161話 うさぎさん達、気晴らしにキャンプする その4
【料理は時間かけた方が美味しいものだ】
バーサークベアーに遅くも渾身の力を込めたパンチを放つ。
こちらには目もくれていないせいか視点はシホさんに固定されていたのでチャンス。
「ストロング・ラビットパンチ!」
スパン
と歯応えのいい炸裂音が木霊し、敵は数メートル先に飛ばされる。
「た、助かりましたありがとうございます」
「やべえなあいつ相当速いぞ」
相手の飛んだ方を振り返り様子を伺った。
土煙が上がるのは少し先の方角。すると煙の中からひとつ高速で移動する物体が。
視界はそんなに見えないはずなのに迅速をだしながら次第にこちらとの距離を縮めていく。
「シホさん気をつけて、すごい速さでこっちに向かって来ているよ」
「はい、私も微量ながら音で感知できます、前方、左、右……」
シホさんは音で敵の位置を判別する。
彼女の聴力にも驚きだが、クマの素早さにも驚く。
私にも音が徐々に迫ってきていることが分かる。これは危険だと感づいた私は拳をぐいっと握り。
「グガアアアアアアアアアア‼」
「そんな一瞬で距離を詰めてきた⁉ 愛理さん!」
なんと瞬時にこちらに移動してきて視線があった。ちょうどゼロ距離の拳が一発放てるくらいの狭まった間合い。
え、そんなのありかよと悠長言っている暇もなかった私は切り裂いてくる爪の攻撃に対して拳で対抗する。
「ゴラァ!」
「ぐぅ!」
だが相手は危険を察知して攻撃した側の手を盾代わりにして攻撃を防ごうとする。……そこまで大きさは離れていないのでこのパーカーにおける巨大特攻もそんなに働かなそうだが。
拳が触れた瞬間、攻撃は大きなクマの防御によって受け止められてしまう。案の定そんなに威力はでない。
「知ってたけどさ! ならこれならどうだ!」
力を増させようと連続でパンチを数回入れる。
だがスピードは少し遅めで普段使うノマアサに比べたら、それは少々物足りなさを感じる遅さであった。
おかげで一発一発が遅くそして重く感じる。
「ぐっスピードがでない」
「これでどうですか! はぁ」
応戦してシホさんが縦横と斬りを入れるが体の頑丈さもあって一発では倒れない。
依然として私に攻撃を続ける。
攻撃する速度も、ストロングでは対処できないくらいの速さで次々と強力ひっかく攻撃が私を襲う。
隙を狙いなんとか狙おうとするもダメで。
「ぐあ! てぇ」
軽く肌を裂かれる。軽傷ながらもそれなりに痛い。
これはだめだと一旦引き下がりシホさんの方に詰め寄る。
「こいつ強くね、あんな巨大な見た目なのに、全然遅くない」
「噂に聞いた程度でしたがこのような強さとは……少し予想外です。私少し本気出しましょうかね」
「うん、秘策あるの?」
「えぇあれぐらいの速度そして体力は短期決戦で臨む場合、見た感じですがあまり現実的ではありませんね。こうなれば」
シホさんは少し念じるように剣を身構え、中腰になると彼女を囲むように激しい淡い光が発生した。こ、これは。
高々に宣言し。
「脅精の変異力 弐局身!」
急に体の色が全体的に青くなるシホさん。……これって確かシホさんが随分前に使った禁忌の技に当たる後継種に当たる技だったはず。
でもスーちゃんから聞いたのとちょっと違う。以前は燃え上がる赤い色に身を纏っていたとかって。……よもや仕様はおろか色まで変わるとはなぁ。
「さて、愛理さん颯爽と終わらせますよ」
「お、おう!」
少し油断してしまうのではないかと少々心配気味な私だが、ここは彼女の言葉を信じて戦うとしよう。
「さあ覚悟してくださいね」
シホさんが一言述べると、通り過ぎる風のように姿を消しバーサークベアーの背後に回り、相手の背中を軽く突くようにして宙へと突き上げた。瞬間移動し先回りで飛んでいく軌道へと移動。接触する寸前に力強く振り払う。
止まらないスピードで連鎖攻撃をいくつも重ね続けて数回。
「これで!」
クマは地上へと叩きつけられる。
私の方に瞬間移動し私に報告し。
「ある程度弱らせておきました。1時間でしたっけこれ維持している間でも時間は消費されるので慎重にいきましょう」
「うん。……ていうかそれはそうとその力速すぎね。パワースピードはおろか、まさか空も飛べるなんて……反則にもほどがあるけどさ」
「そういう仕様ですこれは。……全能力値が100倍に跳ね上がるのであれぐらいどうってことないです」
マスターと似通っている部分はあるな。
だがこっちは単に基本的な能力を100倍に上げる仕様みたいだから、こっちの方が若干控えめか。
ふうならこんなクマさっさととっちめて美味しいカレーでも作りますか。
「EXラビットパーカーチェンジ!」
ポッケからガジェットを取り出してパーカーチェンジする。
ホログラムに光るパーカーへと変色し、マスター・ラビットパーカーに。
「こっちの方が効率よくない? シホさんばっかり良いところ持っていかれるんじゃあちょいと愛理さんにとって情けなくなるからな」
「了解です。ならあのクマさんをふたりでやっつけてあげましょう」
襲いかかってくるバーサークベアーに2撃使う。
光速で繰り出すラビット・パンチで敵を苦しませ。
「M・ラビット・パンチガトリング」
「ぐがぐがぐがぐがッ!」
数百、千、万と繰り出されるパンチによって、クマは木を周りの木を倒しながら飛び回る。
そのクマを追いかけるようにシホさんは瞬間移動し技を解き放つ。
「ウルティム・ソード!」
風を伝う光の刃が2つ。それを複製するようにいくつも増やすと数多に達する量になる。その刃はバーサークベアーに目がけられ見事命中。体制を立て直しはするが息を荒くする敵の後ろ側へと周り。
「よ」
「ッ⁉」
肩をポンポンと叩くと汗を垂らしながらこちらを向く。
私は手をコリコリ鳴らしながら力の籠もった拳をバーサークベアーにみせる。
さあて散々時間を無駄にされたんだ。落とし前はつけてもらわないとな。
「やっぱクマとうさぎ上手だったのはうさぎだったようだな。散々てこずらされたけどこれでもうおわりだ。というわけで」
拳、拳、拳。絶え間なく続く拳の嵐。宙に目がけて放つそのパンチによって、クマの体はボロボロになっていく。
一発ごとに尋常ではない力量を込め放ち。
「ゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラッ! ……ぶっ飛んでいけM・ラビット・ガトリングパンチ!」
クマは地平線の彼方へと飛んでいき、空にまたひとつの星が光った。
あ、やりすぎたまいっか。
☾ ☾ ☾
その夜。
焚き火を作って、スーちゃんの作ってくれた鍋を用いて調理し、それを中心に囲んで夕食を頂く。
パチパチとした火の音がまたキャンプ感をいい感じに出しているのでうん格別。
「……まさかバーサークベアーに遭遇するとは、災難でしたね愛理さんシホさん」
「クマこわ、ちかよらんとこっと」
案の定調理するのが遅くなった。
遅くなった理由を説明したら、日が暮れ気づけば夜に。
スーちゃんの魔法や色々とみんなで分担しながら調理したが、まさかこれほどまでに時間がかかるとは。
「……にしてもカレーに入ったキノコ美味しいですね」
「あ、当たり前よ。みんなが採った山菜だからね」
因みに他の食材は肉は入れていないが、人参やジャガイモは山を探索していると普通に自生していたので採取した。
え、不自然すぎねそれっと思ったあなた。いいそういうツッコミはなしで。
しばしの間おいしい料理を味わいながら夜の時間を過ごすのであった。
にしても疲れたな。あんな怖いクマが出るなんて。次からはもう1人連れて行ったほうがいいのかな。