130話 うさぎさんの戦士目覚めます その1
シホさんようやく目覚めます。
【目覚めて早々情報量が多い気がします】
剣練の里~シホ家
「起きなさい起きなさい私の可愛い娘のシホや」
どことなく声が聞こえてきます。何時間寝ていたんでしょうか私は。
確かあの強いモンスターと戦って、ミヤリーさん達に言伝を残し気絶し…………そのあとのことは覚えてないです。
ふとその声で意識を取り戻した私は、目を何度か瞬いて起きます。
この声って。
「ここは?」
そこはどこか懐かしい景色。
昔から私が見慣れた場所がそこに広がっており、空気もとてもおいしく感じられました。
「お母さん?」
「えぇそうよ。シホお母さんよ」
横にいたのは、紛れもないほんわかとした笑顔を向ける私のお母さんでした。……ということは愛理さん達色々苦労されて私のふるさとへたどり着けたんですね。
寝ている間、私はどうなっていたのか分かりませんが、体に異常はないので丁寧に里まで運んでくれたことでしょう。あとでみなさんにはお礼を言っておかなければ。
辺りはすっかり夜ですが今、夜はどうなっているのでしょうか。なにやら騒がしいですけど。
「愛理さん達私をここまで運んでくれたんですね。……あのそれでお父さんは?」
「あぁ父さんね。多分大間にいるはずだから、そこに言ってみたら? そうだお腹空いているでしょあなた。シホの大好きなお肉たくさん作っておくからその間お父さんと話してきなさい」
「わかりました」
母は一言言うと、立ち上がって私の部屋をあとにします。……私も立ち上がり、父のいる大間へと行こうとするとある物が目に飛び込んできました。
「まだあったんですねこの写真」
サオ姉さんと私の記念写真。今より随分背丈が低いですが、どうも私の両親は大事にこれをとっておいてくれたようです。
私が旅に出る際、処分してもいいと言ったはずなのにどうしてでしょう。捨てにくかったとか?
決して私が黒歴史を過去にたくさん作ったとかそんな話はありません。単に見ていて恥ずかしい他の人に見られたくないなどそんな理由ですね。
「そういえば、サオ姉さんは今どこへ? また山に引きこもって修行でもしてるんでしょうか。……お父さんに聞いてみた方が早そうです」
部屋を出て記憶を頼りに大間へと向かいます。
随分と里を離れていたとはいえ、頭に染みるくらいに覚えています。空腹を気にかけながらなるべく歩数をあまり稼がない道を選んで向かいます。
愛理さんには隠していたのですが、私はこの村の族長さん……つまりは私の父の娘です。二女なのですが両親は昔から私を愛情持って育ててくれました。……おっといけないいけない今はそんなこと考えている場合では。
大間へと向かうと、貧乏揺すりをしながら腕を組む父がいました後ろから小歩で近づき照れくさそうに小声で呼びかけます。
「お父さん?」
「むむ? シホ? ……シホじゃないか!! 起きたんだな!」
「あの! ちょお父さん苦しい苦しいです!!」
「あ、すまんすまん。つい嬉しくて」
まるで頭のスイッチが入ったかのように父は私を強く抱きしめてきました。とても惜しみない力量は父ならではです。
私の肩を前に押し出し、顔を迎え合い仕切り直しに。
「それでお父さん? 今どうなってるんですか随分寝ていましたので教えてほしいです」
「あぁ……実はな」
父は即答で私にこれまでの経緯を私に話してくれました。
またまた盾練の里と剣練の里とで、祭日を行っていた事。それで愛理さんもゲストとして参加し、盾練の方を圧倒したと言う話を。
本題はそのあとです。
そのあとに門番さん曰く、末っ子であるリホが魔王の手先かに誘拐され近くの森へと連れて行かれたと。
愛理さん達は、サオ姉さんを護衛に付けリホを助けに向かったみたいですが。
「リホにそんなことが……こうしてはいられませんね。早く助けに行かないと」
「シホ、無理は禁物だそんな急かすとまた倒れるぞ? ……一食母さんの美味しい食事を摂ってからいきなさい」
そう言われると返す言葉が見つかりませんでした。それもそのはず少し歩いただけでも私は空腹になりそのまま倒れてしまうのですから。
でもちょっと違和感が。以前より空腹の減りがあまり激しくないような。これまでにも何回か空腹を減らしてもらいましたが、それよりも普通の状態になっているみたいな。……気のせいですかね。
もしかしたらあの入手困難な薬草、ヨクナリソウを愛理さん達が採ってきてくれたかもしれません。
「わ……わかりました。お父さんとお母さんあと姉と妹に土産話でも聞かせたいところではありますけど今はそうも言ってられませんね。……これは帰ってからするとして」
「あぁシホ。これを」
父はある物を渡してきました。
剣練に伝わる伝説の剣と、盾練に伝わる強固な盾です。……以前より綺麗に修繕され新品と見間違えるくらいに直っていました。
「結構ボロボロになっていたからな。父さん達が綺麗に直しておいたぞ」
「あ、ありがとうございます。ではちょっとお母さんのところへ行ってきますね」
そう言い私は母のいる厨房へと行きます。
☾ ☾ ☾
「あぁごめんシホもうちょっとかかるわ」
「え、もうこんな大きなお肉あるのに?」
大きな皿に盛られているのは天井につくほど大きなお肉。私が小さく影に飲み込まれるくらいに大きいのです。
母はというとその隣で巨大なフライパンを使い、またこれも巨大なお肉の料理を作っています。……相変わらず母のボリュームは甚だしい。
「あと20分くらいかしら? そういえばあなたの愛馬……マックス・ヘルンが会いたがっていたわよ。行ってみたら?」
マックス・ヘルンというのは私が昔から愛情持って育てている馬です。旅に出る際は彼に迷惑をかけたくなかったので、あえて連れて行かずリホに世話を任せたのですが今はどうしているでしょう。
ちゃんとご飯は食べるように言ったはずですけど……行ってみましょうかね。
「はい、行ってみます」
と私は母に調理は任せマックス・ヘルンのいる、馬小屋へと向かおうとします。
「あ、シホ」
「なんでしょう」
母が呼び止めてきました。開けかけのドアをそのまま維持しながら私はぐいっと母の方に首を傾けました。
「愛理さん達と冒険するの楽しい?」
私は微笑みながら答えました。
「えぇとても」
「ならよかった。……ほら行ってきなさい大切な愛馬でしょ?」
こくり。
私がそのように言うと母はにこにこしながらまた調理に浸るのをよそに愛馬のいるところへ向かうのでした。