118話 うさぎさんとプライドの高そうな人? その1
【拘りを持つのはとてもいいことだが】
剣練の里から少し行った場所。
木々と山々が連なった森が私を待ち伏せるように鎮座する。
山の頂上にまた山ときた。……上乗せとかそんなん聞いてねえぞ。
シホさんのお父さんに言われた場所はこの森。……聞けばモンスターもそこそこ出てくる模様。
強さは並レベルのモンスターだが、油断せず用心するよう言われたが。
「……愛理さん、その服久々ですね」
「ホントだわ。緑色のなんだっけ?」
「リーフ・ラビットパーカー。……あのときはヘマしたけど、今回は大丈夫だって」
理由あって今日はリーフ・ラビットパーカー。
あ、大丈夫随分まえみたいにしくじったりはしない。いままでに使わなかったのは少し素材の採取に時間がかかっただけ。
……とりま能力見せろって? おkおkちょっと変わっているよほら。
リーフ・ラビットパーカー 補正:攻撃+(26%) 防御+(45%) HP+(30%) 武器:なし
【固】引力関係なしで攻撃できる
【固】強力な葉からなる盾を生成し、
その盾からは巨大な敵相手であ
っても攻撃を塞ぐ長いツタを作ることができる。
(手で意のまま操ることが可能)
【固】風のエネルギーから作り出す、迅速の刃を飛ばす
ことができる。ものに触れた瞬間刃を四方に分裂
させて無限の刃へと変化させることができる
また無数回巡回攻撃にすることも可能。
【固】常時自動回復:1秒ごとにHP・魔力が99%回復する。(+状態異常も回復する)
【固】触れた敵の生体エネルギーを吸収して自分の力へと置換する。
はい。あんな弱っちいパーカーだったのに少し一工夫しただけで、魔改造されました。
というか能力が追加されてもいるし……HP99%回復? インチキも大概にしろ。
前の欠点であったHPの低さが改善され、HPにも補正がかかって一安心。
もうこれで迂闊にやられるってことはまずない。……いやなって欲しくないと願わんばかりだ。
ミヤリーとレベリングしに行った時だ。あのときに偶然にも敵からちょうどいい自然の素材大木を入手し、用事をすませ再びリーフラビットパーカーで合成してみた。なぜ合成したかというと単純に弱いから。でこれならいけるんじゃねみたいなのりでやってみた。
すると、リーフ・ラビットパーカーがバージョンアップし、今のような形に。
いつか使おうと保留していたが、結局今日に至るまで全くと言っていいほど久しぶりである。……それは仲間が久しぶりに見た反応でわかること。
というか使っている私も存在そのものすら忘れていた。森……木でようやく思い出し、今日次いでに使おうと今こうしてリーフを使っている。
「なめるなよ。あのときの服じゃないんだぜ?」
ドヤ顔で決めてみせる。
「ほんとぉ?? まぁぶっ倒れたら私が回収してあげるから安心しなさい」
こいつなにディスってんだ。今に見てろ目ん玉が飛び出るぐらいの目に物を見せてやる。
と連なる木々の中を3人で歩いていると。
「シャアアアアアア!」
【ラット 説明:素早い動きを得意とするネズミのモンスター。小型なので動きを捉えるのが困難】
小型のネズミモンスターが現れ出る。
素早く私目がけて尖ったツメを突き出し引っ掻いて来る。
「ふん、早いからっていい気になるなよ。……ほらよっと」
私が念じると、ラットを飲み込むように巨大な根がラットの動きを封じ込め、身動きが取れなくなる。拘束されているラットを片手でぐいっと掴んで、軽く念じると。
体中にモンスターから吸収したエネルギーが流れてくる。……どうも生体エネルギーの吸収が上手く働いた模様。
「……愛理さんからとてつもない力を感じます。……どうやらモンスターからあの力を奪い取ったようですね」
「すっご。あれってそんな能力あったっけ? ……強化されていることは嘘じゃないってことね。うんうん」
ラットは。……干物みたいにひょひょろになっていた。のっぺらとした状態となって。
「う、きっしょ。すてよ」
反射的にそのラットの死骸を捨てる。……数秒も経っていないのだが何コレリーフ・ラビットパーカー強くなりすぎだろ。
「ね、分かったでしょ。だからもう倒れる心配ないよ」
呆然とするミヤリーは小さく首を縦に振りながら、理解する様子を見せていた。
☾ ☾ ☾
木がたくさんあるので、地面に大きな根を生成し、それを足場にして先へと進む。根は限りなく、長く遠くへ遠くへと私達を導いてくれた。
遠くに山らしき箇所がぽつんと立っている。あそこかな。何か所1、2、3くらいは見えるけど、サオさんは一体どこにいるのだろうか。
「高いけどみんな大丈夫? そろそろ降りよっか?」
「私達2人は大丈夫。……もう少し進めばあの山の近くにいけるからそこで降りない?」
「おk。うんじゃもうちょい進むか」
2人共気が強いなぁ。私なんて本当は高い所苦手っていうのに。
無理に我慢しているわけではないが、やはり下だけは見れない。落っこちそうだし。
根の経路を辿って、最初の山のあるところまで進みそこで降りる。
……降りる時は地面からツタのはしごを作り、安全に配慮してみんなが降りられるようにした。これで怪我をなくし、大怪我する心配はいらないだろう。
「1歩……1歩っと。…………なんか降りるのって緊迫感半端ないわ」
「わかるわそれ。……足踏み外さないように気をつけろよな」
「……愛理さん落ちませんよねこれ。あぁ今ギィっていいましたよ? ……本当に大丈夫かな」
約1名落ちないか心配する魔法使いが。
大丈夫よスーちゃん、100均に売っているような柔な物じゃないから心配しなくても大丈夫よ。
「スーちゃんあとちょっとだから。頑張って降りよ」
こくりとスーちゃんは頷き下へ下へと地上へ降りていく。
数分後。
「よし到着っと」
地上におり、辺りを見回す。
「なんじゃこりゃ」
そこには無残に倒されたモンスターの死骸がたくさん転がっていた。……小~大までの大きさをしたたくさんのモンスター達が。
すると向こうから響き渡るような声がこちらへと響いてくる。
「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」
「!? なんだこの声」
「……と、とにかく行ってみましょう!!」
すたすたと、遠吠えの聞こえてきた方向へ進む。
進むにつれて、剣が反響する音が聞こえ。
キーーーン。
まさにそれは現在戦闘中といった状況だった。
ようやくその近くまで来たので、3人で大木からちょこっと顔を出し緑地の方を見る。
「あれは」
「……誰か戦ってますね。……姿がシホさんにそっくりです」
背後の姿しか見えないが、その後ろ姿はシホさんと瓜二つ言い換えれば見分けがつかないくらいに似ていた。
縫い針と剣を合わせたような見た目の剣を、脇の方にやり相手の次する動きを伺っている。
「………………ッ」
その少女は息を呑むとぐっと握っている武器に力を込め一喝する。
立ち会う数十メートルはありそうな大牛のモンスターは彼女を見下ろしながら、厳つい視線を送っていた。
「受けるがいいです! 私の一撃斬刀流の技を!」
バサッ!
「!?」
それはどう言い切ればいいのか。……まるで一場面カットされたようなことが起こり、さっきまで立っていた牛のモンスターがズシンと音を立てながら彼女の後ろで倒れ伏した。え、何がおこったん? 数秒もかからなかったぞ? なにがなんだかさっぱり脳の処理が追いつかなかった。
彼女は膝をつきながら言う。
「一寸剣術……閃疾速斬!」
彼女は剣を鞘にしまうと、踵を返し顔を私達が見える方へと振り返った。
「…………ざまあみやがれです」
倒したモンスターの死骸を凝視し言い放つ。……クールなその身のこなしはどこか麗々しく見えた。かっけえ何者だあの人。
その一瞬のできごとに呆然とする私達は言葉を失い、彼女の方に目を丸くする一方だった。