165話 うさぎさんのDQNな1日 その2
【食料はちゃんと用意してから遊びに出よう】
街の近くにある、森を歩く。
問題ごとはこれっぽっちもないが、何だろうこの空気。
気を紛らわそうと同行するスーちゃんと会話しながら。
「それで手紙おくれたの?」
「……えぇなんとか。あの日途中寝てしまったのは……覚えてますよね? 帰った後は疲れたんで書けませんでしたが、翌日にはちゃんと書いておくっておきました」
少し前スーちゃんが誰かに送ろうとしていた手紙。
内容は分からないけど、外でひたすら様子を見ていた私はその場から動かず見守っていた。
寝落ちしたときにはびっくりしちゃったけど、そのあとも彼女が起きるのを待ち。日が暮れても起きる傾向が見えず仕方なしにかけ布を用意し、彼女にそっとかけたが……よほど集中していたんだと思う。
でも結果的に翌日には書けたみたいだし、私も一安心。もしなくしたりなんかしたら探さないといけなくなるし。
「……えぇとこれは言うべきかどうかわからないんですが」
「なになにどうったの? 言ってみ」
遠慮していそうな様子で目を泳がせるスーちゃん。
人差し指同士をツンツンとさせながら、言いづらそうなご様子。
なんだろう。
「……これはよく覚えていませんけどね、夢で誰かに会ったような気がするんですよ。……でももやがかかったように全く思い出せないんです。……でもその人はこんなこと言っていました。『愛理さん達、仲間を最後まで信じなさい』と。……どういう意味か分からないんですけど他にも重要なことを言っていた気がします」
うーん。
子供はよく夢見ると言うけどな。
でも夢の出来事でしょ? ……そんな真に受けることなのか、でもなぜ私に関する言葉なのかと正直問いたいところだが。
「不思議な夢だね。夢とはいえその人のくれた言葉大切にしないとね。きっととてもいい人だったんだよ」
「……でしょうか。すみませんあんまり覚えてなくてどう返せばいいのやら」
「あわわスーちゃんそんな泣きそうにしなくても……」
「……そうですか?」
とそのときだった。
急に私の後ろから姿勢を崩し倒れてくる。
「愛理さん危ない!」
「ふぁ⁉」
不注意だった私は気づける暇もなく……そのまま。
下敷きに……されたと思った。
「え?」
だが不思議なことが起こった。
ワンシーンカットされたように、私の方へと倒れかかった木は向こうの方にまっ2つに切り落とされていた。
白煙が浮いて……なにやら攻撃した後が残っている。
「……あれ?」
私は何も手を付けていない。
スーちゃんも気がつきもしていないが、彼女は無意識に杖を振っている構えをとっている。
もしかして助けてくれたのか?
「スーちゃん? 助けてくれたの」
「……え、あ、あれ……私は何もしていないはずなのに」
等の本人は助けたという自覚はなく、ただその場で立ち尽くし何が起きたのか整理する素振りをみせた。
……これは時止め……みたいな……いやそんな魔法があるわけが。
【一応あるにはありますが、とても習得難易度は困難みたいですよ】
ま? じゃあ某マンガみたいに止まれとか言えるのか。……スーちゃんとその魔法の抽象的な部分は……分からん頭が痛くなりそうだぜ。
スーちゃんの方へ駆け寄り。
「何が起こったかわからないけどさ、なんか運がよかったんじゃない? ……ほら神様のご加護があったとか」
「……そうなんでしょうか? そういえばこの前もこういうことあったような」
「それってミヤリーと一緒にクエストに行っていたときの話?」
こくこく。
そういえばミヤリーから聞いた話だが、気がついたらミヤリーは先ほどまでモンスターに掴まれていたのに一瞬でスーちゃんにお姫様抱っこされていたとかって。
ほんと奇妙な話だ。
バグよりも奇妙な現象に出くわしたってことになるのか? ……一体なにがそんなことは一旦置いといて。
「でもま、無事助かったからよかった」
「……もう少し歩きましょうかね。でもその前に少しお腹空いてきたような」
「前のシホさんかい! この辺なんかなかったっけ?」
「……残念ながら愛理さん。ここ満腹になるようなモンスターいませんよ」
まぢかよ。
考えなしにここまできたけど……どうしろと。
現に私も腹が減っているんだが。
髪を掻きながらどうするか迷い出す私。
「だぁもう! こんなときにファミレスやコンビニとかあればいいのに!」
「……コンビニ? ファミレス? ……それはどういったもので?」
「あ、そっか知らないんか。……えぇとね」
簡潔にファミレスとコンビニのことを説明する。
ついつい次から次に、現代ネタが口から出てしまう。
でも隠す必要はあまりないと思う。異世界の人にはこういう場所もあるんだと、少々社会学習みたいな漢字で私が教える。
興味に惹かれるかは分からないが。
「……なるほど。手軽に行ける食堂やお店ですか……便利そうですね」
「そうでしょ? 私の地元って色々便利だからさ」
同時に迷惑かけるアホが深夜になると沸くこともある。そんなマイナスなことは持ち出さずにして。
するとスーちゃんある方向を指差す。……? なんだなんだ。
前方? モンスター、えぇと。
「……もしかして……あぁいう場所ですか? 縞模様の横長な建物が建っていますけど?」
「………………あ、そうそうそれ……あぁいうの………………ってえ?」
ついつい同調してそこを指差してそれだと答える。
だが、本当にそれがあるとは思いもよらずあからさまに答えたが。
そこにあったのだ。
堂々とデカいコンビニが。
「「ってなんでこんなところにコンビニがあるんだよおおおおおおおおおおおおおおおおッ‼」」
回っているポールサインには『ISEKAIMART』と書かれた看板が。しかも回っている……そっか気づきづらいもんなこんな場所だと…………いやそういうのじゃあねえよ。
フラグなんか立てたのか? ……あの能力も何も使っていないんだけど。
「また大声を出して……そんなに驚くものなんですか?」
「驚くもなにも……んまあ」
なんと言葉を返そうか。
とてもDQNな展開に思わず大声出してしまったが、異世界にコンビニかぁそれはそれで…………いやよくねえよフィールドを歩く商人さん涙目だよこれ。せいすい爆買いしてもらえないよこれじゃあ。
「……そのコンビニ? という場所に行けばお腹を満たせるのですか? ……では行きましょうお腹が空きすぎて倒れそうです」
「な、なぜに……まじでイミフなんだけど! ……ちょっとスーちゃん待って」
「あぁもう死ぬところでしたよ。ミヤリーさんが私の勝手置いたおやつをつまみ食いなんかするからこんな目に。だから愛理さんにこうして迷惑をかけちゃったじゃないですか。帰ったら即死呪文でもかけて憂さ晴らしですはいそうしましょうあの人はいつも…………ぶつぶつぶつ」
と箒にのりながらコンビニのある方角へ飛んでいく。
数メートル足らずの場所へそびえるその建物には照明も灯っており、設備もちゃんと整っている。
スーちゃんが先に……ちょっと置いて行かないでくれ、愛理さんもうぼっちは嫌だよ。
「ちょちょちょスーちゃん! 置いて行かないで……代わりに私が好きな物なんでも買ってあげるから……もう少しの辛抱だから……ねっねっね? 少し待ってくれえええええええええ!」
飛んでいくスーちゃんを必死に追いかけていく私だった。
あのコンビニは一体なんなんだよ、異世界でコンビニバイト始めましたとかそんなの洒落にならないから……場合によっては違法建築でぶっ壊そう……どこかのゲームで出てくる爆発さんも人の建物いつも壊すし……大丈夫でしょ建物の1つや2つ。
さてあのコンビニの正体……それは一体。