133話 うさぎさん、不安ながらも戦う その2
【病み上がりの生徒には優しく接してあげよう】
魔王の刺客デビルによって、スーちゃんが人質にされ策を練ようにも敵の動きが素早く攻撃が1つも当たらなかった。
時間につれスーちゃんは首を絞められていき、敵の煽りを受けながらも無策にも立ち向かった。
誰1人とて、策が練られないまま時間は一向に過ぎていく。
そんな絶体絶命のピンチに彼女が……私達の前に現れ……帰ってきた。
「シホさんもう大丈夫なの? お腹空いてない?」
「えぇ大丈夫ですよ。……スーさんこれを」
「あ……え? はい」
シホさんは袋の中からあるものを取り出す。錠の薬のようなもの、それを一粒弱った彼女の口に入れる。
何だろうあの薬。
「これで数時間は満腹になり、体力も全回復します。ね大丈夫でしょう?」
「…………ゴクン。……確かに先ほど弱り切っていたはずなのにこの治癒力は……ありがとうございます」
一言お礼を述べるとスーちゃんはシホさんの乗るマックス・ヘルンから降り、私の元へと帰ってくる。
凄い本当だ。なにあの薬。数時間は満腹状態にもなるって言ってたけど……あぁもしかして。
「さてと……。サオ姉さんお久しぶりです大丈夫ですか?」
「えぇなんとか。シホ大丈夫なのですか。お姉ちゃんまだ半信半疑で心配です」
今更だけど、サオさんって妹達の前では自分のことをお姉ちゃんと言う癖がある。まあかわいい妹達に分かりやすいように言っているんだろうけど。
ミヤリーがシホさんに視線を送って語り出す。
「そのシホ。あれから大変だったのよ? 色々なんか巻き込まれちゃったんだから」
「はぁ。それはご迷惑をおかけしました。父からそのことは聞いています」
「それで起きて早々悪いけどさ、あいつやっつけてる最中なのよ」
ミヤリーはデビルの方に指を指す。
「おい人間! 知ってるか? 指を指すのはいけないことなんだぞ?」
「ふぇ?」
お前がそれ言うか? それが言えるのはむしろ私達の方なんじゃねと。
「いやいくら攻撃が当たらないからっておめえ調子乗りすぎだろ、悪がそんなこと言うの間違ってるとおもうぞ」
「せっかくシホが復活したのに口出ししないでくれます?」
姉のサオさんはデビルを睨めつけ。
「悪魔のモンスターですね。相当強力そうな相手みたいですが…………いいですよ無論一緒に戦いますよ」
とマックス・ヘルンからシホさんは降りて自前の剣と盾を装備し、再び身構える。
変わらないブレのない姿勢で目の前にいる敵を目視。うん、やっぱりシホさんだわこれ。
「そのマックス・ヘルンはどうするのよ? まさか戦わせる気?」
「もちろんですよ。甘く見ないでくださいねミヤリーさん。この馬めっちゃ強いんです」
「この馬が……? ふーん」
ミヤリーは興味を示さずシホさんの隣に立つマックス・ヘルンをまじまじと見つめる。
いや本当よミヤリー。今そうやっていられるのも今だけ。実際こいつの攻撃を食らった私が言う。甘く見ない方が身のためだぞ?
「ヒヒーン!」
とマックス・ヘルンが私の方を向く。鼻息を吹きながら嬉しそうに尻尾を上下に振りながら。
「よう。久しぶり。あの頼むからもう無理矢理突進するのはやめてくれよ。その代わり藁草たくさんあげるからさ」
「ヒヒーン!」
よほど嬉しかったのか、体を振り上げる仕草をする。
「ふん、雑魚が2匹増えたところで。そんな馬ごときでなにがなる!」
シホさんはカチンときて、デビルの方をしかめる。
「聞き捨てなりませんね。さきほどあっけなく蹴り飛ばされたのはどこの人でしょうか?」
「ふん、当たらなければ」
するとシホさんとサオさんはタイミングを合わせるように相づちをうつ。
そして。
「なら……その生意気な口を最初に黙らせてもらいましょうか。起きたばかりなので私少し今気が立っていますから」
一瞬にして彼の背面へと移動し剣を縦に構えるようにして精神を統一。
「いつの間に!? ッ!」
「剣術……連続斬擊!」
隙すら与えない放射線状からなる幾多の刃が敵の身を切り裂く。
一撃一撃が非常に素早く、シホさんは敵に考える余地も与えない。
瞬間移動を駆使し、今度は空中へ、切り落とすように剣を力強く下に振る。
「はぁ!」
「おっと! ふん少しは骨があるやつのようだな。まさかこの俺に傷を負わせるなんて」
「…………“油断禁物”という言葉知っていますか?」
「…………へ?」
シホさんは声を張り上げるように、愛馬の名を叫ぶ。
「マックス・ヘルン!」
「ヒヒーン!!」
「ぐぉ! なんだこの馬ものすごい跳躍で俺の方へ……ッ。化け物か」
合図に合わせてマックス・ヘルンは地面を蹴り、目でも追いつけないスピードで駆け斜めに飛びながら後ろ足でデビルの腹を蹴り飛ばした。
勢いに逆らうことができず、木をなぎ倒しながら飛んでいくデビル。それを追いかけるようにして……サオさんが辺りの木を足場にして疾走する。
「これをするのは久しぶりですね。シホがその合図をしてくれて嬉しかったですよお姉ちゃんは」
走りながら剣に力を込めて集中する。
飛んでくるデビルを迎え撃つように真正面で待機そして。
「先ほどのお返しです!」
切り払った刃がデビルを引きずって私達の方面へと押し戻す。
なんというコンビネーション。これが姉妹特有の荒技というやつなのだろうか。
1人でもとんでもスペックな一家だというのに、2人だとそりゃ強さは2倍になるわな。改めてこの一家がいかにやばいかが染み染みと伝わってきた。
「愛理さん」
瞬間移動で戻ってくるシホさん。
「相変わらず派手な戦いするね。そこがシホさんらしくって私は好きだよ」
「え、それって」
なに顔赤くしているんだ。まさか照れているの?
え、これ百合展開来ちゃうパターン? やめるんだシホさん私まだそんなお年頃じゃ……ていうか可憐な乙女みたいな感じでますます火照っちゃっているよこの人!?
「ま、まあとにかく一発食らわせましたしこれで偉そうな口は叩けないと思いますよ」
「よ、よくもぉよくもぉ!」
あ、切れてる。
「このデビル様を怒らせるとはいい度胸だ。だが俺は力の半分もまだ出していねえぞ!」
「うっせーな! ラビット・ショット」
3発。
火球を3つほど飛ばして3方向に当てる。直弾しそこまで深いダメージでないものの先ほどより余裕ぶっている様子がなかった。
「愛理効いてるわよ。さっきのシホ達の攻撃がよほど響いたみたいね」
「……ですこくり。この調子でいけば押せますよきっと」
お、ということはシホさんの先制は敵にとって痛手だったということか。なら今のうちに。
ラビット・ブーツに力を込め、素早さを向上させる。体中から能力が上がる感覚が伝わると身軽になった気分になる。
ミヤリー、スーちゃん、シホさんそして私は横に並び正面に立つデビルの方を見る。
「シホ」
「姉さん。姉さんは後ろで援護してください。……さあみなさん行きましょう久しぶりにこの4人で」
スーちゃんが何やら魔法を唱える。
能力値がぐんぐんと上昇していく。バフかやはり優しい子だよスーちゃんは。
「……その私が危険そうだったらすぐ助けてくださいね。……あぁなるのはもういやなので」
「大丈夫ですよ私の横にいるこの子が必ず守ってくれますから」
「くっこんなはずでは! こんなはずではないのに! 懲らしめてやる」
敵はそろそろ怒りの頂点に達しそうな勢いだった。
再びシホさんはマックス・ヘルンに乗り、手綱を引いて合図を送る。
「さあマックス・ヘルンいきますよ。あのヘンテコな悪魔さんに思い知らせてあげましょう。あなたはとても強いってことを」
「私達がお前を倒す。そしてリホちゃんは返してもらうぞ」
拳をポキポキとならしながら次の攻撃に備え身構えるのであった。