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第十話

ソレはゆっくりとこちらに近づいてきた。

どこか生気を感じない動きだった。


大きさは人間と同じくらいだろうか。

全身は毛でおおわれている。


遠目から分かるのはそれぐらいだった。


魔物に違いない。

まとっている空気が人のそれではない。


私もセレスもそう判断した。


これまで見かけた魔物とは明らかに異質な存在。

きっとやっかいな敵だろう。


「あいつは危険ですわ。私たちがここで仕留めますわよ」


「ハ。了解しました」


セレスも何かを察したようだ。


前方の茂みに隠れて待ち伏せする体勢をとった。


それを見て私も少し離れた草むらに身を隠す。


気配を殺して、草の影から魔物を見つめる。


あんな魔物は話にも聞いたことがない。


見たところ動きは鈍そうだ。

武器を持っているようにも見えない。

魔法は使うのだろうか?


できる限り見た目から探ってみる。

が、読み取れる情報は少ない。

果たしてどのように戦うのだろうか。


汗が頬をつたってきた。

国境地帯に来て初めての経験だった。


速度を変えずに魔物はゆっくりと近づいてくる。

もうすぐセレスの間合いに入る。


私は固唾をのんでセレスと魔物の中間地点を見つめる。


あと2,3歩。



その時。



魔物は不意に足を止めた。

…気づかれたか。


空気が一瞬凍る。

静寂があたりを包む。


魔物は動きそうにない。


不意打ちを諦めたセレスが茂みから姿を現した。

そしてスラリと鞘から長剣を抜き、上段に構えた。


同時に私も草むらから立ち上がり、手のひらに魔力を集中させた。


私達を確認した魔物は手をピクリと動かした。


攻撃が来る。

私はそう判断した。


「セレス!」


セレスは私の言葉に行動で答えた。

上段に構えた長剣を流れるように振り下ろす。

得意の袈裟斬り。


しかし


魔物の毛が数本、空中に舞う。

バランスを崩しながらも魔物は剣をかわしたのだ。


確かに本気の斬り込みではなかった。

4割くらいの速さだろうか。

相手の力を測るような攻撃だった。


それでもセレスの剣がかわされるなんて……


軽いショックを受けながらも、私は続けざまに火の魔法を放つ。

威力や範囲よりも速度を強くイメージした。


まず当てること。

無意識にそう感じていた。


小さい火の玉が高速で魔物に襲いかかる。

体勢を崩した魔物からは見えていないはずだ。


見えていなかったはずなのだが……

魔物は崩れたバランスに逆らわず、そのまま地面に転がりこんだ。


私の火の玉はその上を通過してしまった。



…… かわされた。


一体なんなんだ。この魔物は。



「セレス。本気でやりますわよ。」


「かしこまりました。」


私達は次の攻撃に移ろうとした。


その時


魔物から声が発せられた。

それは人間の言葉だった。


「いやいや、ちょっと待ってくれ。」


地面に転がったまま、魔物がモゾモゾと動いている。


「俺は人間だ。」


毛皮の中から男が現れた。


体中に血がべっとりとついており、ひどい臭いを放っている。

全体的に生気は感じない。

しかし目だけが異常にギラついていた。


「確かに見た目は人間に見えますわね。

でもおかしいですわ」


「何がだ?」


「あなたからは獣のような気配を感じます。

魔物が化けてるんじゃないですの?」


「雪山を一人で越えてきたんだよ。多少そんな風になるだろ」


男は地面に寝そべったまま、手を上げて降伏の意志を示している。

それだけ見ると情けない姿ではあった。


「リリム山脈の向こうは魔界だぞ。

そこから一人で歩いてくる人間なんているわけないだろ?」


セレスが問い詰める。

まだ剣を構えて警戒をといていない。


「いや、それには深い訳が…… 」


男が少し悲しげな顔をしてうつむく。


ん?


この顔に少しだけ見覚えがある。

確かこのうつむいた顔をどこかで見たような。


人の顔を覚えるのは私の特技であり、仕事の一つ。

頭の中を高速で検索してみる。



……



あ。あの時勇者の隣に立っていた盗賊か。

かなり人相が変わっているが確かに面影がある。


「セレス、剣を下ろしなさい。この方は勇者のパーティだった方ですわ」


「まさか」


「私が言うのですよ。信じられませんの?」


「そ、そうですね。失礼致しました」


セレスはようやく剣を鞘へ収めた。



「俺を知っているのか?」


「勇者様の旅立ちは私も見ていましたわ。

突然のご無礼をお許し下さい。」


男は少し驚いた様子だった。


一瞬の間。

何か考えているようだ。


そして男はゆっくりと立ち上がりながら、質問を続けてきた。


「お前たちは何者だ?」


「私たちはここを守る冒険者ですわ。」


疑いの目を向けてくる。


その疑いはもっともですね。

確かに勇者の旅立ちを見た人間は多いでしょう。


しかしあの時はほとんどの人間が遠目からしか見ていないはずです。

しかも注目を集めていたのはあくまで勇者。

仲間の顔がすぐに出てくる人なんてあまりいないでしょう。


男はセレスの方にも目を向けた。


確かにそちらも気になるでしょうね。

セレスの剣はそこらの冒険者とは一味違いますから。


この男は一瞬でそんなことを考えたようです。


鋭いですね。


私はこの不気味な男に興味が湧いてきた。

冒険者になってから初めての経験だった。


「さ、無礼を働いてしまったお詫びに食事でもごちそうしますわ。

その前に宿の手配をして体を洗ったほうが良さそうですわね。」


私は男の手を引っ張って矢継ぎ早にまくしたてる。

今はこの男に何かを考えさせてはいけない。


「お、おい。」


どうやら押しに弱いようですね。

私は男の手を握ったまま城塞都市ゲルトへ足を向けた。



ーーー

ゲルトに戻った私達は宿の手配をして、男に水浴びをしてもらった。

その間にセレスが町で新しい服を買ってくる。


突然襲いかかってしまったのだ。

そのぐらいしても不自然ではないだろう。


「すまないな。何からなにまで用意してもらって」


「気にしないでください。お詫びの気持ちですわ。」


体を洗い、新品の服に着替えて男はリラックスした様子だった。

しかし目の奥にある軽い警戒の色は残ったままだった。


フフン♪


そういう態度は嫌いじゃないですね。

手厚く遇されたとはいえ、初対面の相手に気を許すのはおバカさんのやることです。


宿屋の食堂には私達しかいなかった。

一番奥のテーブルを囲んで3人は座っていた。


「それで、なぜリリム山脈を一人で越えたんですか?

このあたりを攻めていた魔王軍はあなた達が倒したんですよね?」


「ああ。東軍は確かに俺達が壊滅させた。

ただその後、俺はパーティを追放されてしまったんだよ」


これには驚いてしまった。


「追放?また何故?」


「いや、俺にもさっぱり分からないんだが…… 」


敵地の真っ只中で仲間を追放?

そんなことがあるのでしょうか。


私は考え込んでしまう。


男も黙ってしまった。



……



「それでお前はこれからどうするつもりなんだ?」


それまで聞くだけだったセレスが沈黙を破る。

セレスにしては珍しいですね。


「また魔王を倒しに行くよ。」


なんでもないことのように男は言い放った。



追放されたとはいえ、この男は東軍討伐の功労者だ。

城へ行けばそれなりの恩賞はもらえるだろう。


それに魔界からの帰り道はそうとう過酷だった様子だ。

そんな男がすぐにまた魔界へ行こうというのか。


「なぜですの?」


先ほどから私たちは素の反応をしてしまっている。

それは男の警戒心を若干溶かしたようだった。


「話せば長くなるんだが……」


「構いませんわ」


「そうか……」



沈黙。



ここは考えさせるところだ。

私は男が口を開くのを辛抱強く待った。



「なぁ会ったばかりで悪いんだが……」


思惑通り。

私は心の中でニヤリと笑った。


「俺も誰かに話を聞いてもらいたい気分なんだ。

しばらくずっと一人だったし、正直言ってまだパーティを追放されてショックを受けている」


「そうだったのですね」


タイミングよく相槌を打つ。


「最初から話せばいろいろと整理できそうなんだ。

長い話になるんだが付き合ってもらってもいいか。」


完全に気を許したわけではない。

男は本当に誰かに聞いてもらいたいだけなんだろう。


私は軽く微笑みを浮かべながら頷いた。


「長くなるのでしたら、何か飲みながらではいかがでしょう?

こちらの食堂にはお酒も置いてあるようです」


「ありがとう。いただくよ」


セレスが立ち上がり、カウンターに向かう。


ともかくこの不思議な男の本質に迫れそうなチャンスだった。

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