132話 うさぎさん、不安ながらも戦う その1
【ヒーローは遅れて登場するものだろうが!】
博打にかけラビット・ガジェットを用いて出現した物は。
「ところどころリンゴっぽい模様だなおい」
巨大な赤いリンゴの模様を象ったような大きな盾。
やっぱりうさぎに因んだ物前提なんだね。……色々突っ込みたいところ愛理さんあるけれども!
そういえば前おばあちゃんが、遊びに行ったときよくうさぎのリンゴ剥いてくれた記憶がある。妹とそのあと取り合いになり修羅場になったが。
「久々にリンゴ食いてえな。まあそれはそれとして」
「ふん、いくら強そうな武器を出したとはいえこの暗黒空間で真面に戦えまい」
試しに仲間の助けを呼ぼうとしたのだが、返事が一切返ってこなかった。
どうやら外部からの音を完全に遮断させる力があるみたいだ。小癪な真似を。
どれこの盾がどんな力があるか知らないけど……試しに天に振りかざしてみるか。
「RPGで勇者が持つ武器でよくあるよな、戦闘中に使うと強力な効力が出てくるあれ。もしかして備わっているんじゃね?」
「どりゃ!」
デビルからの切り裂く攻撃をパンチで跳ね返す。……少々幻聴に惑わされて時々空振りし傷を負ってしまうが。
タイミングを見計らい、その重そうな盾を宙に振りかざす。……すると。
「振り上げて何をしている……悪あがき…………か?」
「おや、これは?」
目映く盾が私に呼応するように、暗闇の中金色の光が発生する。
見るだけでも眩しく、その強い光は辺りの暗黒を一瞬にしてかき消す。……やがて暗闇がなくなると再び目の前を目視できるくらいまで視野が広がった。
私の立つ先には昂ぶり状態にあったデビルの姿が。
「なななななななな、なんだとおおおおおおおおおおお!?? 俺の自慢の技があんなふざけた小娘に打ち破られるなんて……ふんならもう一度…………しまった魔力が足りない」
「ふん、どうやら形勢逆転のようだな! とう!」
岩を蹴って跳躍。
ジャンプと瞬間移動を駆使しながら、敵との距離を縮める。
向こうから何やら声が。
「……見てはいられませんね。愛理さん加勢します」
「私もどこまでお役に立てるか分かりませんが、行きましょうミヤリーさん」
「もちろんよ。愛理ばっかりいいところ持って行かせないわよ」
「お、みんな来てくれたんだ。ちょうど苦戦しかけてたから後ろは任せたよ」
少しピンチだったので仲間を呼ぼうとした。が気前がいいことに3人は私の後ろにひょいと姿を現し、私のあとに続くように追いかける。
そしてデビルへと接近し。
「き、貴様何者だ! ただ者ではないな? 名を名乗れ!」
あ、これ言わないといけないヤツ? 仕方ねえな少しかっこつけてやるか。
「通りすがりのクソうさぎだよ。ここテストに出てくるからよろしく」
「ぬけぬけと! たああああああ!」
俊敏な切り裂く攻撃。
止めどなく続く猛攻に私は拳で向かえ撃つ。……銃を使いたいところだけど盾が重すぎて構えることすらできない。
……先ほどの盾の力? はどうも悪い力などをかき消す力があるみたい。他にどんな力があるか知らないけど。
「ラビット・ガトリングパンチッ!」
そっちがその気ならと。連続パンチを用いて攻撃に対抗。
攻撃がヒットすれば力が上がっていく。……シュッシュ。ありゃ、当たらない。
躱しては攻撃し、また躱しては攻撃するが私の攻撃は一向にデビルには届かずかすりもしない。
「隙あり! はあああああ!」
サオさんが敵が油断している間を狙って自前の剣で振り落とす。
「ふん、そんな攻撃!」
すると姿を消し、彼女の後ろへと移動する。
「瞬間移動……だと? シホ以外初めてみました…………が!」
移動されたのにも関わらず敵の攻撃を見計らい、後ろから剣を振り払いデビルと力の押し合いとなった。
サオさんなんかかっこいい。一撃必殺しかできないとか言っているけどそれは飽くまで"技"でしょ?
技はともかく、それ以外の基本の戦い方ができるとなれば話は変わってくる。いいぞサオさんもっとやれ。
「ま、負けるわけには!」
「私だって!」
今度はミヤリーが斬りにかかる。危険を感じたのか一歩引き下がるデビル。
「……かかりましたね! ルミエル!」
後ろに控えていたのは……スーちゃんの光魔法だった。広大な光の渦を生成させ敵に目がけて向かえ撃つ。
そこそこと距離はあるもののその速さは凄まじく一瞬にして体を飲み込もうとする。
「や、やばい間に合わん!」
デビルが光の中へと飲まれると姿を消す。
「……はあはあ。走るの慣れていませんからちょっとキツいかもです。やりましたよ愛理さん」
「さんきゅースーちゃん………………ってスーちゃん後ろあぶない!」
礼を言おうとしたが彼女の後ろに物陰が。
デビルだ。
地面をよく見ると、穴を掘り這い出てきたあとがある。
そうか間一髪攻撃を回避し、潜りスーちゃんを油断させていたんだ……油断させる隙を狙って攻撃。まずいスーちゃんが危険だこれは。
「………………後ろ? …………ッ!? しま………………ッ」
「いいこと聞いた。まさか動くのが苦手とはな。いいだろうあの魔法は結構効いたぞ? あれを食らうのはもうご免だ今のうちに仕留めさせてもらおう」
デビルは油断したスーちゃんの首を手で力強く絞めあげ身動きとれない状態にする。
苦しみもがき抵抗する彼女は、今にも苦しそうだった。
怒りがこみ上げてくる。大事な仲間の苦しむ顔を目の前で見る羽目になるなんて……私は非常に苦痛だった。
歯を食いしばり。
「きっさま! スーちゃんをはなせえええええええええええ!」
拳を握り盾を投げ捨ててデビルの方へともう突進。
「ふん、邪魔だうさぎ」
「ぬわぁっ!」
片手から放たれた光弾によって、私の体は宙へと投げ出された。
さっきのは全力じゃなかったってことかよ。インフレ許すまじ。
「ち、ちくしょう!」
「愛理さん!」
咄嗟にサオさんが飛び上がり、空中でキャッチしてくれる。
なんだろう。前にこんなことあったよな。
(愛理さん……)
あのときも。
(愛理さん)
あのときも。
そうシホさんがいつも期待を裏切らず、ピンチなときに現れて助けてくれたことを。
サオさんの顔がだいぶシホさんと重ねるようになってきた。ほんと似ているよこの姉妹は。
「愛理!」
「ミヤリー? スーちゃんは? ………………スーちゃん!!」
すぐに起き上がると余裕でスーちゃんを締め上げているデビルの姿が。
にやりとヤツは口を咎めると余裕そうな表情で答えてくる。
「こいつを返して欲しければ、俺に傷の1つを入れてこいよ。もっとも速くてお前達には無理だと思うがな」
「……………………ッ! 愛理…………さん」
苦しく、今でも首が引きちぎれてしまいそうなスーちゃんの顔。苦しそうで見るに絶えない。
「きったないわね。魔王の手下かなんかしらないけどスーちゃんを殺しでもしたら承知しないから!」
「その通りだミヤリー。スーちゃんは私達の仲間だからな。……だから意地でもお前のそのムカつく顔を一発ぶん殴ってやる!」
「ふん、なんとでも言うがいい。ほら早くしないと死んでしまうぞお前の大切な仲間が」
デビルはスーちゃんを自分の目の前に出して盾代わりに。
こいつきったねえ。そんなのありかよ。……こうなったらもう一度あの盾を使って。
って。
その盾を見ると……消滅していた。
まじかよ。
どうやら時間に制限があり、先ほどで限界時間を越えてしまった模様。
再びラビット・ガジェットを使おうとするが反応無し。そういえば再度使用に時間がかかるんだったっけ。
「ちくしょうどう戦えってんだ!」
情けない自分を悔やんで悔やんだ。
スーちゃんを救えない自分自身を。
「さあやれるもんならやって………………ッ!」
その時だった。
「ヒヒーン!!」
1頭の馬が敵を一蹴りで壁の向こうへと蹴り飛ばす。
放りだされたスーちゃんを騎手が彼女を後ろへと乗せた。あの姿は……?
「……あ、あなたは……も、もしや」
「お久しぶりですスーさん……それとみなさん。ギリギリ間に合ったみたいですね」
馬……マックス・ヘルンに乗り颯爽と現れた髪長の女戦士は着地すると、私達の方に顔を向けて口を開く。
彼女は、私達がよく知っている。いつも空腹で倒れたりするけど、ちゃんと私達をいつも助けてくれる頼りがいのある人。ったく遅いんだよいつも。
でもそこがいい。
私の相棒であり、最高の友達でもある……言わばパートナー的な存在。
……その馬に乗っていたのは。
「シホ!」
「シホ!」
「シホさん!」
「遅くなりすみません。…………帰ってきましたよ愛理さん」
シホさんだった。
彼女は私の方を見ていつもの笑顔を向けて微笑んだ。
「…………。どれだ、どれだけ心配してたと思ってんだッ! ぐすん」
私は少し半泣き状態になっていた嬉しさのあまりに。