154話 うさぎさん、二手に分かれて行動する その6
【共同作業って大事だと思うんですよね。あと不思議な1つや2つで嘆かないこと】
ひしめくブラストドラゴンの群れ。
策を講じた私はミヤリーさんに指示をだし、彼女に攻撃を仕掛けさせます。
私はミヤリーさんの後ろについて、光栄で援護に回り。
「ごけえええええ!」
ブラストドラゴンはこちらに矛先をむけ、鋭利な爪で引っ掻いてきて。
反射的に果敢に避けはしますが、油断していると後方から灼熱の炎が襲ってきます。
口から繰り出される炎は高熱を蓄えた吐息のため、もろに受ければ丸焦げ。注意しながら攻撃しなければなりませんね。
「あっつ! やったわねそれ」
攻撃の仕返しにミヤリーさんは軽快な動きで敵を切り倒していきます。
巨大な相手に油断もしない彼女は、両手で剣を振り回し立ち向かい攻撃。
戦いに慣れてきたせいか、敵の素早い攻撃も体を逸らして回避。そのまま腹部ごと切断し。
「だいぶ戦い慣れてきたわね。さてまだ100体は余裕でいそうな数だけど」
「……敵は空を飛んで攻撃もしてくるので、油断せず!」
「わかってるわかってる。スーちゃん片付いてきたらその魔法バーンとかましちゃって」
後ろで滑空する敵に中クラスの魔法で迎え撃つ私。
まだグリモアにもなっていない半人前の身ですが、こうして仲間の援護はちゃんとできますよ。
炎の中級魔法──フレイアで間髪入れず襲いかかる敵に。
「フレイア! フレイア! ……しぶといですね」
空を飛ぶことができる敵なため、何発かは軌道がずれてしまい外れてしまいます。体に合わない素早い動きは私の目を疲れさせる。
魔法によって焼かれたブラストドラゴンは、こんがり肉のように狐色へ変わり落ちて力尽きていきます。
実はこのドラゴン比較的美味しい肉なんですよ? 街のレストランによく提供されるぐらい非常に美味なお肉です。これを倒したらミヤリーさんと食べましょうかね。
「はあああああ!」
ステップを踏みながら大振り。
漆黒の炎を身に纏った剣は、豪快に連綿としたブラストドラゴンを仕留めて。
すると彼女に浮かれていた私は1匹のブラストドラゴンに尻尾で跳ね飛ばれ。
「……ッ! しま」
言う間もなく壁に叩きつけられそうになりますが。
瞬時に魔法で。
「ポヨル!」
対象物に弾力性を与える魔法。
これによって、衝撃は最小限に抑えられ軽く済みます。
がしかし、運悪く跳ね返り着した先は、彼女とはだいぶ離れたところに。
「……しまった! ミヤリーさん!」
「大丈夫大丈夫! それぇ」
なのにも関わらず彼女は幾数の敵に対して剣を振るう。
正直私の援護なんていらないくらいに彼女の実力は確かです。
ブレスを吐かれようにも。
「こんなものっ!」
バシン!
「そ、そんなあんな高熱の炎を一振りで」
なんと流体の炎を一振りでかき消したではありませんか。
大抵の物なら触れただけで溶解してしまうと言うのに。
杖を振るうって私は、魔法でモンスタを倒しながら徐々にミヤリーさんの方へと帰っていきます。
順調に帰れば、このまま作戦通り特大の混合魔法をお見舞いできますね。
「フレイア! そこフレイア!」
私の魔法によって作り出された火の玉は列を作るようにして、ブラストドラゴンを直撃させていきます。
学校でたくさん強力な魔法を学んだんですよ? 弱いわけがありません。
燃費が悪いのであまり連発できない究極魔法も覚えているので、このドラゴンにすぐやられてしまうほど貧弱ではないのです。
「!? 1匹が上空へ?」
蠢いていたドラゴンの中から今度は1匹が滑空し、大きな羽をはためかせ防風を発生させました。
軽い竜巻が発生し、私達の行動を阻む。
するとミヤリーさんは迂闊にも、彼女にとって命の源と言えるアイテムを落としてしまいます。
「お、落とした! あんな遠くに……。ぐっ風が強すぎて進めない……また死ぬの私は」
大事なアイテムは彼女とは反対方向の岩一角へ。
数秒で行ける距離ではない。かと言って私も強風によって前を進みづらく手助けしようにもできない境遇でした。
魔法の杖を前へ。……前へ。
「くっ。風が強すぎる」
強すぎるあまりに魔法も唱えられませんでした。
そのまま風力に逆らうことができず私は蹲り、ただただ襲われる彼女を見るだけで。
これでは彼女が危ない。蘇生魔法があるにしてもこの距離ではミヤリーさんのところに着くまで1人で戦う必要が出てきます。
「……ど、どうすれば?」
私は彼女を助けようと懸命に努力は尽くしました。けれどもそういう策もなく彼女はブラストドラゴンに持ち上げられて。体を腕で束縛されて身動きも取れない状態。
それを見て私は思いが張り裂けそうになり高々に叫ぶ。
「やめ、やめろおおおおおおおおお!」
普段は出さない大きな声。
忽ちその声は全域に広がり。
その拍子にとても不思議なことが起こりました。
一瞬視界が暗転したように数秒ほど意識が途切れて、また再び視界が目に映り込みました。
ピシュン! ドゴォぉぉぉぉォォォン!
羽を羽ばたいていたドラゴンが何かの襲撃にあったかのように下へと落ち、ミヤリーさんを掴んでいたドラゴンは風の刃によって頭が決壊。
そして私の手元には何やら重りが。人、人の重さです。
「スーちゃん? 助けてくれたの。それに私の大事なアイテムも拾ってくれているし」
ミヤリーさんを抱き抱えていました。見失ったアイテムも彼女の手にあります。
はて、一体何があったのでしょうか。
まるで一小節区切られたかのような出来事。
それに先ほどの位置より遠い場所に私達は立っています。
見失った、ブラストドラゴン達は一瞥しながら私達を探していました。
これはチャンスです。
ミヤリーさんはそのまま立ち上がり、体制を立て直しますが私は引き留めて。
「……もう潮時です。これで十分です」
「いいの? これぐらいで」
「……えぇ。なんだかよくわかりませんが神様が“奇跡”をくれたみたいですよ」
彼女は瞠目し首を傾げます。
その反応は私も同じなのですが、今ならば一塊になっているのであの魔法で一掃できますね。
魔法の有効範囲にあり間に合っていますこれなら。
「よくわからないけど、準備できたってわけね。それじゃお願いね」
と手に持っていた剣をしまい後ろに下がり待機するミヤリーさん。
私は詠唱し始め、ブラストドラゴンの密集する箇所目掛けて魔法を放ち。
「ガイアノヴァ!」
瓦礫となった岩の断片が一箇所に集まり、いくつかの岩の塊を作り出しました。
中身からは煮たっている光の液体のような物が見えます。
そして塊は、地面丸ごと飲み込むように爆発させブラストドラゴンの群れはその爆発によって殲滅するのでした。
☾ ☾ ☾
任務を終えた私達はリーベルに帰るべく帰路を辿ります。
だいぶ魔力を消耗してしまったため、移動魔法を唱えられるくらいの魔力はそれほど残ってはいませんでした。
「すごかったわねスーちゃん。岩の魔法と爆発の魔法を合わせて打つなんて」
「混合魔法って言うんですよミヤリーさん。言ったじゃないですか消費が2倍激しくなる強力な魔法だって」
「そうよね、そうだったそうだった。でもその前に不思議なこと起きたけどあれ結局なんだったの?」
「……わからないですよ。これは神様からの恩恵と言うことにして。ほら愛理さんがよく言っている主人公補正みたいなものなんじゃないですか」
使い方よくわかりませんけど、酷似したものじゃないですかね。
それにしても摩訶不思議なこともあるなんて。
何が起こったか知りませんが……不思議……不思議魔法。
あることを思い出して、草原の緑地で足を止めます。
「どうしたのスーちゃん? 立ち止まったりなんかして」
「……あ、いえちょっと考え事を。大したことではないのでお気にせず」
随分前に見た、マリィさんの書庫でそんな似たような魔法があったような。
あれは確か。三大魔法の。
(……いやまさか。そんなあるはずは断じてあり得ない)
すぐにその当てはまる魔法を思い出しはしましたが、これはないと思い考えるのをやめました。
ひとまずそれは置いといて、私は再び歩き出し。
「……さて、愛理さん達に先越されないように早く帰りましょう」
「そうね。……ところで2人上手くやっているかしら」
「……きっとうまくやっているでしょう。だって愛理さんとシホさんですからね」
「それもそうね。じゃあいきましょうか」
少し不安を頭に残しつつも、日の射す空を仰視してリーベルへと帰る私とミヤリーさんなのでした。
それにしても愛理さん達本当に大丈夫ですかね。




