155話 うさぎさん、二手に分かれて行動する その7
【危険な夜道に出歩く際には、親に必ず一言断ってから出かけよう】
あのさみんな、決してこの話無限に続くわけじゃあないよ。
タイトル見れば分かるとおり、二手に分かれているから少し時間を食っているだけ。
だから頼む悪く思わないでくれ。
ということで愛理さんからの事前報告はこれぐらいにしてほんへにゴー。
~12F~
永遠と続く道は私達の行く手を塞ぐばかりだ。
奥へ進む度にモンスターの数は増えていく一方。
途上、冒険者と見られる亡骸もいくつもあり。
「うわ、骸骨あるやん」
「そういえばさっきからたくさん落ちていますよね」
「へ、平然によく答えられるね。……私なんてフィクション系なら笑って誤魔化せるけど3次元は無理なんだ」
足元に落ちている骸骨を指差しながら怖ず怖ずと答える。
未だにスラングが頭から抜けないせいか、異世界の住民には難しい専門用語を口に出す私。
これは引きこもっていた自分の悪い癖なのだが……いやそんなことよりも。
シホさんはそれを見ても平然と答える。
なにその鋼の精神力。
1割ほどでいいから屈しない私に分けてほしいものだ。
あ、だめ? 単にお前のSAN値が低すぎるだけだろって。……そりゃ事実だけど仕方ねえだろ怖い物は怖いんだから。
「そんなにひっつかなくても。……きっとここまで来た冒険者さんもおられたんですよ、そのサンジゲンという言葉は存知あげないのですが、多分大丈夫ですよきっと」
励ますように私の体を優しく啜ってくれるシホさん。
これ、親御さんに見られたらなんて思われるんだろう。
変な蔑まれた息子と母親のペアが私を嘲笑う顔が脳裏に浮かぶ。
想像するのはやめよう体に毒だし。
なんとか気を持ち直して立ち上がり、骸骨を下視する。
ゴロゴロと突くと生々しい音がドブラーとして反響。
気味悪いなおい。
未だに不安が抜けないが……そうだ自分を励ますようにこいつにあれを言おう。
「……返事がない。ただのしかばねのようだ」
「……え、あ、確かにそうですね屍ですけど、それがなにか?」
首突っ込むシホさん。
お約束、定番のセリフを言っただけなのに。
「いや、深い意味はないよ決して。……それよりも先へ進もうはい先へ!」
「ちょっと愛理さん⁉ 顔作ってませんか?」
「ナンノコトカナ~?」
真顔で答える彼女の顔を振り向かずに率先して前へと進んだ。
☾ ☾ ☾
コウモリのモンスターが出現。
「シャー!」
「……っおっと!」
なんの前触れもなく口を開いてかみつこうと攻撃してきた。
反射的に私とシホさんは避けるが、滑空の速さはそれなりにある。……こいつ毒とか持っているのかな。
【ブラックバッド 解説:洞窟に住む小型の吸血鬼モンスター。鋭い口の牙に噛まれると神経麻痺されてしまう。飛行速度が速いので注意しよう】
あちゃ。やっぱそうなる?
……っていうか後ろにもなんかいたー!
「うっそやろ!!」
「ああああああああいりさん!? 後ろからたくさんのブラックバッドが。……なるほどあの骸骨はそういう理由でしたか」
と合点がいったように納得する様子を見せるシホさん。
いやいやなに走りながら当たり前のように回避してんだよ‼ 一発も当たってねえし……そういうのって主人公補正でこちらにかかるものじゃないの? ちくしょー群がるこのコウモリ野郎が多すぎて思考が回らねえ。
天井にあった小さな穴からブラックバッドが群集を作りながら襲いかかってきた。
挟み撃ちに苦戦を強いられるが、私は素早くパーカーを替え。
「ラビットパーカーチェンジ……ミラクル!」
瞬間的に指を鳴らし。
パチン!
透明な反射板を出現させる。
つまり鏡。
ブラックバッドの前には、私達の姿が反射された鏡が出現しそれに向かって猛突進。がしかし板なのであっけなくぶつかり、そのまま床へ落ちて息絶える。
名付けてラビットミラー。
硬度10の反射板を出現させ、敵を自滅させようって技だ。
鏡には高熱も含めさせてある。そうなれば火あぶり状態となりすぐ死ぬってわけ。
「間一髪だったな」
仕留め終わると板が消滅し、隣にすがっていたシホさんが駆け寄り。
「ありがとうございます。鏡ですよね?」
「うん、瞬間的に思いついた方法なんだけどこれの方が早いかなって」
暗い中迂闊に動くことはできない。
単純に壁を張っただけなのだが荒削りながらも上手くいってよかった。
これで実はクソ耐性所持していたら、マジギレしていたかもしれない。
ボルトに戻して周囲を明るく照らし。
「リアルのコウモリ初めて見たけどさこえぇな」
「よろしければ私が今から愛理さんが困らないよう、ブラックバットを1匹残らず殲滅しに行きますけど」
支離滅裂なことを言い出したよこの人‼︎
絶滅危惧種に指定されたらどうするのさ、それだけはマジでやめよう。
「シホさん、生き物の世界にも暗黙のルールが存在する。だからそれだけは幾ら私の為とはいえやめて」
「は、はぁ」
イマイチ腑に落ちない様子を見せる彼女だった。
あれ、なんだか愁眉を潜めているけど、やって欲しかったの? まあいいや。
☾ ☾ ☾
〜14F〜
敵を蹴散らしながら前へと進む。
周囲を照らしているとはいえ、前に気を取られていると敵にいきなり襲われたりした。
「おりゃー!」
瞬間的にパーカーが反応して敵を感知してくれるからいいものの、やはり暗い空間だと何かと不便。
さすがこれぐらいのそれなりの高いランクで出しているものだと合点がいく。
とりあえず敵の面を見たらすかさずラビパン。
あ、今更だけどラビパンは食べ物ではない、ラビット・パンチ略してラビパン。
側から聞くと食べ物みたいに聞こえるかもしれないけど誤解しないでもらえると助かる。
「もう既に光が通らない下層に来たね。モンスターも強敵……っていうほどの強敵ではないけど油断も隙もない」
「ひとまず豆を食べて補充しておきます。ごくん」
シホさんは空腹を感じてきたせいか、満腹対策用の食べ物満腹の豆を一粒口の中に入れ込む。
無限に続きそうなダンジョンを探索していると、道中に人が入れるくらいの小部屋が。
「部屋がありますね、入ってみられます?」
「おふこ、一応入ってみるか」
孔明があったらそのときは後のことを考えよう。
部屋の中に入るとそこは廃れた寝室だった。
やたらと埃まみれだが。
「げっほげっほ、埃が目に。掃除しろよな。……いや使わなくなったから埃まみれだろ」
「蜘蛛の巣も壁際やあちこちに……たぁッ! はい一応片付けておきましたよ」
「サンキューシホさん」
気前がいいことに、彼女は剣を振り払い邪魔な蜘蛛の巣を全て切り落とす。
瞬間的に発生した風により、部屋中に被さっていた埃は地面の下へ。
よし、これで心置きなく探索できそうだな。……マップで確認を……何もいない、なら安心だね。
「ベッドの横に小さいテーブルがあるね、下には本が数冊か」
「昔、宿屋だったんでしょうか? ランプは点きませんね」
ホテルによくあるタイプの、本棚付きのサイドテーブルが両端にあるベッドに挟み込む位置に置いてある。
机上には多少破損しているランプがある。点灯の糸を引いてみるが案の定つくはずがなく。
ですよねぇ、知っていたけど。
部屋中を物色しているシホさんも我を忘れ、気になる物に視線を変えてはそれを突く。
そんなことやると得てして危険である。実はなんの変哲もないものが見せかけの即死トラップだったりね。
墓穴を掘るということが、どれだけ重罪かRPGをやりこんでいた私にとっては見慣れた光景。
でもシホさんに限ってそうはならん。と心底思う部分が私にはある。
「ベタベタ触っていると、変な物が出てくるかもよ」
「それはわかってますけど、やっぱりこういう場所にあるものってとても気になって」
あーめっちゃわかる。見知らぬ廃墟で気になるものが転がり込んでいたら触りたくなるよね。
自分の秘密基地に持って帰りインテリアとして飾ったり。ここが探索の楽しい部分ではあるな。
「同情はするけどさ、怪しすぎるものは触らないようにね」
「はーい。この壺何が入って……。ゴミだらけです」
「ふう。それじゃあ私はここに置いてある本でも読もうかな。面白いことが書いてあるかもしれないし」
立ち寄った寝室らしき部屋で、少々物探しに没頭するのであった。
なんやかんやで私もいくつか気になる物があるし悪い気はしない。