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エピローグ

 石造りの古城の一角、とある階段を、サンディブロンドの髪に鳶色の瞳を持った少年が辺りを見回しながら下っていた。七、八歳くらいだろうか。その割には妙に大人びた表情をしている。

 少年は自分がいる階段の一番下、地上階へと到達する場所の階段の影に、蹲っている自分と同じくらいの年齢の黒髪の少女を認めて、ほっと安堵の息を吐く。

「こんなところにいたのか」

 少年が少女に声を掛けた。自分にかけられた声を聞き、少女は顔を上げて少年を見る。その大きな碧色の目からす、大粒の涙がぽろぽろと零れて落ちていた。

「だって、迷ってしまったんだもの」

 少女は言い、手の指で涙を拭った。

「迷ったって……」少女の言い訳に少年が溜め息をつく。「お前、城にはもう何度も来たことあるだろう?」

「だって、広くて……」

 少女はぐすぐすと鼻を啜りながら言った。少年は眉をしかめ、ハンカチを差し出す。

「泣くな。使え」

 少女は驚いたように目を見開き「ありが、とう……」とハンカチを受け取った。

「優しいのね」

 涙で潤む瞳を細めて微笑む少女を直視できず、少年はぷいと顔を逸らせた。

 少女がハンカチで涙を拭う。それを横目で見ながらもう泣いていないことを確認し、少年は手を差し伸べた。

「ほら、立て。行くぞ」

 少女はその手の意味するところがわからなかったようだ。きょとんとした表情で少年の顔と自分の前に差し出された手を見比べている。

 自分ばかり少女のことを意識しているのがなんだか馬鹿らしく思えてきて、少年は差し出していた手をそのまま伸ばすと、少女の腕を掴み、ぐいっと引っ張った。驚きつつも勢いで少女が立ち上がる。

「ここは冷える。さっさと父上と母上のところへ行くぞ。お前の両親も待ってる」

 少女の返事も待たず、少年は少女の腕を掴んだまま、引っ張って階段を上り始めた。

「ちょっと待って……止まって?」

 何かを気にしている様子の少女が気になり、少年は踊り場まで来てから立ち止まった。

 振り返ると、少女は自分の腕を掴む少年の手をじっと見つめていた。

 痛かったのかな、と思い少年は慌てて少女の手を放したが、今度は逆に、少女にその手を掴まれる。

「怪我してる」

 少女が言った。

 確かに、少年の手の甲には大きな擦り傷がある。剣術の稽古中に転んでできてしまったものだ。これくらい日常茶飯事である。何ともない。

 しかし少女にとっては違ったようで、両手で少年の手を優しく覆うと、目を瞑った。

 少女の身体が淡く光り、少年の手をも包む──

「はい、もう大丈夫」

 光が消えた後、そう言って少女に放された少年の手には、痕すら残さず傷が消えていた。

 毎度のことながら、少女のこの力には驚かされる。少女の母親はさらに強い力を持っているらしい。

「あ、ごめんなさい。余計なことだった?」

 そう少女に言われ、少年は、つい、少女をまじまじと見ていたことに気が付いた。

「いや。──礼を言う」

 正直、手を洗う度に沁みていたのだ。治ったのはありがたい。

 少年が手の状態を確認していると、ふと視界が暗くなった。そして、俯いていた額に、何か柔らかいものがゆっくりと押し当てられる。それはすぐに離れて行ったが、少年は驚愕を隠し切れず、口元に自分の拳の甲を当てて仰け反った。

 すぐ目の前に、不思議そうな表情をした少女が首を傾けて立っている。

「なっ、なっ……お前、今、何を……!?」

 わざわざ聞かなくても、少年にはわかっていた。今、自分は、この少女によって、額にキスされたのだと。

「えっと、おまじない……? 私が怪我をしたとき、いつもお母様がやってくれるの。『もう怪我しませんように』って」

 少年は、真っ赤になっているだろう顔を自覚しつつ、少女に向かって指を突き付けた。

「お、お前……それ、他の奴には絶対にするなよッ?」

 少女は尚も不思議そうな表情をしていたが「わかった……」と首肯した。


 少年と少女が並んで階段を登り切ったとき、廊下の奥から声がした。

「おぉ、見つかったのか」

「父上」

 少年の父──オルブライト新国王陛下がそこにいた。

「いつの間にか居なくなるから、マユラとアランが心配していたぞ。戻ろう」

 ヴァレリーが少女に声を掛けると、少女は嬉しそうに頷いた。次いでヴァレリーは息子を見、その様子が少しおかしいことに気付いたらしい。

「どうした? 顔が赤いぞ? 熱があるんじゃないのか?」

 と声を掛ける。

「な、なんでもないっ!」

 少年は言い放つと、一人ずんずんと歩いて行ってしまう。

「あ、待って……!」

 少女が慌ててそれを追いかけた。


 ヴァレリーはそんな二人の後姿を見ながら溜め息をつきつつ、幸せそうな微笑みを浮かべたのだった。

拙作を最後までお読み下さいまして、ありがとうございました。

いかがでしたでしょうか。

楽しんでいただけたのであれば幸いです。

もしよろしければ、感想・評価などいただけると嬉しく思います。


最後になりましたが、

この物語を書くきっかけを与えてくださった真麻一花様と『大団円ハピエン企画』に

感謝とお礼を申し上げます。ありがとうございました。

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