164話 うさぎさんのDQNな1日 その1
【ブリーダーの埋没費用は多分高いと思います】
愛理さんにおける1日の始まりは少し多忙である。
「あのシホさん、マジでやんの? 私が」
「はい、毎日私がやっているのでたまには愛理さんにも体験してもらうのがいいかと思いまして……因みに彼猛スピードで突進してき…………」
「それあなたが寝ている間経験したよ。あれでしょすげースピードで突っ込んでくるやつ」
「ヒヒーン!」
早朝シホさんが部屋にやってきて、なにごとかと連れ出されたが。
ついにバイタスがやってきたのかと、緊張を胸にして彼女に連れられ屋敷の外へ出たが。
そこはこの間、私がシホさんと一緒に作った馬小屋……つまりマックスへルンの部屋にきたけれども。
彼の方に軽く手を差しのばすと、ハイエナのごとく近寄ってくる。
うぅ……動物独特な強烈なにおいが。
昔うさぎ何ヶ月か飼ったことあるけど、その非にならないくらいに強烈なにおいがくる。
正直いって二度寝したい。むせるまでにはいかないけどめっちゃきついですはい。
「スーさんとミヤリーさんは料理の準備で忙しいんです、それに彼愛理さんにとても会いたがっていたんですよ?」
「そんなこと言われても…………おいこらマックスへルン私のパーカーの耳噛みながら引っ張るんじゃあありません! ……食いもんじゃねえから!」
とても懐かれ犬の如くペロペロと舐められる私。
重量もそこそこといった次第。パーカーのお陰でたいしたことはないのだが……まあ頑張ろう。
「えぇと……これ食べさせればいいの?」
「はいその草を食べさせてください。あぁ手ごとぱっくり食べられないでくださいね」
「いやあなたでしょそれは」
気を取り直し、マックスへルンの部屋の掃除を終わらせ餌やりを行う。
小屋の端辺りに大量の飼葉の束が何個もストックされている。……まさかと思うけどこれ1人で運んできたっていうんじゃあ。……いやでもシホさんだしな、剣練の人は力持ちの系譜聞く意欲も失せてくる。
ひとまず……束を少し引っこ抜いて。
「ほらほらマックスへルン朝飯だぜ~? キャビア味とかはないけど美味しいぞぉ」
「! ヒヒーン!」
「ちょ! おまニュートン先生も驚くようなスピードで突っ込んで来んな! ……あ間に合わねえぐべどぼだぐらがぁーーーーーーーーッ!」
ドスーーーーーーーーーンッ!
うれしさのあまりか、またしても彼に突進され強いもう突進攻撃を食らってしまう。策を飛び越えて攻撃とか……侮っていたぜこいつできる!
そのまま手に持っている草束をむしゃりと食べ始め、美味しそうに朝食を食べ始めるマックスへルン。
「お、おいしい? その美味しいならいいんだけどさ……重い。ぐぐぅ……馬ってこんなに重いの?」
馬がこんなに重いなんて聞いていない、随分前にもこんな愛情攻撃を食らったが……いつ食らってもこれは並相手の人間が受け止められる度合いではない。
馬レースとか出たらこいつ絶対優勝しそうなくらい。……ここって競馬はあるっけなこれを見ている諸君、ギャンブルは大人になってからするんだぞ? 愛理さんからのこれはお約束。
「そういえばお前、出るの随分久しぶりじゃない? ……二手に分かれたときはダンジョンの外で待機していたよね」
「ひーん!」
「あのときは確か、マックスへルンが効率がいいと愛理さんが言って乗りましたよね。彼すごく張り切って突っ走りましたけど」
「死ぬかと思ったよあのとき。だって視界がぼやけてしまうくらいに速かったし」
以前二手に分かれてクエストを行う場面があったが、移動手段はマスターラビットパーカーと言いたいところだったが、節約も兼ねてシホさんの愛馬であるマックスへルンに乗りダンジョンへ向かった。
外でこいつには番犬ならぬ門馬をさせてもらったが、あのとき正直すまなかったなと思う。
そう心で思いつつ私はマックスへルンの頭を軽く撫でて。
「お前の主、とても頼りがいのある私の大切な友達だよ。もしまた必要になったときは直ぐさま呼んでまた一緒に戦おうぜ!」
「ヒヒーン!」
「え、ちょ……ま、ま、ままままま! だからなんでそうなるのさあああああああああッ! がじごばばでぃあばらーッ!」
油断していたらまたもや突進攻撃きて私の腹部にクリティカルヒット。……いててやっぱすげえよお前。
「好かれてますね愛理さん。彼は興奮するとそうして突進してきますよ」
「そういうの先に言ってよ。……因みにあなたはいつもどうこいつに接しているわけ?」
なんだよシホさんその会社入社二年目の社員が後輩に優しく物事を教えるような顔はさ。
全然ぶれないんだよな彼女の笑顔。ここがシホさんの良いところではある。
いつも前向きでぶれもしない、そこはなんというか戦士独特の鋼の精神を感じさせる。
彼女は私に。
「え、そんなに痛かったんですか? 私いつも片手で止められますけど?」
「すんませーんシホさんさりげなくマウント取るのやめてくれません? 多分それサッカーのキーパーとかよりも凄いと思うよ」
「キーパーとは? 別に見下して言っているわけではありませんけど……それと愛理さんそろそろスーさん達が調理し終える頃合いなので行った方が良いかもです」
「…………まじだ。よしそんじゃそろそろいくかぁ。んじゃマックスへルン今晩またくるからな」
「ヒヒーン!」
一言言い残し私とシホさんはその場をあとにするのだった。
☾ ☾ ☾
【人だかりでは迷子にならないようにしよう】
~街中ステシアと一緒にて~
これだと思うクエストがなく、気晴らしついでにスーちゃんと外を歩いていた。
彼女は幼いながらもキョロキョロと周りを見渡し。
なにやら色々物色しているけど……この年の女の子なら興味を惹かれる物が多いのは当然のこと。元気でなによりだ。
「……愛理さん愛理さんみてくださいよ! あそこに分厚い魔導書が!」
「ちょちょちょスーちゃん! おぉすげぇガチな魔法の本じゃん」
露天の店でスーちゃんが指さしたのは、辞書並に厚さはあるであろう大きな魔導書。
目玉商品として売り出しているらしく……赤字で…………げ、これ金貨15枚⁉ ゲーム機より高ぇじゃん。
人は最初見入った物を率先するという癖があるのだが、赤字でしかも目立つように置いている。
既にお店の餌食となったスーちゃんは、私に体を寄せながら魔導書を指さす。
とてもいいづらいんだけどスーちゃん小さな胸が当たっているよ……き、にしたら負けだなこれは。
「うん、確かにあるね高いのが……まるで辞書みたい」
「? ……辞書とはなんですか、魔導書みたいな特殊な本かなにかですか⁉」
顔が近い近い。
次に私の話題に興味を示したスーちゃんはこちらの方を向く。……やはり本のことになると人が変わるねこの子は。
えぇと魔法の本ではないけど、ちかくはあるかな。……色んな言葉載っているし物によってはその語句数は計り知れず。
昔、学校の嫌いなせんこーに嫌々引用された記憶があるけど、もうやだあれ読みたくない。
「う、うーんと似ているような物だよ。そ、そ似ているような物。でも見ない方が幸せかも」
「……え、そうなんですか?」
「あれ、スーちゃん買わないの? お金まだ全然あるんじゃあ」
「……すみません、なんか愛理さんの話聞いていたら別の物にしようかなって」
私の話ってそんなにつまらなかったのスーちゃん⁉
興味が失せたように立ち寄ったお店をあとにしようとした彼女はたったと歩いて行く。
次々と見入った場所を、見てはまた先へ進みまた見ては進みの繰り返しで機械的に動くスーちゃん。人とぶつかりでもしたらあぶないと思った私は手を引くように振り向かせ言う。
「待ってよほら人たくさんいるから危ないよ。私が手引いてあげるから」
「…………あ、ありがとうございます愛理さん。私興味のあるもの見つけるとこうなっちゃうんで牽引は非常に助かります」
グリモアに滞在しているときだったか、リーシエさんに言われた『あの子はまだ未熟な魔法使いだから、色々と周りが見えなく事もある。だからそうなったときはスーちゃんを助けてあげて』と。
色んな魔法が使える反面こういう顔があるのはとてもいいところだが。
母親観点からみると、危険でしょうがないということなのだろうか。だから危険を感じたら助けてやれと。
私はそこまでいい人じゃあないんだけど……頼まれた限りは気づく程度軽くこうして注意しないとね。要は母親代わりか。
「スーちゃん気晴らしに少し街外でも出てみない? リーベル周辺だけど」
「……気晴らしついでにですか……? ……それは名案ですお供しますよ」
周りが見えなくなるのはよくない。
ならここは一旦場所を変えてリラックスできる場所にでも向かおうと提案してみた。
すると顔を綻ばせ笑みを浮かべてくるスーちゃん。さてさて歩いている間にプランでも練ることにするかな。