143話 うさぎさん、秘められし奥の手使ってみる その2
【とっておきの秘策は最後の最後で使うべし】
マックス・ヘルンに跨がりながら、重い剣を振る舞う。
辺りにある岩や木などを経由し横切るようにして、二人の方へと駆け寄る。
大いに切り裂いた剣によって魔人は、足を挫き転げ落ちるようにして転倒する。
「ふうなんとか間に合ったな」
別段やはりこのマックス・ヘルン他の馬とは桁違い。跳躍から助走まで
どこをとっても抜け目なし。……コイツの速さが利点になっているのは確かだが、相変わらずの尋常ではないスピードに私は驚嘆する。
「こっちは片付いた。……怪我とかはない?」
「……いえ私も持ち前の特大魔法を何発かお見舞しようとしたのですが、レベルの差のせいか手応えなしって感じで」
「うん、私も技を使いはしたけどそれが固くてねお陰で返り討ちにあったわよ」
二人の服装を見ると、比較的埃が覆い被さっている。ミヤリーに関しては破れかけている箇所もいくつかあり私は苦戦していたんだろうなと実感する。
あーあなんか私やらかした感じかな。……でも今更キャンセルするなんて冒険者として恥ずかしいし……できればやめたくないんだが。
浮かれていると、3体目の魔人モンスターの攻撃が振り下ろされる。
瞬間的にシホさんが剣を横に持ち、躍り出るようにして現れると強大な攻撃を塞いだ。
「それにしても大きいですね。……まあ私の非ではありませんけど!」
私でも耐えられなさそうな巨体をシホさんは、見た目に似合わない剛力を使い重い足を跳ね飛ばすようにして押し出した。……体制を崩した間合いを利用して敵のバランスを担う足から頭部にかけて巻き上げるような斬撃を使う。
「剣術 旋風鎌風の舞!」
グサグサグサグサグサグサッ!
魔人の身体をぐいぐいと強風で体に傷を付けながら押し上げ、空高くまで突き上げる。見上げるとまばらと傷の数がエグいほどにつけられていたので相当高い突風だと思う。
やっば。あれもうかまいたちレベルじゃねえぞ。
空中で部位をバラバラにし切断された部位がドスンとした音ともに落下する。
「助かったよシホさん」
「お役に立ててなによりです」
やはりシホさんの火力は安定。空腹で倒れないとこうも優秀だなんて愛理さん感激。
その満腹の豆を作ってくれたお父さんにとても感謝だ。
シホさんと私は引き下がりミヤリーとスーちゃんの元へ。四人横に並び最後の1体を前にして向かえ撃つ。
各個、攻撃に備え身構えて私はみんなの方を見て相づちを打つ。すると仲間は綻んだ顔してうんと頷いてくれた。いつでもおkってことか。
私はマックス・ヘルンから降りて。
「もういいんですか? あとちょっと走ればいいのに」
「ううん、なんか雰囲気的にここは私も降りるべきだと思ったから」
「そうですか、なら後衛は任せましたマックス・ヘルン」
「ヒヒーン!」
「おっしうんじゃ行くか!」
「「うごおおおおおおおおお!!」」
著大な魔人相手に向かって一斉攻撃を始めるのであった。
☾ ☾ ☾
緑地を走り回る。多少この大剣のせいで重いけれど、勢いよく走り込めば問題なかった。
円周を回るように高速で敵の体を切り裂いて傷を入れる。
「おりゃああああ!」
地を蹴って飛び上がり攻撃。
腹部を目がけて切れ目を入れたが傷は浅かった。……不意に後ろからミヤリーが斬撃を仕掛ける。
「後ろががら空きね」
漆黒の剣を振り下ろすと黒いオーラの斬撃が魔人を襲う。
しかしやはりこれまで戦った敵より強いせいで、吹っ飛びもせず、防ぐぐらいで留まっている。
平均レベルって知っている? ……そういやメタル狩りとかやってなかったな。今更やれと言われれば億劫だと堂々と答えてしまうが……うん今度みんなと狩りにでも行こう。
「ラビット・パンチ!」
重量に耐えながらも渾身のラビット・パンチを打つ。
「…………なヌ?」
だが私の渾身の一撃必殺とも言える技をヤツは軽々と受け流した。……まずい返り討ちに遭うぞこれ。
「くッ。防ぎが間に合わない」
片手に持つ大剣で盾代わりに身を守ろうとするが、時間が間に合わず遠くへと飛ばされていく。
勢いよく連続するように土煙を巻き上げながら、ドスンドスンと地雷が鳴り響く。
壁まで激突した私は、即座に立ち上がり。
「てーなぁ。インフレも大概にしろよな」
小刻みに瞬間移動しながら仲間の元へ駆け寄る。
「……はぁ!」
「こんの!」
「こっちです!」
3人が連携を取りながら戦っていた。
ミヤリーとシホさんが前方で剣を振るい、スーちゃんが魔法を唱えている。……というか先ほどよりスーちゃんの魔法が弱まっているような……これは魔力が尽きそうな前兆かな。
「すまんみんな、遠くへ飛ばされた」
「勢いよく飛びましたね」
「いやほんとだよ」
褒められているのか、はた馬鹿にされているのか区別が付かないのだが……まあいい。
パンチが効かないんじゃあどうしよっかな。銃で撃ってもいいけどそれだといたちごっこなりそうな……。
するとスーちゃんが率先し前へ出て両手で巨大な魔力を溜め始める。
「? スーちゃんなにする気……?」
「……普段は使わないよう心の中で決めていたんですが」
「特大な魔法なの? それならこの敵蹴散らせる見込みが?」
いつになく真剣なスーちゃん。目をしかめ口を尖らせると活を入れるようにして。
普段身につけている帽子を脱ぎ捨てる。
「スーちゃん? ぼ、帽子が」
「……後で拾うんで大丈夫です。……さあこれを使うのはいつぶりでしょうか。グリモワール様に教えてもらって以降使う場面が全くと言っていいほどなかったのですが……」
巨大な大玉が成りそれをスーちゃんは魔人目がけて放つ。
「これが私の奥の手です……マド……ン……」
唱えようとしたそのときだった。
「…………しまった。……魔力が」
打つ寸前に消滅してしまう。
どうやらもう魔力は切れかかっていたみたいで、それを彼女は承知の上で使ったみたいだが意外にも一発撃つまでには至らなかったようだ。
危険を訴えるようにスーちゃんに大声で。
「「スーちゃん避けて危ない!!」」
「…………え? …………あ、しまっ……」
気がついた時には既に遅く、魔人の一払いによってスーちゃんも遠くへと飛ばされてしまった。
「スーさん!! ……愛理さん! 私マックス・ヘルンに乗って彼女を助けに行ってきます!」
「私も行くわシホ! ……愛理それまで持ちこたえて」
「あいさ!」
呼びに応えてマックス・ヘルンがシホさんの元へとやってくると、シホさんとミヤリーは馬に乗り彼女の飛んだ先へと駆け出していく。
さあて持ちこたえられるか。
正直言って、もう殆ど私にも魔力が残されていない。まだ数百体も控えているのに、なに言っているんだという話だけど……うんこれは私の誤算だ。
だが私は今の場面を見て少し気が立った。
私のパーティーの中で唯一の癒やしであるスーちゃんを跳ね飛ばされたからね。……これは万死にあたいする。
大きな大剣を前に突き出して。
「よくも……スーちゃんを飛ばしてくれたな。……ぼーとしてるけど素直に断言しよう……無性に私はおめーらをぶっ飛ばしたい」
まあ体がボロボロだし、ブラフな発言にしかならないのだが……これが愛理さんなりの自己流足掻きである。
「さあてこうげ………………き?」
【チャージ完了100% オールグリーン ラビットレディ……?】
攻撃しようとしたときガジェットが鳴る。……充電完了との合図が。
剣の方もいつの間にかゲージが満タンになっているし……はあようやくか。
「……念の為に問おう。AIさんもう大丈夫なの?」
AIさんは答えてくれる。
【はい。……ですが未完成品の為、短時間1時間程度しか持ちません】
「十分十分。兎双本能よりは長いじゃん。……それに今はそいつの力にかけるべきじゃね」
【おふのこ。では起動させましょうか】
「これが私の……私の賭けだアアアアアアアアア!」
……EXラビットパーカー・チェンジマスター!
との音声と共に私のパーカーが目映く発光し。
「お、お、おおおおおぉぉぉぉぉぉこれは!??」
七色の光が私を包み込み攻撃してきた敵の攻撃を跳ね返し、遠くの端の方へと飛ばす。
幾重にも重なった色の束が連なり、忽然と発生した光が収まると姿形が露わとなる。
「こ、これは!? 真っ白な……嫌違う……どちらかというとホログラムっていうヤツなのでは?」
白銀に輝く7色を纏った神々しい服。右手には剣……そしてもう片方には随分前に使ったあの盾が手に添えられて。
パーカーの耳も少し長めになりやや大きくなっている。
AIさんに解析してもらうと名前にこのように記載されていた。
【マスター・ラビットパーカー 解説:12個のパーカーが揃って変身可能となる最強のラビットパーカー。白銀のパーカーに虹色を帯びている着色。軒並み外れた力を極限まで引き出せる力を持つ】
最強のパーカー。その秘められし力は一体。両手に持つ武器を握りしめながらも襲い来る敵の動きを伺う私なのであった。
……マスターか。安直ながらもいい響きじゃあないか。
ようやくあの武器の名前に記された、『M』の意味がようやく理解した気がする。