157話 うさぎさん、二手に分かれて行動する その9
【都合良くいつもうまくいくとは限らないそれが人生】
捕まえているデビルを一振りで攻撃してみせるシホさん。
飛んでいる時間に油断も隙もみせず追加の斬撃を放つ。
「おまけです!」
「ケケ!」
深い傷を負いながらもデビルは立ち上がり、残っている1匹と並ぶ。
大した敵ではないが油断していると痛い目に遭いそうなので手は抜かない。
まあこれはゲーマーの勘というかなんだろうね。
「あの攻撃を食らったのに持ち直すとは、注意してください愛理さん」
「うん、分かってる」
頭部を掴んだデビルを一太刀で壁に突き飛ばす。彼女の斬撃は余すことのない豪快な攻撃といった感じで敵は強打してその場に倒れ込む。
素早いからなんだと念入り警戒しようとしたつもりだが、思いの外攻撃は大したことなかったので難なく対処できた。
私の方へ襲いかかってくるデビルに対して。
「足元をすくわれるかもよ」
「ケケ?」
「うん(人差し指を地面の方に指しながら)」
因みに余談ではあるが、足元をすくわれるは誤用で正しくは“足をすくう”が正解ですよ奥さん。試しに国語辞典か分厚い黒いあの辞書でも引いてごらん。ぜってえ載ってないから。
そんな与太話はさておき。
片方の親指を押し込む感じで前に倒す。
\カチ/
ボォォォォォォォォォォオォオッ‼
噴出するがごとく灼熱の炎が敵の体を包み込む。
踊るように発生する渦はこれでもかという程に高温だった。
「ギャアアアアアアアアアアアア!!」
熱さのあまりに叫び声をあげながら苦痛をいうデビル。
……なんて残酷な技なんだこの罠は。敵ではあるもののやり過ぎた感じが否めない。
「地獄の番人でもなったような気分だな」
安直な感想を述べる私はただ単にその燃え尽きていく敵を眺めていく一方。
炎が収まると、丸焦げになったデビルが横たわっていた。
見た感じ……触ってはみるが。
「うげぇ……すげぇ脆くなってる」
少し持っただけなのにボロボロと敵の体だったものは崩れていった。
こりゃマンガやアニメだと規制が入るレベルだ。グロテスク過ぎて笑う余裕もない。
「す、凄い高熱の炎でしたね。こっちの方は処理しましたので先へ進みましょうか」
「ワンシーン跨ぐ間に何があったし。……まあそうだねこのラビット・トラップ・フレイムは高熱を凌ぐほどのばかすごーい攻撃なんだよ」
「? よく分かりませんけど取り敢えず強力炎攻撃だということは理解しました。……この先にはギルドの人に寄れば大したモンスターはいないそうですが、罠はたくさんあるんだとか」
ま?
シホさんの一言で私はその青ざめる。
大丈夫ですよね? 頭が痛くなるような難問とか嫌よ私は。
「なあに苦い顔しているんですか」
「いや、苦い顔なんかしてないから。ほら行くんでしょじゃあいこいこ」
自分の恐怖を包み隠すように私は前進し、最深部を目指した。
2人ではあるものの、歩一歩を慎重に先をよく見ながら歩く。道中モンスターに出くわすものの、僅か数秒しかもワンパンで仕留めてしまう。
そういや今、どれぐらいレベル上がっているんだろう。歩きながら冒険者カードをチラ見。
愛理 レベル 78ry
ステータスまではちゃんと見なかったが。
え、知らん合間にそんなに上がっていたの? そういや熟々思うが、でけぇモンスターとやたらと当たってね?
「どうしたんです、そんなに前見ずにあるていると罠に引っかかりますよ?」
「そんなガキが赤信号で歩道を歩くのを止めるみたいな言い方やめて欲しいな。……いやちょっと冒険者カードを覗いていてね」
「アカシンゴウ? はよくわかりませんけど、注意は行き届いているってことでしょうか? ……すみません」
な、なに私が悪いことしちゃっているみたいな展開になっているのさ。
こらぁ眉をひそめるんじゃあねぇ。背徳感とか勘弁だから‼
ぼそぼそと語りかけるように念を押し。
「い、いや大したことないよ、ただレベルを確認しただけだから。そんな自分を深く責めなくていいからね!!」
「……そうなんですか? 表情が少し怖かったので勘違いしちゃいましたねあはは」
あははじゃねえよ。
私ってそんなに顔って怖く見えていたの? 気遣ってプラスな言葉で誤魔化しているんだろうけど、本当本当だからねシホさん。
多少涙目になっているが、あれか割と根に持つタイプなのかシホさんって。
そのように考えながら先を進みダンジョンを攻略していく。
いつもならミヤリーが自爆特攻しにいくが、今日はそれがない。別にあいつを唾棄しているわけではないが、なんかいつも通りじゃあなくて腑に落ちない気分。
油断していると後ろから、巨大な大岩が突っ込んでくるとシホさんが剣を一振りで綺麗に切断する。あれ今のコンマ秒も掛かっていなかったぞ?
物音しないモンスターから奇襲を受けても、私が警告する前に瞬殺。あれ前より強くなってね。
「つ、つぇぇぇなシホさん」
「そ、そうですか? 私はいつもこれぐらいの加減で生活していましたけど……」
「うん、そういうのを規格外というんだよ。ったく姉妹揃って飛び抜けた力の持ち主だよあなた達は」
人には生まれつきの才能があるとか、そんなこと聞いたことある。
いやでもこれはいくら何でも度が過ぎているというか、まあこれがシホさんらしいから私としては妥協ライン。
この調子で次出てきたバイタスを瞬殺してくれると滅茶苦茶助かる。……え、そんな台本どこにもないって? までしょうね分かっていたけれども。
「どうやらここが最深部の部屋みたいですね」
「なんもねえじゃん。……仕掛けっぽいものはなしか」
空室。
何一つない綺麗な部屋。
実は仕掛けがあったりするんじゃないかと、パーカーの機能を使ってみるするもののなし。
いや、まじでないんかーい!
「……あ、愛理さん本当に何もないみたいです」
「え、うそやろ! ここで最強大敵が強力なアイテムを守るために現れて……だったり…………」
……
……
……
シィーン。
そんな時期が私にもありました。
まじで追っ手もボスモンスター1匹たりとも出てこず。……一応依頼はモンスターはある程度狩れたことだしよしとし。
「あのシホさん、私達の時間って」
「愛理さん、こういうクエストも中にはあるんですよ」
「し、シホさんんん!!」
「ちょちょちょちょ⁉ 愛理さん、抱きつくのはいいですけど服で鼻噛むのはやめてください‼」
「でも断るよ! この腑に落ちない気分を癒やしてくれるのはシホさんただ1人だ!」
自分でも支離滅裂なことを言っていることは自覚していますはい。
「あぁもうそれじゃ依頼も達成できましたし帰りますよ」
「ずーずー。あと3分あと3分だけでいいんだ」
「仕方ないですねぇ3分だけですよ」
意外と素直じゃん。
虚無すぎて彼女に癒やしてもらおうと思ったがやはりシホさんは優しい。うんそれがいい。
少しの間、私とシホさんはそこで休憩を取った後スーちゃん達の待つリーベルへと帰還するのであった。
そしてその夜。
「……なにやっているんですか」
「しゅ、収穫0? 強敵もなしで。え、まじでいってんの?」
「うん、おおまじ。だから2人ともそんな意外な顔しないでくれ。1万円プリカで課金してガチャで爆死したゲーマーみたいな反応やめてくれ」
「……カキン? それは失礼まあついてないときもありますよね。ほらミヤリーさんいつまでも固まっていないで」
「あ、愛理さんはそれなりに頑張って戦っていましたからね。あの炎のトラップ目を見張る物ありましたし」
馬鹿にされているのか、はた褒められているかも分からないが2人にそのことを報告したら一瞬疑うような視線を送ってきた。
ついていないときは本当についていない。そんなことを思いながら家でみんなと楽しく調理をしてその日は美味しい夕食を頂くのだった。
あーあ緊急イベント、ゲリラでもいいから来て欲しいよ。