116話 うさぎさん、いざ山岳地帯の里へ その1
【険しい道のりを乗り越えた実感湧いてきたわ】
澄んだ空気。
火口エリアを抜けると緑豊かな大地が広がっていた。鳥がさえずり風に吹かれ草木が大きくそよぐ。
その光景を見た途端、まるで久しぶりに故郷に帰ってきたような気分になった。これが普通だと。
「……こんな高所に自然豊かな草原があるなんて。風気持ちいいですね」
「浮かれて下に落っこちないでね。即死一直線だから油断しないこと」
「わかってるわよ。それで、シホの故郷は一体どこにあるのかしら?」
目的を忘れちゃいけない。
呑気にピクニックしにやってきたわけじゃないんだから。ミヤリーの言葉に釣られ周りをキョロキョロ見回し始める。……遠ざかっているせいか視界には村はおろか街らしき場所も確認できず。
しゃーなし。ラビット・ナビ!
と目を瞑り起動するよう念じ始める。ナビが起動しマップが書き込まれていく。……エリアを見渡すと草木のフィールドが一帯を覆い尽くすぐらいに埋められていた。マジで草原だこれ。
さて街かなにか……。
遠く遠くの場所をマップで確認していると。
お、なんかある。
両隣に2か所だけ村が見えた。お隣さん的な立ち居なのかね。
「みんな、どうやらこの先行くと2つ村があるみたいだよ」
「……ほう村ですか。それでは行ってみましょうか」
私の言葉に導かれるまま先へ先へと進み、目的の村の近くまで歩みを進めた。
道中気を配っているか知らないが、モンスターが1匹も湧かない。向こう側に森とか見えるから、普段はそこに身を潜めているのかな。
しばらくすると、2手に分かれた道の真ん中に看板が。
『盾練の里← →剣練の里』
「……シホさんの故郷は剣練の里ですので右ですね」
「そうだね。って剣と対をなす盾の里もあったんかい」
「なんかあれじゃない? 些細な揉め事が昔あったとか」
確かにその可能性もなくはない。剣と盾は攻防の立ち位置だけど……うん分からん。
看板が指し示す方向へ歩き出す。小さな林を抜け、また草原へと出ると木の塀で囲まれている大きな村があった。門番さんが前に立っていて警備をしているので、当然不法侵入はできない。
「そういえば必要ランク聞いてなかったけど大丈夫かな?」
するとスーちゃんが過敏に反応して答えてくれた。
「……愛理さん。ここ一帯にある村はどれも必要ランクは不問らしいです。……恐らく門番さんに話を通せば入らせてもらえるかと」
「それならラッキーね愛理。さっさとあの門番さんに話しちゃいましょ」
近くまで近づいて門番さんに話しかける。門番さんは私をじろじろと見始め訝しむ目つきでこちらを警戒。はあまたこのパターンですか。
「誰だ? 見知らぬうさぎの服を着た者よ。さては魔王の手先か?」
うわぁ出合い頭に変なレッテル貼られてますわ! ……だぁーれが魔王の手先じゃい!!
「人聞き悪いなぁ。私は魔王の手先でも悪の手先でもないよ。これでも冒険者なんですけど」
言いながら冒険者カードをぐいっと彼にねじ込む。ほれ免許証だぞこれ。見とけ見とけよ。
瞠目しながら汗を垂らす門番さん。……と彼は1つ訪ねてくる。
「……仲宮愛理? 仲宮……もしやシホ様のお連れで?」
様? 今シホさんの名前が出たけど……それに様って。……シホさんあなたもしかして。
話を進めようと恐る恐るに答え。
「う、うんそうだけど」
門番さんは1度咳払いをし。
ど、どうしたんだよ一体。
「これは族長様にお伝えしなくては。……先ほどのご無礼申し訳ございませんでした。……少し待っていてくれませんか。すぐに帰ってきますので」
うん? 一体なにごとだ。
「あ、ちょっと!」
私の話を聞かず早々にかけていく門番さん。族長様とか言っていたけどその族長さんとシホさん何か関係がおありで?
「一体どうしたのかしら」
「……わかりません。門番さん愛理さんの名前を聞いてびっくりした様子をしていましたよ」
「いやなんでこっち見るし。し、しらねえよ。私そんな悪いことしてないって」
「……わかってますよ。ですが……門番さんの言葉からシホさんの名前が出ましたね。気がかりです」
顎に拳をあて興味深そうに考え出すスーちゃん。とても真剣でなにより。
数分して、門番さんが帰ってきた。大急ぎでスタスタと。
「遅くなってすみません愛理様どうぞお入りください。族長様がお待ちですので、村真ん中にある建物にお越しください」
「え、まさかの!? 取りあえずいけばいいんだね」
なんか唐突に族長さんと会うことになった。
村の中へ入ると。
村の建物は至ってシンプルで和風な藁の屋根が特徴的な古民家だった。民族っぽい衣装を着た皮服の人々が村をうろつき歩いている。開けた広場で木刀で素振りをする人も見える。
その中で一番異彩を放つ、長い屋敷。明らかにあそこが族長の家なのかな。
「……見たことない建物ですね。藁で作られた屋根が非常に面白いです。……と族長さんの家はどちらで? あれでしょうか」
「一番大きくて目立つあの建物じゃない?」
そんなことをべらべらと喋り立ち止まっていると。
「あ、いたいた。あのー!」
私の腰くらいの背丈しかない長髪の少女が駆け寄ってくる。小さな鎧に剣と盾をつけた格好で。大きく見開いた目が特徴的で、言うなればその容姿は幼女化したシホさんみたいだった。
「あなたが愛理さん? お父様が連れてこいって言ってきたから案内してあげるさっさこっちこっち!」
「あ、ちょっと待って!」
小さなシホさん? のような少女に手を引っ張られながら連れて行かれる。小さいその体にも関わらずなんだこのパワーは。私の知らない力が備わっているとでもいうのか。
と冗談はさておき。ガチで力強いよ見た目に似合わず。
周りから視線を集めつつ少女はこちらに首を向けて軽く挨拶してきた。
「私の名前はリホ。シホお姉ちゃんの妹なのよろしくね」
「う、うんよろしく」
意外にも。
そのシホさんのような少女リホちゃんは、シホさんの実妹だということが判明した。
え、ていうことはシホさん……族長さんの娘さんだったの!? それとこのリホちゃんの正体は一体。
かくして私達は彼女に引っ張られ村で一番でかい古民家へと誘導されるのだった。
「おーい愛理私達も忘れないでね!」
「……そうですよ! 待ってくださいよ!」
「ごめん今は待てないわ。頑張って2人とも!!」