148話 うさぎさん達のとある1日 その2
【敵の弱点をつくのは重要じゃん みんなそうする私だってそうする】
岩の隙間に隠れたラットの様子を伺う。
中型ながらも、知能はそれなりにあると感づいた私は作戦を練る。
「にしても、敵がこうも素早いとはなぁ」
「それでどうしますか? 先ほど見た感じ非常速い身のこなしでした」
「……魔法で対処するのも1つの手。さてどうしましょう」
正当方としてはシホさんにあのでかい障害物をどけてもらうのが得策だが、それは反って敵の居場所がますます分からなくなる一方だ。
ネズミも素早いって言うし何か……策は。
と。
すぐ傍のスーちゃんに視線がいく。
なぜ今彼女の方に目を向けたかというと。
「……どうしたんですか?」
「えぇとちょっと頼まれてくれない?」
申し訳なさそうな顔で彼女に委任。
そういやネズミって寒いところが苦手だったよな。隙間がない場所なんて尚更らしい。
私がやってもいい……と言いたいところだが、アクアラビットは水がない場所だと無意味なのでスーちゃんに任せることにした。
上目遣いで唸る声を出しながら彼女は勘量する。
くっそ苦そうな顔を私に1度見ると誇らしげに。
「……仕方ありませんね。愛理さんの頼みとあらば断る義理はないです。……いいでしょうそれで何をすればいいんです?」
やはりこの子飲み込みがいいな。
未だにどういった方法をするのか、いまいち理解して居ない様子。
ここは私の知識(妹からの入れ知恵にすぎん)を優しい愛理さんが教えてやろうじゃあないか。
「氷と水の魔法が使えたらいいんだけど……」
「……氷と水ですか? ……かまいませんけど」
「? それでどうやるっていうのよ? 窒息でも狙う気なわけ?」
うん、座布団没収。
「いやいや、クソガキニキが考えるようなことじゃねえから! ……そのネズミってさ隙間がない場所だったり寒いところを嫌うんだよ」
そのように私が平明に語ってあげると、ほうほうと目を丸くさせながら考えを巡らし血相を変え。
「なるほど、やはり博識ですね愛理さんは。それでスーさんの出番というわけですね」
「そーこと。今奴らは言わば袋の鼠。“ネズミ”だけに!」
うまく狙って言ったわけじゃあない。
「場所が一点に絞られているから寧ろ今がチャンス。なのでお願いスーちゃん!」
「……合点」
bの指を作ってくるスーちゃん。
ラットたちが隠れる大岩の他には数か所、やつらが入れるくらいの岩が見える。四方替えはいくらでもありますよ的なぐらいに間に合っているくらいに。
スーちゃんは私達より前に出ると杖を前に出すと唱える準備を始める。
「……上級魔法からなにまで使えますから……造作もないです。最初に津波の魔法を唱えそれから氷魔法で津波そのもの全て凍らせます……それでいいんですね?」
「うん、遠慮なんかせずに派手にやっちゃって!」
最初に津波の魔法を流す。この範囲できる限りに。
津波自体を凍らせれば岩にもその氷が推進するはずだ。
「……では参ります」
スーちゃんは詠唱を始めると中心辺りに、巨大な澎湃が発生する。
次第にその形が露わになっていき、一面巨大な渦巻きが鮮明になる。
轟音を蓄えたような水の塊は彼女の一声で。
「ザオザブーン!」
ドボォォォォォォォォォォッ!!
横溢とした水が渦から弾け飛ぶように流れ、辺り一面を水面に変えた。
洪水と間違えるくらいの水力は辺りの草木さえも数秒足らずで飲み込む。
「やっぶべえ!」
思わず声が出るくらいの迫力だった。
4Dの映画だとか、アトラクション系の何かとは非にならないくらいに激しい津波である。
そんな激しい状況問わずスーちゃんは激しい津波の中、上乗せするように魔法を重ねた。
「アブソルート!」
彼女の手前から凍てつく氷の刃が成り、侵食するがごとく先ほど作らせた津波を凍らせる。
ここまで冷え込んでくる寒さは尋常ではなかった。うぅさみぃ。
氷つく津波の中。
「愛理さんあそこ!」
真っ先に気づいたのはシホさんだった。
そちらの方……岩の方をみると数匹のラットが早々と、岩の上へと避難する様子が見て取れた。
相当焦っている状況だがラットたちの足場は徐々に狭まっていき、逃げ道は気づけば残されていないくらいに限られてきた。
唱え終わるとスーちゃんがこちらを向いて。
「……本当だ。上手く呼び寄せられましたね。とても寒そうで少し無慈悲な気持ちもしますが」
食物連鎖って知っているかな。
強い者が頂点なんだぜスーちゃん。
「私がいくよ。みんな寒そうだしさ」
「……注意してください普通の氷とは比べものにならないくらいに冷たいですよこの氷」
あぁそうなんだと私が口を開こうとした瞬間。
「えぇとどれどれ!」
故意に自ら自爆しにいったヤツが1名。
ミヤリーはその場に屈んで、人差し指でつんと氷をつつくように触ってしまう。
「……あ、ミヤリーさん! それは!」
「へ?」
時既に遅し。
ふぬけなミヤリーの体は次第に凍っていき、通称アイスミヤリーと化する。
かちかちな氷に身を纏った彼女はというとびっくりした顔つきのままであった。
「おいいいいいいいいいいいいい!! なにへましてんだお前はぁ!?」
「凍っちゃいましたね……ミヤリーさん」
「……だから注意したのに。あなたという人は」
自ら地雷を踏みに行った彼女は、私の中でやはりこいつは期待を裏切らないというコミカルなイメージが湧き上がった。
あぁあまたこのお約束のパターンだよみたいな感じで。
「あのさ、いいから溶かしてくれない? この中身動きとれずすごくすごーーーく寒いんですけど!」
「しゃべれるんかーい! ……つうか意識あるならさ自業自得じゃね。スーちゃんの注意効かねえ方が悪い。……罰としてクエストおわるまでそこでずっといろ」
「うっそぉー! 馬鹿言ってんじゃないわよ! いいこれは私の不本意で……(ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ)」
饒舌としたミヤリーはどうでもいい弁明をする。
聞いていても耳鳴りがしそうだったので私はスーちゃんの方を向いて。
「あ、スーちゃんつーわけであのネズミ野郎を倒したらそいつ溶かしてあげて」
「……了解です」
「「はぁ!? ふざけんじゃないわよ愛理! スーちゃんもなに承諾してんのよ! 出しなさい!」」
「……はい駄目です」
論破されるミヤリーはさておき。
「んじゃ行ってくる」
滑走するように氷地へと掛けていく。
凍った面のせいか、非常に滑りやすいがスケートしているような感じでなんか楽しい。
凍った岩にいるラット達が控える直下までくると。
背中にぶら下げている、ラビット・ライフルを取り出して構える。
細長い積み木を順番ずつ抜くゲームあったよな。……これ見て思い出したんだけどさ遊び半分で脅してやろう。
「ラビット・ショット」
プシュ
プシュ
プシュ。
バランスを崩してしまいそうな箇所目がけて3発ほど撃つ。
果然大岩は火球の力に耐えきれず、崩れ始める。
それに釣られて、ラット達も慌てながらも移動を試みようとしていたが。
私は地面を一蹴し彼らのいる岩の上へと飛び込んだ。
そのまま減速はさせずに、地をも貫穿するぐらいの拳を大岩に叩き込んだ。
「ゴラァ!」
拳の衝撃によってラット達は爆発に巻き込まれ消滅するのだった。
☾ ☾ ☾
無事にクエストを終え、家に帰った私達は時間も丁度よかったので夕食を摂っていた。
今晩はシホさん特製の肉料理である。歯ごたえあって非常に美味である。……ほんとうシホさん私の嫁になってくれねえかななんて変な事を考えてみる。
「ねえ聞いてんの? だからねあれは迂闊迂闊なだけあって」
飯の時間だっていうのに今更数時間前のことを引きずるミヤリー。
あぁもううるせー。聞いているこっちの身にもなりやがれ。いい加減興ざめしてきた。
「はいはい、助けなかったことは反省してるよ。……でもそれはお前が悪いだけだろ? え、なにはあみたいな顔してんの? だからいつもフラグばっか作るんだよはいざまぁでしたミヤリーさん」
いつもながらディスる。
食事中くらいは静かにしてくれねえかな。……ほら隣にいるスーちゃん……お、今日はお野菜ちゃんと食べてるじゃあないか偉い偉い。
「……まあミヤリーさん。悔悟を認めるのも冒険者の勤めでもありますよ」
「愛理さん、どうですおいしいですか?」
「うんめっちゃ美味しい本当結婚しようよ」
「え、いやそ、そ、そんなぁ」
何真に受けているんだシホさん。顔を紅潮させてさそんなにマジにならなくても。
「いや、今のジョークだよ。愛理さんジョーク……だからそんな真剣な顔にならなくていいからね」
「あ、そうなんですか??」
ぽかんとした顔をしたシホさんは我に返る。
「ままあとりあえずさ、ミヤリー」
「な、なによ、人の皿なんか見つめて」
私は食べ始めてから気づいたことがある。……彼女が皿を覆い隠していることに。
怪しい非常に怪しい。甚だあやしいぞ。
「なによその死んだ魚の目みたいな目つきは」
「……だーれが死んだ魚の目みたいな目つきじゃい! わるかったなぁ じろじろ」
これで隠しているつもりだろうか。
まぁとうにバレバレなんですけどね。だってこいつ隠すのに関しても下手っぴだから。
「あのミヤリーさんどうしてお皿隠してるんですか?? お腹の調子でも悪かったり?」
「い、いやあそんなことないわよ! 私はこうピンピンしてるわ!」
蹶然として、自分の二の腕を叩いてみせるミヤリー。
おーいバレバレだぞ。いいから認めろ認めろよぉ。
「……ミヤリーさん多分愛理さんは」
「へ?」
ミヤリーの横に座るスーちゃんは確言する。
あ、分かっているやつだこれ。
「え、それってどういう」
埒があかないので私は彼女の隠す皿を見つめて言う。
「あのさミヤリー」
「な、なに?」
「野菜残しているのバレてるから」
「ふぁ!?」
歓呼してあげるとミヤリーは呆然とした顔つきになる様子をみせていた。
ミヤリーよ野菜残しちゃあ駄目だぜ。
「ちゃんと食べような」
「あ、はい」
その晩ご飯、彼女は嫌々ながらも私に野菜を食べさせられるのであった。