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殺し屋の過ち学  作者: ニムゲ総長
3章/真っ赤に染まったブルーオーシャン
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11.Forth dimention Palace(下)

 着替えて、食堂に行くと皆が集まっていた。見えないのは、私達に声をかけてくれたメイドの二人くらいだ。きっと、キッチンで朝食を準備しているのだろう。皆、昨日と変わらない感じに普通に朝食を取っているように見る。昨日の夜の明るい雰囲気と一転、皆がただただ、無言で朝食を取っている。

 

 「おはようございます。色々お話させていただきたいことがありますが、まずはお座りになって朝食をどうぞ」

 

 黒江さんに案内され、昨日の席に着く。ふと目の前の席を見るとエレーナさんと成宮さんの間の席が空いている、本当に九垓さんが居なくなったんだ・・・・・・。不気味に空いた席が、この館では本当に人が居なくなってしまうと言うことを暗に物語っていた。


 こんがり焼いたロールパンに、甘そうなバターやジャム、色とりどりの野菜が詰まったサラダ、太陽のように綺麗な目玉焼き、器いっぱいのヨーグルトを赤音さんが順に置く。いつもなら、こんな豪華な朝食と喜ぶのだが、・・・・・・。

 

 「今日中に一人、明日は二人、あさっては三人、それぞれ消えるわ」

 

 昨日の巡さんの占いが壊れたラジオのようにリフレインする。正直、占いなんてと思っていたけど、本当に当てられると怖い。その巡さんのほうをチラッとみた。昨日と変わらず、黒のロングドレスを着て、優雅に朝食を取っている。あ、目が会った。その目は吸い込まれるような黒い瞳。小さく頭を下げ、ロールパンに手をつけた。食欲なんて出ないけど・・・・・・。

 

 ふと窓を見ると、激しい雨粒が怒り狂っているかのように、ガラスを揺らしている。打ち付ける雨音が、余計にこの食堂の静けさを際立たせていた。

 

 「皆様、改めましておはようございます。」

 

 そういいながら、テーブルの脇に立ち、黒江さんが話を始める。後ろには、メイドの二人も、神妙な顔をして立っていた。

 

 「一部の方には、既に伝えましたが、今朝食堂にいらっしゃらない九垓を心配し部屋を見に行きましたら、もぬけの殻となっていました。昨日我々が運び込んだ彼の荷物もです。なにか理由をご存知の方はいらっしゃいませんか?」

 

 もちろんみな、知らないと首を横に振る。

 

 「巫女様は何か知っているんじゃないかしら。昨日は私達と部屋に入った時、彼と言い争っていたじゃない」

 

 全員の目線が、深言さんに集まる。飲んでいたお味噌汁をゆっくりと口から離し、小さくため息をつく。そして、箸をおいて小さく首を横に振る。

 

 「確かに彼とは、ここに来る前からの知り合い、というか顔見知り程度ですが、残念ながらどこに行ったのかなんて知りません。というか、巡さん。私と同室じゃないですか」

 

 「もちろん、知っていますわ。でも巫女様、あなた今日の早朝に部屋を抜け出しましたよね。ウチの優秀な護衛屋さんが、抜け出すあなたを見ているんですよ」

 

 そうだ、昨日の部屋割りでは、巡さんと深言さんが同室、部屋の外で不動さんが寝るといっていた。

 

 「見間違いじゃねーぜ。巫女さんよ。俺はちゃんと寝ずに見張っていたんだからな。あんたが朝日が昇ったのと同時くらいに、足音立てずに部屋を抜け出すのをよ」

 

 「本当ですか? 成宮様」

 

 「ええ、本当ですよ。私は朝が早いのです。仕事柄ね。ウチの神社では五時過ぎにはみなで境内を掃除するので、その癖ですね。部屋を出て、外で軽い運動をしていました。その時間は天気が良かったので。それからは、館内を見て回っていましたよ。そういえば、六時くらいに、メイドのお二人とお会いしましたね」

 

 「そうっすね。アタイらが、朝食の準備をしているときに、廊下ですれ違いました。それは間違いないですね」

 

 「ちなみに、九垓さんと最後に会ったのは私達だと思います。十一時過に部屋にお飲み物の注文を受けましたので、お渡ししに行きました。」

 

 と言うことは、少なくともその時間までは部屋に居たと言うことだ。

 

 「ふん、指して大きな問題ではあるまい。行方不明者の数が六から七に増えただけ。しかも今回は訳の分からん宗教家の大陸人だ。誰も困らん」

 

 「先生! 言われていたビデオの確認が終わりました!」

 

 先ほどまで机の上でパソコンをカタカタいじっていた、向井さんが嬉々として、画面を見せる。


 「で、結果はどうだった」

 

 「昨日の夜から、朝まで九垓さんの部屋に入った人は居ません」

 

 画面には監視カメラの映像が写されており、薄暗い廊下を歩き部屋のドアを開ける九垓さんが見える。早送りで進む途中で青子さんがお酒を持って部屋をノックする。それから、時計のタイマーが進み、今度は赤音さんがノックする。朝の時間だ。しかし反応が無い室内に気がつき、慌ててどこかへ戻っていく。しばらくして、黒江さんを連れて戻って鍵で部屋を開ける。

 

 「わはははは、こりゃあ、傑作じゃ!こりゃ本当に霊のしわさかもしれんの」

 

 「「こわーい」」

 

 相変わらず銀のボトルを片手に、酒をのんで赤ら顔で楽しそうに笑うアレクセイ神父に、怖いと言いながらくすくすと不気味に笑うシスター。それをばかばかしいと言わん顔で眺める、探偵の二人。

 

 「馬鹿も休み休み言え、霊なんていない。居るのは人間だけだ。今から部屋の調査をしに行くぞ、お前らついて来い」

 

 「えっ、私達もですか?」

 

 送理さんは私達三人と、巡さん、そして不動さんを指差した。

 

 「そうだ、少なくとも、このインチキ霊能力者達よりは信用できる」

 

 「HAHAHAHA、 兄さん私達すごい嫌われようね」

 

 「そうだね、まあいいさ。このディテクティブのお手並み拝見と行こうじゃないか」

 

 「私はパス。行方不明者探しに興味ないし。あ、でも不動は貸してあげるわ。ぼろ雑巾みたいに使ってあげて」

 

 「誰がぼろ雑巾だ。ボケ」

 

 完全に行く気のない、巡さんを置いて、私達六人は赤音さんに連れられ、九垓さんの部屋の目の前まで来た。それにしても、なんとなく、気味が悪い廊下だ。壁が曲がりくねっているし、天井だって無意味にでこぼこしている。電灯は薄暗く、窓だってほとんど無い。偶にあり窓もいびつな形で、鏡面がゆがんで見える。

 

私は一番後ろにならないように、こっそり響也の前に陣取った。

 

 部屋の間取りは偶然にも、食堂の席とおなじ。廊下を挟んで北からゴーストバスターの二人、エクソシストの三人、九垓さん。反対側が探偵の二人に、巡さん、深言さんペア。そして私達。ちなみに、黒江さんと赤音さんたちも同室で、食堂のすぐ横の使用人室で寝泊りしているらしい。

 

 昨日は物音一つしない静かな夜だった。壁が厚いのか、本当に静かだったのか分からないけど、九垓さんがいなくなったなんて全然気がつかなかった。

 

 九垓さんの部屋の前まで来て、赤音さんがじゃらじゃと鍵の束を取り出す。

 

 「それは?」

 

 「はい、こちらはマスターキーの束になります。普段は使用人室においてあります。ノックしても九垓さんの返事が無かったため、使わせていただきました。そして、中を開けたら、・・・・・・」


「もぬけの殻だったと・・・・・・。それ以外にこの部屋を開ける鍵は?」 

 

 「ありません。マスターキーはこれだけです。あとは九垓さんに渡していた鍵だけです。ただ・・・・・・、」

 

 目線をあさっての方にやり、言葉を濁す彼女に不信感をいただいた送理さんが詰め寄る。その様子に若干困惑した彼女は、諦めたように白状する。

 

 「マスターキーが他にないかと言われれば、断言できません。私達はあくまで、今回の為に呼ばれた使用人であり、この館の主の方とは面識がありませんので。その方が私達の知らない、マスターキーを持っている可能性は否定できません」

 

 ん?どういうこと?つまり、この館の主がマスターキーを持っているってこと?それに、面識無いって。話の全容がつかめないのは私だけではないようだ。桜先輩も、二人の間に入るように話を促す。

 

 「意味が分かりかねますわ、赤音さん。申し少し詳しく教えてください」

 

 「黒江を含め、我々「チャペルハウスキーピング」の中では誰も、この館の主に会ったことはないのです。」

 

 そんな馬鹿な!屋敷の主人にあったことない使用人なんておかしいじゃない! じゃあどうやって日ごろのお世話をしているって言うのよ。

 

 「では、どうやって主人の世話をしているというんだ」

 

 「勘違いしているようですが、弊社とこの館の主様の契約は定期的にこの館の清掃等を行い、この館の維持管理することのみなのです。私達は何度かここに来ていますが、誰かを迎えると言うことは、・・・・・・、恥ずかしながら初めてです。あ、もちろん使用人の仕事は長いですよ。ほかのお屋敷やホテル、旅館なので働いているので、そういうお仕事は得意です。あくまで、この屋敷でお客様を迎えるのは初めてということですね。」

 

 「きな臭い話だ。誰も住んでいないこの馬鹿でかい屋敷を定期的に掃除しているというのか。」

 

 「そう珍しくはない話ですけどね。要は別荘のようなものです。偶にここを使うことがあるそうですよ。残念ながら、その際に弊社に声はかかりませんが」

 

 「・・・・・・、っていうことは、この広い屋敷に例えばその主さんとかが、マスターキーを持って今もどこかに隠れている可能性もゼロではないって言うこと?」

 

 「ま、まあ、可能性の話ですが・・・・・・」

 

 まずいまずいまずい、最近驚くほどほど、鋭くなった私の第六感が、今すぐ逃げ出せと警鐘を煩いくらいに鳴らせている。本体の私だって、逃げたい気持ちでいっぱいだが、あいにくの天気は雨で今日は向かえが来れないらしい。昨日はタクシーで眠ってしまっていて気がつかなかったが、ここに来るまでの道は狭い山道で、しょっちゅう土砂崩れが起こっているらしい。だから、こんな悪天候では危なすぎて、誰も迎えには来れない。

 

 「ふん、まあその館の主がいるかどうかは、ここを調べれば分かる話だ。おい、ガキども。お前らは廊下に何か不振な点はないか探せ。向井と護衛屋、メイド、お前らは室内だ」

 

 へいへい、と気の無い返事をしながら入る不動さん。愛想笑いを浮かべるあかねさんは部屋に入っていく。送理さんはドアの真ん中に立ち、廊下と室内を交互に見ている。

 

 「あのー、具体的に何を探せばいいんですか」

 

 「お前らは馬鹿か。いいか、幽霊なんて存在しないんだ、絶対にな。ましてや幽霊が壁をすり抜けて人間を消し去るなんてありえん。非科学的だ。だから、絶対に何か証拠がある」

 

 「証拠って・・・・・・?」

 

 「隠し通路だ!」

 

 んな、馬鹿な。漫画やドラマじゃあるまいし、隠し通路なんて、と言えないのがこの館の怖いところだ。明らかにつくりがおかしい。通ってきた廊下もそうだが、昨日止まった部屋だっておかしい。私は生まれて円形の部屋に泊まった。 

 角が無い部屋と言うのは不思議な感覚だった。聞いた話だと、他にも三角の部屋や星型の部屋、いつの間にか降りてる階段など、あるらしい。ここに着てから、ほぼ食堂と部屋の往復しかしてないが、かなりの大きさの館だ。もっと変な部屋がいっぱいあるのだろう。

 

 黙々と床に這い蹲って探す響也に、壁に手を当て時折コンコン叩く桜先輩。なかなかどうして、まじめに探す二人だが、私は全然気が向かない。とりあえず、二人が見てない天井を見ながら歩く、到る所に謎の凹凸や傾斜がついており、酔いそうになる。天井が低いところは、2M半くらい。思いっきりジャンプしたら手が届きそう。何を思って、こんな天井をつくったのだろう。お金持ちの考えることは良くわからない。

 

 「響也、なんか分かった?」

 

 「特に」

 

 そりゃそうよね。こんなに簡単に見つかるなら、捜査に入った警察が見つけてるわよね。桜先輩のほうも特に何も見つからなかったようだ。

 

 「見つかりません」

 

 「ちっ、本当にちゃんと探したのか」

 

 「探しましたよ!」

 

 「今度は部屋の中を探すのを手伝え」

 

 私は探してないけど・・・・・・。結果から言うと、もっとちゃんと探しておけばよかったと後悔した。後三十分くらい探せば本当になんか見つかったかもしれないし、部屋の中を探す嵌めにならなかった。部屋の中なんて見るんじゃなかった。

 

 最初に気がついたのは人数が、おかしいということだった。部屋の中にいるのは、メイドの赤音さん。助手の向井さん、不動さん。なのに、部屋の中で動いているのは四人いる。一瞬あれと思ったけど、誰も気に止めないので、私も気にも留めなかった。とりあえず、丸い部屋の端っこから探そうと思って、床を見ていた。

 

 不意に、他の誰かがすぐ横でしゃがんでいる気がした。同じように適当に探している不動さんかと思った。私はぶつからないようにその場にとどまって、探すふりをしたが、その人はそのまま、こっちに近づいてくる。私は避けるように反対方向に一歩。しかし、相手は私に気がついていないのか、そのままこっちに来る。ぶつかると思って立ち上がった。しかし、時既に遅し。しゃがみながら、近づいてきたその人が体を動かし、私の足元にぶつか・・・・・・らなかった。

 

 ひんやりとした感触が、足元を通りぬける。いつかの感覚が、体をよぎる。その人の背中や後頭部を良く見ると、なぜか、指くらいの穴がいくつも開いている。さらにそこから、何か血の様なものが流れ出ている。来ていた赤い服は、穴の周りだけ、さらに紅く濡れているように見える。ぶつかったことに気がついた、その人が私の足元にかぶったこちらに振りむく。

 

 細い目に大きな体。特徴的なのは三つ網の髪。間違いなくいなくなった九垓さんだった。最後に見たときと違うのは、顔にもあちこちに不気味な穴が開いていること。そして、左目が無く、そこの部分は暗い靄のようなものがかかっていることだった。

 

 「私の左目をどこにやったー!!!」

 

 私は大声で叫んだ。きっと、周りから見れば、突然何も無い空間を見て叫んだように見えただろう。私は途惑う皆の声も聞かず、部屋を飛び出した。狭い廊下をひた走り、登っているか降りているかも分からない階段を全力疾走で走る。確実に後ろから私を追う声が聞こえる。どれだけ走った分からないけど、目の前の大きな扉を開ける。なかは大きな広間で、木製の椅子が列を成して並び、正面には光を浴びる色取り取りのステンドグラスが神々しく輝いていた。

 

 とっさに私は椅子の列の真ん中に身を隠す。しかし、九垓さんの霊は確実に私に近づいてくる。震える体を押さえ、今にも叫びそうな口を手で押さえる。

 足音は聞こえないが、一歩一歩近づいてくるのが肌で分かる。私のいる横でその気配が止まる。

 

 「見つけたーーーー」

 

 地獄の底から響くような、低い声を轟かせながらこちらへ飛び掛ってくる。

 

 「嫌ーーーーーーー」

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