんわね」


「平和が何よりでありませんか」


「やはり中央の国境地帯へ行こうかしら」


「まだこちらに来てそれほど経ってないですよ」


「フー。

あなたも退屈じゃありませんの?

それだけの腕をもてあまして」


「私の剣は姫様を守るためにあります」


「シアでしょ」


「ハ。すみません。シ、シア。」


全くお硬いですわね。

まぁそこがセレスのいいところなんですけど。


その時。


セレスがハッとリリム山脈の方へ視線を向けた。

穏やかだった目の色が変わっている。


私もつられて顔を向ける。


何かが歩いてくる。


とても禍々しい気配がした。

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