番外編 (2) うさぎさんの妹顔出し? その1
ちょっと現実世界に戻りようやく本編の愛理妹が登場します。
さて、彼女は一体何者か。
【優等生がチート好きって言ったら笑う? 笑ったら私は泣くと思う】
~現代都市部~
鉤心闘角のある日本都市部。
平日の都内からは人々の喧噪や乗り物の音が外から聞こえてくる。
私は二次元グッズ、ゲームやプログラムの参考書が部屋中に敷き詰められた自室で画面越しのソースコードに向かってキーボードを走らせていた。
因みに私が住んでいる場所は実家ではない祖父母の家である。
理由あって今ここに居候しているけど、1人でいると時間感覚が非常に麻痺してくるものよ。
「はいちょろ~。面倒くさいからデータ改ざんしたけどあっけないわね。これならどんな敵にも負けはしないわ」
別に見えすぎた死亡フラグを多弁しているわけではない。ましてやヒーロー番組によくあるような悪役がヘマするようなことでもない。
ちょうど今はハマっているゲームのプログラムのソースコードをちょっと弄り、データを少し改ざんしたところ。
PVP系のゲームなんだけど、ゲームの中身が非常にマゾい仕様だったので自分のステータスデータを改ざんマックス値まで引き上げ、レベルもステータスとばれない程度に高く設定しておいた。……なあに大体初期値の数値から察するに大体の数値は織り込み済み。……え? 合法はやめろって? ……姉さんが聞いたら"たひね! この改造厨が!" とか言われそうだけど、ばれなきゃいいのよばれなきゃ……。あ、よい子はやっちゃだめだよ。お約束のセリフを言ってみる。
午前十時。朝食を済ませてゲームに浸る。
みんな察しが薄いせいか私がデータを改ざんしていることにきづいていなかった。
チャットで誰かが話しかけてくる。
【さいきょーさん:圧勝でしたね。結構やりこんでおられるようですけど何時間やっていますか?】
【UN・H:ざっと100時間は越えているかな? ランクマこの間登ったらレア武器入手したからやったぜってなった】
プレイ時間も改ざん済み。
因みにプレイヤー名"UN・H"これが私。……自分の名前をイニシャルにして外人の名前によくあるミドルネームのような綴りを付けているだけ。
話を交わしている間にフレンド交換する間柄に。ばれてはいないので大丈夫、垢BANはちょっと怖いけどIQの高い私にとってそんなの眼中にない。
【さいきょーさん:デススナイパーさん知っています? 最近顔見ていないんですが引退しちゃった系ですか? あんなにやりこんでいたのに】
「……デススナイパーって確か姉さんのペンネームだっけ? この前までちゃんといたんだけどどうしているんだろう今」
【UN・H:うーんサーセンわかんない。知り合いなんだけど……今調べたらオフラになってたよ】
【さいきょーさん:そうですか。なんかデススナイパーさんを見かけたら教えて下さい。俺あの人のめっちゃファンなんです。プレイもめっちゃ上手いしどうやったらあそこまで負け無しでいきのこれるんだろうって】
姉さんの隠れファン登場。
現実では死んだ魚みたいな目しているけど……知ったらこの子失望するかも。
でも腕前は筋金入りだから……うん。
【UN・H:おけおけ。伝えとくね今回のランク戦凄い報酬あるみたいだからもうちょい私頑張ってくる。んじゃノシ】
というメッセージを皮切りに話がおわる。
……まあもうソース弄くって入手したんですけど。
「うーん少し休憩しよ」
背伸びをして私の座るテーブルのすぐ横に置いてある改造コントローラープロアクターを片手に取り電源入れ起動。
これは自作の改造ツールのような物で、コンショーマ機はもちろん、USB端子も付いているので大体のゲームを改造したりソースを見ることだって出来る。
ゲームorPCに接続し起動中のゲームを開いていると自動的にソースファイルを隅々まで抽出してくれる。……抽出していてもログは残らないようにプログラムを組んでいるため馬鹿な運営にも気づかれない……私ってば天才。
抽出したいままでのゲームのソースを漁りゲームタイトルを十字キーを押しながらスクロールしていく。
容量は大体1TB。 SSDにも負けないくらいに高速書き込み読み込みが可能。
「まだまだ全然入るわね。よし今度はジェルの数を置換しとこっと! はい有効化っと」
ジェルの数を100000個ぐらいにしておいた。これで10連なんて回し放題。運営には悪いけどそんな低確率のガチャ回すことになるんだったら天井できるまでのジェル数にしてあげるわ。……これなら確定ガチャは約束されたようなもの。
「ふう、好きなモンスターこれでゲット。……ん?」
するとノックする音が後ろから聞こえてくる。たぶんおばあちゃんかおじいちゃん。
「おーいうのちゃん。お菓子買ってきたよ良かったら一緒にばあさんと食わんか?」
「うんいくいく。ちょうど休憩にしようとしていたところ。先に食べててっておばあちゃんに伝えてきて」
おじいちゃんだった。
そういえば今朝デパートで美味しいお菓子買ってくるとか言っていたっけ。
私はイスから立ち上がり横のある動物のペットケースへと視線を移した。
そのケースを覗き込んで。
「ぴょん」
「そんなに跳ねて。……うさぎには食べれないものだからあなたにはあげられないわよ」
「ぴょーん」
「落ち込まないでよぴょん吉。草木あとでたくさんあげるからさ」
するとうさぎ……白うさぎのぴょん吉は飛び跳ねるように喜んだ。
この子も理由あって私の家で預かることになって私が世話している。……私がいない間は大体祖父母が代わりにしてくれている。
姉さん曰く、うるさくてゲームに集中できないから育ててくれと唐突に預けてきたぴょん吉を。最初は『はぁ!?』となったけど今は慣れた。あぁ大変だった。寝ている間ずっと寂しそうに何回も何回も跳ねているし……まともに寝られやしない。
それはそれとしてお前学校はどうしたかって? ……学業なんてゲームと同義語ある程度の単位はもう取っているし1年分の授業も全部終わらせた。なのでずっと家にいても先生に文句言われることはこれっぽっちもない。
1階にある、洋風の居間へと移動する。
美味しいお菓子を祖父母と一緒に食べながら寛ぎタイム。
開口一番におばあちゃんが。
「そういえばうのちゃん、あーちゃんは今どうしているの? お母さんが最近忙しくて家に帰られていないみたいだけど」
「ううううううううううのちゃああああああん! ワシのもうひとりの可愛い孫娘は元気元気なのかのおおおおおおおおお!??」
おじいちゃんが大きな声で一喝。急に大声出してきた物だから心臓が飛び出るかと思った。
父と母は仕事が多忙で中々帰られていないみたい。……この間お母さんからメールがきたんだけど。姉さんは一体何やってるんだろう。
「おじいさん! うのちゃんが驚いているでしょ! ……ごめんねあーちゃんのことになるととても正常ではいられなくて」
「ううんいいよいいよ。……なら」
私は紅茶を一口飲み、コップをテーブルに置いて言う。
「私が姉さんを見てこようか? ちょうど久しぶりに会いに行こうかなと思っていたところだし」
そう切り出すとおじいちゃんがまた。
……今度は私の肩を掴み上下に振りながら言う。
「うおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!! うのちゃああああああああああああんんんん! おじいちゃんからも頼む頼むよ! あーちゃんをあーちゃんをみてきてくれええええええええええ!!」
どれだけ過保護なんだかおじいちゃんは。
「わ、わかった、分かったから!」
「だからおじいさん! うのちゃんが困っているでしょ! 今日はこれからお薬もらいに行くことになっているでしょう? それだと先生も困られますからやめてあげてください!」
「……それもそうじゃなすまんうのちゃん」
「はは……」
時間は進み昼下がり。
母から一通のメールが届く。
『卯乃葉ちょっといいかしら。愛理と最近連絡が取れないんだけど……よかったら見に行ってくれないかしら? ……家にも全然いないしお母さん困っちゃってるwから』
ちゃってるwっておかあさんん!?
タイミングが良すぎるツッコミは置いといて……姉さんの事だどうせ同人ショップでも行って二次元グッズでも買い漁ってるんでしょ。双子だからこういうのはテレパシーのように分かりきる。
自己紹介が遅れたけど私は卯乃葉。仲宮 卯乃葉。
いわずもがな改造厨、チート大好きな高校1年生。
姉さん――仲宮 愛理とは双子の妹に当たる間柄。いつも私を唾棄するように大声出しているけど私は親フラやアンチみたいな存在として認知されているのかな。
「ぴょん」
「あなたも行きたいって言い出すからなんとなく連れてきたけど……言った通り大人しくしてくれたわね。偉いわよ」
「ぴょん!」
とても姉さんの話を喋っていたらぴょん吉がまた跳ねまくっていたから一応連れてきた。
因みにぴょん吉の名前由来なんだけど……命名したのは姉さん。
昔、名前を決める際姉さんがスマホで、ネーミング辞典など漁り色んな国の言葉を組み合わせては『これじゃない』、『あれじゃない』と言い出して切りがない状態にあった。
最終的に安直にぴょんぴょん跳ねるからぴょん吉という名前にしたわけだが…………これ以上は何も言えない詮索厳禁。
交通機関電車を経由して、姉さんの住まう街へ。
人だかりも多く、何回も行き交う人に押されぶつかる。……某アニメみたいに空でも飛べたらなあと思った時期が私にもありました。
「やっとついたわ。姉さんいるんでしょ? 姉さん?」
聳え立つ高いマンション。
エレベーターを経由し姉さんと母の住まう部屋へ。
インターホンを押すが反応なし。なんとかKみたいにドンドン叩いてみるが……。反応無し。
よしこうなったら!
「ギャルゲのプレミア限定版お届けにまいりましたよ~!」
……手応えなし。シーン。
そんな……あんなギャルゲ大好きな姉さんが反応もせず出てこないなんて……ほんとどういうことよ。
……ならば。
「ぴょん?」
「ふふ大丈夫よぴょん吉。ここの家の鍵は予め私が予備用に持っていることを。……姉さん孔明の罠だとか思っても逃げ道はないわよ? ……大事なSSDのデータなりなんなり私にくれたら少し考えてあげてもいいけど! キリッ」
母から予め預かっているここの部屋に入るための鍵を使い中へと入る。
……玄関を潜り姉さんの部屋の前へ。部屋の扉には看板が掛けられており。
『あいりの部屋。3次元ネタ禁止なのでその方は帰ってどうぞ』
いやまだ3次元克服できていないんかーい!
まあ私もまだ彼氏歴0だから人のこと言えないけどさ。
この前来たときもこれあったよ? いやそれ以前にも……。
「ぴょん?」
「『青ざめた顔しているけど大丈夫?』かって? ……うん大丈夫よ覚悟はいいわ。私はできている」
さり気なく大好きなマンガのセリフをいいつつ……扉を開けた。
5部大好きめっちゃ大好き。姉さんは3部派らしいけどね。
「ねーさー……ん?」
姉の名前を言い……口ごもった。
相変わらず散らかった部屋。壁には姉さんの大好きなアニメやヒーロー物のタペストリーが掲げてある。
前には高性能かつハイスペックなグラボの詰まれたパソコンが……あの姉さん私にもコレ頂戴よ私のパソコンそこまで高くないからさ。
姉さんのパソコンさえあれば3D編集なんて楽々ていうのに私のパソコンだとすぐスペック不足なせいかブラックアウトしてしまう。……幸い青い悪魔ことブルースクリーン先生を拝むことはないのだが……スペックが高いグラボ欲しいな。
姉さんには内緒で中のグラボを盗んで行こうと考えたけど……殺されそうだからやめておく。
例えばそんなことすれば――。
~卯乃葉の脳内イメージ~
ドン!(扉を開ける音)
「おい卯乃葉! てめえ何様人のグラボ盗もうとしてんの? 馬鹿なのアホなの? チーターってそういう思考しか持てないんですかアホですね仕方ないんでタヒしてください!!」
「ね、ね、ねえさん? とりあえず話そう話そう話せば分かる。だからその拳を握るのはやm……ぎゃああああああああああああああああああああ!!」
~THE END~
みたいなことになるからここはやめておこう。
『~♪』
「うん? なんかやってる」
立方体の見開きするタイプの二画面ゲーム機にゲーム画面が表示されていた。
ゲームは……大人気ゲームであるドラモンの外伝作品。
モンスターをスカウトしながら育成し強くしていくゲームだ。
シリーズ毎にグラが落ちているやら前作が良かったなど賛否の声が上がっている色んな意味で良作な本作品は子供には大人気。ゲーマーの人にも特に。もちろん私もその1人で大好きだ。
「ドラモンアド2 じゃん。……あ、姉さん必死こいてもう配合が難しいSSランクのモンスター作ってる。…………これって確か県外限定の配布モンスター……なんで姉さんが持っているのよ」
モンスターの一覧を見ると配布モンスターやら、合成が難しいSSモンスターなどたくさんいた。どれも見た感じ正規なものっぽいけど……中古っぽい感じもしない。ちゃんと名前『あいり』って付いているし。
どういう経由でしたか分からないけど……なんか羨ましい。
プレイ時間……999時間!! いやぁ廃人ですなぁ姉さんは。
ていうか学校行きなさいって。勉強なら私がいくらでも……いくらでも教えてあげるんだからね!
「よし、姉さんが帰ってくるまで……ちょっとやろっと!」
どうせ帰ってくるの遅いでしょとそのゲームをして時間を潰す。
「このモンスターとこのモンスターを組み合わせて……」
調子に乗って新しいモンスターを配合してしまった。まだ図鑑にも載ってない『New』の付いた新規のモンスターだ。
使う配合素材のモンスターは、姉さんの大事に育てていたであろう120レベル(完凸済み)を二体使ってしまう。
「あ……」
『ヒュ~~♪(配合SE)』
そういえばこのゲーム前作の増殖バグが問題になって配合時オートセーブが実装されたんだっけ? ……スイッターで公式がリーク情報を発信すると一時期ライトユーザーが燃え上がりプチ炎上したがあるけど……Ohやってもうた。
ポイっ。
気が滅入りゲーム機を閉じベッドへ放り投げる。
「はぁ。姉さんになんて説明をすれば……」
「ぴょん……」
「……慰めてくれるの? ……大丈夫心配しなくていいから」
本当は今日が私の命日なんじゃないかと思うぐらいに、胸の高鳴りが止まらなく……。
姉さんはチート嫌いって言うし絶対これ……舌打ちするだろうプロアクター……一応持ってきたけどいいやダメよ私の左手、そんなことしたらますます姉さんに嫌われるわ。
厨二病っぽく左手を震わせ利き手でその衝動を抑え込む。……因みに私は厨二じゃない。
「帰ってこないわね。お母さんもお父さんもまだ帰ってきてないようだけど…………うん?」
ふと姉さんのベッドに何かがあった。
黒と紫の異次元トンネルというか。ほらゲームでよくあるじゃないどこかに通ずるワームホールみたいなヤツ。あれが今私の前に出し抜けに現れたのだ。
「夢? ……夢よね。あるわけないわよだってそんなSF映画じゃあるまいし」
そんな悠長なこと言っていると謎のワームホールがずいずいと私を引き込んでいき。
私とぴょん吉はその空間へと入るのであった。