162話 うさぎさん達、気晴らしにキャンプする その5
【1日朝・昼・晩ちゃんと3食必ず食べよう】
遡ること愛理達がバーサークベアーと交戦する一方。
「……遅いですね愛理さん。もう昼とっくに過ぎているのに」
愛理さん達が材料を調達しに行ってからはや3時間程度。
私とミヤリーさんはふたりの帰りを待ちながら、調理の準備を行っていました。
「うーん大丈夫なんじゃない? なんだってあのふたりだもの敵なんているわけないでしょ」
「……それはそうですけど、3時間なんてよほどじゃありません?」
呑気に落ち葉で作った焚き火で、焼き芋をむしゃむしゃと食べるミヤリーさん。近辺に何個か転がっていたので私がかき集め周囲に散らばる落ち葉を利用し焚き火を作ってあげました。
食事前に間食とるのはよくないと、母から言われていましたがここは少し大目にみることにします。
でもほんとうにどうしたんでしょうかね。まさかと思いますけど、この山に住む危険生物バーサークベアーに襲われていたり……可能性はゼロではありませんけどあり得るかも。
ひとまず魔法で石をかき集めて、ある程度の準備を済ませておきます。
大中小ばらつきのある石を適当に円状に並べ設置。これでよし。
「それでいいわけ? そのぽつんとなにも置かれていないところに木かなんかくるの?」
「……はい。燃やすためには薪がたくさん必要です。私が魔法を使ってもいいのですが、ふたりがとてもやる気だったのであえて使っていないですよ」
役割をとるのってなんか悪い気がしてなりません。
ときに魔法を使わないのも最強魔法使いを目指すひとつの近道なんだとか。別に悪い気はしないですね。
円状に置かれた石の内側には何か置けそうな余白が。ここに愛理さん達の持ってくる薪が入ります。
キャンプなんてあまり経験ないんですが、いざ仲間と一緒にやってみると楽しいもの。
と後は。
「あとは鍋ね。……鉄かなにか作る魔法使える?」
「……仕込みは済ませておきました」
「お、さっすがスーちゃんね」
物質から物体へ変化させる魔法を使って中くらいの鍋を作ります。
丁度石と同じ面積のサイズ感。すっぽりと間に入るくらいの大きさですね。
あとは水の魔法で溢れない程度の水を鍋に注ぎ込んで。
「あとは愛理達が帰るまで待機すればいいのかしら?」
「……ですね。この米というものがよく分かりませんが。……なんでしょうこの袋のような包みは、粒らしきものがたくさん」
私の横にぽんと置かれた大きな袋。一度持とうと試みましたが非力な私では持ち上がらないくらいに重量がありました。鉄がたくさん入っているかのようなその尋常ではない重さに私は思わず声を漏らし驚嘆。
愛理さん、なんて物を出すんですか。
「ほんと不思議よね~……うぅ重たい」
彼女が持ち上げようにも結果は同じ。
こういうのを不可抗力というものではないでしょうか。
ひたすらとふたりの帰りを待っていると、突如向こうから激しい物音が響いてきて。
\ドガァァァァァァァァァァァァンッ‼/
いやなにごと。
あまりの地響きに思わず私達はぴくりと反応してしまいます。
その物音がした方向は、愛理さんの向かった方角からでした。
「き、聞いたスーちゃんさっきの。なんかドッカーンって物音したわよ」
「……そんな語彙力のない人みたいに曖昧な表現しない方がいいかもしれませんよ。他の冒険者に揶揄われるかも」
「う、うるさい! 私はこーいうやつよ100年眠っていれば昔のことなんてあっさりだからこればかりは」
そっぽを向きながら弁ずる彼女は、腕を組み口笛を吹いてみせます。……そういえば愛理さんが言っていましたね彼女の故郷では口笛をやり過ぎると蛇がよってくるとか。滑稽な事柄なので迷信だと思いますが。
「はいはいわかりましたから。それでミヤリーさん話は逸れますけど調理の経験は」
「ないわよ」
即答。
秒足らずで彼女は即座に答えました。
え、では昔仲間に全てやってもらっていたとそのように言いたいわけですか。……その言いづらそうに頬カキカキなんかして顔に書いてありますよ!
「言いづらいけど昔いた魔法使いが全部やってくれていてね、その他の人……私も含め全員傍観者気取りだったのよね」
完全に箱入りむs……ごほんごほん。
「……あわわ。かわいそうに分かりましたよミヤリ-さん昔のことは忘れて私達が丁寧に教えるので覚えてくださいね」
「ちょっちょっと待ってスーちゃん、なに申し訳なさそうな顔をそこでするの⁉ ちょっとやめなさい! これでもし読者から53ヤリーとか言われたらどうするのよ、そんなレッテル私は嫌よ!」
どう返せばいいのやら。
擁護のしようがないじゃないですか。ちまたではこういうのを迂愚……世間知らずと言うならざるを得ず。
顔を作り誤魔化すように私は甲高い声(わざとらしい演技)で彼女に向かって。
「し、心配いりませ~んよ! 仮にそんなこと言われても私が魔法でなんとか誤魔化しますから」
「ば、馬鹿にしないでよ! 言っとくけどね長年の先輩として言っておくけど……丸切り馬鹿じゃないからね! ……ってなによその話を流すような顔は……信じてないな?」
「ご想像にお任せします」
私は拉致があかないと思い話をそこで蹴りました。
☾ ☾ ☾
ステシアと合流直前
マスターラビットの力を駆使して、大幅時間の節約をし短時間で元いた位置まで移動したが。
体はヘトヘト。おまけに腹がなるときた。
蹲りこの世の終わりのような悲鳴を上げ。
「もう私達はおしマインダー!」
「ちょっと愛理さん急に跪ついてどうしたんですか弱音なんて吐いて。そんな大声だしていたらまたあのクマさん沸いてきますよ」
遽然として反射的に立ち上がった私はシホさんに頭を向け。
「……それは嫌だな。なんつーの泥試合っていうやつ? 嫌だよ私の体は100もねえんだ」
「切り替え早ッ⁉ スイッチ入りましたね……うんあれは」
「あ、スーちゃん達だ……おーい」
頑張って歩いていると拠点へとたどり着く。
するとある程度支度を済ませているふたりが黙々と作業に取りかかる様子が見てとれた。
手をふると私達の方に駆け寄ってきてくれる。
「……あ、愛理さん、シホさん……待ちくたびれましたよ」
「ぜえぜえ」
「どうしたのよ愛理、世紀末な顔になっているわよ」
「いやなっとらんわ! そんな私の顔老けているように見えたか⁉ ゴン!」
不意にも拳がミヤリーの頭に直撃し。
チーン。めでたくご臨終 (めでたくないけど)
「ちょちょちょ。愛理殺すことないでしょう⁉ いいから蘇生させなさい」
「すまんすまん、気が滅入っていたのでつい」
「「つ、"つい"じゃないわよ‼ このままあんたが私を放置したらまた変なあだ名付けられるわよ。んなのごめんよ山の棺桶とか変な汚名想像するだけで目眩がしてくるわ!」」
【ミヤリーは『とりまかまってちゃん系の山に住む棺桶少女』の称号を手に入れた】
はい連チャンでめでたくこの人フラグ回収しました。
こういうの敏感だよねAIさん。
【そうですか?】
そうだよ。
なんか妹じゃあないんだけどさ、ミヤリー=いじられっ子キャラis愛すべきキャラという立ち位置が私の脳内で確立しちゃっているんだけどどうしてくれんの?
【どうもしません、ご想像にお任せします】
知ってた。
とりまスーちゃんの蘇生魔法によって、ミヤリーは蘇生し事は振り出しに戻りテイク2。
「あ、危うくまた売り出されるところだったわ」
「大丈夫私の知ってる作品ではそういうやつはラスボスの風格になれるよ! でも日光浴びたら完全消滅しちゃうかも」
「愛理、私は吸血鬼じゃないからね? 血なんて吸わないし飢えてもいない」
「じょ、ジョークだって。だからそんな拗ねないでよ」
冗談のつもりが、どうしてこうなった。
さりげなくネタが伝わってなによりだが、吸血鬼なんて一言も。
「ほらみなさん、こうしている間にも……時間が………………あ」
「? どうしたのシホさん………………? あ」
思わず口が止まってしまう。
シホさんの向いた方向……それは空。
真っ暗な空中を彷徨うのは散り散りとした星々。そしてお月様がひとつ。
因みに月にうつっている物は国によって見方が違ってくると妹が教えてくれた気がする。
……。
……。
……。
じゃなくて!
「「すっかり夜中になっとるやんかーーーーい‼(木霊しながら)」」
「夜ですね」
「えぇ夜よ」
「……夜でした」
不覚。
時間感覚ってなんか怖い。
みごと1食抜いてしまった私には、我慢しがたい空腹による地獄の調理なのだった。あぁカップ麺でもいいから今食いたいよ。因みにシーフード派な私は。
さて無事美味しいカレーを餓死寸前に作ること出来るか心配。それはまた次の話。
うさぎさんのキャンプはこれから始まったばかりである。




