153話 うさぎさん、二手に分かれて行動する その5
【見た目でかる〜く判断していると痛い目に遭いますよ?】
広々とした草原地帯。
耳を澄ませれば鳥のさえずりが聞こえてきます。
ようやく下にある草原へとやって来れたのですが。
「それでスーちゃん愛理から何言われてたっけ?」
「……はい、私達は最近ここに住まうドラゴンの群れを蹴散らすのがクエストの中身です」
「ど、ドラゴン? 聞くからに一筋縄ではいかない感じだけど大丈夫なの?」
「……えぇ大丈夫ですよ。仮にあなたがまた棺桶に入ったとしても」
するとミヤリーさんがまた怒って。
「がーもう! 人が死ぬこと前提に話さないでよぉ!」
いつものことじゃないですか。
補助は任せると言おうとしたのに、こんな小さなことで怒るとはさすが彼女です。
今回の依頼で討伐するドラゴンはというとそれはもう強大な敵らしいので、体系も私達より遥かに大きめ。
空を飛ぶことも加味しているので、長期戦になるのは覚悟しておくのが良さそうな感じが。
今いる位置より、数百メートル先に生息しているみたいなので先を急ぎます。
下向してきた岩山より平面になっているので比較的進みやすい感じでした。
魔法で怪しいものがないか探知してみますけど。
「……これといって怪しいものはありませんよ。ですが何度も行っていますけどくれぐれ遭遇するモンスターには注意を」
「分かってるわよ。……って」
言った側から。
私達より少々小さめのドラゴンがミヤリーさんの前に現れます。
その場に座りながら口から火吹きしながら羽休めしていました。
彼らはブラストドラゴン。山岳地帯に多く生息する攻撃的な大型モンスターの種です。
幼少は私達とそんなに大きさは変わりませんが、変わるのは幼少を終えた後。個体差によって大きさはバラバラで伸びがいい個体だと山1つくらいの大きさになるとかならないとか。
「……ミヤリーさんそれやっつけた方がいいですよ」
「え、なんで」
「ゴケええええ!!」
目の前にいる小型のブラストドラゴンはミヤリーさんの方に、勢いよく火を吹きかけました。
諸に受けた彼女は忽ち丸こげになり。
頭の上から黒い煙が上がりました。
侮るなと忠告しようと思ったのに、全く彼女は再三愛理さんが言っているように要領が悪い。
それを見るブラストドラゴンはにっこりと彼女を指差しながら高笑いをします。馬鹿にされてますね。
「ぶはっ。何よ何笑ってんのよ。小さい癖に生意気ねこうなったら」
「ミヤリーさん!」
もう一点。彼女に注意点を述べようとしたのですが、もう遅いと感じた私は伝えるのを憚りました。
ブラストドラゴンは飛びかかるミヤリーさんに対して。
ガシ!
「⁉︎」
見かけに寄らず、物凄い力量で彼女の腕を両手で掴み攻撃を抑止。圧力に押され愛用の剣が下に落ち。
まずいですね、子供といえども小さい頃からこのモンスターは人間の数倍は持ち合わせています。対抗するには愛理さんみたいな色を変える謎服がないと。
「あぁもうミヤリーさん! 子供でも力は強いって事を忠告しようとしていたのに。それストリプ!」
反射的に重力、負荷を与える魔法を唱え応戦。穴に牽引されるかのような空間が発生。
彼女を掴んでいた腕はその引力に耐えきれず手放します。
「しめた!」
彼女は一度束縛から解放されると退くことなく。
再び愛用の剣を携えて敵の懐目掛けて切り裂き。
「ふん」
「ゴケええええ!」
彼女の一太刀によって、そのブラストドラゴンは伏して生き絶えました。
こういう面に関しては、抜け目がない頼り甲斐のある一端の冒険者のように見えますが普段からそうしてくださいよ全く。
倒し終わると、額を拭いながら私の方に近づき。
「ふう助かった。ありがとうスーちゃん迂闊だったわ」
「……とりあえずあれでわかったでしょう? ブラストドラゴンは強力なドラゴンと」
「えぇ確かに。腕を掴まれただけれども、腕がヒリヒリするまだ痛いわね」
自分の腕を擦るようにしてみせるミヤリーさん。
相当体にきているみたいで過敏に痛い反応を見せます。
歯を食いしばりながら片目を瞑る彼女はとても苦しそう。
ここは治癒魔法で回復させることにしましょう。
「……治療しますねヒール!」
油断禁物です。
治癒魔法を使い軽く傷のケアをしておきます。あまりたくさんの魔力は使えないので今はこのくらいにしておきます。
傷が漸次引いていき元通りになると。
「あ、ありがとう。魔力はまだ余裕ある?」
「……えぇ大丈夫ですよ。それでもあまりにも大きすぎと攻撃できる魔力がなくなってしまいます」
「迂闊な行動は避けろってことかしら。用心するわ。うん? スーちゃんこれは」
私は持っている布袋から薬草を数本取り出しました。
「……ピンチになったときはこれを使ってください。いつでも私がいるわけではないので」
「あ、ありがとう」
念入り買っておいたやくそうがここで役に立つとは。……あ、ダジャレではないですよ。
決して彼女のために用意しておいた物ではないです。魔力が底を尽きたとき用に買っておいた品物ですね。
それを受け取ると、彼女はポケットにしまいこみます。彼女は基本手ぶらなのでそこは仕方ないとして。
「……この先ですね」
「どれどれ」
敵の根城と言えるブラストドラゴンの元へ向かうのでした。
☾ ☾ ☾
「ウォッチ」
遠距離を見渡す魔法で向こうの状況を飲み込みます。
唱えると、鏡のような物が目前に現れるのでそこから覗き込むわけですが。
距離は大体数千先は見渡せる仕様になっており敵にバレることなく監視できますね。
(えぇと、敵は、1、2、3……)
岩々に囲まれた箇所にブラストドラゴンは数多といました。
つまりたくさんです。依頼ではここにいるモンスターを一層すれば私達のクエストは完了です。
さてこの場をどのように切り抜けるか私は慮り。
「どうしたのスーちゃん気難しいそうな顔して。……この鏡は? うわたくさんいるわね」
考えていると、ミヤリーさんが鏡を覗き込んできました。
数いるドラゴンに彼女は驚嘆し言葉を失います。
「ど、どうするのよ。いくら私でもああいうのは。……愛理がよく言っているこれ集団ミンチってやつなのでは」
「……いいですからお静かに。そうですねこの数なら……そうだあの魔法を」
「何か方法あるの?」
パッと思いついたのは私の魔法。
それは混合魔法の一種。
混合魔法というのは、2種類以上の魔法を掛け合わせて唱える魔法で魔力の消費が倍以上になる分強力な力を発揮する魔法。
文字通り混ぜ合わせるのですけどそこに秘策が。
「……さてミヤリーさん。愛理さんじゃないですけどおっ始めようじゃないですか」
「スーちゃん一体何を?」
「……まあまあそんな急かさなくとも。安心してくださいミヤリーさんでも安心して倒せる簡単なやり方です任せてください」
遽然として岩陰から立ち上がり誇張するように胸を叩きました。
人差し指を突き立てて、頭に被る帽子を少々回し、口を歪ませて見せます。
まあこういう状況はどう考えてみても魔法使いの専売特許ですし、ここで私が出なければ誰がするというのですか。
私は口数は少なくとも魔法は平均より抜きんでている実力ですから。本当ですおおまじですこれは。
言っておきますけど図に乗っているわけではあるませんよ、正真正銘の確信です!
「簡単って? もったいぶらないで聞かせてよ」
「……まあまあ任せてくださいな。私があの地形を利用してあのドラゴン達にびっくりするような挨拶しますから」
混合魔法を駆使し、敵に一発攻撃を仕掛けようとする私はミヤリーさんに作戦を説明するのでした。