135話 うさぎさん、少し一休みしていく。
【休日の余暇をどう過ごすかは非常に難しい課題である】
剣練の里に戻る。
すると里の人達は盛大に私達の帰還を祝福してくれ喝采をあげる。
それを目覚まし時計のように目覚めた私は寝ぼけなせいか意識があまりはっきりとせず状況があまりの飲み込めなかった。
「ふぇ? これは何事」
「あぁ愛理さん起きられたのですか。どうやら私達が無事帰ってきて喜んでいるみたいです」
「いや嬉しいけど……嬉しいけどうるせえ」
「……もうしばらくの辛抱です愛理さん。耳を塞ぐなり寝るなりでなんとか凌いでください」
「いやスーちゃん、こんな騒がれたら寝る気にもならないよ」
気分的にはもう少し大人しくして欲しいのだが。
暫くして、シホさんの家へと到着するとそのまま族長さん、シホさんのお父さんのいる大間へと歩く。隣にいるシホさんに少し話しながら。
「それにしても驚いたよ。シホさんお金持ちだったなんて」
「別に隠していたわけではないんですけど……すみません」
申し訳なさそうに頭をさげるシホさん。
「いやそんなにかしこまらなくてもいいって。聞かなかったこっちが悪かっただし」
「そうよ。愛理がのたのたしているから聞くタイミングもなくなってしまったんだから」
ミヤリーだからお前の口数どうやったら減るんだよ。
「……まあでも無事に帰って来られましたし、早く族長さんにご報告しにいきましょう」
「お父さん、きっと貧乏揺すりでもして待っているんじゃない?」
「リホ、お父さんはそんなことする人じゃないです。族長としての責務を…………愛理さんそろそろつきますよ」
サオさんに言われて目の前に立つ大扉に立ち止まる。
大きな大扉を開け、中に入ると私達を待ち伏せるように。
「お、帰ったか」
大間の大きなイスに腰かけながら待つ族長さんはこちらの方を向く。
目を丸くしながら我が娘3人の方へと近づいて。
「シホ、サオ、そしてリホよく帰ってくれた」
「お礼なら愛理さんに言ってくださいよ。リホを助けられたのは愛理さんのお陰でもありますし」
「あ、いえ族長さん、私は……その」
返す言葉を探していると族長さんは大きな両手で私の手を握ってきて。ブルブル上下に振る。
「愛理さん……本当にありがとう我が娘リホを救ってくれて。どのように礼をすればいいのか」
「別にいいんですよ族長さん。愛理ここは素直に喜ぶべきよだからそんな照れくさそうな顔しないの!」
おめえは私のオカンか!
そんなこと言われると余計に恥ずかしいだろうが。
「……愛理さんなに顔赤くしちゃってるんですか。熱でもあるんですか?」
「いや、大丈夫だよスーちゃん」
「こうして我が娘3人が見られたのもあなたのおかげです。何かお礼を…………。そうだ今日も私の家に泊まっていってください。戦いでさぞお疲れでしょう」
「あ、いいんですか。私料金とか全然……」
「いいんですいいんです! なににせよシホのかけがえのない仲間なのですから! なあシホ」
「えぇですね。愛理さんここはお言葉に甘えて私の里に一晩泊まりましょう。それにここへ出る前に母にご馳走作るよう頼んでしまいましたし」
まぢで? そういえば昨日の朝シホさんのお母さんとても美味しい料理を作ってくれたんだけど……今でもその味は脳を過る品物だ。
自ずと頭から食べたいという欲求に満ちあふれた私は間を置かず即答する。
「是非ともお願いします! お母さんに張り切って作るよう伝えてください!」
「わわわわかったよ愛理さん! 今は昼下がり夕ご飯までまだ時間があるからそれまで里を回ったりして時間を潰すといい」
話の結果報酬としてとても美味しいご馳走をもらえることになったので、もう一晩泊まり込みをし美味しい夕飯も頂くことにした。まじでうまそうだ。
☾ ☾ ☾
さてそれまで何をするか。
スーちゃんとミヤリーは里をゆっくりと回りたいと言いどこかへ行った。サオさんとリホは久々に稽古するみたいで途中で別れた。
そして残されたのは私とシホさん……つまり2人っきり。
「つーわけで2人になっちゃったけどどうしようか」
「……あぁそうですね。行きたいところあります?」
なにこれ、なんていうギャルゲーですか? 絶対これ狙った系のやつでしょ。
行きたい場所か……聞かれたとき1番答えに困る系の質問。……どう答えろと。
「シホさんが行きたい場所でいいよ。どうせなら案内してくれたりしてくれると。……シホさんの一件であまりゆっくり……あ、シホさんを悪く言っているわけじゃないよ。だからそんな顔しないでって」
「……そ、そうですかすみません。……えぇとそれじゃあ」
シホさんに導かれるまま里に建つ道場のような場所へと立ち寄る。
「はへぇ立派な建物だなぁ」
寺門を抜けると、大きな古風溢れる入母屋の立派な屋根が特徴的な施設が見えた。歴史の教科書でよくみるような見た目で使い古された箇所もたくさん見受けられた。
敷居の部屋へと入ると。
「頼もう! どなたかおられますかシホですけど」
足音が聞こえ誰かがやってくる。
家主の方だろうか。
「おぉシホ様帰られましたかよくぞ無事で。私はあなたの身に起きたことの数々存じていますぞ。して今日はどのような要件で」
「いえ、特に用事というわけではありませんけど久々に剣術の練習でもしようかなって」
「おぉそうでありましたか。どうぞどうぞご自由に」
主の人についていくと道場へとやってくる。
真ん中に掛け軸があり、そこに『精神統一!』『剣術を極めよ!』『一日一善』と書かれている。
「ここの主さんは剣術の言わばプロです。幼い頃私はこの主さんに指導され様々な技を教えていただきました」
「そうなんすか」
年配の中腰になった方だが、衰えている感じが微塵もしないのはなんで。
プロってこういうものなのか?
「えぇ。シホ様の一家を代々指導している家系なのですようちは。今はリホ様の指導をしておりますが…………そのサオ様は…………」
「あの主さん、サオ姉さんを悪く言わないでください。姉さんは一撃技がとても得意なお方ですよ。……それ以外はうーんって感じですけど」
いやシホさんうまくカバーしようとしたつもりだけど、サオさんいたらきっと泣くよ?
(チッ)
今舌打ちの音がまたしたけど気のせいだよね。
暫くシホさんは主さんとの手合わせを見学した。
それは熾烈で剣と剣のぶつかり合いが迸るぐらいの衝撃であった。室内からは強烈な突風が吹き荒れ畳の何枚かが起き上がるほどの威力。
いや死ぬかと思った。なんかすげーアトラクション映画でも見ているかのような。
手合わせが終わると、主さんがシホさんに。
「お見事ですシホ様。さすが族長様の娘様ですね。……ときにシホ様私がシホ様の手助けとなる技を新たにお教えできますがいかがでしょう?」
「名案ですね。是非ともお願いします」
「それではお教えいたしますね」
どうもシホさんの手助けとなる大技を新たに教えてくれるという話が持ち上がった。……1時間足らずで飲み込みの早い彼女は全10個にも及ぶ大技を着々と習得していき終わる頃にはマスターしてしまった。
聞けば本来ならば1年はかかるであろう大技を全てこの数時間で覚えたのだ。……シホさん相変わらず恐ろしいよあなたは。
「ありがとうございました。……次はいつ来れるかわかりませんがまたそのときが来たらご指導お願いします」
「勿論ですとも。私はいつでもお待ちしておりますぞ。……その愛理様どうかシホ様の事をよろしくお願いします」
「あ、はい。その今日覚えた技を使えば空腹を頻度を減らすことが出来るらしいですけど……あれって」
シホさんが練習していた技の中で、空腹頻度を減らせる技を覚えた。……空腹……消費カロリーを違う物で置換するというもの。
本来カロリーをたくさん使う大技を違うエネルギーで代用するとかいう良く分からない大技だった。
……どういうことか分からないと思うだろうけど、つまり何かしらの違うエネルギーを彼女の消費カロリーとして使用(代用)してするみたいな技だよ。
これによりいままで大技を使う度に大量のカロリーを消費することになっていたがそのデメリットも違うエネルギーの代用により解消されるというわけ。よって以前より倒れる頻度も減ったわけだが。
「あの技があれば、前よりかは倒れる心配はありませぬ。愛理様もこれで安心して冒険者をやっていけると思いますよ」
「はぁ。とりまありがとうございました」
「いやぁ助かりましたよ主さん。これならリーベルのみなさんに"腹ぺこ女"って言われる心配もありませんね」
「すごい汚名だねそれ」
「そうですか? うーん呼ばれには慣れているのでよくわかりませんが」
私だったら豆腐メンタルなんですぐボロボロになっているころだよ。
誰だシホさんを腹ぺこ女って言ったヤツ怒らないから出てきなさい!
お礼を1つ言い道場をあとにすると日没前。
「すっかり夜ですね。……夜風が涼しい」
「だね~。お月様が綺麗だよ」
空を見上げると立派な満月が顔を出していた。
月にはうさぎがいるとかいう迷信を聞いたことがあるけど、私は月からの使者なのかもしれない確信はない。
シホさんは私の前に立って後ろで腕を組むと綻ばせる顔をして。
「さあ愛理さん夕ご飯の時間ですよ。お母さんが待っているので行きましょう」
「あ、ちょ!? 強引に引っ張らないで! ……久々で嬉しいけどさ! 加減加減タンマタンマ! ちょっとシホさん聞いてる!??」
私の加減してくれとの声を聞いてくれない彼女は。
「あ、すみません私も久々なものだったんで……なんかすみません」
ようやく力を加減してくれる。
あぁ私の残機はあといくつだろうか。
すると……シホさんはあることを切り出してきた。どこかそれは浮かない顔。
「あ、そ……その」
「どうしたの? らしくないよ。なにか言いたい事ある……の?」
一瞬口ごもったが改まって言い出した。
「愛理さん、夕食のあとお時間大丈夫です?」
「構わないけど?」
シホさんはどことなく、なにか物言いたいような素振りを見せていた。