思わぬ訪問者
「おはようございます」
「おはようございます」
いつもと何ら変わらず朝礼が終わり
机に突っ伏す
昨日あれだけの戦闘をしたにも関わらず
朝イチも走って
ギリギリ登校
実は何かを全力で乱闘するという経験がなく
全身痛いし、何なら蹴ったところにあざが出来てる
もう涙出そう
そんな事言ってたらほんとに泣きたくなってきた
辛くてホッとしておいてほしい時に限って、奴は話しかけてくる
「おい神風、どうした?えらい上機嫌じゃないか。」
葛城が発した言葉に理解が及ばず、つい顔を上げてしまう
こいつ、どこ見て言ってんだ?こいつの目は節穴か?
机に突っ伏して寝てるやつが、元気なはずあるか
少なくとも良いことなんてない
むしろ悲観に押しつぶされるところだ
「貴様が、無視せず反応したとは、、、。日々の勧誘の成果が出始めてきたな。」
どうやら納得の行く仕草だったようで、うなづいたり、感慨にふけり、なんならうっすらと涙を浮かべていた
そんなに、俺を引き入れたいのかよ
「ところでだ。我の臣下になるつもりはないか?」
なんの脈略もなく、いきなりの勧誘
「ならん。」
短く吐き捨てた
「なぜだ、なぜわからぬ。今がお得なのだぞ。今しかないんだぞ。」
葛城は熱心に語る
毎日、毎日断れ続けながらも、絶対に諦めずに誘い続ける精神そこだけはみならってやろう
だが、、、
「今だろうと明日だろうと未来永劫変わらんだろ。
それに、お得ってなんだよ。そんな見え見えの悪徳商法に、騙されるバカがいるか。」
暑苦しい風を薙ぎ払うかのように、言い切る
「悪、徳、商、法だと、、、貴様、我の清廉潔白で消費者に寄り添い、こちらが幾分も譲歩してやってる勧誘を、、、侮辱しおって、、」
どうやら地雷を踏んだらしい
葛城は、怒りのあまり俺の机に乗る勢いで迫ってきた
「はい、はい、そうですか。」
めんどくさくなったので、適当にあしらう
「譲歩」って言葉、こいつが知ってたとは驚きだ
後、俺を消費者呼ばわりすんな
葛城が、俺を捕まえようとした瞬間チャイムが鳴り、振ろうとした腕を引っ込め、渋々と席に着席する
なんという完璧なタイミングなのだろうか
そして退屈な1時間目が始まった
ーーさあ今日も今日とて、学生としてはあるまじき行為だが
自習に勤しむとしよう
なんたって、未確認生物を発見したんだぞ
勉強なんかに励んでる場合じゃないだろ
もしかしたら世紀の発見かもしれん
これ程に俺は今、ワクワクしている
解明するために探索してるのに
次から次へと疑問が湧く感じ
これが探求とでも言うのだろうか
確かに死への危険はある
でも命をかけるほどの価値があの空間にはあると思う
昨日は、武器がなくて苦労した
今日は、何かしら持っていこう
とりあえず思いつくのを上げていく
剣 刀 弓 槍 鞭 銃 鎖 ・・・
くっ駄目だ
アニメの影響で押しキャラの武器しか出てこない
操作できっこないし
どこにあるかもわからないし
そもそも所持してるだけで違法なのもある
ふざけないで、真面目に思案しよう
家にあって、重くなく使える物
包丁、果物ナイフ、カッター、ハサミ
まじで思いつかん
最後の方はふざけてるし
なんかこれから殺人犯す計画立ててるみたいで嫌気が差してきた
この中から選ぶなら
重量、持ちやすさ、耐久を考慮すれば
果物ナイフ 一択だろ
攻撃力には不安しか無いが
包丁を持ち歩くのは気が引ける
ホントに疑いを掛けられかねない
よし決まりだ
今日は武器を身に着け
出来るだけ敵を倒してみよう
新しい敵を見つけるだけでも収穫だ
これから起きる出来事に心を踊らせ
心の中で叫ぶ
帰りたい とーーー
待ちわびたチャイムと同時に
教室を飛び出し正門を抜ける
実は今少し楽しいのだ
続きが見たくて仕方がないアニメ
中途半端でセーブしたままのゲームがあるような
気になって他の事には手を付けられない感覚
退屈だった日々の生活に少しずつ色を取り戻してきた感じ
自然と足が早くなる
家につき速攻で自転車に跨り
最短ルートを走る
途中でで心を折られ、自転車を降りて手で押したがーーー
もうすでに慣れた手つきで板を外して直し、通路を抜け、出口を出る
さあ今日の作戦の流れを確認しよう
まず昨日敵と遭遇したところに行き
変化がないか確認し、そこで2,30分待機
もしかしたら敵が現れるかもしれない
モンスターが沸く条件がまだ全くわかっていないからな
むやみに動き回るよリモ遭遇確率は高いだろう
だが同じ場所でずっと過ごすのは流石に飽きる
何も起きないようであれば
こちらから探しに行く
だがあの空間で迷うと本当に現世に帰ってこれなくなるかもしれない
なので川沿いを歩きやむを得なくても川から遠ざかりすぎないようにする
よしおさらい完璧
通路の入口を前にしてふと立ち止まる
そういえば黒い連中、昨日見なかったな
まあ出現鬼没だし、俺の想定どおり連中はめったに使わないかもしれない
そうならば好都合
ネット上に拡散だとかするつもりはないし、俺の気が済むまで探索させてもらおう
多分、連中には迷惑わかけないだろう
そこまで深く考えることなく通路を抜け、出口から自転車を漕ごうとした瞬間
「うおーーー、、、うむ、いい眺めではないか。なあ神風、この地、我が領土にふさわしいと思わんか?」
どこかで聞いたことのある声、聞き慣れた声、聞き慣れたくなかった声がする
こんな傲慢で我こそが王だとか言いそうな奴、俺には一人しか浮かばない
後ろを振り返るまでもない葛城がいるのだろう
はあ〜、少し大袈裟にため息をついてから
「なぜお前が、、、ここに。」
心底嫌そうな顔をして気たはずなのだが、、、
「貴様が通るのを目撃したのだ。そして、ついてきた。」
ついてくんなよ
「ストーカーやめろ。」
「貴様、我をスートーカーなどという下賤なものと一緒にするでない。そもそもお前が真っ先に変えるから悪いんだ。」
どうやら、葛城は放課後に俺に伝えたいことがあったらしい
スマン、俺、帰宅に命かけてるから
たとえいたとしても、それは残像だ
「勧誘のチャンスを失い、絶望を味わいながら帰路についたが、切っても切れぬ縁と言うのかな?帰宅の途中で、お前を見つけてしまったんだよ」
見つけちゃったのかよ。控えめに言って泣きそう
「やっぱり、神も俺達は友情なんかじゃ言い尽くせない、絆以上の何かで結ばれてんだよ。」
背筋に寒気が走る、聞いてるだけで辛い
そんな神なぞいらん、俺のために死んでくれ
「だからな神風、お前は我につくしかないんだよ。」
何がだからだよ。なにも根拠ねーじゃねーか。どこぞの宗教勧誘と同レベルじゃねーか。
「断る。」
短く吐き捨てる
「ぐぬぬぬ、、、まあよい。時間の問題か。それにしても実に素晴らしい光景だ。こんな廃れた現実にも、まだ色に溢れた世界が残っているとは。うむ、ただただ感服、これ以上に言葉は出ぬ。、、、そうだなまずはこの地を征服してーーー」
お前の現実ってなんだよ、、、
それにしても、クソ、まずい、めんどくさい、いや冗談抜きでめんどくさい
学校の外でも勧誘されるとかまじ勘弁
ストレートに言っても別に気が引けるわけではないので帰ってもらおう
「帰れ」
「ーーーキャンプとか、花火とやらもいいかも ーーー
まだ言ってんのかよ、、、
お前、征服したいだとか素っ頓狂なこと言うくせに、したいことは幼稚レベルなんだよな
「おい、帰れ」
さっきよりも力強く言い放つ
「うおお、えっっ、なんて?」
突然現実に戻され、戸惑い素が出る葛城
「か、え、れ」
幼稚園生でも分かるよう、一言一言はっきり言ってやった
「なんだと貴様、我に対しなんてことを。」
「じゃあ、何しに来たんだよ。」
俺の問いかけに不思議そうに答え始めた
「そんなの決まっているだろ。臣下の働きを見てやるのは、上に立つ者として当然のことだぞ。」
至極当然のように葛城は言い切る。
おい、俺は、お前の下についた覚えはないぞ
「誰にも公言しないと約束できるか?」
「なるほど、二人だけの空間にしたいわけか」
こんなBL誰が読むか、誰も喜ばんわ
「絶対言いふらすなよ」
「分かった」
「絶対に」
「うん、絶対に」
まあ目つきも本気だったぽいし、念も押せたからいいとしよう
本音は嫌だが
葛城の服装を見る
ほんとに帰りぎはに追いかけてきたらしく、制服で荷物もある
う~ん帰ってもらおう
「やっぱ帰って」
「はあああ?なんで、
さっき友情の絆を確かめあったばっかじゃないか」
大袈裟な
「動きにくいと困る。足手まといになる未来しか見えん」
「なら俺が自転車漕ぐから、神風は俺のリュック背負って走って」
なぜそうなる
普通に意味わからん
「無理」
「大丈夫だ。神風は校内1 足速いから」
何だその自信
「敵がいるんだ。命落とす危険もある。今日は帰ってくれ。」
「まじで、モンスターいんのおおお、そうかついに現実にダンジョンが湧いたか
俺はこの日をどれほど待ちわびたことか、そっかついに2次元に追いついたんだね」
後半何言ってるかわからんし、涙ぐんでて更にキモい
まあでも確かに異空間よりダンジョンのほうがいいかもしれんが
それにしては明るいし、草まで生えてる
ほらダンジョンって言われたら暗くて、ジメジメしてて洞窟をイメージするだろ?
俺的にはしっくりこないんだよな
じゃなくって、しまった。またこいつに好奇心を焚き付けてしまった。
更にお願い、お願いと、せがんでくるので根負けし
「今日は偵察だけだからな、勝手な行動すんなよ」
「分かった。敵を見つけ次第、即座に叩きのめせば良いいんだな」
全く分かってない
不安だ、ほんとに不安だ
だが時間が押してることに変わりない
強行策に出よう
後でグチグチ文句言われるのが嫌なので
リュックは持ってやったが
足並みを揃える気はなく
奴を置いてけぼりにした
俺は昨日の戦闘地までたどり着く
特に変わった様子は別段無い
周囲を見渡しても昨日見た敵はいない
あいつは走って追いつくのをそうそうに諦め
呑気に景色を見ながらのんびり歩いてる
ここにたどり着くまでかなり時間がかかるのでは?
まあ予定通り待機といこうか
許可を取るのもめんどくさいので
無断でリュックの中を漁る
何か道具として役立つものはないか
と期待したからだ
漫画、エロ本、ゲーム、更にはお菓子まで
あいつ何しに学校行ってんだ?
一切教科書が無く
ここまで校則を破り、我が道を進む徹底ぶりに、なにか尊敬の念すら抱いてしまう
「ほんとに使えん」
武器となりそうなものは一切見当たらないが
いざという時は、リュックを盾にし犠牲になってもらおう
程なくして葛城がたどり着く
「それにしても何なんだここ?神風はいつから知ってたんだ?」
「昨日から」
「そっか」
無理矢理ついてきたからには何か頭を捻ってもらおう
「なあ、なにか気づいたことはないか
参考にして、作戦を立てたい」
「気づいたこと、気づいたこと、気づいたことか〜
特に無いな」
まあだよな俺も初日そんな感じだったし
責めれる義理はない
「だが強いて言うなら、現実に則してる気がする」
「と、言うと?」
「あの川、恐らく現実世界の川と全く同じ位置だと思う。
多分建物がなくなり草原で覆われただけで、土地は全く同じだと思う。」
葛城は指でさして返答する。
確かに言われてみればそんな気がしなくもない
神社付近の土地感覚はまだ疎く
神社から川までの距離なんて正確にはわからない
だが方角的には正しい
なるほどそういう考えもあるのか
そしてふと思ったことを口にする
「お前この辺に住んでんのか」
「そうだよ、割とこの辺」
そうか家近いのか
ここで全く別のプランが思いつく
こいつに家に戻ってもらい装備を整え
武器になりそうなもの持ってこさせてから挑み直す
安全面を考慮するなら、これ以上ない選択だと思う
「おい葛城、家に戻ってなにか道具を持ってきてほしい
特に武器として使えそうなの。」
「分かった、任せろ。どんな敵にも木っ端微塵にする最強宝具持って来る」
張りきって、家に戻っていく背中を見て
不安しかなかった
待ってる間、暇を持て余すので
もう一度、中を漁り
漫画を堪能していたのだが
背後にこっそりと潜む影に気づかなかったーーー