125話 うさぎさん、喧嘩に駆り出される? その2
【強過ぎるやつ同士が戦うとどちらが強いのか分からなくなってくる】
辺りがざわめく空気の中。
1人の少女が、巨大な盾を携える大男相手に戦う。
「ふっ!」
小さくはあるものの、情けを見せず剣をひたすら振り続ける少女は果敢に敵に立ち向かっていた。
リホちゃんはなにやら先ほど溜め技のようなものを使用する準備をしていたらしいが、それは果たして。
大男は自前の盾を振り落とし、彼女を体ごと押しつぶそうとするが。
「食らえ盾術 針の山!」
盾にキザギザと生えた棘の刃が次第に伸びていき、先ほどより数十センチ伸びる。それを剣のように振り回しリホちゃん目がけて攻撃。……あれ盾ってなんだっけ。
しかしリホちゃんは避け……るのではなく、それを踏み台にして敵との距離を縮めていく。
一蹴の跳躍力が飛び抜けて高く、数秒足らずで敵の目前まで追いつく。
「小さいくせに生意気だ! おら今に見てろ痛い目に遭わせてやる!」
と言いかけ盾を大きく振り再度攻撃をしかけようとした。
だがリホちゃんの方が数秒速かったようで、一寸の隙をつき敵の頭部を剣を振り下ろして攻撃。
「一言一言長いよ」
手慣れた手さばきによってまたもや返り討ちに。伸びた棘は元通りの長さになり視野が広くなる。
「く、な、なぜだぁ! 俺はなぜあの剣練の人間に勝てんのだ!」
押され気味な理由が分からず、困惑する敵。自暴自棄になったのか盾をリホちゃん目がけスピンをかけて……攻撃とそのとき。
「……みてくださいあの光剣を!」
「なにあの光」
咄嗟に反応したスーちゃん。
リホちゃんの剣は紫色の稲妻のような電気を発し、激しく電気音を流しながら溜めていた。……くるのか彼女の技が。
振り上げた剣をゆっくりと、敵の方に向けて一言。
「小さいからって油断しすぎなんじゃないの? 少しは私の強さこれで覚えたら? ……雷光剣術 雷電斬り!」
迸る稲妻のラインを描きながら、リホちゃんは疾走する。敵は相手の動きを捉えることができず、盾を前に突き出し防御しようとするが。
「あれはリホの必殺技。雷電斬りです。あの稲妻のような動きは敵の動きを明確に察知し確実に仕留めます。……本来の威力であれば電気は今以上に巨大なのですが、加減して今日はあれぐらいの大きさにしていますね」
「ま……まじか」
横から解説を入れてくれる、サオさん。さすがお姉ちゃんは分かっているんやなと確信。聞けば上級者レベルの技らしい。
電光石火のごとく、その動きは過敏で周りを見回す敵の……後ろにはリホちゃんの姿が。
声を1つも漏らさずに雷撃の籠もった一撃を背後へと打ち込んだ!
「とりゃあああああああああああ!」
「なんだと!? 後ろから!? ……ぐああああああああああああ!?」
目の前は光に飲まれ、勝敗が決するころには最初彼女を馬鹿にしていた男は草地に伏して気絶。
審判がリホちゃんの方に手を差し伸ばし。
「勝者! 剣練の里のリホ!」
一瞬にして決着がつくと、剣練の人達が彼女を称え喝采をあげた。
「さすがリホ様! 俺達にできない剣術を平気でやってのける! そこにシビれますなぁ!!」
確かにあんな大胆な技見せられたら、みんなそりゃ驚くわな。
ていうかあの技殺傷力高杉ね? ……手加減しているとは言え、格が違いすぎるだろ。
あの技をシホさんも使えると考えたら…………うんこの人達生きている次元が違うかもしれないな。
「? みんなどったの?」
「……いえ凄い大技だと感服していたところです」
「あ、愛理、ありのまま今見た感想を言うわ。"この人達生きている次元が違うのでは"と」
「そ、それ、私が言おうとしたセリフ。……うん分からなくもないよ確かにあれ馬鹿力だよね」
む、と横から反応するサオさんがまた私に語りかけ。
「驚くのはまだ早いですよ愛理さん。……あれぐらいの技まだ序の口です」
「え、まじ? あれよりもっとすげえ技あるの!?」
「こくり。因みに言っておきますけど、シホはあれの上位互換に当たる技を多彩に使えますよ」
この里既にインフレが進んでいたのか? ……詰まるところここの人が使う技は別次元の強さを秘めているんだとお察し。
やべえこんな私がそんな敵相手に果たして渡り合えるのか……ちょいと心配。
すると試合の終わったリホちゃんが帰ってくる。
「お疲れですリホ。……練習のせいかでてよかったですね」
「ありがとうサオお姉ちゃん! かっこよく決まったからこれを是非シホお姉ちゃんにも見せたかったよ」
勝利の喜びを分かち合う2人。
なんだろう。私達は嬉しさはおろか恐ろしさをも感じさせない。……それよりも驚きが隠せないばかりだが……。
「あ、次お姉ちゃんの番みたいだよ」
「ふ、ようやく来たようですね。行きますよ一撃斬刀流。今こそ野宿で会得した一寸剣術の見せ所ですよ! うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
と意気込みながらダッシュしていくサオさん。
「あはは。お姉ちゃんとてもやる気満々だね」
「……リホさんいつもサオさんはあんな感じで?」
「うん、お姉ちゃん普段誰とも戦ってないからこういうときが腕のみせどころだっていつもいってるよ」
いや誰かと稽古ぐらいしようぞ。他の剣術が使えないとはいえせめて1回くらいは。
「愛理そろそろ2試合目始まるみたいよ」
「…………あ、ほんとだ。サオさんと、相手は普通の男みたいだけど」
土俵には、盾を携えた鎧姿の男性が。口元を尖らせながらサオさんを手で挑発。
おっと戦う前から煽っていくスタイルのやつだ。やめとけそういうのを世間では死亡フラグt…………ごほんごほんとりあえず言わないお約束だろぉ!
「なんですか……そっちにいけばなんかお菓子でもくれるんですか?」
「馬鹿かあんた。族長の娘だか知らんが早く来いと挑発しただけだよ」
「あぁそういうのいいんで。……こう見えても私は長女です。はいお姉ちゃんです。……なんで妹達のためにもいいところみせてあげなくては」
「へ、その可愛らしい顔を今にボロボロにしてやるよ!」
そしてコングが鳴る。
カ――――ン!
男は距離をとり、彼女の様子を伺う。
「? どうしたんだお腹でも壊したか?」
「うるさいですね。愚痴る暇あったらかかってくればいいじゃないですか」
少し揺動する様子が見えたが、男は技を使い。
「ふん、後悔してもしらんぞ! ガードアップ!」
ガードアップ。恐らく名前からして防御を盛る……いわゆるバフの技なんだろうけど。防御上げてなんか意味あるの?
「ねえねえリホちゃん防御上げる技なのかなあれ? ……攻撃力上がってるわけじゃないのになんであの技使うのかな?」
「あぁそれはね。…………見ればわかるよ」
念の為リホちゃんに聞いてみる。
すると言われたとおりに男の方を見ると、盾で突風を発生させながら突進する姿が伺えた。
「さあ食らいな! 防御もモリモリに上げた盾だ! これは痛いぞたああああああああぁ!」
ズドンッ!
「………………くっ。やりますねそうこなくては」
あれ、もしかしてこの世界での防御力って。
だいたい察しがついたかもしれない。
「技や魔法で防御力が上がるとね、その防具の防御力も上がって、攻撃力も多少だけどあがるの」
まさかの謎補正あったんかい!
え、じゃあ実質防御力=攻撃力アップみたいなものなのかチートじゃね。
威力に押され後ろへと引きずるサオさん。場外寸前のラインまで飛ばされてしまうが余裕で立っていた。
「ふっ。あぶないあぶない。もう少しで場外でしたね。…………さてと準備でもしますか」
「………………なっ?」
そう言うとサオさんは、目を瞑りながら剣を一閃するように構え敵の様子を伺っていた。
あの構えは一体。先ほどの攻撃受けても余裕な一面していたけど彼女には秘策がある。私はそのように悟るのであった。