119話 うさぎさんとプライドの高そうな人? その2
【お姉ちゃんってやっぱ一番上として良いところ見せたくなるんかね?】
半袖の衣服を身に纏った見た目。
今にでも寝込んでしまいそうな目をしている少女は、まるでやる気がなくなったシホさんのようだった。
するとこちらの存在に気がついたのか、私達の視線を感ずると。
「…………誰か近くにおられますか?」
辺りを見渡し始め木に隠れる私達を探し始める。
うむ、このまま成り行きを見届けるのもいいが、こちらはかくれんぼしに来た訳ではない。
距離が遠いせいか、垣間見る私達に気づいていないようなので、2人に相づちを打ち出るよう軽く指示を出す。
「うし、うんじゃいくよ……あのー」
探すのに苦戦しておられるようだったので、私が自ら手を振りながら赴く。続くようにミヤリーとスーちゃんが私の後についてくる。
「うん? ……あれは。どちら様で?」
「通りすがりのうさぎ……ごほんごほん。私は愛理、後ろの小さい子はステシアのスーちゃん、あと黒い方はミヤリー。一応確認するけどさあなたがサオさん?」
人違いを懸念し、一応名乗ることにした。ここで人違いですとか言われたらそれはそれで私がDQNな女扱いされてしまうから確認は大事だよね。
「いかにも私がサオですが。……あなたが愛理さんですか? シホの手紙である程度存知上げていますが私に何用で?」
ちらちら興味深そうに私のパーカーを見回し始めるサオさん。
恥ずいからやめてほしい。目立つのはわかるけどさというかいつも言っているけどこっちみんな。
「……お父様からあなたを連れてくるよう言われこちらに来ました」
「ほうほうなるほどです。ちょうど今修行をしていたのですがどうしても帰らないとダメな用事ですか?」
あぁ先ほど転がっていたモンスターってその…………ってあまりにも倒したモンスター多過ぎだろ。いかにも長く苦しい戦いが終わった後の戦場みたいな感じにモンスターの死骸が転がっているがその量は尋常ではなく。
指の本数では足りないくらいにたくさん狩られていた。
「そうなると思う。っていくらなんでもこの量は多すぎるんじゃ」
「まあそんなことはさておき、要件だけお聞きしましょうか。話はそれからですまあシホの姿が見当たらないのが妙に引っかかりますが」
意外と鋭いですねサオさん。
この人がシホさんの姉で族長さんの長女ですか。
顔はさておき、私は丁寧にここまでの経緯を彼女に説明した。
シホさんがとんでもない力を使いしばらく起きられない状態になってしまったので、それを治すべく剣練の里に訪れたと。……それで森で修行中のサオさんを族長さんから連れてくるよう言われこの森へ来たことを。
「把握しました」
「飲み込みはっや。それで族長さんがサオさんあなたを連れ帰ってから、話を進める的な展開になったけどそこんところ大丈夫?」
「困りましたね」
サオさんは少し険しそうな顔つきをする。
え、今手放せない理由か何かあったわけ。……転がっているモンスターにもなにか意味が。まじで気になりだが。
「少し先に山の穴に拠点を構えているのですが、泊まり込みで修行をしています。理由はそうですね単にレベル上げです」
いや、レベリングかい! ここのモンスターの推奨レベルがいくらか知らないけど……ってサオさんってレベルいくつだよ。
パーカーの機能を使ってレベルを確認する。
サオ レベル67
ステータスはシホさんに似ているせいか、力、HP、防御、素早さがずば抜け高かった。……姉妹揃って高いとかやはりハイスペック過ぎないかこの家族。
シホさんみたいに空腹でぶっ倒れる様子もなく、平然と立っているのでその彼女がここに留まっている理由に検討がつかないが。
「今ちょっと能力値確認させてもらったけど、何か問題でもあるの? 十分に高いと思うんだけど」
「ほう。あなたには私の冒険者カードを見なくとも能力値がわかるのですか。さすが愛理さんシホがあなたを見込むだけはある」
いやシホさんいつも手紙に私のどんなことアピールしているんだよ。今度聞いてみよ。
「聞いてくださいよ愛理さん。私生まれながらの長女ではあるものの、妹である技量の高いシホに負けまいと修行を積み重ねてきたのですが、今日までに1度もシホのような多彩にも及ぶ普通の技をまともに使えず独自の一寸剣術一筋で生きてきました」
「え、まじ? さっきの凄い技ちょっとみたけどさあれ自作なの?」
「愛理、きっと昔大変なことがあったのよ。ほらあるじゃない姉妹の中でしか言えない事情とか」
あーわかるわ。私にも妹いるからすげぇ分かりますよそれ。
つまり要約すると。
たくさん色んな剣術使えるシホさんに嫉妬した姉は、シホさんに追いつこうとして修行を日々欠かさずこの山に籠もりながら習得を試みた。だが一向に今日まで習得できず今に至る。
とかそんな感じなのでは?
まあ分からなくもないけど。
「シホは色んな剣術を昔から才能があるためか、すぐに習得し能力を開花させてきましたがそれとは逆に私は……全く習得できず、気がつけばシホは私の手の届かない場所に到達していました。姉ながら無念です」
なんかこうお父さんの言う事理解出来たような気がする。
プライドが高い……あっ察しみたいな。
「只今あと5匹ほどで目標の大型モンスター1000匹討伐を成し遂げることになるんですが、もうし訳ないですが愛理さんそれが終わってからでもよろしくて?」
すっげぇ無理難題なチャレンジやってんなこの人。
そのチャレンジ精神は尊敬できるが、それより1点。
気になりすぎるよ。彼女の持つ縫い針を大きくしたような剣が。
「私の拠点で待たれるのもいいですけど、できればお供してくださると嬉しいです」
「うーん待つのが得策かもしれないけど、それって暇じゃない……ねー愛理?」
なんか手伝って欲しい的な展開になってるぅぅぅ!? これあれだ絶対断れねぇパターンじゃねえか。
ねーじゃねえよ。瞑想でもして時間潰しすれば大丈夫かなと考えた時期が私にもありました。どうやら仲間はバトル厨かなんかしらないけどやる気満々なご様子でした。あぁ元気だねぇ。
「……でどうします愛理さん?」
ウィンクしながら言われてもな。こんなに一方的に責められたら断るようにも断れない。
言うなれば選択肢に【Yはい/Nはい】って書いてあるようなものだよ。え、強制イベント(拒否権限のない)の場所はここだったの?
サオさんはこちらの返答待ちで絶賛待機だがどうしたものか。
「ええいままよ、分かったよ分かったよサオさん一緒にやるやるからとりま拠点に案内してくれない? 準備とか整えておきたいし」
「了解です、と言ってもすぐつきますからね、こっちです」
彼女に導かれるまま、森の奥、奥へと足を進ませ彼女の拠点へと向かうのだった。
唐突な展開で、協力プレイするノリになったが、まあ問題ない。
これはゲームで他の人とマッチングしてプレイする……言わばマルチプレイみたいなものだし私からすれば慣れたもの。
上等だ。久々にマルチやってやろうじゃないかと意気込む私なのだった。
☾ ☾ ☾
サオさんに案内されていくと、一棟くらいの大きさはあるであろう山へとたどり着く。
彼女が拠点を作る際作ったと見られる、外装に付けられた狭い足場を経由し、上へ上に登っていく。
クライミングだっけ? ほら壁に登っていく競技のやつ。なんかあれやっているみたいだね。……勿論下を見ると私のSAN値がさがりそうな気がするので絶対にみない。
「サオさん、あとどのくらいでつける?」
「ざっとこんなもんでしょうか」
私達より先に行くサオさんは、人差し指1本を余裕そうに立てる。1分? なのか。
「あと1分? ほんじゃもうひと踏ん張りだね」
「いや10分です。何にせよ頂上までいくのに相当時間かかりますから」
「「いやまさかの10倍かい!!」」
紛らわしくて草。
後ろで登るミヤリーとスーちゃんは必死こいて登る様子がうかがえる。
と。
ゴーン!
「いったいわね! 上から…………なによ!」
ぺちゃ!
一番したのミヤリーが登っていると上から中くらいの石が降ってきて彼女の頭上に直撃する。大声をあげるミヤリーをよそに彼女の運が悪いせいか、今度は鳥……モンスターのフンが彼女の上に乗っかかる。
彼女を馬鹿にするように通りすがる鳥のモンスターは。
「かぁーかぁー」
と鳴きながら去って行く。
「んもう! あの鳥モンスター! 絶対狙ってやってるでしょ! 今度来たらぎったんぎったんに……」
「おいミヤリー文句垂れるのはいいから早く登ってこい」
目的を見失わないよう私が下に向かって大声で言う。
まるで彼女は漫才の一部を見ているかのような感じだった。タライじゃなくて中くらいの石が降ってくるとか……ぷっちょっと笑いがこみ上げてくるのだが。
「あの……愛理。何笑ってんの?」
「……? なーんのことかな?」
「遠くで見えないからって油断しない方がいいわよ? 私こう見えても耳だけはいい方よ」
「ブラフじゃねえよな? って笑って…………ぷっないよ?」
うまく誤魔化そうとしたが、無理があった。あぁ無理咳き込みそう。
「わ、わらうなあああああああああああ!」
頭の中で顔を紅潮させ辱めを表すミヤリーの顔が浮かんだ。
「……いいですから愛理さん、早く行かないとサオさんを見失ってしまいますよいいんですか?」
「よくない。……よしパーカーチェンジ」
「……あ、ずるいですよ愛理さん」
仲間と会話するのがだるく感じてきたので、スカイ・ラビットパーカーにチェンジし、上へと上昇。
「せ、せめて私達を連れて行きなさい!」
「…………しゃーないな」
下に降りて、ミヤリーとスーちゃんを背負い、上昇する。
お、重たい。……ていうか定員オーバーなんじゃね? ……ま、いいか。
してサオさんに追いつくと。
「? あ、愛理さん? 何故空に飛んでいるのですか?」
「あ、これ私の能力的なやつ」
「そうなんですか? ていうかずるい私も乗せてください」
「え? ちょっもう店員オーバーだって!!」
ぴょんっと。
サオさんは私にしがみつくように足元へダイブする。……ぐっ不覚だった、というか先ほどより重力が。
「それがあるなら先にいってくださいよ。ほら上、上へ行けばすぐですよ」
「ぐ、わ、わかったよ」
重量に耐えつつも、私は彼女の指の示す方向へと昇ってゆき、ほんの3分後。
頂上に開けた地面の向こうに大きな穴が。外には焚き火やななんやら様々な用品が並べてある。ここが拠点か。
「あそこですよ、そこに降りて」
到着。
高台に降り立ちみんなをおろす。
そして私は膝をついてぜぇはぜぇはと息を漏らす。
「ど、どうしたのですか? 愛理さん非常に息が荒いですが」
「どうするも何もあんなに一斉に乗ってきたらキツいって!!」
平然としゃべるサオさんに私は多少怒鳴って言ってみる。
「あのだったらなんで断らなかったんですか?」
「「いやあなたが飛びついてきたんでしょうが!! あれは定員オーバーだってぇええええの!!」」
マジでしにそうになるくらいキツく感じたわたしなのだった。
☾ ☾ ☾
洞穴に入ると中は秘密基地のように整備されていた。
一式の剣、盾、弓。木の板で作られた机、取ってきた素材が詰まれた木箱などなど。
それは言い換えるなら秘密基地。
あぁ懐かしいな。小学生の頃こういうのよく憧れたわ。
「ほほーんここがサオさんの拠点なの? すっごい充実してるじゃない」
「……拠点というか家ですよねこれ? ……これは」
スーちゃんが小さな岩穴 にかけられた望遠鏡? みたいな物を覗き込む。
「…………す、凄いです! 下の様子がここからちゃんと見えますよ!」
「それはそうですよ。ここにある物全部私が1から作って、整備を整えましたから」
まさかのサオさん、DIYガチ勢だった件? スペック高杉だろ。
? じゃああの壁に掛けられている地図も?
恐る恐るに、壁に掛けられている地図に指を指し、彼女に聞く。
「あ、あのサオさん? あの地図も……もしかして……もしかするけど」
自信が持てず勿体振るような言い回しになってしまう。
「あぁあれですか。……当然じゃないですか。絵も全部私の手作りです」
「そ、そうですかぁ」
真面に粗削りな絵しか描けないんだぞ? 私。……サオさんの絵ちゃんとした造りになっていて屋台とかで売られている地図とそんな変わらないくらいに上品な出来映えだった。……どうしたらそんな器用に描けるんだよ。
「お、お腹空いていませんか? よかったら捕ってきたモンスターの肉や魚……焼いてあげますよ?」
……そういえばそろそろ空いてきたかも。
拠点内にある物に夢中になる仲間の方を向いて聞く。
「おーいみんなサオさんが手料理してくれるって。お腹空いたし食べない?」
と食べ物の言葉に反応した2人は私の方を向いて、口を合わせて即答し。
「もちろんだわ! 私も丁度空いていたしサオさんの料理を食べたいわ是非!!」
「もちろんです! 体力温存の為にも腹ごしらえは大事ですからね!!」
「お……おkぇ」
あのさ私太子じゃないんだから1度に複数の声を聞けないから。……順番に言ってどうぞ。
まあ満場一致ということで、サオさんの方を向いて。
「それじゃいただこうかな。それを食べたら支度することにして」
「了解です。いいお料理振る舞ってあげましょう」
戦う準備に備え、私達は彼女の拠点で腹を満たすことにし、この後ある戦いの準備を彼女の拠点で備えることにするのだった。