56話 うさぎさんの災難な日? その3
【ゲームの必需品は念入り確認しておく】
さて。
当てもなく、街をうろうろとしている私だが。
「お、武器屋じゃん寄ろっと」
店の建ち並ぶ通りにある武器屋。
武器といっても多種多様なものが多数あり、種類はとても豊富。
以前。
シホさんの満腹を軽減するベルトもここで買ったのだが、効果覿面とは言い難い結果に終わった。
まあ現状その空腹は治らないままでいるが、彼女の体は一体どうなっているのか。
ミヤリーの呪いに似た何か。それは大人の事情というやつなのではないだろうか、言えない事情を彼女は持っていたりして……ごほんごほん。
うーん。
でもあまり人のことを詮索するのはよくないって言うし、今は深く考えるのはやめておこうかな。
店の扉を開け、中へと入る。
1人部屋が少し広くなったような大きさ。
両隣に武器が飾られており、値札が貼ってある。
聞けばこの武器屋は、色んな場所から取り寄せられる物が多いらしく時々奇妙な物も出てくるんだとか。
大丈夫?
中華製みたいなパクリ系が紛れているってことはないよね? 海賊品の流通物はいらないんでそこんところよろしく。
取りあえず見て回る。コマケの即売会みたいな感じで人が群集を作りながら各商品を物色している。興味深そうにちらちらと。
客数はそこまでとはいかない数なので、ゆっくりと見物できる。
買うかどうかは別として。
「? なんだこの縦長の棒は」
急に目に飛び込んできた物は笏。
ほら、歴史の教科書で偉人達が持っている棒あるでしょ? あれなんだけど、めちゃくちゃ長い。
その笏には、文字が下に続くように『幸呪邪経魂……』と漢字が書いてあった。
なんぞこれ。
とりあえず解析しよっと。
……。
……。
……。
解析がしおわる。
【太子の棒 説明:長い薄型の木製棒。下までよく分からない漢字が続いているが規則性は全くない。名前の由来はどこかの転生や転移者がさりげなくつけた名前。あの聖徳太子とは関係ない】
何故に聖徳太子。
聖徳太子の笏ってあんなに長いわけねえだろ。
教科書で載っていた長さとスケールが全然違うから絶対適当。
ここ日本じゃないでしょというか。あれか異次元の穴が偶然空いて突如飛来した謎物とかそんな感じ? まるで意味がわからんぞ。
こっちは?
【貴様ミテイルーナ 説明: テレビを見ていると謎の吸血鬼からの忠告ゼリフが聞ける……品物ではなくただの効力の付いていない弓。品質が悪いかしらないが矢で定めても数ミリしか飛ばない】
はいゴミ。
どこかで聞いたことあるようなネタだけど、そんな使い勝手の悪そうな武器なんか出すな。
なに、ここフリマか何かなの? どうでもいい名前が付けられているが他にもっとこうあっただろ。弓なんだし、なんちゃらアローとか。
「しょうもないものばかりだな」
興ざめた私は息を1つ吐く。
色々と見て回ったが、どうでもいいようなブツばっかりで。
【菩薩の剣 説明:仏像の顔が彫られた気味悪い剣。敵を殴ると祟りの効果があるとかないとか】
バチが当たるだろこれ。絶対装備したら呪われるやつ。
教会いかないとねこれつけるならさ。……ミヤリーなら喜んで装備してくれそうだけどやめとこ色んな意味でめんどくさい。
適当な説明文ばかり。
【中には誰もいませんよ箱 説明:半壊した箱。処分品のため売り物ではない】
あ、間違えて店主のいるカウンター後ろにあるものにピント合わせちゃった。
「ん? どうしたんだ青ざめたような顔して」
目と目があった、店主が私に気づき話しかけてくる。
「いや、特になんもないけどさ。強い武器なんかない?」
別にリクエストは思い浮かばず、適当に答えてみた。
今売れている中で何か強い武器はないかと。
すると。
「ほい。この剣とかどうよ。この間入荷した物なんだけどな、四馬苦憎御羅。ごつごつとした見た目だが非常に攻撃力あるぞ」
だだっ広い見た目をした石製の剣。
名前が如何にも文言に因んだものにしか聞こえないが。
「因みになんか使うとなんか効果あったりする?」
「いやない。ただ単に攻撃力が高いだけ」
即答。タダの脳筋武器だった!
少しはまともなもの出してくれよと言わんばかりなのだが、なんかいいの出してくれよ店主さんよ。
「そんな顔しないでくれよ、新たに入ってくる武器はバラバラでな、今はあまり強い武器が置いて何だよ」
「まじで?」
「おおまじだ。時々変な名前の武器が入ってくるがそれは全部使えない物が多くてな、基本的にその武器は買わない方がいいぞ」
いやだったらさっきなんでそんな変な武器を紹介したのさ!!
やっていることと、言っていること矛盾してない大丈夫!? ここはもしかしたら乱数が仕込まれた運要素ありな武器屋なのかも知れないな。時期が悪かったか。
「あのだったらなんでそんなの勧めてきたの?」
「そりゃ……商売だから仕方ねえよ」
もうこの世界、バグの塊同然だろ。
呆れながら私はその場を後にするのであった。
☾ ☾ ☾
【口先だけじゃないってことを子供達に証明するべき】
街の広間に出た。
大きな噴水を取り囲むように、家屋が四方に建つ。
子供達があちこちで走りながら、自分と同年代と子供らと遊ぶ様子が見える。
「あれ、お姉ちゃんこんなところでどうしたの?」
1人の青年が現れる。
「ちょっと休憩だよ。さっきまで街をうろうろしていたから」
「そうなんだ……あ、お姉ちゃんおねえちゃん! 冒険者なんだろ? ちょっと一緒についてきてくれない」
と少年は私の手を引きずりながらどこかへ連れて行く。
なんか逮捕されちゃったよ私。
よくわからない赤の他人の少年にさ。
別に私はショタコンじゃないからね? そんなきしょいキャラ私していないから。
と連れてこられたのは、なにやら色んな物が置かれた広間だった。
冒険者同士が組み手、他の場所では的に向かって剣を振るう練習をしている人も中にいた。
訓練場らしき場所かなここは。
少年がとある背の低めな女のこの元へと連れてくる。
馴染みかなにか?
「なんか凄い面白そうな見た目をした姉ちゃん連れてきたぞ!」
「おい小僧、私のどこが面白いって?」
「ね、姉ちゃんそんなに睨まないでくれ謝るから」
少しムカっと来たので、軽く睨み付けて怖がらせた。
怯え、歯をむき出しに瞠目。
「……あ、あの……その……お名前は?」
ちょいと照れ屋さんなのか、話しづらそうなその女の子は、私の名前を訪ねてくる。
「愛理だよ、ふざけた格好だけどうさぎの職に就いているんだ」
顔を掻きながら、照れくさそうに答える私。職ってなんだよ職って。……私色んな異世界物見てきたけど、こんなうさぎパーカー着た女が出てくる作品なんて見たことねえよ。
「……愛理さん…………っていうんだ。その…………可愛い服だねそのうさぎさんの」
なんか褒められた。
褒められるとなにかしらツンデレ質になってしまう私。これは単なる照れ隠しみたいなもの。言い訳じゃなくてガチな。……素直に言えないときってあるじゃんつまりはそういうこと。ここはみなさんのご想像にお任せする。
「そうか? なんか見た感じ強そうには見えねえけど」
「おいクソガキ君、何か吹っ飛ばせる物を持ってきなさい」
子供相手で物理的に殴るのはよくないので、代わりに何かを使って実力を見せつけることにした。
クソガキ呼ばりしているのに、全くぶれないぞこの子。……メンタル強度高いだろ絶対。
あのすみません。お恥ずかしい話ではありますが、その陽キャパワーを私に分けてくれない……無理か。と諦める私。
「え、どうしたの姉ちゃん…………あの木の的とかどうかな」
少年が指さしたのは、壁際にある古い的の紙が張り付いた丸太。
ずたぼろで今でもすぐに割れそうな見た目で、私には打って付けのサンドバッグだった。
口を歪ませて拳を強く握り。
「少年、よく見ておけ。うさぎさんは単に可愛いだけじゃないうさぎさんなんだってことを」
「え?」
「……」
その丸太にゆっくりと近づきながら、拳に力を蓄える。
他冒険者の迷惑にならないよう、多少加減しながら極小の力を込めて。
「なんかあの姉ちゃんやばくね?」
「……余計なこと言うからだよ」
こら外野! 黙りなさい。うさぎさん集中できないからね! ……こん畜生。
丸太の前に立った私は。
溜まりに溜まったストレスを、その丸太に目がけて解き放った。
「うさぎ舐めんなよ! ラビット・パンチッッ!!」
丸太はロケットの如く、白煙を上げながら飛んでいく。
それを見た少年とその少女は驚いて私の元へとやってくる。
「や、やっべえよ姉ちゃん。姉ちゃんすごいよすげえじゃん! どうやったらそんな凄い技出せるの? 教えてくれ!」
「…………愛理さん、そのうさぎの服可愛いだけじゃないんだね。…………ますます好きになってきた」
大声をあげ驚く少年と、ますます興味を湧かせた2人の少年少女。唐突な謎イベントフラグの発生に私は1ミリたりとも想像できない。……これはどういったイベントだ攻略本くれくれ。
「…………シホ姉に匹敵する強さだよ。ねえ?」
「そうだな、最近姿見えないけど最近どこいるんだろ。……あぁシホ姉っていうのは俺達に剣術を教えてくれている剣士の姉ちゃんだよ」
え。
今聞き覚えのある名前が出てきたんだけど。
シホさん? ……剣士。 明らかに彼女じゃないか。
「腹ぺこでいつも倒れるけど、優しくてしかもかっこいい憧れの女戦士なんだ! 俺大きくなったらシホ姉みたいな強い戦士になってみたい」
「…………でも私は、愛理さんみたいなうさぎになりたいかな(もじもじ)」
「……へ、へえ」
言うべきか戸惑った私は、笑顔で誤魔化し適当な返答をする。
意外! それは友人の友人! しかも幼い子供である!
某マンガ風にナレーションっぽく語ってみたが、まじでこれは意外過ぎる。
「腹ぺこかぁ~。そんな人いると私困っちゃうなぁ」
知らぬ振りで返答しその場しのぎ。
あぁこれが俗に言う、世間は広いようで狭いというやつか。
誤魔化しが果たしていつまで続くんだ仲宮愛理。
……ありのまま今知ったことを言うと、私はちょっと速すぎたネタバレに遭遇しちまったらしい! ……この世界のストーリーの順序合っているのかこれで。
「愛理ねえちゃん今度来たら紹介してあげるからね! きっと驚くぞぉ」
うん、もう驚いているよ。
良くも悪くも、いつもぶっ倒れていることにさ。……見飽きるほど、あるいは親の顔よりもよく見た展開みたいな感じで私の目にもう馴染んじゃっているんだよね。多分ほかの私のメンツもそれは自覚しているはずよ。『あぁこれが日常茶飯事ねはいはいワロスワロス』みたいな。
と、気がつけばもうお昼前。
いけない。
シホさん達に昼には帰るって言ってたんだけど、そろそろ行かないと。
「あ、ごめんそろそろ私いくね。家に帰らないと」
立ち去ろうと私が一言告げると、2人は手を振りながら見送る。
お、結構礼儀はなっている子じゃないか。小さい頃の私より全然ご立派。
「あ、行くんだ。んじゃあな! また来てくれよ」
「…………愛理さん また来てね」
「おう。2人も元気でね。今度はうまい土産話でも持ってくるから」
なんか変な事言っちゃったけどまあいいか。だっていつも厄介事に巻き込まれるし、積もる話なんて幾らでもできるだろうこれから。
それに第1印象って重要だしね。……待っていろ私が君達に面白い話を今度持ってきてあげよう。
こうして私は、2人の少年少女と出会い、一時の時間を過ごした私は時間になったので仲間が待つ家へと帰るのだった。
今思ったが子供と遊ぶのってめっさ疲れるわ。
☾ ☾ ☾
【時間にはちゃんと戻る、それが私の主義だから】
「そんなことがあったんですね」
食卓にて、仲間と会話しながら昼食をとる。
料理はシホさんと、スーちゃんの料理で、テーブルには豪華な肉料理なら色々たくさん並んでいた。
「私寝ていたから分からなかったけど、まさか問題事起こしてはいないでしょうね?」
無駄遣いした、お前と一緒にするな。
「何よ愛理その『無駄遣いしたお前にそんなこと言われる筋合いはねえ! そんなことより嫌いな野菜は全部食べようぜ?』って言いたげな顔は!?」
ミヤリーの皿に盛られたワンプレート。肉だけ食い漁られており、野菜だけは横にはねてある。
いつも食事を摂っていて気づいたことなんだが、彼女は野菜が大の苦手なのだ。
しょっちゅう食べるよういっているのだが、なかなか食べてくれないんだよミヤリーは。
「お前ぇ……」
「……お二人共、今は昼食の時間ですよ静かにしましょうよ」
存在をすっかり忘れていたスーちゃんが、私達の間へと止めに入った。
さすが空気が薄い少女。あ、でも小説の中じゃしょっちゅう喋っているよね? と思っているそこの諸君。
そこは気にしたら負け。お約束ってものがあるでしょ?ご都合主義みたいな同義語として考えてもらえると非常に助かる。というか他にこれという説得力のある理由が見つからない。ほんと何者なんだスーちゃんって。
「まあ疲れもだいぶ取れたし、明後日からまたクエスト頑張りましょ」
ぱくぱくとプレートの野菜を食べ出すミヤリー。
お、やればできるやん。
というかなに。その明日から本気出すみたいな言い回しは。絶対なんかヘマするよこの子。
数分も経たずに、彼女の皿に盛られた野菜はすぐになくなった。
その様子に感服した私は。
「よくやったミヤリー。お礼にこれあげるね」
「はぁ!? 愛理なんでよぉ」
みんなのおかずである野菜の山から、どっさり野菜を彼女の皿に追加。
「好きなんでしょ? もっと食べてね」
「あ、愛理の鬼畜ぅ……」
恨めしい顔をしながら、ミヤリーは再び野菜を食べ出す。
「はいみなさん仲がいいのはよろしいことですよ? 明日までゆっくり休んでまたクエスト頑張りましょうね」
「……勿論ですよ。私達の冒険はこれからですから」
スーちゃん、その打ち切りエンドみたいなセリフ吐くのやめようか。まだ終盤にも行っていないのにそういうことは禁句だよ。
武器とか色々まだ不完全な状態だから、万全という状態にはまだ程遠い。
「そうとなれば修行よ! 修行! 愛理後で軽くモンスター狩りに二人でいきましょ」
立ち上がって、謎の活力が湧き出すミヤリーさん。
どんな風の吹き回しだって言うんだよまったく。
「はあ仕方ないな。なら一緒に行くか。いいか死ぬなよ?」
忠告を一言。
「勿論よ、私だっていつまでも死んでばかりじゃないからね」
「晩ご飯には帰って来てくださいね」
その日は、ミヤリーのレベリングに日が沈むまで付き合わされるのだった。




