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留年になったので異世界生活することにしました  作者: 萌えがみ
第9章 うさぎさん遙かな高みを目指せ
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番外編 うさぎさんの白い魔法使い、時を超えた出逢い その4

【それは私と私が交わす未来の約束】


「……3つ目がそれなんですか?」


 漠然とした返答に私は頭の中が真っ白になりました。

 何を言い出すのかと思えば、私……私達のことを気に掛けてくる助言というより質問でした。


「あぁ……いや昔の私にとっては少し難しい質問でしたか?」


 と腑に落ちなかったのかとこちらに心配を促す眼差しで聞いてきます。

 頭を掻きながら言葉を言い直そうとする未来の私でしたが、私はふと笑みを浮かべると否定ではなく肯定するかのように反対の意を示さず答えてみせました。


「……いえ、大丈夫ですよ。えぇと」


 愛理さん達を大切にしろとそれは一体どういうことでしょうか。

 先々起こる未来で彼女がどういった経験をしたのかは定かではありませんが、それは私に何か警告させる声調。


「……愛理さん達を大切にしろと仰いましたね。時間に干渉するなら敢えて未来のことは聞きませんがそれはどういうことでしょうか?」

「そうですねその前に先に言っておくことがあります」

「……な、なんでしょうか」

「ここで起きたことは私が帰った瞬間、私があなたと出会ったという記憶は全て消されてしまいます」


 これも歴史の作用を避けるための仕様なのでしょうか。

 結びつく趣向がよくわかりませんが、これもなにか訳ありなご様子。

 自分自身なので、なんとなく考えていることは何通りか浮かびはしますが。

 仮にここで起きた事が全てなくなるとなれば、彼女が私に会いに来る理由はないはず。……全部記憶が消えるわけですから、伝えたとしても忘れてしまえばなんの意味もないので。


「ですが、私の……私が告げたことや……物なら残すことができる。……こうして私が教えた内容だったりここで私があなたになにかしら渡したとしたらそれもあなたの手元に残るというわけです……されど思い出すまで少し時間がかかるかもしれませんけど」

「……なるほど、そうなれば合点はいきます。確かにここで知った情報源さえあれば私に利点がいくというわけですね」


 つまりこの未来の私と会ったという記憶は残りませんが、この人がくれた情報や物なら持って帰ることができるというわけです。


「さすが私飲み込みが早いですね。ここは現在(いま)と夢そして未来を繋ぐ少し異質な空間。もうそんなに長くいられませんから少し手短に話しますね」


 私は息を呑み、彼女の言葉を聞きます。

 未来の私がどのような気持ちでここまで遡ってきたのか、何を根拠として私を探していたのかその点が気掛かりでした。


「私の元いた世界だと、あなたは立派な魔法使いになるまで相当時間がかかりました。ざっと4年。気づくのが遅かったこともありますけど、なにより私は自分のことばかり集中していて仲間のことはそんなに気にしていませんでしたから。……今日も愛理さん達が助けてくれるそう確信した思いを胸に膨らませてね」


 そんな錯覚に陥っていたんですか。

 確かに私は他の皆さんに少し依存しきっていた面々もあるかもしれませんが、それが仇となり未来での私は少し失敗をおかした模様。


「結果的にそのお陰で愛理さん達を少し困らせてしまい、私は立派な魔法使いになるのが遅れてしまいました。……そこで過去の私に同じ道を辿ってほしくないと思い、この時代にやってきたんですよ」

「……私なったんですね最強の魔法使いに。ぼっちだったので慣れないと思っていました」

「大丈夫ですよそれ、ちゃんとなれますよあなたなら…………ほら」

「……そ、それは! ま、間違いない本物の」


 彼女は懐からある装飾品を取り出し私にみせてきました。神々しい星形のブローチ。七色に輝く宝石が中心に埋まっています。……それがなんなのか口にしなくとも私には理解出来ました。

 同時に正真正銘未来からきたんだと疑惑を確信に変えて。


 それはグリモワールの証。

 階位がグリモワールになった者に与えられる特殊なブローチで素材全てが逸品物です。

 同時に最強の魔法使いになったという功績を称えられ、種族名のグリモアがグリモワールに変わるのです。

 写真などで見たことはありましたが、まさか実物を拝む日が来ようとは。……これも魔法使いの運命なのかもしれませんね。


「努力は募りますよ昔の私。……そう今の私の名前はステシア・シェスタード・グリモワール。色々あって最強の魔法使いにされちゃいました。まあ自分としてはまだまだですけどね」

「……ということは今は教団に?」

「あ、いえいえ。一応国から誘われはしたんですけどすっぱり断りました。……その愛理さん達とは別れたくないと思い、グリモワールになってもあの家に居候させてもらっています」


 だいぶ愛理さん達に依存しきっていますね未来の私。

 そのおかげで胸も大きくなったとか……正直羨ましすぎますよ。

 でもそれぐらい彼女達が大切だという気持ちに揺るぎがなかったという意味にもなります。……無論今の私も彼女達のことは大切ですし。


「と話を戻して……私が言った先ほどの意味それは。……最強の魔法使いになりたいのでしょう? なら愛理さん達を信じて冒険者家業を続けなさい。でないと遅くなりますから。それとあなたのその呪いいずれ役に立つ日がくると思います。1人じゃないその本当の意味に気づくことができればね」

「……この呪いがですか? そんな……どうしてそんなこといいきれるんですか」


 この呪いのせいで色んな……散々な目にあったというのに何故未来の私は涙ひとつ流さずそう軽々しくいえるのか。

 未だに解決法でさえ見つけられていないというのに。

 私は……魔法の自身はとてもある。……学校のときだってその高い自身があったから卒業までいけた。……なのになのにこの仕打ちですよ。それを未来の私はどう切り抜けたっていうんですか。

 私が拳を力強く握っていると。


「自分が情けない、そして魔法に自信あるのにどうしてこうなるかとあなたはそう思っている」

「……ッ! どうしてそれを」

「人は考えている事を表情と声の調子で分かると聞きます。知っていますともだって昔の私ですからね」


 未来の私は何もかもお見通しでした。

 術中にはまってしまった私は彼女の返答に対して返せる言葉も見つからなかったのです。

 彼女は私に近づいてきて……少し屈んで抱き寄せてきます。

 急にどうして?


「ステシア・シェスタード・グリモア。この際ですから言っておきます。……自分を過大評価するのはやめなさい。むしろ過小評価するのです、過大評価すればどこかで必ず躓きます、なので常に自分自身を過小評価しなさい、そうすれば1日でも早く最強の魔法使いに1歩近づけますよ」

「……ほんとうですか、嘘じゃありません?」

「えぇ。一見下手になるように聞こえるかもしれませんけど、そうじゃありません……本当の自信というのはそれで身についてくるものなのです……錯覚なんかに惑わされないで」


 一度距離を引いて目を合わせ。

 大きくなった私を見つめ直します。……将来的にこんなに大きくなるんだと……そのためには今の自分を過小評価しろと……これによって最強の魔法使いの道が開けると、信じてますよ未来の私。

 未来の私は私の頭に手をそっと置いて。


「私ってこんなに可愛かったんだ。……今も色んな人に声掛けられて可愛いとか言われていますけどね。……あぁそうだこれあげます……お母さんの本みたいなものですけど」


 私に小さいメモ帳を手渡してきます。

 お母さんの本みたいに大きくありませんが、内容がなんなのか私は理解し受け取りました。

 ありがとう。


「もし躓きそうになったらお母さんの本同様それを読みなさい。きっとあなたならその意味を理解して立ち上がれるはずです。……あともう一つ」


 手を握ってきました。小指と小指を合わせた指切り。恥ずかしくはあるのですけど非常に嬉しいです。これが今の自分が発する温もりなんだと肌で感じながら。


「未来の約束ですよ。……あなたがよりよい未来に歩めることを影ながら応援していますよ」


 すると私の体から莫大な魔力が流れてきます。これが未来の私の魔力とてつもないそれこそ今の私とは比較にならないくらいに膨大。


「形だけ残しておきたかったんです、一緒にいさせてくださいほんのちょっとの魔力ですけど。記憶は消えてしまいますが……あなたならきっとその魔力を使いこなせるはずですよ」

「わ、私その……」


 未来の私は立ち上がってその場を去ろうと背中を向け歩き出し。

 どうやら別れの時間がやってきたようです。


「時間ですね。では昔の私、仲間を……そして自分自身も大切にするのですよ」

「……もう行っちゃうんですか。去る前に私からも1ついいですか?」


 次、いつ会えるかわからないので、思い切って踏み出しました。

 歴史の影響だとかそんなのはお構いなしに。現在(いま)と未来を繋ぐならちょっとぐらいいけないことしてもいい気がします。


「どうぞ、あまり歴史を変えるようなことでなければいくらでも」


 ふと首をこちらに傾ける私に踏ん切って言いました。


「……未来のお母さん、あと愛理さん達は元気ですか?」

「……えぇ元気ですよ、きっと今と変わらないくらい全然元気です。あれでもちょっとは変わったかな? まあいいや」

「……ありがとう未来の私」

「うん、元気でねまた会いましょう昔の私」


 視界が真っ白になっていく中、ふと満遍の笑みを浮かべる未来の私自身の姿がそこにいました。





☾ ☾ ☾





「……い」

「…………い」

「おーいスーちゃん」


 誰かが体を揺すってきます。この声は愛理さん?

 うつ伏せになっていた顔を上げると、そこにはうさぎの服を着た彼女がいました。

……なにか重要なこと誰かに言われた気がしますけど、よく覚えていません。……誰かに会ったような会わなかったような少し記憶が曖昧です。


「……あれ、愛理さん?」

「やっと起きた。心配したんだよ……私の元いた世界じゃ門限ってものがあったけどさもうすっかり夜だよ。……みんな家で待ってる」


 薄目でこちらを見つめてくる愛理さん。

 怒っているようには見えませんが、どうも心配しているご様子。

 というかもう夜ですか。……酷く疲れて寝てしまったようですね、手紙を書いて疲れすぎたのかな。

 私の背中には……毛布が。……これは。


「……愛理さんこの毛布あなたがかけてくれたんですか?」

「いやさ、風邪引くといけないしね近くで買ってきた」

「……あ、ありがとうございます」

「手紙書いてたの? すごく疲れてない? ……もう遅いし帰ってから書こうよ」

「すみません、文が中々思いつかなくって迷走して」


 確か、文が思いつかなくてそのまま寝てしまいましたよね。

 周囲には冒険者さんがわんさかといますし、あまりもう迷惑はかけられない。

 ここはみんなのところに帰るのが得策でしょう。


「分かるよ、私も昔色々やらかして反省文くっそ書かされたことあるし…………あれスーちゃんの学校ってそういうのあった?」

「……あぁ。アンコさんが魔法で悪さしてたら先生に見つかってそういうのされましたね」

「アンコちゃんのそれ黒歴史なんじゃ……おぉっとごめん、人の友達を悪く言っちゃあいけないよね」


 愛理さんは口は悪いけど、それでも優しい側面があります。

 そういうところに私は引かれたんだなと改めて実感。

 ギルドをあとにし、夜道を歩いていると。


「およ、スーちゃんなんか落としたよ? はい……なんか小さなメモ帳だけど」

「ありがとうございます? ……なんですかこれ見慣れぬメモ帳ですね」


 はてさてこんなメモ帳見覚えがありませんけど、これは一体なにか。

 少し使い古されていますけど……こんなものありましたっけ。見覚えないんですけど。


「何故に過去形? ほら行くよミヤリーとシホさんが腹すかせて待っているからさ!」

「ちょっ待ってくださいよ愛理さん! ……速いんだから」


 全力疾走していく愛理さんに追いつこうとする私。

 そのメモ帳を片手に私は中身を読みながら彼女を追いかけました。


「こ、これは。……よく覚えていませんけどとても大切な人からの贈り物だった気がします」


 開いたページにはこのように書かれていました。






『人を信じていれば、人は何度だって立ち上がり前を歩ける例えどんな恐怖が前に立ちはだかろうと』






 私は今日も1歩彼女の背中を追い続け前進。最強の魔法使いへの道は険しいけどこれからも頑張ります……母の……母以上の最強魔法使いを目指して。

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