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殺し屋の過ち学  作者: ニムゲ総長
3章/真っ赤に染まったブルーオーシャン
35/45

1. プロローグ/Knockin' on Seventh Heaven's Door (上)

天国はすごくいいところらしい。だって、行った人が誰一人帰ってこないのだから

 仕事に明け暮れふらついた足取りで、閉店した店のシャッターにぶつかりながら歩くサラリーマン、顔を茹蛸のように真っ赤にしながら、愉快そうな笑い声を響かせ闊歩する大学生、眠気眼をこすりあくびを隠しながらそそくさと小道へ消えていくマスク姿の女性達。長めに続いた梅雨のせいで蒸し暑く、寝苦しくなってきたこの時期でも、いつもとかわらず、多くの人が広いアーケードを歩いていた。ふと、携帯で時間を確認すると、時計の針が天頂を指すまであと少し。


 流石にこの時間に制服で歩いていると、補導員に声をかけられる可能性が高い。面倒ごとを避けるため、できるだけ顔を合わせないように足早に人をすり抜ける。

 

 アーケードを奥に進めば進むほど、人が増えてくる。この時間までいるのは、終電を気にせずに飲んでいる奴らが大半。何も気にせず楽しむ彼らは、明日死んでもいいくらいの笑顔で今を楽しんでいる。アーケードしばらく歩くと、大きなT字路にぶつかる。飲み屋街は右、商店街は左に続ていて、この時間は皆右へ進む。流れに沿って右にしばらく行くと小さな横道がところかしこに見える。

 

 明るくまだ人通りもあるアーケードとは異なり、一歩入れば、そこにあるのは壊れかけの電灯の淡い光と点在する店の明かりだけ。路地の隅には妖しい煙を燻らせる人やうつろな目でこちらを覗く人がいたり、時折奥からは不気味な笑い声が、細い小道を反射するように耳に入ってくる。


 いつもの足取りで小道に入り、キャトルミューティレーションでもしようとしたような幾何学的な模様が書かれた壁を通り過ぎ、大陸の服装を着た客引き女の声を無視し、小銭をせびる子供達を足蹴にし、曲がりくねった小道をゆっくりと進む。角を曲がるごとに聞こえるあざ笑う老人の声や、電柱の影から現れては消える女の甘ったるい声、見るからに怪しい薬を売りつけようとする黒服の男の声が現れては消えていく。

 

 小道に入って10分も歩いていると、明かりが全くついていない小さな雑居ビル群が現れる。窓には分厚いカーテンが備えついていて、怪しいことをしているか、本当に無人なのかわからないが、いい話は聞かない。そのビルの一角にぽつりと淡いピンク色のネオンサインが見える。虫達が光に引き寄せられ集まるその脇にあるのは、細く長い地下へと続く階段。一歩でも足を踏み外したらそのまま、地の底まで行ってしまいそうな薄暗い階段を、一歩一歩ゆっくりと踏み外さないよう降りる。


 相変わらず、客のことなんて考えていないつくりの階段だ。酔っぱらった客が転がっり落ちたら確実にあの世いきだろう。そんなどうでもいいことを考えながら、階段を下りると目の前に現れるのは、地獄へと繋がっていそうな灰色の重そうなドア。ふと耳をすますと地上の雑音もドアの向こうの音も何も聞こえない。この空間だけどこか別世界に切り取られたようにさえ感じる。再びドアを眺めると、薄くかすれた白い文字が刻まれている。

 

 

 <Welcome to "Seventh Heaven">

 

 

 こんな薄汚れた路地の地下に店を構えているわりに、天国を名乗るとは、なかなかシャレが聞いてる。そんなどうでもいいことを考えながら、ゆっくり地獄へ続いていそうな天国へのドアへ手を伸ばした。

 

 

 

 

 「おいおいおいおーい、やっとこさ来たじゃねーか。今回の主役がよう!」

 

 店に入るや否や、目ざとく俺の姿を見つけた金髪の男がわざとらしく大声を上げて、手招きしてここに座れと指を指す。女ではないかと見間違うくらい伸びたは前髪が目を隠し、やっぼたい横髪はくしゃくしゃなまま肩に乗っかっている。

 ぼろぼろの黒色のタンクトップから見える右腕には、どくろをあしらったタトゥー、左腕には何やら崩れた英語で何かが書いてあるが、俺には読めない。極めつけは趣味の悪い胸元には逆十字をあしらった趣味の悪いネックレス、左右すべての指に嵌められている金銀に光る指輪。憎たらしくその白い歯をこちらにわざとらしく見せ、不敵に笑う「運び屋」が笑う

 

 「時間通りだ、シテイ」

 

 約束は0時・・・・・・。そう思って薄暗い店内のカウンター上に立てかけてある時計を見ても、時間丁度。隣に座って目線をこちらに飛ばす、見覚えの無い女も小さくうなずく。

 

 「しゃーないっすよ。シティさんはここでもう二時間も前から、別件で飲んでいたみたいっすから」

 

 聞いたことの無い声と顔で、妙になれなれしく俺のことを知った風にしゃべる女。一瞬シティが今この店でひっかけた女かと思ったが、事前に誰が来るか位は聞いていた俺は、すぐにあたりが付いた。

 

 「久しぶりだな、フェイス」

 

 「そーっすね、ボゥイ先輩。最後に会ったのは一年前くらいですかね。まあ、その時はまた違った顔でしたけど」

 

 笑いながら頬を軽く引っ張る。シティ同様、既に酒が入っているのか、頬がほんのり赤い情報屋の「フェイス」。しっとりとしたサイドポニーが肩まで伸びた群青色の髪の毛、伊達メガネらしい紺色の丸縁メガネをかけ、白シャツに黄色のジャケット、赤いユニオンジャック柄にフリルがついたスカートを履き、黒ロングブーツをだらしなく履いて、足をふらふらさせている。

 

 「まあ、とりあえず座れや」

 

 促された俺はそのまま椅子を引き、シティの目の前に座った。酒と煙草、それとわずかな火薬のにおいが鼻を刺す。

 

 「仕事帰りか」

 

 「まあな! 商売繁盛ってもんよ。割のいい仕事だったぜ。なんせ、ブツをここから港まで運ぶだけだったからな。まぁ、港で回収屋に襲われたときはヒヤッとしたがな!!!」

 

 「誰すっか、その回収屋は」

 

 「多分、爆轟兄弟だな。せっかく買ったトラックが奴らの爆弾でお釈迦になっちまたぜ。シャハハハ」

 

 愛車のトラックが壊れたというのに楽しそうに笑い、手に持っていたグラスの氷を遊ぶように回しながら、店員に注文をする。

 

 「の割には、うれしそうじゃないっすか」

 

 「んで、ドンパチやったあと、俺はボートで沖に停泊している依頼主にブツを渡したんだよ。だけど、奴らもどっからか持ってきたボートで追ってきやがってな。んで、ぶっ殺してやろうと思ってマグナムをぶっぱなしたら、エンジンに直撃!!! 奴ら今頃、このクソみてーに熱い夜に、魚たちと戯れるチャンスをくれた俺に感謝してるぜ」

 

 今までで一番の大声で笑うシティを眺めてから、俺はメニューを手に取った。数ページにわたって、小さな文字で数えきれない種類の酒が列記されている。小さく手をあげ、店員に注文を入れる。

 

 「ウーロン茶」

 

 だが、俺の注文を聞いたシティが、さっきよりも大きな声で腹を抱えて笑い席からひっくり返りそうになる。それをとっさにフェイスが抑える。

 

 「テメーは、俺を笑い殺す気かよ! 、ボゥイ。ここに来てウーロン茶かよ!? ・・・・・・、酒飲めよ、酒をよー!」

 

 「そうっすよ、先輩。流石に一杯目はアルコールがマナーっすよ」

 

 こんなところで、こんなろくでもない奴らにマナー云々を言われるとは思わなかった・・・・・・。というか、フェイスに関しては未成年じゃなかったか?とはいえ、ここで空気を壊すのもよくないか・・・・・・。

 

 「仕方ない、ビー「ちょっとぉ、ちょっと、あんた達! 未成年にお酒はだめよぉ」」

 

 いつの間に現れたのか、いつもの黒のスカートスーツに重そうなピンク色の髪をゆったりと振りまくルリルが、相変わらずのチョコレートのように甘ったるい声を出しながら俺の背後に立っていた。

 

 「来るのおせーよ!!」

 

 じゃははは、と口元に飲み干したビールの泡をひげのように生やし、さらに頬を真っ赤にし、彼女の到着に文句を言う。横に座り、長い髪は邪魔だと思ったのか、鞄から取り出した、紐で髪をまとめはじめた。隣ではフェイスが後ろを振り向きながら、手を挙げ店員を呼ぶ。すぐさま店員がやってきて、注文を確認する。

 

 「早いわよ、えぇーっと。私はハイネケンをお願ぁい、あ、サイズはハーフパイントで。こっちには、・・・・・・、サマー・デ・ライトね」

 

 「サマー・デ・ライト?」

 

 聞きなれない酒をルリルが注文する。

 

 「ライムとソーダのノンアルコールカクテルっすよ、先輩。あ、私はモヒートをお願いするっす」

 

 「俺は生、もういっぱい!!!」

 

 酒の種類など、全く知らない。少し気になり、立てかけてあった、ドリンクメニュー表を再び手に取り、ページをぱらぱらとめくる。色とりどりのカクテルやさまざまな国のビール、ワインや日本酒、ウイスキーといったメニューが所狭しと並んでいる。

 店内を見回してみると、薄暗い店内は、にぎやかな席と静かな席に分かれており、俺達はその中間に座っている。カウンターには一人で飲みに来ている客も多く、店員とぽつぽつ会話をしている。そのカウンターの裏には、百本以上のボトルが綺麗に置かれており青い光で綺麗にライトアップされている。奥の大きなテレビでは海外のサッカー中継を誰も見ていないのにたれ流していた。

 

 すぐに注文したものがテーブルの上に置かれ、皆グラスを持つ。既に出来上がったシティがわざとらしく咳払いをしながら、ゆっくりと立ち上がる。

 

 「お前ら全員グラスは持ったな! じゃあー、乾杯ー!!!」

 

 そう一人で言って一人で飲み始めてしまった。立ったのだから、何か言うことがあるのかと思っていたが、コイツはただただ立って乾杯と言って、飲みたかっただけのようだ。その証拠に、俺達が口をつける前に、もうグラスは空になっている。

 

 「ちょっと、シティさん早すぎるっす、もっとこう、言うことあるんじゃないっすか?」

 

 「まあいいじゃなぁい、私達も飲みましょうよ」

 

 隣で静かにグラスを交わす二人、小さく交わったグラスが小気味良い音をかき鳴らす。

 

 「ほらぁ、アンタもよ」

 

 そう言われ、ルリルのグラスに持っているグラスを近づける。持ちあげたグラスの中の黄色いカクテルがゆったりと波を打つ。なんとなく三人の顔を見てから。コツンと音をかき鳴らし、カクテルを口にした。心地よい酸味と突き抜けるような炭酸が口の中に広がった。

お久しぶりです。3章の投稿は7月からにしようとしていたのですが、書いてきて楽しくなってしまったため、プロローグだけ投稿します!

二話以降は予定通り、7月中に出す予定です。

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