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大怪獣 V ガイグ  作者: 維己起邦
3/18

鳥沢村

 中部地方、鳥沢村。

 御口リョオは発掘現場へと足を踏み入れた。

 本沢の助手の身月みづき

リョオたちの顔を見るなり声をあげた。

 「出ました。

 また出ました」

 地中探査レーダーを使っているので効率はいい。

 しかし解像度がいまひとつなため

化石かどうかはやはり掘ってみなければわからない。

 「それで状態は」本沢。

 「いえ。それが-----」

 「悪いの?」リョオ。

 「とにかく-----こちらへ。

 ごらんください」

 身月が本沢たちを。

 「非常に。

 いえ。良すぎるくらいで。

 肉の部分も。

 筋肉、内臓だけではなく

皮膚もといいますか。

 そのまま残っていますので」

 「そのまま」

 本沢も。

 リョオと顔を見合わせた。

 「それが化石というよりも。

 何と言いますか、例のシベリアで発見された

マンモスの化石のような感じでして」

 「マンモス」

 「まさか。

 ここはシベリアのような寒いところじゃないんだよ。

 氷漬けでもあるまいし。

 それに地球の気候も激変しているんだよ。

 何万年前なら氷漬けもあるだろうが

何千万年も前に死んだモノが

もし氷漬けになっていたとしても

気候の変化で

そのままでいられるはずもないだろう。 

 大陸は移動しているんだよ」本沢。

 「温度は測ったの」リョオ。

 「はい。それが-----十数度です」身月。

 「それじゃあ、やっぱり凍るわけなど」本沢。

 現場へ着いた。

 「ご覧ください」化石を指して。

 まだ一部しか掘り出されてはいない。

 「本当だ。そのまま残っている」

 同行のカメラマンの空口そらぐちは映像を。

 頭の一部のようだ。

 大きい。

 「肉食のようですね。

 この歯から見て」リョオ。

 専門外でもそのくらいはわかる。

 「不思議だ。

 たった今死んだばかりのようだ。

 歯茎はぐきも舌もそのまま残っている」

 触ってみる。

 「しかし-----固い。

 まるで凍っているようだ。

 化石ならかたくて当然だがね。

 しかし-----そうは見えないか」

 本沢もどう言っていいのか。

 「それに先生。

 まだ不思議なことが」身月。

 「何だね」

 「それが」言いにくそうに。

 「この地層-----」

 「地層がどうかしたのかね。

 -----。はっきりしたまえ」本沢がいらだって。

 「それが-----他の恐竜の化石と違いまして-----

この地層、どう見ても数百万年前のものとしか-----

考えられませんので-----。

 どうしましょう」身月。

 「数百万年。そんな馬鹿な。

 何かの間違いじゃあ。

 恐竜は六千五百万年以前の生き物だろう。

 何を考えているんだ」本沢。

 「そのくらいは-----。

 ですが------」口ごもった。

 「いい。

 私が調べる」

 本沢は発掘現場を丹念に。

 「ここが今まで掘っていた層で------

 示準化石のアンモナイトももちろん出ています。

 この層とこの層です。

 しかしこの化石の出た場所は。

 ご覧ください。

 それよりはるかに浅い層ですので。

 我々もどう判断していいのか。

 逆断層も全くありませんし」

 逆断層のないことは地中探査レーダーで

すでに確認済み。

 逆断層があると地層がいりくんで。

 どれが古い地層か新しい地層なのか

わからなくなる事がよくある。

 「それで」本沢。慎重に。

 こういうことはよくある。

 たいていは思い違いか何かだ。

 よく調べてからでないと-----。

 「それが同じ地層から石斧いしおのが」

 本沢はふきだした。

 「他にも-----人骨らしきものも。

 これです」

 確かに。

 「これは」本沢も表情が硬い。

 「チョット、君。

 ビデオを撮るのやめて」

 本沢はカメラマンの空口に向かい。

 「どうしてですか」弥生。

 「どうしてもだよ。

 いいからやめて」

 「ですがこんなニュース。

 放っておくわけには」

 「何を言っているのかね。

 まだはっきりとしたことは

何もわかっていないんだよ。

 それを流されては。

 もっとはっきりしてからにしてくれなければ。

 きっと納得のいく説明があるはずだ」本沢。

 「それは-----ありますか」弥生。誤報は-----。

 「とにかくはっきりするまでは。

 いいね。

 ニュースサイトに配信するのは控えてくれ」

 リョオは恐竜の表面を丹念に調べている。

 「金属のようだ。

 この表面」独り言のように。

 他の部分を調べてみる。

 「いや、皮膚の表面に何か付着しているだけか。

 しかしこれ金属だろう」

 ハンマーで軽くたたく。

 小さなタガネが。

 「どれどれ」本沢も。

 一部がハガレ落ちた。

 それを手に取り本沢は。 

 「層になっているね。

 それに-----皮膚の跡が

こんなにくっきりと入っている」

 「どういう事でしょう。先生。

 これは百度やそこらでは

溶けそうにないでしょう。

 それがどうして」

 「恐竜の皮膚の方は焼けてもいないか。

 金属が溶けて皮膚に触れればそれこそ」

 さっぱりわからない。

 「とにかく成分を分析します。

 そうすれば物質も特定でき

何度くらいで溶けるかもわかります。 

 それとこの恐竜の方も

細胞を調べてみようかと思うのですが」リョオ。

 「溶けた金属が恐竜に張り付いて固まった。

 それで皮膚の型が残っているなどという事は

あるわけもないし-----。

 しかし他にどのような状況なら

このようになるのか」本沢。

 「それで-----何かあるのかね」

 「いえ、ちょっと」金属のカケラを。

 じっと見つめている。

 「どこかでこのようなものを見たような。

 気のせいならばいいのですが。

 それで-----この恐竜の皮膚の一部でも

いただければと」

 「それは困るよ。

 傷をつけてもらっては」本沢。

 「それは-----そうですね」

 リョオは引き下がった。



















 数週間後。

 恐竜も徐々にではあるが

その姿をリョオたちに眼前に現しだした。

 わずかながら放射能も検知されたため

直接手で触れないようにしている。

 リョオも本沢も放射線防護服を。

 まあ人体には影響はない程度だが念のため。

 一応、関係省庁にも報告したが-----。

 大丈夫だそうだ。

 弥生はたまに発掘現場に来ている。

 この恐竜に関して詳しいことは

記事にするのを控えてくれて入る。

 今のところは。

 恐竜が発見されたという事のみだ。

 他のマスコミ各社も来たが-----。

 詳しいことはまだ-----。

 発見当初の事だ。

 何もわかっていない現状では

発表しようにも。

 見物人も多いが中へは入れないようにしてある。

 インターネットニュース徳東の編集長

皆山みなやまと名乗る男も

一二度姿を見せていた。

 その弥生が。

 発掘が進むにつれ妙なことを言い出した。

 「御口さん。

 この恐竜はいったいどういう種類のものですか」

 「それが全くの新種らしいよ。

 他のまともな地層から出てくるのは

アロサウルスやイグアノドンの亜種のようなんだが。

 この地層の。いやこの恐竜は全く。

 まあ肉がついている分

骨の形がはっきりとわからないので

詳しいことは言えないんだけどね。

 全部掘り出してからレントゲンでも撮って

それで結論を出すということらしい。

 本沢先生は」リョオ。

 「そうか。やっぱり」弥生は不安気に。

 「やっぱりって」リョオは聞いた。

 別に何の意味もない。

 話の流れから聞いただけ。

 しかし弥生は。

 「いえ、昔。

 私が子供の頃。

 こんな小さい頃に

炎龍山えんりゅうさんのふもとの

龍神村の長老から聞いた話だけど。

 ここから少し山奥へ入った村の」弥生が。

 「子供の時に?

 どうして君が」

 「言わなかった。

 私そこの出身よ。

 それで」

 「初耳だな」

 リョオも興味を。

 弥生の身の上話の方に。

 「それが。今から二百年も前の江戸時代の頃だけど。

 ここの火山の炎龍山えんりゅうさんが噴火して

その溶岩の中から-----怪物が。

 今でいう怪獣が現れて村を襲って-----。

 何て言うか。

 今まで笑い話くらいにしか思っていなかったけど。

 “ガイグ”っていうらしいの。

 その怪-----物。

 長老から村の子供たちと一緒にその話を聞かされて

子供心に怖くて怖くて。

 村のほこらにある

その“ガイグ”っていう怪物の絵を見せられて-----。

 それは本当に恐ろしかったのを今でも覚えているわ」弥生。

 「それは-----。

 子供の頃は-----そんな話。

 みんなよく聞かされるよ」

 リョオもどう答えていいのかわからない。

 事実リョオの出身地でもそういう話はあった。

 「そうじゃないのよ。

 その“ガイグ”の絵にそっくりなのよ」

 「何が」

 「あの化石の恐竜が」

 「エッ?」リョオも。驚いたように。

 「他にもまだあって。

 火山が。

 炎龍山が噴火するたびに

今まで何度も怪物が。

 ガイグ以外にも出て来たって言ってたのよ。

 その長老が。

 それで-----気になって。

 -----。

 でも気にしないで。

 ただの伝説だから」弥生。

 言い終わって何かホッとした様子。

 「生き物が火山の。

 溶岩の中で生きていられるわけもないし-----。

 私も忘れていたの。

 今まで。

 あの化石を見るまで」

 「ンー」リョオも。

 「火山が噴火してか」真剣な表情。

 「どうしたの。

 怖い顔で真顔になって」弥生。

 「いや、君も知っているだろう。

 恐竜の皮膚に付着していた金属のようなもの」

 「ああ、あれ。

 そういえば-----」忘れていた。

 「それで結果は出たの」

 「ンー。

 これは他で話してもらっては困るんだが。

 いいね」

 「ええ、もちろん」

 「私の上役の教授に見てもらったんだけれども-----。

 層になっていただろう。

 その層のでき方が妙なんだ。

 様々な金属や元素の化合物が

凝固温度の差によって

順番に固まって層をなしているんだよ。

 それが数千度から数百度と幅が広くて-----。

 とても生物が耐えられる温度じゃないしね。

 それであの恐竜を直接調べてみようと-----

本沢先生に-----あれからしばらくしてからだが-----

お願いしてね。

 君はいなかったか-----

恐竜の細胞を切り取ろうとしたんだよ。

 そしたらメスの刃が立たなくて」リョオ。

 「メスが」

 「それで-----あの恐竜。

 ケガをしていたみたいでね。

 その傷口から血液と細胞が少し取れてね。

 運よくというか。

 今それを調べている」

 「ケガって」

 「食べられていたみたいだ」

 「食べられて-----でもメスの刃が。

 凍っていたから」

 「いや凍っているわけじゃないよ」

 「じゃあなぜ-----。

 凍ってもいないのにメスで切れないなんて事

あるわけが。

 不思議な話ね」弥生。

 リョオは何か言いたそう。

 「それで」

 「何かあるの。

 言ってよ」弥生。

 「それが-----教授によると。

 私の上役の。

 堆星教授っていうんだけど。

 その堆星先生のよると

地下数百キロの場所では-----地球内部の」

 「地球内部」

 「そう。そこでは高温高圧のため

金属や様々な元素が液体ではないんだが

似たような状態になっているというんだよ。

 そこから地上に向かって

何かを引き上げていくと

ちょうどあのように付着物が凝固温度の差によって

冷えて固まっていく。

 それで層状になっていく」

 「じゃあなに。

 あの恐竜は地球内部の数百キロの地下に住んでいて

-----そこから地上へ上がって来る時に

そんなモノをつけて来たっていうの」弥生。

 「信じられない話だよ。全く。

 でもその-----何とかいう怪獣」リョオ。

 「ガイグよ」

 「そう。そのガイグ。

 溶岩の中から出てくるんだろ」

 「まあそうだけど。

 ゴマ化さないで」

 「ごまかしてなんかないよ。

 -----。

 しかしまあ。

 それも一つの考え方だが-----。

 まだ何もわかってないのが本当のところだよ」

 「そう」

 まだ何かあるらしいが

それ以上は何も言わない。

 地面が揺れだした。

 「何これ。

 地震。」弥生。

 「ああ、ここ一週間ほど毎日だよ。

 火山性の地震らしいんだ。

 その調査に今。

 ウチの大学の先生方も来ているよ」

 弥生の顔が真っ青に。

 「炎龍山が噴火を」

 「そうみたいだ。

 地下のマントル内のプルームの活動が

活発化しているそうだ。

 地震波探査で今それを調べている。

 危ないらしい。

 しかし今言った君の話し。

 もし本当だったら-----。

 ガオーーー。

 怪獣が出て来て」

 「冗談はやめてよ。

 ただのおとぎ話なんだから。

 でも火山噴火って-----ここは大丈夫なの」

 「いや。それが」リョオは真顔に。

 「今のところ-----火山噴火が近ずくと

火山自体が上昇してくるマグマの圧力で

膨らむらしいんだ。

 それと指向性の地震波を使った

地震波探査を火山全体でやっているらしいが。

 この辺りは大丈夫のようだ。

 だいたい山のどの部分で噴火が起きるか

わかるらしいし-----。

 地下のマントル内のプルームの

活動状況とあわせて考えれば

プルームの大きさもわかるらしいし。

 このまま収束するか

どの程度続くかもわかるらしい。

 それで時期もある程度ね。

 プルーム自体が大きくても

プルーム内の核物質の量が少なければ

それなりにだしね。

 そのプルームにかかっている

圧力や熱は分かっているしね。

 そのプルームがプレート内に沈み込んでいく。

 大陸移動だよ。

 すると当然圧力も熱も上昇する。

 それによって核反応が起こり-----。

 というわけだ。

 その状況を観察していれば

だいたいの核物質の含有量もわかるらしいよ。

 まあ自然現象だし。

 急にこちらへ地下のマグマの方向が

変わる恐れもないわけじゃないしね。

 それで二十四時間監視しているらしいよ。

 それにもし変わっても。

 ここは火山からだいぶ離れているし

高いところにあるから

溶岩が流れて来る心配はないんだそうだが-----」

 「それで」

 そのあたりの事は弥生もテレビで知っている。

 専門の偉い先生が説明していた。

 「噴石が飛んで来たり

火山灰を被る怖れはあるらしいんだ。

 大事な化石を傷つけられてはね。

 それで本沢教授たちは

その対策を検討中だよ。

 何でも石膏で覆って

土砂をかけるとか-----言っていたが。

 いざとなればだよ。

 しかしまあ。

 何とかなるよ。

 それで-----」

 「エッ?」弥生。

 「その伝説。

 絵があったっていう話」

 「村のほこらにあるわよ」

 「ぜひ行ってみたいね。

 君。明日の予定はどう。

 私はちょうど休みなんだけど」

 火山活動も一応おさまって入る。

 「デートのお誘い」

 リョオはニコリと笑みを浮かべた。



















 龍神村。

 「ここか」

 炎龍山はすぐ近く。

 リョオは狭い洞窟の入り口を中へ。

 すり抜けた。

 弥生は弁当片手にピクニック気分。

 地震が。

 まただ。

 「崩れないかな。

 この洞窟」リョオ。

 「さあーーー。それは」

 「それに火山でも噴火すれば」

 「それは心配ないわよ。

 もし炎龍山が噴火しても。

 ここは村の人の避難場所になっているらしいの。

 大昔から。

 その-----ガイグが出て来た時も

ここへ逃げて来て隠れてたって話だから。

 地質学の先生によると

ここは岩盤になっていて噴火も起きないそうよ」弥生。

 「なるほど。

 とにかく早く片付けよう」

 地震が-----。

 ハンドライト片手にリョオは中へ。

 内部は案外広い。

 そこにはほこらが一つ。

 洞窟の壁面にも絵が。

 弥生は祠のカギを開けた。

 村の長老から借りて来たものだ。

 その中には一巻の巻き物が。

 「これよ」

 中を開く。

 「そっくりだ」リョオはカメラを手に。

 フラッシュがたかれる。

 「虫食いがひどいね」リョオ。

 「ええ。古いものだから」

 防虫剤は入れてあるのだが。

 「他にもいたのか。

 これは“ザイド”かな」

 よく読めない。

 洞窟の壁面の絵も見る。

 「こっちのは-----」リョオ。

 「相当-----以前のものだね」

 「ことによると-----何千年も前のものかもしれないわよ。

 代々、ガイグが現れるたびに

書き加えられて来たって言い伝えでは

そうなっているわ」

 「何百年ごとにかい」

 「そう」

 「全部火山が噴火してるね」

 何枚もの壁画はすべて描き方が異なっている。

 子供の落書きのようなものや

それなりのものも。

 しかしその全てに火山の噴火と恐竜?

 いや怪獣のようなものが描かれている。

 それもカメラに。

 「本沢教授の意見を聞かなければ

何とも言えないが。

 年代についてもね。

 しかし-----あの化石の恐竜の特徴を

 よくあらわしている絵もあるね」

 リョオもどう判断していいのかわからない。

 結論の出しようもない。

 あの化石がなければ-----それで済む話だが。

 しかし。

 世界にはこのような壁画もあるらしいし------

まあ怪獣のはないか-----

壁画の絵の顔料を分析でもすれば。

 まあいいか。

 とにかく洞窟の外へ。 

 そこを切り上げデートを楽しむことにした。

 村の周囲の名所を弥生が案内する。

 炎龍山は-----わずかに噴煙を上げだした。

 山の周囲は封鎖されている。

 「それで例の怪獣。

 本当に出て来たのなら-----なんていうか。

 その証拠のようなものは残っていないの」

 あの化石は立派な証拠かな。

 まあそれ以外に。

 「証拠。

 あるわよ。

 口から吐く火で溶かされた

村の神社の鳥居とか」

 「口かあら火を吐くのかい」リョオはため息を。

 「エエ、言わなかった」

 リョオは笑い出した。

 「どうかした」

 「怪獣ならまあ-----当然か。

 口から火を吐くくらいは。

 いや何でもない。

 ゴメン」

 “私も修行が足らんな。

 口から火もはけない怪獣なんて-----

ただの恐竜だしな。

 いや単なる思い込みだ。

 失礼”

 「それがね、その鳥居。

 石でできていたんだけど

完全に溶けててね。

 土台しか残ってないのよ。

 それで何年も前に

どこかのテレビ局が取材に来て------なんだったかな。

 そう、放射能があったって」

 「放射能。

 -----。

 やめてくれよ、もう」

 リョオが冗談交じりに。

 本沢先生にどう報告するか。

 「これじゃあ-----」

 「その手のキワモノ映画と同じだって言うんでしょ。

 でもあの化石にも放射能が」弥生。

 リョオの反応を楽しむように。

 こちらも冗談交じりに。

 「-----」リョオは詰まった。

 「それはあるか。

 周りの土か何かが

放射性物質を含んでいるのかと思っていたんだが。

 堆星ついぼし先生によると」

 「エッ?」

 「あ、いや」

 「私もそう思って。

 言うとみんな顔をしかめてそう言うから。

 この話はしないようにしてたのよ」

 「なるほど」リョオ。

 “まともだ”

 「でも-----まだあるのよ」

 「何が」

 「怪獣の痕跡が」

 「-----」リョオ。

 「足跡が」

 「足跡?」

 「ええ。

 溶岩の上にはっきりと。

 火山噴火の時に出て来るでしょ。 

 その時に溶岩の上でも歩いたんでしょ。

 それが冷えて固まって」弥生。

 「溶岩の上を歩いて。

 そんな」

 二人を乗せた自動車クルマはそちらへ。

 溶けた鳥居も、溶岩に残った足跡も。

 「大きいなあ」

 一目見た途端、リョオが呻くように。

 十メートルをはるかに超えている。

 自動車に置いてあった巻尺メジャーを持ち出し

測ろうとするが

一度や二度ではとても。

 「しかし-----。

 本物なの、これ」リョオ。

 「それは-----どう思う」

 「作り物にしても、溶岩だしね。

 溶岩の上にどうやってこんなもの掘ったんだろう。

 それからすると-----。

 いや、断定するのはね」

 「どうするの」

 「調べてもいいかい」

 「調べるってどうやって」弥生。

 「少し溶岩を採って-----。

 どういう鋳型いがたを使ったかをね。

 石膏か何かなら-----溶岩の熱で溶けて

成分がこの中に入っているからわかるんだが。

 しかし-----江戸時代に石膏はないか。

 とすると青銅の鋳物か何かかな。

 青銅ではもたないか。

 焼き物もあるか。

 木ではもたないだろうし、石という手も。

 再現実験でもしてみなければ

わからないか。

 あの時代、そういう事が

はやった時期があってね」

 それでえらい目に-----。

 「ああ、ゴメン。

 職業柄ね。

 どうしてもそう考えてしまうらしいんだ。

 君が嘘をついているとは

思ってはいないんだが」

 「いいのよ。

 私も本物かどうか興味があるし。

 造り物なら調べてもらった方が

はっきりしていいし」

 弥生もそのつもりだったようだ。

 弥生の仕事柄。

 この手のモノは-----いやというほど見ている。

 ニセモノも多いようだ。

 リョオはカメラを足跡へ向けた。









































 翌日。

 御口リョオと虹起弥生は

本沢教授たちとともに再びその場に立っていた。

 「これかね」本沢。

 洞窟の絵はすでに見せた。

 「どう思われます。

 私は素人ですが。

 素人目にも」

 丹念に調査を進める。

 「造り物とは考えにくいね」本沢。

 「はい。それのあの化石の恐竜の

足の裏とよく似ているかと。

 サイズはこちらの方がだいぶ大きいですが」

 本沢たちは-----考え込んだ。

 化石の足の写真と比べても

ほぼ同種のものとしか思えない。

 「しかし-----。

 それではあの化石の恐竜は-----子供で

-----あの大きさでだよ。

 この足跡が大人だとすると

成長すればいったい

どのくらいの大きさになると言うんだね」

 本沢は信じられないというように頭を振った。

 「それは-----」リョオも言葉に詰まった。

 あの化石とこの足跡を比較すれば簡単に。

 それは本沢も承知のはず。

 しかし信じられない。 

 「どうしよう」本沢はため息を。

 「それに年代が。

 個々の火山がこの前噴火したのは

二三百年前なんだろう。

 話によると。

 その時のものとなると-----」

 「約二百年だと聞いています。

 はっきりとした年は調べてみませんと」弥生。

 「この溶岩の跡はその時のモノだと」

 「そう聞いています」

 「今、年代測定をしているところです。

 それに-----本物の生物のモノならば

溶岩の中に足を突っ込めば

何らかの痕跡が残っているはずですから。

 他の場所の溶岩の成分と比較すれば

何かわかるかもしれませんし。

 ただ-----生物の身体を構成する炭素や窒素などは

溶岩は高温ですから残っているかどうか

わかりませんが。

 いわゆる生物の身体を構成している

微量元素の中には残っているものが

あるかもしれませんし。

 もし造り物でないのなら」リョオ。

 “質量分析にかければ一発だろう。

 放射光という手もあるか”

 「そうかね」本沢。

 「そう期待されましても。

 実際にやってみないと」慎重に。

 その日の夜。

 炎龍山は噴火した。


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