134話 うさぎさん、不安ながらも戦う その3
【オーバーキル? 知らない子ですね】
「どりゃ!」
「ふん!」
「……は!」
「これで!」
「それがどうした!」
挟み込む攻防戦が繰り広げられる。
全速力でデビルの方へと距離を詰め、攻撃をしかけるが衰えている感覚は些かもない。
各々持ち前の魔法や技を繰り出し、応戦するがときどき受け止められたり不意を突かれされたりと状況に進展はなかった。
「……さっきはよくもやってくれましたね、あなたに特大の魔法をあげますよ」
「やれるものならやれよ」
だが、先ほどの尋常じゃない強さは若干だが落ちている。シホさんが少しの間戦ってくれた手柄だなこれは。
おかげで。
「なに! さっきは俺が速かったはずなのに何故追いつける?」
「さあね、それは自分の体に聞いた方が速い……かもよ!」
迅速で距離を詰め力一杯の拳をぶっ放つ。即座に避けようとするが私はフェイントで拳の軌道を顔から腹部へと変更。
情報処理のおいつけない彼はそれを諸に食らい壁の向こうへと叩きつけられる。
「ちょろいね。さっきの勢いはどこにいったのかな。顔から余裕がなくってきてねえか?」
「なめるなよ。うさぎごときがこのデビル様に刃向かったことを後悔させてやる」
がん付けてこちらへともう突進。
おっと攻めてくるパターンだな。……速さはというと先ほどと同等。
だが、スーちゃんがバフをかけてくれたので、今なら間に合う。
……設置完了。
今ちょっとしたトラップ(透視化済み)を数か所設置した。敵のルートを予測してAIさんに瞬時設置してもらったから仕込みはOK。
……ちょうど距離が中距離に縮まった瞬間、私は近くで攻めようとしていた仲間に引くようにサインを出した。『引きさがれ』と。
するとシホさん達は私より後ろに引いて近くにあった木々へと身を潜めた。
「一体なにを。どうしてシホ達を交代させたり……?」
サオさんは少し状況を飲み込めず慮る様子していた。なあに今その疑問を確信に変えてあげるから見ていてよ。
「うさぎ覚悟おおおおおおおおおおぉ!!」
仕掛けた罠を……やつは見事はまってくれた。はいハメ技やりまーす。
「ラビット・トラップ・スロー……起動!」
「…………!? なに!?」
私はスイッチを押すように突き上げた親指を下ろしてラビット・トラップを起動させた。
先ほどの合間に設置したのはラビット・トラップの板。普段は爆破板が多いけど今回は、敵の素早さを鈍足にさせるスローの板を使った。
……よくよく考えたら素早い相手なら逆に遅くすれば相手詰むんじゃねと私は考えた。数あるラビット・トラップの中で選んだのがその対策用のラビット・トラップ・スローである。
【ラビット・トラップ・スロー 解説:ラビット・トラップで呼び出し可能。踏むと敵の素早さを急激に遅く(低下の数値は任意で調整可能)させる】
「ぐおおおおおお!? なんだこれは体が……いやそれだけではない感覚もなんだか遅く……く、苦しい」
今ヤツの速度を数十倍遅くした。のさのさと今デビルの動きはまるで止まっているかのようにゆったりめだ。
「なるほど、よくわかりませんがなんらかの魔法か何かを使い敵を遅くしたわけですね」
サオさんは理解。
そして私は遅くなっている相手へと疾走。するとシホさんが呼びかけるように。
「マックス・ヘルン!」
「ヒヒーン!」
彼女の声に応じて、マックス・ヘルンが私の方に駆け出す。1秒も経たない内に私に追いつき背中へと乗せてくれた。
「え、助けてくれるん? 馬とか昔牧場で乗ったことあるけどさ……わわっちょ!? あのときは思いっきり下にたたきつけられて泣いた記憶が……」
再び口から愛理さんの黒歴史話が出てしまう。……馬主じゃないんだから完全に初見なんだが。……だが今私には主人公補正的なものが付いているのか知らないが頭の上に疑問符が浮かぶ。
「? あれ落っこちない……物理法則無視してない? 物理とかよくわからんけど」
何故か落ちなかった。ぐんぐん速度を上げるマックス・ヘルンに乗っているのにも関わらず。
するとAIさんが解説を入れてくれる。
【追加機能で、愛理様が過去に経験した黒歴史を元にライド補正機能が新たにつきました! なので落ちません寝ながらポテチ食べていても落ちない神的な機能です】
なにそれ。
じゃあ携帯ゲーム機しながら色んなことできるじゃん。
【ライド補正 説明;動物やモンスターなどに乗っているとき物理の法則を受けず下に落ちない(他の仲間もこの効果を付与させることが可能)。任意オンオフで切り替えができる】
練習いらなくね。現役の馬主のみなさんなんかすみません。
とりま誰でも乗れる能力をもらったので、私はマックス・ヘルンと一緒にデビルの方へ。
近くまで乗せてもらい、区切りのいいところで彼から飛び降りる。
「ありがとうなマックス・ヘルン。もうシホさんのところへ帰っていいよ」
「ヒヒーン!」
高い跳躍を駆使し、彼女の元へ帰って行くマックス・ヘルン。相変わらずハイスペックな馬だな。競馬探そうかなこれ終わったら。
「う、足が! ……!? うさぎ?」
「はい、愛理さんの凄いアトラクション楽しんでくれたかな……ラビット・パンチ!」
飛び込むように渾身のラビット・パンチをいれて、デビルを向こうへと転がす。
「ぐがあああああああ!?」
「鬱陶しいから、遅くしてもらったよお前の持ち前の素早さはもう無意味だ」
必死で起き上がり。
「ふん、あともうちょっとで暗黒空間が発動できる。あれを使えばペースはこっちのもんだ」
「……そうはさせないです」
存在を消すことを逆手に取りスーちゃんが敵の背後に回っていた。軽く杖を一振りして魔法を唱えそれをデビルに放つ。
「な、なんだ今何をした」
「……ダメ押しに特技と魔法を封印する魔法を使わせてもらいました。これでおあいこですね」
こういうときに頼りになるスーちゃんさすが。
するとふいっと軽く私の方を見てにこやかに笑い親指を立てる。ありがとね。
「こ、コラー逃げるな! それでも魔法使いかああああ!」
でも早く使わなかった私が悪いんだけど……。あそうだよね。だったら最初っから使えよって話。すまんそのことに関しては返せる言葉も見つかりません。
シホさんとミヤリーが回りこんで。
「注意が行き届いてないみたいですねあなたは。剣術 超閃光斬!」
大地を巻き上げるくらいの巨大な斬擊が敵を切り裂いた。ミヤリーも両手から成る黒いオーラを纏わせた剣を思いっきり振り払って攻撃する。
その反動によって、私の前にやってくると私を怖ず怖ずと見てくる。
「あ…………あの、調子に乗ってすんません。も、もう戦う気はないんで許してください」
「すまんそれ無理だわ☆」
にこやかに怖い笑顔で私は拳をパキパキとならす。
「え、そそそそそそそんなあああああああ!? ここここぶしひえええええええええ!」
「はいラビット・パーカーチェンジ☆ ミラクル」
超能力に長けたラビット・パーカーへと姿を変えると分身能力を使って私が3人になる。
これで心置きなくタコ殴りできるね。(もうどっちが悪だか分からなくなってきた件)
「ふん」
「ふん」
「ふーん! みんなせーので行くよ…せーーーーの!」
「人の話を……あ、俺モンスターだった。ってそうじゃなくてえええええええええ!」
一点集中で3人の私達は敵の顔面に力強いパンチで。
「「「知らんがなラビット・パンチ!」」」」
デビルは強烈なパンチによってその攻撃を受けて気絶した。※殺していないです
☾ ☾ ☾
私が戦っている最中にサオさんはリホちゃんを救出し助けた。
復活し駆けつけてくれたシホさんの顔を見ると、彼女は真っ先に駆けだし飛びつく。
「シホお姉ちゃああああああああああああん! うえええええええええん」
「こらこらリホ。私に最初に言うことは……『おかえりなさい』じゃありませんでしたか?」
「だってぇ~! だってぇ~!」
かがむシホさんに抱く付くリホちゃんは大泣きし、シホさんは我が妹を落ち着かせるように優しく頭をなで笑顔で迎えてくれた。
「リホ、シホをあまり困らせてはいけませんよ」
サオさんが近づいて彼女に言う。
三つ巴。ようやく姉妹全員の顔を同時に拝むことができた。久々に再会した3人の嬉しそうな表情を見て外野の私達はほっとしていた。
「ようやく3人揃ったね」
「……えぇシホさんとても嬉しそうです。いいえ正確には3人と言った方が正しいでしょうか」
「本当だ。スーちゃん、愛理……しばらく席を外しましょう」
「そうだね…………あ、そうだあいつがそろそろ起きる頃じゃねちょっと行ってみようぜ」
「と言うわけでデビル君、君の弁解の場をここで設けたわけだが」
「ああああああああの、愛理先輩? いえ返す言葉も見つからないっす」
木に縛り付けたデビルを見下ろすように話す。
なんでとどめささなかったかって? これだと一方的だからという理由で納得してもらいたい。
「もういいからさ。あでも1つこれ魔王とかいうクソブラック企業の社長に渡してくんない? そうしたら見逃してやるからさ」
なんか魔王ってブラック企業なんじゃ。勝手な妄想で実はその下についているモンスター達は仕方なく働いているんじゃないかと私は思った。
そう考えたら敵さんに申し訳ない気がしたので見逃す気持ちができた。……私が敵に突き出したのは1通の手紙。無論私が魔王さん当てに書いたお手紙です。
結束を解いてその手紙を受け取ると、デビルは瞠目しながら読み始める。
『魔王さんへ。あの単刀直入に申し訳ありませんけどDQN行為やめてくれます? TPOっていうんだけどさとりま近所迷惑だから。……もしもこれ以上また過度を立てるというのならあなたの城を沈めあなたの人生を借金まみれにしてやります。つーことでよろです君の心にラビット・パンチ☆ どこかのくそったれなクソうさぎより』
「あのこれは……」
「聞くもなにもそのまんまの意味だよ。取りあえずそれを魔王さんに渡しといてしないなら城壊しにいくけど」
あ、因みにこれガチなやつ。
異世界の人達に教えてやりたい。しつこいヤツって嫌われるということを。
「ひひひひひひひいいいいいいいいい!?? かかかかかんべんをおおおおおおおおお。 ……とりあえずこれは魔王様に渡しておきますね……それでは!」
「……あ、消えた。言ってしまわれましたね」
「内容私見てないけど……やばそうな感じだってことは理解したわ」
姿を消したデビルを見送ると2人は私を白い目でみていた。……なんだそのジト目やめてくれ。
☾ ☾ ☾
「それでは無事姉妹が再会できたので、お父さんのところへ帰りますよシホ、リホそれとみなさん」
「もう夜更けですよ。少し眠いのですが」
「シホお姉ちゃん、早めがいいと思うよそれに帰ったらちょうど朝ご飯の時間に」
落ち着いた3人が私達の元へ帰ってくると、森を抜け剣練の里を目指し足を動かした。
とはいうもののもうすぐ夜が明けそうで暗い夜空の向こうに白い光りが差し込む。
どうも私はオールしてしまったらしい。口には出さないが、私もシホさんと一緒で寝たい気持ちがある。
「愛理さんも眠たいんですか? ……いいですよ私は帰るまでこの馬に乗ってリラックスしてください」
「ヒヒーン」
なんと気前がいいんだシホさん。シホさん私の嫁にならない? 美味しいものたくさん出すよいや是非来てくださいお願いします。いや優しすぎるんだよあなたは。
あとの2人はまだ余裕そうだったのでこの状況は私の独占状態そのものだった。
ならそのお言葉に甘え私は。
「うし、んじゃお言葉に甘えさせてもらって少し休ませてもらうよ。……着いたら起こしてね」
「りょーかいです。ゆっくり休んでくださいね」
疲労感に負けて彼女の笑顔を見ながら私はマックス・ヘルンに乗り、目を瞑り仮眠をとる。
寝ている間、耳元で何か聞こえてきた。とても小さな優しい声。
「ありがとう愛理さん。私を心配してくれて」
私は顔を幸せそうに綻ばすのだった。
「おかえり……シホさん」