163話 うさぎさん達、気晴らしにキャンプする その6
【ときたま人に言いづらいことだって多分あると思うな】
日は沈みはしたが調理を始めた。
暗い山の中、外で調理する私達は各々協力しながらカレーを作っていた。
ミヤリーは野菜や肉を切り鍋の中に詰める。スーちゃんは魔法担当。私とシホさんは煮込む係。
「これくらいの大きさでいい? イマイチ大きさが分かんないけどさ」
「うん、それくらいでいいよ。……ってお前その剣小さくさせることもできるのか」
均等に材料を中くらいのサイズに切っているところに私は目を付けた。
彼女のいつも使う剣が包丁くらいのサイズに縮小していることに。真っ黒な包丁そしてこの着色は明らかに彼女のもの。……1日たりともこいつの持つ武器を忘れたことはない。
え、それサイズ変えられるの。
「あぁこれ? えぇ私の思うがままサイズは自由よ」
「めっちゃ使い勝手のよさそうな武器だなぁ」
「そんな高値で売ってと言ってもあげないわよ」
「いや、いらんし」
別に欲しがっていないのに、少し見つめただけで彼女はお前にはやらんぞと隠すようにそう言う。
ドストレートに正直なことを答えるとしかめた顔で。
「それはそれで酷いわね!」
「おっとミヤリー口より手動かせよ。私達はカレーを見張るのに忙しいからさ」
「愛理さん、もう少しで沸騰しそうです」
「……問題なさそうですね。言われたとおり丁度良い火力で着火できてよかったです」
そんなこんなで他愛のない話を挟みながら調理。山から聞こえてくる動物達の鳴き声に少々怯えるが気にしちゃあダメだ我慢我慢。
苦労しながらも問題なく、順調に調理していきそして1時間ちょっとで。
「はい、ということで遅くなったけど諸君、無事カレーライス完成しましたはいパチパチパチ……」
完成したカレーの鍋に手を差し伸ばし私はひとり拍手する。
シーン。
だが、みんな無反応で沈黙する。いやなんかしゃべれよ。
異世界には空気を読むという風習はないのか。お願いだから拍手頼むよほら夜の山って怖いと聞くし。ち、チキっているわけじゃあないぞ、本当だって愛理さんは嘘言っていないからなこれは本当の本当。
「ま、まあちゃんとできたしいただこうとしようかしらね」
「……はい、冷めないうちに食べたほうがいいですよ」
「ご飯盛りますね。……スーさん大きなスプーンはどちらに?」
「……あぁそこに」
とシホさんはカレーの入れる皿を用意し盛り付けようの少し大きめなスプーンを手に添える。
そういえばしゃもじなかったな。……中世の文化だしないのは当たり前だからここは我慢しとくとして。
盛り付け終わると各々ルウをかけて、周囲に寄せ合うようにして食べ始めた。
黙々と食べる私達。案外美味しくて手が止まらない。山カレーって美味しいのかこんなにも。
そうして時間は一向に過ぎ食事が一段落したあと。
「話は変わるけどさ、最近のんびりしているけどいつでもバイタスが襲ってきてもいいような準備はできているわけ?」
少しの黙り込む3人。
唐突にバイタスの話を切り出したが、いつまでも平和ぼけするのもよくないなと今のうちに聞いてみた。
考えに耽る3人は唸りをあげながら思い悩んでいる様子を浮かべていた。……あれまだ覚悟出来ていない感じ?
すると視線をこちらに向けて3人はうんと首肯し。
「……えぇ。勝てるかはわかりませんがある程度は。あれを倒さないとこの世界に平和がやってこないというのなら今度こそ完膚無きまで叩き潰してやるまでです。……私の魔法でね」
「愛理さんもうご迷惑はおかけしません。それに愛理さん以前と比べてあなたは色んな物を手に入れているはずですよ。そう力以外にも……ですから今度はきっと勝てますよ私みなさんを信じていますから」
「ま、まあ私は一番足手まといだけど……ピンチになったら言ってよね助けてあげるから。今更だと思うけど私達は……大切な仲間でしょ?」
お、おまえらぁ。
ひとりひとり決意を固める言葉を紡いでくれたが、割と真面目な返事が返ってきて私は感動した。
この世界に来てもう少しで半年は経過する。
色々あったな、それぞれ抱えている事情は違うけど私を悪く言わずちゃんと付いてきてくれた。いつも文句ばかりいうけどさ、それでもこの間が一番溶け込めるというか。
その点に関してはみんなに感謝しないとね。
「あ、ありがとう。決意は決まっているようだね。……現に私も勝てるかは分からないけど来る日がきたらバイタスの野郎をぶっ潰してやろうぜ」
一同にこりと口を歪め笑う。
するとスーちゃんが近くに駆け寄ってきて……ひとつのガラスコップを手渡し。
「……喉渇いていませんか? ……アクアはいどうぞ」
「ありがとうスーちゃん丁度喉渇いていたところだった」
スーちゃんが水を作ってくれた。
魔法で作った魔法って美味しいのかと一瞬戸惑うが、いざ飲んでみると思いの外美味しかった。
うん魔法ってやはり便利な一品だな。
「よし、みんな今日はそのバイタスに備えての心の準備ということで今のうちにたっぷり食べておけよ」
「愛理さん、ご飯まだまだたくさんあるので盛りますよ!」
「うんもらう」
「愛理! ルウもまだまだたんまりあるわよどっちが早く食べられるか勝負よ」
「あいさ」
「……みなさん時間はまだたっぷりありますからそんなに急がなくても……わ、私まだ1杯しか食べていないのに」
と1人マイペースで食べるスーちゃんをよそにその日はみんなと夜遅くまでカレーパーティーを楽しみましたとさ。
☾ ☾ ☾
家に帰ってきてから早々、スーちゃんは少し野暮ができたと言いギルドの方に向かった。
なんでもこの間もらった手紙をじっくりと読みたいんだとか。
誰からの手紙だろう。お母さん? お父さん? ……それともうんわからん。
「どうしたのよ愛理、机でくつろいでさ」
「つまらん、もうちょっと面白いダジャレ言え」
「はいはいそうしますよ……じゃなくて! らしくないわよ疲れてんの?」
「うむ、それもあるけどスーちゃんどうしたのかなって」
「ご親族の方からの手紙でしょうかね。それ以外にも何かありそうですけど」
探っているのシホさん。
あまりしつこい詮索はやらない方がいいけど、この間手紙を受け取った後のスーちゃんすごく嬉しそうだったし……気にならないこともなく。
私は……いや私達はまだ彼女の知らない側面を把握してないと思う。
今日は休みたい気分だったが、やはり彼女が気になる。別にストーカーしようっていうんじゃあない。少しでもいいから聞こうかなと。
私は立ち上がり。
「どうしたんですか急に立ち上がって」
「おっとやる気なスイッチ入ったのかしら?」
部屋を出る私は呆然とする2人に首を捻って答えた。
「あ、いやちょっと気晴らしに散歩に行ってくるよリラックスリラックス。ふたりは家で待っていていいよ……ほらこの間狂政から借りたゲーム出して置いたからさ……んじゃ」
「あちょ愛理さん⁉」
その場から逃げるように外へ出る私。
確かスーちゃんとふたりのとき思うにあまり機会がなかったと思う。
これがきっかけで彼女の違う面を知れたらなといいなと考えこみながら歩く。
……スーちゃんが向かったであろうギルドの方に足を運んで……あいた。
「スーちゃん?」
ギルドの外にある窓越しを覗き込むと、机に座り人知れず手紙を読みながら普段見せない笑顔で笑う彼女の姿があった。とても嬉しそうな天使のような艶然。愛撫したくなりそうなその表情についうっとりする。
密かに見守りながら私は少しの間彼女の成り行きを観察するのだった。