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殺し屋の過ち学  作者: ニムゲ総長
1章/とびきり不幸なラッキーガール
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9.不確かな日常(下)

「えー、響也君がJキラーを殺したー!?」


ドリンクバーのコーラを持ったまま、お腹を抱えて笑う二人。

私は、この気持ちを一人で抱えておくことができず、その日千夏と姫野と買い物の帰りに寄ったファミレスで

打ち明けてしまった。


「ちょっと、ちょっと、紗夜さん。頭大丈夫ですの。エイプリルフールには数週間遅いですわよ」


「そんな冗談言うなんて、紗夜ちゃんらしくないね」


私は結構な覚悟で打ち明けたのだが、二人には冗談を言っているようにしか聞こえないようだ。

そりゃそうよね。きっと私が逆の立場でも、そう言うわ。

とは言え、私だって、ここで引き下がるわけには行かない。

あの日の話を二人にした。


高架下の入口から、何か視線を感じていたこと。

出口で偶然会った男がJキラーで、刃物を持って追い回されたこと。

突如掛かってきた電話。

もうだめだと思ったときに、助けてくれた仮面の男とそこから落ちたハンカチ。

そして、Jキラー首にナイフが刺さる瞬間と飛び散る鮮血。


最初は面白半分に聞いていた二人も、途中から私の真剣さに押され、黙って聞き入っていた。

そして、最後に屋上での響也君を問い詰めた事。


「・・・・・・」


すべて話した後、なんともいえない表情の二人と騒々しいファミレスの一角に気まずい沈黙が訪れる。

店内に響く、愉快BGMが私の話の深刻さをかき消している。


「千夏さん、紗夜さんの話どう思います?」


「どう思うって言われても、不思議な話だと思うよ。紗夜ちゃんの夢だと思うけど。」


ちょっと、気まずそうな表情でこちらを見る。


「んーん、大丈夫よ。千夏、気にしてないって。ただ、・・・・・・、気になってさ。」


「まあ、ちょっと面白そうだし、話を整理してみようか」


「ふふふ、なんか探偵にでもなった気分ですわね」


そういって、鞄から千夏はノートとシャープペンを取り出す。


「じゃあまず、話を振り返るよ」


「まず、あの日私と別れて、伊達駅に行って、架城駅まで姫野ちゃんと行った。そうだよね」


無言でうなずく。

頭の中には、あの日姫野と分かれた瞬間の記憶が蘇った。


「そして、帰り道、ふと後ろから視線に気がついた」


「あなたは野生動物かなにかですか?」


うるさいと、ちゃかした姫野の頭を小突く。

ぺろりと舌をだし、おどける。


「そして、高架下で偶々ぶつかった人がJキラーだった。っと。」


「できすぎですわ。」


「アンタはいちいち、茶化さないの」


まあまあと私と姫野の中を取り持つ千夏。


「もしかしたら、姫野ちゃん、その視線は本物だったかもしれないよ」


「え?」


意外な答えに虚をつかれる。


「実はね、お父さんに聞いたんだけど、Jキラーは複数犯の可能性があるんだって」


「初耳ですわ」


私よりも先に姫野が驚きの声を上げる。

当然だ。私もそんな話は聞いたことがない。


「お父さんの話によるとね」


そう言って、千夏は話し始めた。

公にはされていないが、連続殺人犯に殺された女子高校生には

2通りのパターンが存在するらしい。


一つは殺されてから、強姦されるパターンと

強姦されてから殺されるパターン

死後硬直の状況と体内の状況から、それがわかるらしい。


私はこれを聞いたときにぞっとした。

そんな恐ろしいことをする人間がいるのかと、私は思った。

人生で、もっとも楽しい時期にそれを踏みにじられ、犯され殺されるなんて

今まではテレビの中の出来事で深く考えていなかったが、

その一歩手前まで来た私にとって、もはや他人事ではない。


「どうして、それが複数犯の話になるんですの?頭のネジが外れた男性が一人で両方やったかもしれないではないですか」


「女性の体内から出てきた体液と、体外に付着していた体液が違うんだって」


はぁ???

どういうこと?

私と姫野の頭にはてなマークが同時に浮かぶ。

それを恥ずかしそうに顔を赤くし、見ている千夏。


「だから、もう察してよ。つまり、女性の体に興奮する人と、死体に興奮する人の二人が居たってこと」


わざとらしく、千夏が咳をし話を戻す。


「んで、話をもどすよ。紗夜ちゃんはそのどちらかに偶然にも出会ってしまった」


「そ、そうなるね」


「そして、隙を見て逃げ出し、逃げる最中に謎の女性から電話があった」


「どうして、その女性は紗夜さんの電話番号を知っていたんでしょうね」


それは私も気になっていた。

なぜあの人は、私の番号を知っていたのか。

知り合いではないはず、・・・・・。


「でも、その人は私のことをどこかで見てたんだと思う。じゃなきゃ、あんな正確に道案内できないよ」


「そして、袋工事まで案内されてしまった」


「そう」


本当にあの時はだめだと思った。

あのときほど、目の前の壁が幻覚であってくれと願ったことは無い。


「しかし、どこからとも無く現れた仮面の男に、追ってきたJキラーは殺されたっと」


「そう、んで、私も殺されちゃうと思ったから、思いっきりその人を突き飛ばしたの。その拍子にこのハンカチが落ちて」


ポケットからおそろいで作ったハンカチを出す。

なるほどとうなずく。二人。


「んで、起きればいつの間にか朝で、汚れた制服も非通知の履歴もはがれたネイルも全部元通りだったと、

なぜか最初から無かった右手人差し指のネイルも含めてね」


昨日の一部始終を話し終えて、やっぱり昨日のことは夢なんかじゃないと思った。


「可能性の話をするならば、その助けた人もしくは人たちが、制服を新調して、非通知履歴を消して、ネイルも直して、丁寧なことに紗夜さんの体を洗って、着替えさせてベッドまで連れて行ってくれたということですわね。」


そういわれると気味が悪い

というか、私裸見られちゃったのー。

一瞬、響也君が私をお姫様抱っこで、風呂場に入れるシーンが頭に浮かんだ。

はずかしいー!!!。


「紗夜ちゃん、なんで顔を真っ赤にしてるの」


「な、なんでもないわよ。気にしないで」


私が何を考えていたのか、察しが着いたのか、二人に笑われる。


「はいはい、頭の中お花畑の紗夜さんはほっといて、話を進めますわよ」


もう、なんでわかるのよ、馬鹿。

なんとなく、悔しい。


「それで、ネイルの下の爪がぼろぼろだったから、昨日の話が夢じゃなかったと思って、響也君を問い詰めたんだけど」


「そもそも、落としたハンカチが自分のだと分かるわけないと・・・・・・」


「うん」


返事と共にため息をつく私。

なんで、私勘違いしたんだろう。


「ってことは、大きな謎は3つだね。ひとつ、紗夜ちゃんに電話してきた女性はどうやって、番号を知ったのか。

二つ目、ネイル直しを含め、誰がやったのか。そして三つ目、なぜ紗夜ちゃんは、ハンカチが自分のものだと勘違いしたのか」


「あら、そんなの簡単ですわ」


何でも無いかのように、姫野が得意そうな顔をする。

予想もしていなかった私達は、あっけにとられる。


「どういうこと?」


「ハンカチを良くごらんなさい。」


そう言って、机の上においてあった、ハンカチをつまんで手に取る。

なんとなく、この所作もお嬢様っぽい。


「流石ディスティニーランドと言ったものでで、このハンカチ綺麗に折ると、上の面にはベアーズちゃんたちが、

下の面には名前が来るようになっていますの。」


「そうだね。でも、暗かったなら見えないし、意味無いよね。」


何を言ってますやらと、口元に手をやりわざとらしく笑う姫野。


「紗夜さんも、昨日話したじゃありませんか。」


ポケットから携帯を出し、指で操作しだす姫野。

携帯電話を私のほうに向け、ある画面を私達に見せ言い放つ。


「昨日は桜花火一日目、確かに雲はかかってあいにくの天気でしたが、花火自体はたくさんあがっっていたじゃないですか」


そう言って、昨日姫野が撮影した、見事な極彩色の写真の写真を見せた。

瞬間、思い出した。

花火が上がった瞬間に、首をつかまれたこと。

逃げる間に花火がうるさいくらい上がっていたこと。

そして、ハンカチがポケットから落ちた瞬間に今までで一番大きな花火が上がり、

ハンカチに刺繍されたじぶんの名前を見たこと。

そうだったんだ。思い出した!!!。

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