169話 うさぎさん達、決戦の準備なう その1
【正夢ってやつ? 聞いてねえよそんなの】
「今日はなにする? なんなら私がちょっくら丁度いいクエストを見つけてくるけど」
早朝の昼食にて。
いつも通り、仲間に意見を聞きながら本日のルーティンを決めていた。
食事の手を止めずに、仲間はうんうんと頷く。ちゃんと聞いているよね?
「昨日少しギルドの方に顔を出したら、難易度のいいクエストがいくつか貼られていましたよ?」
「まじ? シホさんできたらそれいくつか持ってきてもらってもいいかな?」
「いや愛理、そういうこと言うくらいだったら自分で確かめに行きなさいよ。ほら頭に焼き付けるとかいうじゃない」
朝ボケでも始まっているのだろうかミヤリーさんよ。
頭に焼き付けるってどことよ。そのような言葉私だってよく知っているぞ。……誤った知識はたださないとな。学校の教師並に自身豊富とまではいかないがここは一発。
「“目”なミヤリー。頭に焼き付けてどうするんだよ。でもお前の言う通りクエストの紙は早い物勝ちだもんな……よしシホさんこのあと一緒にいこうぜ」
「はい……とスーさんどうしたんですか? 今日具合でも悪いのですか」
「…………」
スーちゃんは食べ物を一口も運ばず、調子が悪いように唸り声をあげていた。
シホさんは具合が悪いと述べているが、理由は他にありそうだと心の中で考え。
「あ、スーちゃんスーちゃん。ブロッコリー嫌いなの? 私は少し好きだから代わりに食べてあげても良いわよ」
「……あ、いいです。気持ちだけでとても嬉しいですよミヤリーさん」
一言返すと彼女はパクパクとスープを飲み始め食事をすすめるのだった。
それから数分後、食事が一通り終わるとスーちゃんがあることを切り出す。
「……そのみなさんひとついいですか?」
「? どうしたんスーちゃん」
「いえどうしたというわけではないのですが……先ほど調子が悪いように見えたと言いましたよね? 実は全然調子は悪くないんです。ないんですけど」
遠慮しがちな言葉でとても言いづらそうな様子をする彼女。瞳孔を見回しながらなにやら言いづらそうな雰囲気。
やはり私の睨んだとおり、調子は悪いのではなく調子が悪いように見えたのは他に理由があったからだろう。
このまま引き下がると彼女にとってもやっとした気持ちが残るだけ。……そう思った私は大事な仲間の為に優しく問いかける。
「言ってみスーちゃん。……別に私達は笑いもしないよ。くだらない話でも腹が立つこと……または夢にあったことでもいいなんでも話していいんだよ?」
「はい、私達は他に変えようのない大切な仲間ですよ、愛理さんの言う通り彼女に言うべきだと私は思いますよ」
「……それは」
スーちゃんの隣に座るミヤリーが、彼女の重そうな肩にポンと手を乗せた。
「私もね、スーちゃん言った方がいいと思うわ、どんな些細なくだらない話でもいいのよ。私達ってそういう中じゃない。愛理……私達ならその話聞いてくれると思うわよだって大切な仲間だもん」
「……みなさん。それじゃお言葉に甘えて」
ようやく決心の付いたスーちゃんは、私達に思っていることを告げて。
「え、バイタスが一週間後にくるって? そのソースはどこ?」
「ソース?って……あのカツにかけるもの? なによ愛理こんなときに」
「いや、そっちは食いもんにかけるやつだろ。……私が言っているのは情報源の方なの。あんだすたん?」
「お、おーけー。でスーちゃん誰からそれ聞いたの? 予知夢のようには見えないけど」
そういえば以前に夢で私達を大事にしろと誰かに言われたみたいだけど、あれの続きだろうか。
普通だと信じがたく誰もが、笑いこける場面だが、こういうときなのにも関わらず私を含めみんな真剣な表情。笑いひとつすらこぼさない。
「……記憶が曖昧で覚えていないんですけど、これは何かのお告げだと思うんですよ。……昨日夢から目覚めたらその情報が頭から流れ込んできて……うーん」
「つまり、バイタスとの決戦がより一層近くなってきた……という解釈でいいんですかね? ……だそうですよ愛理さん」
「私は神の言葉は信じないけどスーちゃんの言葉は信じるよ」
無論これはあの神じーちゃんのことを指しているわけではない。いや例えでの神だよあのじーちゃんとは無関係だから。
でもこの情報が確定なら、そろそろ私達も準備しないとな。
「……あ、ありがとうございます愛理さん! 愛理さんならそう言ってくれると信じていましたよ!」
「うわうわうわあぅうわぅうぶぶぶぶ……」
片手を彼女の両手で掴まれ極小なのにも関わらず大いに上下に振ってくる。
なんだろう、怒りが湧くどころか高揚感を覚える感じがするのはなぜ? ……う、嬉しいのかこれは。
「スーちゃん! ストップすとぉぉぉっぷ!」
「……! すみませんつい嬉しくなって」
無意識に振っていた腕を解放する。
「ふむ、だとすればなにをするべきか……呑気にクエストを受けるどころの話じゃあないね」
「とりあえずブラフさんのところでも行ってみます?」
「よしうんじゃ……みんなレッツゴー……」
その時だった。
玄関先の扉を開けようとしたら……私がノブを捻ろうとしたタイミングに。
「仲宮愛理ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! 愛理はいるかああああああああああ!?」
ドスン‼
「ぐべごぼう!」
そのまま私は壁の方に押しつぶされて強打する。扉痛いんですけど……つうかなんだこのタイミング漫才でもやっているような気分だぜ。
「うん? お前らは……と愛理はどこだ?」
だからここ。あなたが開けた扉によってサンドイッチ状態にされていますよ。
※ブラフには彼女がどこにいるのかわかりません
「あぁブラフさんおはようございます。そんな騒々しい音を立ててどうしたんですか?」
「それはだな……とその前に愛理どこだ? ……うん扉の端?」
仲間一同に扉の方を指さす。あそこだと。……みんなの息づかいで大体なにをやっているのか想像がついた。あ、このパーカーって見えない場所でも相手の動きが分かるそんな使い方もあるんだな……つうかそろそろ。
「ここ、ここだよブラフ。物は丁寧に扱えって習わなかったのか?」
扉を押すようにして脱出。彼の眼前に立って姿を現した。
そこには見慣れた宇宙人こと、ナメップ星人のブラフが。
「そ、そこにいたのか。すまん潰したりなんかして」
「ま、まあわざとじゃあないならいいよ。それで用件はなにかな?」
危うく酸欠で死ぬところだった。
なにせ扉がそれなりに重たいからだ。……年期のある物なせいか固い物質で作られているせいかとても痛かった。まさかこんな重いなんて。
とまあMみたいな感想はさておき、ここに来たということは……そういうことでいいのだろうか。
「大変だ、ついにヤツがヤツがここにやってくることが分かったぞ。一週間後にここのx(座標位置)y~……」
「あ、ごめん私数学超苦手だから日本語でおk。いや異世界語でおk?」
「そ、そうなのか。まあ端的に言うとだ、バイタスがリーベル周辺の丁度真ん中辺りに出現する」
なんでこうもタイミングがいいように事は進むのだろうか。
仲間達の方を振り返り、顔色を伺うと。
シーン。
と沈んだ顔つきをしながら各々熟考タイム。
先ほど予想と言われていたことが実現することとなったのだ。考えの処理が追いつかないのも納得がいく。
「そのブラフさん、詳しく話を聞いても?」
「勿論だ、俺のバイト先にある客用のテーブルに座って話そう。今日は休みだからあのうるさい店長にはなにも言われないはずだ」
小声でまずまずとした表情で答えてくるブラフ。
普段どんな態度で接しているんだよ。口には気をつけろよ。私が言えた筋ではないが……つうかよくそんなんで今までクビにされず済んだな。そこは関心……いやそうじゃあなくて。
「うし、みんな思うことは色々あるけれどひとまずこいつに肖って場所を変えよう。話はそれからだ」
うんと頷く仲間達。
告げられたバイタスの襲来。話の詳細をきくべく私達一行はブラフと共に落ち着いた場所へと移動するのであった。




