151話 うさぎさん、二手に分かれて行動する その3
【シホさん、新しい伝家の宝刀繰り出してなう?】
ダンジョンの奥を突き進むと、案の定モンスターと出くわした。
穴蔵に潜む蟻のごとく湧いてくる敵の群れは。
「とう! ボルトラビット・パンチ!」
「ぐがああああああ!」
強くもなければ苦戦されることもない、正真正銘の雑魚の集まりであり私が軽く攻撃しただけですぐやられる。
隣で仄暗い道に問わず、シホさんは今日もテキパキと愛用の剣と盾を使用し戦ってくれていた。
「ヤミグモというこのモンスター。たいした攻撃はしてこないんですが、色が同じように見えて攻撃しづらいですね」
「そういうの保護色っていうんだよ。まあ大雑把に言えば重なって見えづらくなる感じ」
このヤミグモという手のひらサイズの大きさしかないクモのモンスターは群衆を作りながら群れで攻撃してくる敵なのだが、攻撃力がそこまで高くないくせに暗闇と同化して非常に見えづらい色(無色に近しい)ため肉眼では捉えにくい。
やたらと地下に潜っていくとこいつらの奇襲に遭い最初のうちは集中攻撃されていたが、ようやくパターンを掴むと私は音だけで関知できるようになった。
シホさんにも事前に危険信号を伝え指示を出すと、言われた方向に向かい勇躍しヤミグモをことごとくと倒してくれた。
因みに言うが、復習クモは虫ではない。
「愛理さんのお陰で助かりますよ。その保護色ですか。……やはり愛理さんは私の知らない言葉を何個も知っていますね憧れちゃいます」
全部妹が会話文から抽出した言葉なんだけどね。
「今は……5階か。そういえばシホさんこのダンジョン何階まであるっけ」
来る前にお姉さんにあらまし教えてもらったのだが、何にしろ数時間前の話。重要部分しか覚えてない私はダンジョンの階層をすっかり忘れていた。
……あれそういえば重要なことわすれているような……まあいいやシホさんに聞こう。
「えぇと15階ですね。各階層には四角の囲環があります。そこを中心的に探し出し下って行けば最下層までたどり着けるかと」
「そうだったね。15階か……ってまだまだかよ」
15階。そういえば聞いたときに豆鉄砲食らった顔した記憶が。「「えっ⁉ うっそやーん!」」とギルド内の冒険者達に注目を集めていたような。
「うし、今のところはそんな困難なギミックはないけど、油断するんじゃあないよ」
彼女は心強くも胸を叩いて。
「もちろんです。危険を感じましたら真っ先に教えてくださいね。命を投げ出してでも守ってみせますから」
「うん、シホさんそういうセリフはこの作品だから許されるけど、他作品でそのようなこと言ったら出オチ〇コマみたいな感じで揶揄されるからやめようね」
死亡フラグは回収しないように私がのりツッコミを入れつつ、ダンジョンの奥へとすすむのだった。
☾ ☾ ☾
「どりゃあ!」
「グゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!」
大きな仄暗い道を歩いていると、巨大な図体が特徴的なモンスターと遭遇。
両腕を力強く掲げながら高々に咆哮をあげる。
反響があまりにも強いせいか壁際に突き飛ばされ衝撃を受けてしまう。
「いってー‼ なおい」
思わず音を上げるくらいに強烈。
鬱結しながらも私は立ち上がり体制を立て直す。
依然としてシホさんは私と同じく衝撃を一瞬受けるが、瞬間的に軌道を変えたせいなのか宙返りで跳ね避けるくらいの軽傷ですみ、お陰で怯みなく敵の方へ疾走し縦横無尽に剣を振るっていた。
「たあああああああ! その程度じゃ私には効きません!」
憚りようのない彼女の大振りは、巨大な体躯を一点に捉え辻斬りするように動く。
暗闇に問わずここまで動けるとはやはり頼りがいがあってこちらとしては頼もしい限り。
その攻撃によって怯んだ敵は痛みの余波でバランスを崩し出す。
「おっちょっと!」
飛躍して回避。飛び上がるのと同時に敵へ10億ボルトの電流を流し。
「ボルトラビット・パンチ!」
常闇の中一層、燦然とした拳が敵の胴体に触れ激しく発光したのち、響き渡るほどのうなり声を上げて向こうへと飛んでいく。
湾曲とした飛びようで地面と天井を交互にぶつけ、向こうにある壁へと激突。
「ぐごおおおおおおおお!」
「し、しぶてぇ」
にも関わらず敵は何事もなかったように立ち上がり、再三向かってくる。
大きな体に似合わず拳を回し。
「ぐぶっ!」
「愛理さん!」
不覚にも回避が追いつかず拳にたたきつけられ、突き当たりに強打する。
まあ大丈夫。ラビット・マントの効力があるから、軽傷で済む。
マスターならこれを0にできるのだが、1度使うと数時間使えないラグがあるのでここで使うのは無策にもほどがある。
シホさんの方に寄り添い。
「シホさん。ダンジョンにこんな強敵がいるとはね。……ここで1つ強い技の1つや2つ使ってくれないかな」
他のパーカーを使うのもいいが、ボルトの照明効果が切れてしまうので迂闊に変更はできない。
だとすると相方のシホさんに頼る他ならない。
戦い初めてから数十分だが、未だに衰えを感じさせない。
作戦の1つで、ダンジョンから穴を開け地上とこことで光源を作る、なんてマンガの主人公がよく考えそうなことを思いついたが……やめにした。崩壊でもしたらどうするんだ。
そこで頼みの綱、伝家の宝刀――シホさんの出番だ。「え、わたし?」と自分を指差しながら瞠目させる。
「そこをなんとか。しぶといんだよあいつ。……本当は他の服で戦いたいんだけどこれ変えるとまた暗くなっちゃうから」
「……なるほどいいでしょう。愛理さんの頼みとあれば」
悠然として、彼女は引責し私の前に立つ。
そして身構える剣を突くように構える。
「これは、私の大技エクスターミネーションの言わば簡約したような技。これは莫大な広範囲・高火力を放つあちらとは異なり、こちらは微調整が可能です」
「つまり狭い場所でも、あんな高火力な技が調整次第で使えるってこと?」
「はい。さて体力が尽きる前に思う存分使いたいと思います」
シホさんは体全体に渦巻くエネルギーを周囲に発生させると、呼応するようにダンジョンないから激しい突風の音が響いてきた。
風を穿つような凄まじい風力は彼女の剣に集まっていき光剣を生成させた。
くるか。大技が。
そして彼女はその目一杯ため込んだ光の剣を振り下ろすと同時に高々に叫ぶ。
「「秘伝剣術 ウルティムソード!」」
「ぐが!?」
たちまち、コンマ秒も与えない素早く、轟くような斬擊は地を巻き上げながら巨体な敵を丸ごと飲み込むとそのモンスターは跡形もなく消し去るのだった。
数分後。
辛うじて巨大なモンスターを倒した、私達は奥を突き進む。
先ほどのシホさんのエクスターミネーションの省スペース版である大技、【ウルティムソード】の火力にはたまげた。
名前もちょいとかっちょいいネーミングをしているが、非常に助かった。
「ここを降りれば6階です。冒険者さんの話によればお宝も眠っているとかどうとか」
「マ? そりゃ行くしかないでしょ。…………あ」
ふと過去のできごとを思い出す。
それはいつぞやのバグ・マウンテンのできごと。
迷路の階層で散々な目に遭ったじゃあないか。……迂闊にも罠にかかり「「かかったなドあほが!!」」な展開になり散々な後始末。
地雷を踏むのはよそうか。こういうのを墓穴を掘るというんだ。
フラグ回収はしないように慎重に。
「どうしたんですか? 思いとどまって」
「いやいや、昔のやらかしたこと思い出してね。……慎重に進まないと後々後悔するなぁって」
「変な愛理さん。……確かにそうですよねトラップの数も未知数です先に進みましょう」
「わっちょ! 待ってよ迷子はごめんだよ!!」
せっせと率先し階段に下って行くシホさん。
そんな彼女に着いていくように階段を降りていく。
15階の険しい道だが私達の探索はまだ続く。
そういやスーちゃんと、ミヤリーどうしているかなあ。
特にミヤリー。スーちゃんに迷惑掛けていないといいけどなぁ。
☾ ☾ ☾
~一方ステシア達は~
「……とか思われたりしているかもしれませんよ」
「え、スーちゃん私全然迷惑掛けていないよね」
「……ミヤリーさんこういうのは“まず相手の状況になって考えてみる”のが一番かと」
「わ、私難しいこと嫌いだからわかんないけどさ、そんな訝しむような顔しないでぇ」
……ステシアは今頃愛理達がどんなことを考えているか、小歩きしながら山の中枢付近まで下っていた。
(……あ、愛理さん早く助けてください。ミヤリーさんまたいつ死ぬかわかんないので)