南北大学
東京都。
南北大学。
古生物学研究室。
「先生。早速ですが」
ニュース配信サイト。
インターネットニュース徳東の記者虹起弥生は
取材のためカメラマンの空口とともに
ここを訪れていた。
古生物学において
新しい方法論が開発されたという情報を得たためだ。
「先生が考えられた新しい方法というのは
具体的にどのようなものなのでしょうか」弥生。
そう聞かれた古生物研究室教授の本沢は
気難しそうな表情もそのままに口を開いた。
まあ大学の先生というのは皆講義のプロだ。
だからこの場合
“重い口”を開くという表現は当てはまらない。
しゃべる、しゃべる。
特に自らの業績を
世の中に知ってもらえるとなればなおさらだ。
気難しい人も多いが-----それはそれなりにだ。
マスコミさん-----いつでも来て
-----という人も多い。
「いや、大したことはないよ。
現在行われている古生物学の技法に、
化学分析の技法を導入しただけの事だよ。
物理分析のね。
今までの古生物学はただ単に
骨の化石を掘り出して
それに肉付けして
それを年代順に分類していくだけのものだったしね。
そこに最新科学を導入した。
私はその点門外漢でよくわからないんだが-----
詳しくは御口准教授に聞いてくれ」
本沢は御口リョオへと目を向けた。
御口はちょうど新しく導入された機器で
化石の分析をしているところだった。
弥生は本沢と御口のもとへ。
「御口君。
こちらインターネットニュース徳東の-----エー」
「虹起です」
空口も名乗った。
「そう、虹起さんと空口さん。
取材で来られた。
この機器について説明してあげてくれ」
御口は顔をあげた。
「アー。例の。
昨日お話のあった」
「そう」
御口は説明をはじめた。
「何からはじめますか。
そうそう。
まず-----エー。
化石がどのようにしてできるか
ご存知ですか」
「家、私は」
弥生は気まずそうに。
そのくらいの下調べはしておくのだった。
御口はニコリと。
「化石というのは一般的に」
まあ諸説あるが。
「大昔の生き物が死んで
その上に泥や砂が覆いかぶさり、
土中に含まれた水の中の鉱物などが
骨の隙間などにしみ込み-----
その後骨などが微生物などに
分解されてできた化合物と結合して固められ
石化してできたと考えられています」御口。
まあ、あまり微生物の活動が
活発でない状態に置かれた方がいいのか。
微生物によって分解される前に-----
原形をとどめた状態で-----
〇〇によって固まるということだろう。
それにはいったい何年かかるのか。
どのくらいの年月
原形をとどめていなければならないのか。
今後の研究課題だ。
骨は何年くらいもつのか。
肉はミイラ化でもしなければ-----か。
土の中では分解速度はどうなるのだろうか。
深さによっても違うのか。
どのような土砂で埋められたのか。
例えば火山灰等で埋められればどうなるのか。
どういう微生物の排泄物と
どういう鉱物なりなんなりが化合すれば
-----化石化するのか-----
調べてみなければ。
その微生物は
地下何メートルくらいに存在しているのだろうか。
ある特定の微生物が関与しているならば
その微生物にとり理想的な環境とは
どういうものなのか。
これをどう説明するか。
「-----」弥生。
急に言われても。
「私どもはその過程を。
微生物に分解されて化石となる過程を
物理分析の技法で調べられないものかと考えました。
普通、生物の身体は骨にしても肉にしても
全て微生物が分解して何も残らないものです。
それがどういう条件でなら。
さらにどういう過程を経て
残るのかを調べたんですよ。
その結果。
生物の身体が微生物に分解される過程で
ある特定の微生物の排泄物とケイ素酸等が反応固化し
それが化石として残っているのではないかと
仮定したわけです。
つまり土中の鉱物等を固化させることのできる
排泄物をつくれる微生物がポイントですか。
それを化学的に分析して
どのような構造になっているかを」
「なるほど。
微生物に分解される過程で
土中の成分と化学反応を起こして化石に。
ですが骨しか残らないのでしょ」弥生。
「いえ、大部分は-----そうですが」御口はニヤリと。
「たまにといいますか
まれに内臓や皮膚も残ります。
土の層が皮膚の形に
へこんでいるといった方がいいですか。
そうですね。先生」
御口リョオは本沢に。
「そう、骨はカルシウムが多く含まれているので
残りやすいんだよ。
だからカルシウムも大きく関係しているということだ」本沢も。
「そういうことですか」弥生。
「そこで私のやっている物理分析が出てくるわけです。
微生物によって分解されたのなら
目に見えない形で
土の中に骨以外の皮膚や内臓の痕跡が
残っていないかと考えたわけです。
土の中にもともとあった成分と結合した形でね。
もちろんそれ以上分解されない形でね。
例えば心臓が肺が肝臓が微生物に分解された場合、
その微生物の排泄物ですか。
その成分から器官を特定できないか。
皮膚の色や
鱗なのか羽根なのかどうなのかも
分解過程においてでてくる排泄物を-----
どういう形で土中の鉱物等と結合し
化石の中に残っているのかわかりませんが-----
調べることにより特定できないかとね。
それに軟骨のつき方が分かれば
恐竜が実際どのような姿勢だったかも
わかりますしね。
実際、今の恐竜の復元標本を見ると
おかしなモノもありますよ。
四足歩行恐竜でね。
普通四足歩行の場合
前足の付け根の位置の方が
後ろ足のそれよりも高い位置にあるのでしょう。
それが後ろ足の骨盤の位置の方が
非常に高いものもある。
鳥盤目か龍盤目かは知らないが-----
前足の構造も歩くためというよりも
つかむためにあるのではという形のものまでいる。
例えば〇〇〇とか△△△とか。
あれはどうなっているのか」
「それは-----」よくわからない。
「恐竜の色も鱗か羽根が生えていたかどうかも
わかるわけですか」
「それに恐竜が変温か恒温かも。
その違いはご存知のように
体温調節機能にありますが
人の場合、体温が下がってくると
熱を発生させて体温の低下を防ぐ機能があります。
それに必要な酵素なり何なりの有無で
判断しようというモノです。
ただしそういう痕跡が残っていればの話ですがね。
数千万年ですから」御口は-----。
痕跡も何もかも完全に分解されて-----
というケースがほとんどだ。
「それと熱の発生に我々と同じような酵素を
使っていればの話しですし」
「恒温か変温かもですか」
「はい。もしこの考え方が正しければです。
しかし研究は-----緒に就いたばかりで
まだそこまでは。
わからない事も多いですし。
微生物関係の先生にも御協力いただいて
地道にやっていく必要があります。
ですが-----今までの古生物学は化石の骨ですか
それに注目していただけです。
まあ足跡というモノもありますが。
しかしこの方法が確立すれば
骨の周囲の土から肉の部分の痕跡を見つけて
さらに詳しい分析ができるようにもなるかも知れません」
「骨よりも骨の周囲の土にポイントが。
それでこの装置は」弥生。
「これは。
まだ研究段階なのですが-----
医用に使うCTスキャンを改良したものなのですが。
医用では人に使うために
X線を人体に影響に出ない範囲で使っています。
しかしこれは-----。
X線を照射することにより
化石内部に含まれた生物の分解された痕跡から
二次X線が出てきます。
原子の種類によってそれぞれ特有のX線のスペクトルが。
それを解析することにより
内臓や皮膚の痕跡を発見しようというものです。
蛍光X線スペクトル検査と
CTスキャンを組み合わせたようなものですが。
ですがX線を照てても全ての原子から
二次X線が外部へ出てくるわけではありませんので。
特に原子量の低い原子からは
波長の長い光しか出て来ませんし。
それでは周りの物質を透過して
表面まで出て来れませんので
計測できませんし。
ですから相当エネルギーの高い
X線を照てる必要があります。
放射光とCTスキャンを組み合わせれば-----もっと-----」
「たいしたものですね」弥生。
「いえ。
しかし岩石にもともとあった
成分との関係もありますし。
どのような微生物に分解されたかとか-----
もこれからの研究課題ですし。
それにこの装置の場合
解像度がそれほどよくはないので。
大雑把に調べて。
あとは-----。
土の部分を崩さないように取り出して-----
骨の周囲の土をです-----
輪切りにして蛍光X線スペクトル検査で
さらに詳しく調べる必要もあります。
このCTが完成する以前は
この方法でやっていたのですが-----
それが基礎データ集めにもなりましたし
-----まあいいですか。
これは。
それに今もその方法に頼っていますし。
他にも。どうして骨は化石として残りやすく
肉や皮膚は残りにくいのかも調べる必要もあります。
当然といえば当然なのですが
それを調べるのも科学ですし。
微生物の関係で」
「-----」弥生。
よくわからないらしい。
その時。
助手の一人が研究室に入って来た。
「先生。
自動車の準備ができました」
本沢が振り返る。
「虹起さん。
私はこれから少し用事があるので」本沢。
だいぶ時間もたっている。
「どこかへお出かけですか」弥生。
「いや、少し」
「それは-----お忙しいところを
お時間をいただきまして。
では私どもはこれで。
ですがまたお伺いさせていただいても
よろしいでしょうか」弥生。
「それはもちろんですよ。
あなたなら大歓迎だ」本沢。
「それでどちらへですか。
例の鳥沢村で発見されたとかいう
化石の調査ですか」
「よくご存じで」
別に隠す必要もない。
「はい。私どももこれからそちらに取材に
行くつもりでしたので」弥生。
「それで-----私たちの取材に」御口。
「では一緒に行きますか」本沢が。
「よろしければ-----ぜひ」
弥生が即座に答えた。




